みんな素通りしてるけど、よく見ると奇妙。
マンションを中心に、左が夜で右が昼。
よく「日本画では、一枚の絵の中に複数の時間が描かれている」などといわれる。この広告写真は、まさにその伝統に則ったものなのだ。
たぶん。
自分でも作ってみよう、とやってきたのは新宿。
おそらく昼の眺望のすばらしさも、夜景のすばらしさも伝えたいということなのだと思う。
おもしろいのは、それを1枚にした写真を見ても、ぼくらは、すごい!とも奇妙だ、とももはや思わない点だ。写真がデジタルになるとはこういうことなのか。
ともあれ、自分でもこういう昼と夜が1枚になった写真を作ってみよう、と思ったのだ。
数時間後同じ場所に立って、夜景を収める。
で、その対象に選んだのは、新宿。なぜこの街を選んだか。その理由は、なんとなく、だ。
よくわからないけど、夜は電灯がやたら光っている方が効果的なんじゃないかと思ったのだ。なんとなく。
そして夜がきらびやかといえば、新宿歌舞伎町近辺だ。
どこで昼と夜を分けるか問題
上の2枚の写真をフォトショップに取り込み、半透明にして重なる位置を探ります。
半透明で重なった状態。なんか、すでにこの状態で十分おもしろいような気もする。
あとはパソコン上での作業だ。画像編集ソフトの雄、フォトショップで半分昼、半分夜、にする。
でもどこを境に昼と夜にしたらいいのか。くだんのポスターでは右と左だったが。
試しに、空だけ昼にしてみた。驚くほど違和感がない。(大きな画像は
こちら)
上は空を昼、それ以外の建物や道路を夜にしてみた例。
なんか、ふつうだ。
いや、ふつうじゃないか?
写真を改めて見比べてみて、昼の写真と夜の写真の最大の違いは空の明るさだ、と思った。うん、すごく当たり前のこと言ってるね、ぼく。
予想以上に新宿の街って夜もやたら明るいってことだ。
なので昼の特徴たる空を活かそうと思ってこうしてみたわけだが、考えてみたら、フォトショップで青空と雲のペイント合成すればいいだけだ。べつに昼の写真撮る必要がない。
やはり左右で分けるべきか。
「ポーター写真」
あらためて、右半分の夜部分を消していって昼にすることに。
上に重ねた夜の写真を消すと、下から昼が現れる。子供のころやった、水彩で絵を描いた上を、一面黒いクレヨンで塗りつぶし、それを釘などでひっかいて絵を描く、っていうあれを思い出した(みんなやったことあるよね?)。
で、できたのが前ページ冒頭の写真だ。
歌舞伎町側が夜だよねえ、やっぱり。(大きな画像は
こちら)
こうやって見ると、やはり空がポイントだ。空がこういう風に違わなかったら、ぱっと見昼と夜だということがわからないかもしれない。
空と言えば、右の昼の空を少し暗くした。
フォトショップパワーで、青空を暗くした。
最初合成してみて、気になったのは空の明るさがあまりに違うことだったのだ。元になったマンションの写真を見ると、昼の空も、上の方はかなり暗い。なるほど、やはりいろいろ考えられた末の広告表現なのだなあ、と感心した。
という感じで、新宿版「ポーター写真」の完成だ。
そう、こういう昼と夜を1枚にした写真を「ポーター写真」と呼ぼうと思う。ジャズのスタンダード・ナンバーで有名な「夜も昼も」(原題:Night and Day)の作者がコール・ポーターだからだ。どうだ、なかなかかっこつけた命名だろう。
きらびやかなら近所の商店街でもいいのでは
近所の商店街の夜。照明と香港フラワーがすてきだ。
空問題は置いておくとして、夜のきらびやかさという点なら、近所の商店街でもいいのではないか。上の写真のようなぐあいなのだ。すてきだ。これでポーター写真を作ってみよう。
こちらは昼。上の夜の写真の翌日撮った。パン屋さんの人に「昨日も撮ってなかった?」って言われた。
ポーター写真。…うーん…いまいちだ。なぜだ。
で、やってみたんだけど、これがいまひとつだ。なんでだ。やはり歌舞伎町にはかなわないのか。
改めて、空と正面のビル部分を昼に。照明と道路は夜。これのほうがまだおもしろいか。
うーん。まあ、おもしろいと言えばおもしろい気もする。どうだろう。
こういうときは基本に返ろう。あらためて元のマンション広告を眺めてみる。
見れば見るほどよくできている。プロってすごい。地面のパース合ってない気もするけど。
で、気がついたのは、たぶん正面に建物があったほうがいいのではないか、ということだ。
広告だと、ちょうど建物の角で昼と夜が切り替わっていることにより、違和感が少ない。また画面中央にものがどーんと来ることによって空のつなぎ目になる部分の面積も小さくできる。
さすがだ。これ作った人に会ってみたい。
それならあそこに行こう
銀座四丁目交差点。和光のビルを正面に、というベタな構図で。
真ん中にどーんと印象的な建物といえば。そう、銀座だ。四丁目交差点だ。和光だ。
いったいこの位置から撮られた写真ってどれぐらいの数あるのだろう。「銀座 和光」で
画像検索すると壮観だ。
あまりに多いので、自分で撮りに行かなくても、検索結果の中からぴたりと一致する昼と夜の写真を探し出せるのではないかと思った。
数時間後に再び訪れて、夜景を。
理想的なポーター写真!
和光の向かいのこの花壇、真ん中のポールの位置を覚えておく。
数時間後再訪。真ん中真ん中。
そう「ぴったりの画像」で言えば、今回ちょっと横着してしまいまして。
ほんとうはちゃんと三脚立てて、同じ高さ、同じ向きをしっかりと再現しなければいけないのだが。「ここだったよね」ってだいたい同じ位置に立って手持ちでてきとうに撮ってしまったのだ。
いやー、案外ずれるもんだね。
ともあれ、分析したポーター写真メソッドによって選び、合成した銀座四丁目の写真はこちらだ。
分析通りだ。かなり理想的なポーター写真になったと思う。
東京タワーは失敗
と、銀座でいちおうの完成を見たポーター写真。実はここに至るまで何枚か失敗していまして。たとえば芝公園から見た東京タワーは失敗だった。
これもかなりベタな構図。
東京タワーといえばライトアップ。それを狙ってきたのだが。
確かに「真ん中に建物」ではあるのだが、いかんせん空の面積が大きすぎた。どうやってもおもしろくならない。
おそらく、東京タワーの足元まで行って、見上げた構図のほうがよかった。次回はそうしよう。次回?
いろいろ試したが、こんなところか。うーんいまいち。ただの合成写真っぽい。いや、実際に合成写真なんだけど。
あと、夜の写真、手前にいらっしゃる方々は、いわゆる「ヲタ芸」を動画に収めていたようだ。収録が終わるのを小一時間待っていたのだが、かなりの熱の入りようでまだまだ長引きそうだったので撮らせていただきました。すごく上手でした。
ちょっと調べたら、この場所で「踊ってみた」ってやるのは定番のようだ。いずれどこかにUPされるのだろう。楽しみだ。
さて、きらびやかな夜景といえば、あれだ!あれを忘れてはならない!
工場でポーター写真!
さて、きらびやかな夜景といえば工場だ。
工場を撮り続けて十余年。きっと昼と夜とで同じ構図の写真があるだろう、とハードディスクを探したところ、やっぱりあった。
たとえば千葉のすてきな工場。
こちら)" />
昼というか、夕方。と夜。(それぞれ大きな画像は
こちらと
こちら)
昼ではないんだけど。
で、これをポーター写真化してみた。
50%半透明で重ねてみた。やっぱりこれはこれでいい気もするが。
手前の下と奥を夜に。それ以外の部分、特に夕焼けは活かしてみた。(大きな画像は
こちら)
うん。ふつうに良い写真だ。
というか、やっぱり昼じゃなくて夕焼けなのでしっくり来すぎだ。良いけどちょっと物足りない。
他にも川崎の工場+ジャンクションの同じ構図があった。
うん、すてきだ。よくぞ昼と夜と撮っておいた偉いぞ自分!
奥が夜で、手前が昼。昼もいいけど夜の姿も捨てがたい!というあなたに贈るよくばりな一品。(大きな画像は
こちら)
逆バージョンも。手前が夜。どうだろう。どっちがいいかな。(大きな画像は
こちら)
これも悪くはないが、やっぱり真ん中に建物があった方がいいのかな、と思った。銀座四丁目を越えるのは工場でもむずかしいか。
「真ん中にどーんと工場が来てる写真はないか」と引き続き探していたら、ありましたありました。これだ!
昼の方は曇り空だったので、空を暗くすることもできず(青でペイントしちゃえばいいんだけど)、あえて夜空と大胆に組み合わせてみた。奇しくも真ん中でたなびく水蒸気が昼と夜のよい仲介役になったと思う。
もっと研究してみよう
いざ自分でやってみると、広告ってすごいなあ、と思う。ちゃんとしてる。プロの仕業だ。
だいぶコツがわかってきたので、今後もいろんな風景でポーター写真を作ってみようと思う。富士山とかどうかな。夕焼けと昼間の。あるいは夏のと雪を頂いた冬の。
【告知:「大山 顕 写真展」赤坂にて・2013年6月10日(月)~16日(日)】
以前デイリーでもその
すったもんだを記事にした、ぼくの写真展
、ここのところ立て続けに開催しておりますが(せっかくプリントしたので写真がダメにならないうちに見てもらいたいのです)、またやります。今度は赤坂で。工場、ジャンクション、団地などの大きな写真がお待ちしております!
詳しくは→
こちら