熊本、いいところでした
熊本へ行ったのは初めてだったのだけれど、すごくいいところだった。
お城、市電、そして街のいたるところに芝生が植えられている。ちょうど梅雨の晴れ間に訪れたこともあってか、どこもかしこも気持ちがよかった。
風が気持ちのいい広場。
お城。
街のいたるところに芝生が。
こういうちょっとした土地にも芝生。
最高だ。街はすごく都会なのに、どこか東京にはない開放感がある。空が近い気がする。
そして熊本はお菓子がまたいいのだ。
熊本のお菓子
正直行くまではくまもんと阿蘇山くらいしかイメージのなかった熊本だが、おいしそうなお菓子がものすごい種類あるのだ。
うまそう。
うまそう。
なかでもサツマイモを使ったお菓子が有名らしく、その種類には驚くばかり。そしてここまでどれも美味そうだとお土産にどれを買って帰っていいか迷うだろう。
そんな人のために、今回はせん越ながら熊本のお菓子をレビューしていきたいと思う。
熊本銘菓そろい踏み。
評価はアリに一任します
熊本のお菓子レビューだが、僕のつたない舌で評価するだけでは不安である。そもそも人には好き嫌いだってあるだろうし。
というわけで今回は熊本のアリに選んでもらうことにした。甘さに厳しい彼らである、むしろ人よりも正確な評価を下してくれるのではないだろうか。
こういうのは勢いである、さっそくいってみよう。
誉の「陣太鼓」
熊本といえばこれ。
陣太鼓。熊本の銘菓といえばまずこれがあがるくらい有名である。
甘さを抑えたもちもちの求肥を優しい甘さの大納言小豆が包み込む。パッケージにも工夫があり、付属の紙ナイフで開けるところもおもしろい。
太鼓モチーフのパッケージは開け方もおもしろい。
体にすっとしみこむような優しい甘みはアリにはどう写るか。アリは木の蜜みたいなのも好きなので食感的には嫌いではないのかもしれない。
これからこの調子でお菓子の紹介が続くが、実際にアリが出てくるのは次のページからなので、安心してください。
武者がえし
いかつい名前からは想像できないかわいい見た目。
熊本城の、上に行くほど垂直にせりあがる石垣をイメージして作られたお菓子が武者がえしである。
武者も落ちるうまさ。
さっくりしたパイ生地にはバターの香りがしっかりと残る。中の餡は陣太鼓に比べるとしっかりと甘いが、香ばしいパイ生地とのマッチングが最高なのでけっしてくどくはない。
問題はアリがパイ生地をどうとらえるかだと思う。餡はいうまでもなく好きだろう。
いきなり団子
これがいきなり出てくるのか熊本は。
いきなりの来客時にさっと作ることができるおもてなし、そこから生まれたのがこの「いきなり団子」なのだとか。小麦粉でできたもちもちの皮の中に、ほっこりと甘い芋の餡がどっさり包まれている。
うわー、これはうまいわー。
素朴な味わいの皮がサツマイモ本来の甘さを邪魔しない。そしてそのもっちりした皮も、味わううちにうまさがじわじわと染み出してくるのだ。これはうまい。
しかしアリにこの素朴さ、日本人の美的感覚みたいなものが伝わるだろうか。ちなみに僕は今回食べた中でこれが一番好きでした。
ひご三彩
ザ・上品。
サツマイモの餡ととろりとした小豆をしっとりとした生地で包んだ上品なお菓子。和菓子というかケーキのような存在である。
コーヒーにも合いそう。
子どもウケしそうなしっかりとした味である。なにしろ中の餡のとろりとした食感が舌にうれしい。ただ、ほろほろしたケーキ地がアリにどうウケるかがポイントとなるだろう。
ひのくに
見るからに銘菓。
期待をこめて赤い紙をはがすと中からアルミパックされた瑞々しい羊羹のようなお菓子が現れる。包みからしていいものとわかる、それが「ひのくに」である。
中心には栗も入っていて死角なし。
爽やかな梅の風味が渋いお茶にベストマッチだろう。完熟の果物のようなしっかりした甘さはアリにもわかりやすいのではないだろうか。
いろはにぽてと
ころりとした可愛らしいパッケージ。
小ぶりなスイートポテトだがただのスイートポテトではない。中心までしっとりとジューシー。そして口に含んだ瞬間、鼻に抜ける洋酒の香りがおれたちを天国の入り口まで連れて行ってくれる。そんな大人のお茶うけである。
おいこれはうまいぞ。
芋本来の甘味を香り高い洋酒がうまく持ち上げている。ただアリにこれが伝わるか。カブトムシは黒砂糖を焼酎で煮たやつが好きなので、もしかしたら昆虫ウケするかもしれないが、今回のレビューの中でも評価の予想が難しいお菓子ではある。
アリより先におじいちゃん現る
アリに与える前に自分でノートをとりながら一つずつ食べていたところ、後ろからおじいちゃんがやってきた。
「あんた、うまかろうが、それ」
はい、うまいです。
おじいちゃんは散歩中のようで、公園のベンチでお菓子をたくさん広げて撮影していた僕をお店だと間違えたのかと思った。しかし話を聞いてみるとそうではなく、単純に何をしているのか興味があったのだとか。
おじいちゃんは言う。
「最近はな、人口甘味料がいろいろ規制されてきおって、昔みたいに目が覚めるほど甘いお菓子がなくなったよなー」
ステッキで地面に図を描きながら説明してくれました。
このあと30分の間におじいちゃんから聞いたことまとめ。
・むかし佐世保で食べたアベックラーメンは28円だった。
・熊本に帰ってきて同じの食べたら30円。その差はなんだと思う。
・佐世保はスーパーマーケットなんだ。だから安い。
・熊本は対面販売が常識だったからな、おれが初めてスーパーに行ったときにはこれ全部勝手に持って行ってもわかんねえんじゃねえか、って思ったよ。
・でもアベックラーメンって熊本の地物なんだよほんとは。
その他、息子さんが大手ソフトウェア会社で勤務していて、中国出張に行ったときにいろいろあった話など、広い展開でお話を伺うことができた。で、あなた何をやっているの、ともう一度聞かれたので「熊本の銘菓を食べ比べています」と正直に答えた。アリが、とは言えなかったが。
ステッキを2本使った歩き方は戦時中に習ったのだとか。82歳。
アリが選ぶ熊本銘菓はどれだ
それでは検証を開始したい。
アリが落ち着いてお菓子を選べるよう、ベンチの下の人目につきにくい場所に皿を設置した。
見えないですが地面にはすでにアリがたくさん歩いています。
この状態でしばらく様子を見たのだが、紙皿はアリ目線で見ると上るのにかなりハードルが高いようだった。いっこうに上まで登ってくるアリがいないため、皿を紙に変更した。
すると一気に出るお供え感。
物欲し顔でこちらをうかがうハトをけん制しながら。
皿を紙に変えたとたん、周囲のアリの流れが変わった気がした。歩きが明らかにこちらを意識している。
ほどなくして一匹のアリが中央突破、紙の上まで上ってきた。
最初は「いきなり団子」
勇敢なアリがまず最初にとりついたのは「いきなり団子」である。見事に僕の評価と同じだ。アリ、わかってる。
あの素朴な味わいがアリに理解されるとは思っていなかっただけに驚いてもいるが。
ファーストバイトは「いきなり団子」。
「いきなり団子」にとりついたアリは、その後となりの「武者がえし」にも取り付きそのまましばらく動きを止めた。まるでじっと吟味しているようだ。その美味さに腰を抜かしたのかもしれないし、どう巣まで持ち帰ったものか考えていたのかもしれない。
その後「いろはにぽてと」にも取り付くアリ。じっくり味わっていた。
実験風景。
その後ほどなくして何匹かの集団が紙の上に躊躇なく上がってくるようになった。こなると話は早い。開始から1時間たらず。周囲のアリはすべてこちらに向かって触覚を震わせている。うまいもん祭りである。
遠足の集団がやってきて近くでお弁当を食べ始めたので、ハトたちはそっちへ行った。
最初のアリがとりついた「いきなり団子」はその後しばらく放置され、代わりに「ひご三彩」に人気が移った。
「ひご三彩」にアリの群れが。
「ひご三彩」は紙の端に置いてあったので目に付きやすいのかとも思ったのだが、アリはいちおう紙の上を何往復かしてから目当てのお菓子に取り付いているように見えた。やはり彼らには明確な好き基準があるのだ。
最初、取り付いたアリの数を数えて正の字を書いていたのだけれど、途中からアリが増えすぎて数えていられなくなりました。
二つのお菓子が人気を二分
実験開始から約1時間半。ほぼ結果が出揃ったので報告したい。
人気だったのはこの二種。
アリに人気だったのは「ひご三彩」と「ひのくに」。この二つでほぼ人気を二分していた。
「ひご三彩」はほろほろのケーキ地がアリからするとバラして巣に持ち帰りやすかったようだ。巣まで紫の粒を持ち帰る列ができていた。「ひのくに」も人気だが、羊羹に似た食感が持って帰りにくいのか、ここで食べていくアリが多かった。代わりに時間をかけてじっと取り付いて味わっているような様子が見られた。やはり彼らも人間なのだ(アリだが)。美味しいものには長く取り付いていたい。
対してあまりアリに人気のなかったのが伝統の銘菓「陣太鼓」である。求肥に絡まって死ぬ、とでも思ったのだろうか。
ここまでくると結果は明らかである。
結果発表
アリの選ぶ熊本銘菓、一位はぶっちぎりでおしゃれな洋風ケーキ和菓子「ひご三彩」だった。これはもう群がり方がぜんぜん違う。
次点に「ひのくに」、そして「武者がえし」「いきなり団子」と続く。
お土産として絶大な人気を誇る「陣太鼓」と「いろはにぽてと」だが、いかんせん人にターゲットを置きすぎたか。アリにはその魅力が十分に伝わらなかったと言わざるを得ない。別にアリ向けに作る必要はないんだけど。
結末は突然に
今回の実験、実はもう少しお菓子が小さくなるまで続けてみようと思っていたのだが、その結末は意外にもすぐに訪れた。
ハトに取られないようにものすごく目を光らせていたのだが。
木の上にも見ているやつらがいるな、と2歩くらい離れて写真を撮りに行ったのがいけなかった。
あ!
!!!!
あーあーあー。
堰を切ったように暴徒化。
一瞬の隙をついて一羽が突進。それを合図に一気に山が動く。
5秒くらいで何もなくなった。
今回の実験に使ったお菓子はあとで美味しくいただきました。
このときのハトの勢いには、遠くで見ていた遠足の子どもたちもおびえていたほどだ。
ハトが。