特集 2013年5月27日

ガラスケースの中のパンが、うまそう

ガラス越しでハンサムになるパンたち
ガラス越しでハンサムになるパンたち
おやつや食事用に買うパンを迷うときが楽しい。工夫を凝らしたパンが並ぶ中から、今日はどれにしようか真剣にチョイスする。

トレーに自分でパンを乗せて買うのが現在では主流だが、中にはガラスケースの向こうにあるパンを選んで、店員さんに取ってもらうタイプの店もある。

そのガラスケースの中のパン、妙にうまそうに見えませんか。そういう話です。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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早朝という時間もプラス要素に

ガラスケースの中にパンが並んでいる店探し。まずやってきたのは、渋谷区にある文明軒というお店だ。
歴史を感じさせる店構え
歴史を感じさせる店構え
あるある、ガラスケース
あるある、ガラスケース
パン屋さんは得てして開店時間が早いものだが、この店は輪をかけて早く午前4時。人気店のようで、午前中の早い時間にはあらかたパンが売れてしまうらしい。

自宅から始発に乗って出かけて、6時過ぎに着いた。それでも客が途切れることなく続いている。
「うまそう」を超えて、かっこいい
「うまそう」を超えて、かっこいい
それでも、始発のおかげでまだたくさんあってほっとする。そして、期待通りのうまそう度。

にじみ出てくるのは、「うまそう」という言葉のさらに上を行くもの。食べ物に対しての言葉としてふさわしくないとも思うのだが、かっこいいのだ。
濃いめの焼き加減がそそる
濃いめの焼き加減がそそる
パカパカと上を向いてかわいい
パカパカと上を向いてかわいい
さあ、選ぼう。パンと向き合い、今自分が食べたいのはどれかを考える。ジリジリした気持ちになる。

セルフトレー式の店ではじっくり選べるのに対して、ガラスケースの店では焦りが湧いてくる。お店の人がこちらの注文を待っているからだ。

あんまり待たせちゃ悪いな。でも真剣に選びたいんだ。その葛藤がそれぞれのパンをさらに魅力的に見せる。
大きな口のようにも見える
大きな口のようにも見える
葛藤の末に選んだのはタマゴパン。外国風の店ならエッグなんとかと言いそうなところを、タマゴパン。シンプルさがいい。

食べてみる。食べたことのある味。そして、食べたことのある味の中で、一番うまいような気がする味。

早朝、途切れない客、濃い焼き色、そしてガラスケース。パンそのものの味に加えて、それを演出する役者が揃っているのだ。

息づかいを感じさせるビニール袋

続いては荒川区の三陽屋というお店。これで「みはるや」と読むのは、軒でもふりがなを振ってくれている。
オレンジ系の色遣いがパンの色とリンク
オレンジ系の色遣いがパンの色とリンク
店名の下には「コッペパンの店」とある。単品特化系の主張に、否が応でもおいしさへの期待が高まっていく。
それぞれのパンが「私を見て!」と訴えてくる
それぞれのパンが「私を見て!」と訴えてくる
ケース左上のひび割れは実際に割れているわけではなく、そう見えるシール。こういういたずらシール、子供の頃にあったなあ。そのままにしてあるのがケース上の招き猫と合わせて、心憎い演出にも見える。

そして、中に挟まっているものをアピールするかのように並ぶコッペパンたち。「ここから出して!」と言っているようでもある。
「ハア、ハア…」
「ハア、ハア…」
「お願い、苦しいの!」
「お願い、苦しいの!」
ビニール袋に入っているゆえ、水蒸気で曇っているのがなまめかしい。早く何とかしてやらないと。普段食べ物を選ぶときとは違う焦りが生まれる。

どれもこれも無言で訴えてくるようで、この中から一つだけ選ぶのには軽く罪の意識も覚える。それを振り切って、最も息苦しそうに見えたベーコンエッグを買ってみよう。
解放されて本領発揮
解放されて本領発揮
近くの公園で袋を開けてみる。急にいきいきとし始めるベーコンエッグ。水蒸気のベールに隠れていた本体は、こんなに男前だったのだ。
躍動するベーコン
躍動するベーコン
そして約束のエッグ
そして約束のエッグ
ベーコンの波打つ様子が荒々しい。予期せぬワイルドを、かぶりつくと姿を現すタマゴペーストの優しさがなだめる。誰にも文句を言わせないコンビネーションがそこにある。
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パンに輝きを与えるガラスケース

続いては荒川区のオオムラパン。これまでと異なり、商店街の中にあるタイプの店だ。
もう既にうまそう
もう既にうまそう
看板の雰囲気からして最近できた店ではないとわかる。それによってうまそうな予感がするのは、支持され続けてきた長い年月を感じさせるからだろう。
クラシックなケースがパンを盛り立てる
クラシックなケースがパンを盛り立てる
等間隔の手書きアピールで高まる期待
等間隔の手書きアピールで高まる期待
ケース全体から漂ってくる年季を、下部の「自家製」「焼きたてのパン」の文字が加速させる。この手のデザイン、いつ頃までなされたものなのだろうか。

目立つ赤の紙に書かれた言葉には、パンへの自信がにじむ。きれいにパソコンで作ったポップよりも、そこに書いてあることを素直に読める気がする。
光と影の中に佇むパンたち
光と影の中に佇むパンたち
ケースを覗いてみる。多段ケースならではの陰影の中に、それぞれのパンが浮かび上がる。平台に並べてあるセルフトレー式の店にはない機微だ。

値段は庶民的なのに、高級感のようなものが漂うのは光と影が交錯するからか。ガラスの向こうにあって、自らトングで掴めない距離感のためだろうか。
新鮮な陳列法
新鮮な陳列法
サンドウィッチも素のままでガラスケースにいる。一枚60円で、欲しい数だけ買うスタイルも珍しい。サンドウィッチもちょっとだけ欲しいな…という時にうれしい。

種類はタマゴとハムマスタード。「サンドウィッチは好きだけど、野菜は別になくていい」と思っていた子供の頃の自分にはベストのラインナップだ。

どれを買おうか迷ったので、お店の方に人気商品を聞いてみた。「うーん、ウインナーロールかな。…あとは、ミート」と聞いてうれしくなる。ミート、自分も気になっていたからだ。
謎めいた雰囲気を放つミート
謎めいた雰囲気を放つミート
なんだろう、この存在感。これまで食べてきたのは見た目から中の具がわかるタイプだったが、このミートは違う。ミートと謳いながらも、ミートを直接感じさせないのがミステリアスなのだ。
まだわからないミート感
まだわからないミート感
裏切ることなくミート
裏切ることなくミート
そういうわけでミート購入。ガラスの向こうにあるときは気づきなかったが、上面のテクスチャーの粒状感がまたうまそう。

そして中を割っていよいよミート登場。スパゲティのミートソースのような味付けで、細かく挽いた肉のうまみが凝縮されている。パンとの相性も悪いはずがない。

パン屋の感じがしないという演出

次も同じく荒川区の青木屋。ここはまず、店構えがパン屋らしくない。
軽く弧を描く「ほっかほかの」と「ジャンボパン」
軽く弧を描く「ほっかほかの」と「ジャンボパン」
「ほっかほかのジャンボパン」と書いてあるにも関わらず、なんとなく魚屋のような感じがするのが新鮮。文字情報を超えるムードを放っているのだ。そしてそれはもちろん、うまそうな期待につながっていく。
揚げ物でぐいぐい押してくる
揚げ物でぐいぐい押してくる
ラインナップはコッペパンに具がサンドしてあるタイプ。挟まっているものはご覧の通り、全て揚げ物だ。

ガラスケース下部の装飾は、揚げ物を打ち消すかのようにさくらんぼ柄。油っぽさを中和しようとしているのかもしれない。
リアルタイム揚げで訴求力アップ
リアルタイム揚げで訴求力アップ
中でも君が気になる
中でも君が気になる
ケース横の店頭ではご主人がバリバリと揚げ物をしていてライブ感覚。視覚に聴覚にも訴えてきて、こりゃ買わないとやばいという気にさせられる。

気になったのは「とんかつパン」。カツサンドでもトンカツサンドでもなく、とんかつパン。微妙に新鮮で、かわいい響きがある。
くたり感がかわいい
くたり感がかわいい
語感がかわいいとんかつパンだが、実体にも味がある。ほかほかのを袋に入れているからだろう、クタッとしているのだ。

同じ形式だった三陽屋のベーコンエッグは袋から出すと急に男前になったのに対し、こちらはパンが「ふう…」と言ってるかのよう。しわしわも愛らしい。
はじからはじまでとんかつ
はじからはじまでとんかつ
中身はまっすぐにとんかつ100%。かじってわかったが複数枚の薄切り肉を組み合わせたもので、その分ジューシーさがある。

柔らかいパン、クリスピーな衣、しみ出る肉のうまみ。いかにも中高生男子が喜びそうな食べ物だが、おっさんだってうまい。
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ありそうでなかった具

続いては墨田区の中島ベーカリー。今でもガラスケースでパンを売っている店は、下町に多いのかもしれない。
上階部の装飾がおしゃれ
上階部の装飾がおしゃれ
軒には何も書いていないのが新鮮。現場で目を凝らしてみても、かつてあった文字が消えたようには見えなかったがどうなのだろうか。
映り込みの向こうで誇らしそうなパン
映り込みの向こうで誇らしそうなパン
主力商品はコッペパンに具が挟んであるタイプ。ガラスケース売りの店の一つの定番スタイルのようだ。

この店は種類豊富なのが特徴。ポテトサラダやハムといったなじみのあるものに加え、タマゴパスタやチーズチキンなど、微妙に気になる組み合わせのものもある。
どれもおいしそうだけど
どれもおいしそうだけど
中でも気になるのは君だ
中でも気になるのは君だ
そんな中で最も気になったのは「キャベツ」。キャベツがパンに挟まっていることは特に珍しくない。ただし、それはどちらかと言うと脇役としてであろう。

「キャベツ」とだけ銘打ってあるのは見たことがない。脇役である自分に満足できず、無謀にも主役になったのか。
ニヤッと笑ってるようにも見える
ニヤッと笑ってるようにも見える
購入して近くの公園で袋を開けてみる。ベンチに置いてじっと見つめると、片側の口角を上げてニヒルに笑みを浮かべているようにも見える。

挑戦的とも思えるその態度。中を開いてお前が本当にキャベツかどうか確認してやろうじゃないか。
紛れもなくキャベツ
紛れもなくキャベツ
疑ってすまなかった。具は全てキャベツである。

マーガリンやソースで味付けこそされてはいるが、あとはキャベツ。タマゴや肉ばかりに心奪われている子供だったら泣き出しそうなくらいにキャベツだ。

ただどうだろう、いくらなんでもキャベツだけって、大人にとっても寂しくないか。
かじりつくと「グワーッ!」と怒り出したキャベツパン
かじりつくと「グワーッ!」と怒り出したキャベツパン
その疑念はかじって味わううちに、間もなく晴れる。さすが商品として店に並んでいるだけはある、これはありだ。おいしい。

噛むほどに普段は脇役のキャベツの味が出てきて、パンと調和していく。必要最低限の味付けも、それを邪魔することがない。

一緒に飲もうと牛乳を買ってあったが、それを飲むことなく食べきったのも意外。キャベツから程よく水分が出てくるので、飲み物なしでもモソモソするこなくおいしく食べられたのだ。

紙袋に入れてくれるのも雰囲気出る
紙袋に入れてくれるのも雰囲気出る

なんだかうまそうに見える、ガラスケースの中のパンたち。ガラスの向こうから自分の手元に来るという過程が、気持ちを盛り上げるのかもしれない。もちろん、食べ物の実力としてもどれもおいしかった。

特にキャベツパンは意外な発見。キャベツだけなの…という悲しみが食べていくうちにプラスに変わっていくのが新鮮だった。
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