俺は本当のそうめんを知らない
生そうめんと聞いて生麺が思い浮かばなかったくらいにそうめんと言えば乾麺。でもそりゃ、そうめんだって乾燥させる前は生麺なんだよな。乾燥後の姿に慣れきっててそんなこと思いもしなかった。
左が生麺のうどん、右が乾麺のうどん。そうめんにも左の時の様な状態があったわけだよな。
それに気づくと俄然生そうめんに興味がわいてきた。うどんにもラーメンにもパスタにも乾麺と生麺があるけれど僕は俄然生麺のほうが好きだ。
乾麺のうどんしか食べたことない人に出会ったら「こんなもの本当のうどんじゃない、明日またここへ来てください、本当のうどんをご馳走しますよ」といって生麺のうどんを振舞おうと思う位の生麺派なのに、そうめんにおいては自分が本物のそうめんを披露される立場。
食べたい、生そうめん食べたい。
1.7mm以上の太さはうどん、それ未満はそうめん
生そうめんは一般的に出回っているものではなくそうめんの産地で関係者だけが食べていたものらしい。なにその漁師町でしか食べられない珍味みたいなノリ。生そうめんへの気持ちが高まる。
うどんの小麦粉でいいですか。
なかなかお目にかかることが出来ないのか、どうしよう、と思い、調べていたときにある文章が目に入った。
「1.7mm以上の太さはうどん、それ未満はそうめん」
えっ、そんな違いなの、太さだけ?うどん細くしたらそうめんなの?うどんなら作れるし、じゃあそうめんも作れる気がする。なんかそうめんって寒い時期に作るのが良いらしいし、よし、生そうめん作ってみよう。
中力粉500gに対して水225g、塩25gにしておいた。
そうめんメーカのホームページでそうめんつくりの工程は公開されていたので手順は分かった。けれど粉と水の配分がわからない。うどんなら趣味でうどん打ってる人がブログとかで加水量とか公開してるけれど、そうめんではそういうところは見つからなかった。
混ぜて練って踏んで寝かせた生地。
なので適当にうどんを打つときとほぼ同じ感じで生地を作った。1.7mm以下になってればそうめんは名乗れるんでしょ。じゃあ無理やり伸ばすか切ればいいでしょ、という魂胆。
うどんならばこれを薄く延ばして切れば完成。が、そうめんはまだまだ手順があるようなのです。
なると出来た。
ほぐして、また巻く。
うどんとそうめんの分かれ道、まず生地をなると化する。そしてほぐして戻してまた寝かせる。メーカによって時間は違うようだが20分とか3時間とか書いていた。さっき3時間くらい寝かしたのにまた寝かす。そしてこれからも一作業ごとに寝かしが入る。
寝かしたら、生地を折りたたんで重ね合わせるらしい。が、手じゃ無理。
足で踏んだら、腸みたいになった。
やってる作業に対しての寝かし時間の長さが半端じゃない。仕事の合間にちょっとツイッター見るつもりがどっぷりインターネットしちゃってて、駄目だ駄目だ!と思って仕事するけどまた気づいたらインターネットしてる、みたいな感じ。
細く伸ばしつつ油を塗ってまた寝かす。さっぱり麺類筆頭のそうめんが油塗られてたって知ったときは驚いた。
みにょーんと伸びる。
だがそれが効果的。細く伸ばして、これ以上伸ばしたら切れそうだなーって感じになっていても寝かしてから伸ばすとまた伸びる。ただ寝てる、遊んでるように見えてもしっかりと仕事に活きているのだ(インターネット見てる言い訳)。
あなたの家にもそうめんスペースが
そうめんメーカの感じとだいぶ近づいてきた。
どうにかなるだろう、と始めたそうめん作りだが、どうにかなりそうな感じになってきた。雰囲気は近い。たぶん。後はこれを二本の棒に八の字状にかけて、棒を引っ張って伸ばせば完成。
さて、棒と棒をかける場所をどうしよう。と思っていたらあった。
ザ・そうめん掛けスペース(棒はちゃんと洗った)
あった、棒と棒を掛けるためのスペースが我が家には用意されていた。読んでる人の家にもある可能性が高い。
麺切り包丁や生地を伸ばす麺台などが必要になるうどんとは違い、家の中に設備が整っているそうめんは初めてでも作りやすいのではないか。
ついに完成
上の部分を掛けたまま下に引っ張れば伸ばせる。便利。
麺をビヨンと伸ばすメインイベントを控えて、最長の寝かしに入る。この状態で12時間くらいは寝かすらしい。
その間乾燥しないように箱室という湿度を保った箱に入れておくそうだが、我が家の麺掛けスペースはここなので、下の部分に濡れバスタオルを掛けて湿度を保つ作戦を取った。
そして一晩。
ふふふ、ついに生そうめんが食べられるぜ…。
結構時間と手間がかかったそうめん作り、これで伸ばせば生そうめんの完成だ。どんな感じか、期待が膨らむ。
あっ、乾燥してる。
麺をビヨンと伸ばす楽しみ、生そうめんの味にわくわくしながらそうめんを見てみたら、犬用のガムみたいになっていた。えっ。
濡れバスタオルでは保湿対策が足りなかったか、見るも無残な状態に。クローゼットはそうめんを作るための設備ではなかったのか。
oh…
でも、ちょっと、乾いてるだけに見えて、もしかして、引っ張ったら伸びるのでは!?!!?とか思って引っ張ってみたら盛大に切れた。180cmほどに伸ばします。って書いてたけど2mmも伸びずに切れた。かなしい。
中華なべで茹でると吹きこぼれなくていいよね。
適当にやっていたら適当に進んでいたが、ほぼ最後の工程で失敗した。どうせ失敗するならもっと早めに失敗したかったが、ここまできたら諦めがつかないので、ビーフジャーキーみたいになった奴を茹でてみた。
完成!!うどん!!!
はぁ、一体どうなるのか、と思っていたら、見事なうどんが姿を現した。えっ。
あんなにも無残な感じになっていたのに茹でたら麺が生き生きとし、ピチピチと光り始めた。
しかも美味い。
手延べなので表面に断面がなく凄く滑らか。しかも長時間の熟成を経たためかコシもしっかりあって食べ応えもある。製法の違いでこういう風に食感が変わるのか…。うどん、奥が深いぜ。
と言うことで、手延べうどんの製法を身に付けた!!
そうめん発祥の地に
手延べうどんも美味しかったが今回食べたかったのは生そうめんなのだ。再度作って失敗すると立ち直れないのでそうめん発祥の地といわれ、三輪そうめんで有名な奈良県は桜井市にやってきた。
たぶん三輪大明神の鳥居
こちらの三輪そうめん山本さんで手延べそうめんの手作り体験が出来て、自分で伸ばしたそうめんを生の状態で持って帰ることが出来るそうなのだ。初めからこっちにくればよかった。
入っていきなりそうめん!!
と思ったらただの目かくし。
目的のそうめん屋さんに到着すると入り口すぐにそうめんが干してある!うわっ、すごい、細い!と思ったらただの目かくしだった。なんというそうめん屋トラップ。
はいはい、目かくし目かく…、ってそうめんだ!
まぁそりゃあこんなところには置いておかないよなー。と思って他のところを見ていたらまた目かくし。かと思いきや今度はそうめん。そうめん!?
雨みたい
切られる前のそうめんを初めて見たが想像以上の細さ、繊細さに驚いた。そうめん?うどん細くすればいいんでしょ?って姿勢でいたが、これは、うどんとそうめんは全く別物だぞ…!!(みんな知ってる)
いざ手延べ
昔はこういう感じで家の前の道路とかそうめんだらけだったらしい(今は衛生対策で屋内で干してる)。
そうめんに圧倒されつつ手延べの体験をさせてもらう。まずはビデオでそうめんの製法を学ぶ。今は機械化されている工程が多いそうだが十数年前まではほとんどを手作業でやっていたそうだ。
桶の年季の入り具合がかっこいい。
機械やるのは麺を細くする作業と麺を棒に掛ける作業。手でやって凄く時間がかかった部分だが、もしかして手作業でもやっぱりそうめんは作れるのか!?そう思ってお店の人に話を聞いてみたら、設備がないと難しいんじゃないか。とのこと、そっかー。
それで、こちらが一晩経ったものになりま~す。
ウチのそうめんがビーフジャーキー化した原因となった箱室から手延べ用の麺が現れた。ウチのそうめんもこの箱さえあれば今頃は…。恨めしく箱を見ると加湿装置等はなく、しっかりと外気を遮断する感じ。そんなに特別な装置でもないのかな。
引っ張ったら引っ張った分伸びる。
さぁそうめんの手延べの本番だ。説明を受けて、実際にやってみると麺が驚くほど延びる。特に力を入れなくてもビヨン、ビヨンと伸びていく。
僕の知っているそうめんとは大違いだし、小麦粉とも思えない質感。本当にゴムみたいだ。やはり生地の時点から自家製とは違うのか。ウチのそうめんも熟成が出来ていればこれだけ伸びたんだろうか…。と、失敗したそうめんに気を取られる。
こんなに伸びた(このポーズが手延べ体験のお決まりらしい)。
こんな感じで手延べ成功。全く切れたりせず伸ばすことが出来た。ポキポキ折れる乾燥状態か、茹で上がったツルツルな麺しか見たことがなかったのでそうめんだとはあまり思えない。
ビョンビョン
そうめんよりも竪琴って言われた方がまだ信じる。茹でる前からこれだけ違うのだからきっと食感も全然違うハズだ。生そうめん、一体どんな味なんだ。
生麺は麺が生きている
の、脳みそ?
ついに手に入れた生そうめん。袋詰めしていただいていたのを開けてみると固まって脳みそのようになっていた。
ほぐすとこう。
固まっていた物をほぐして切るとそうめんなんだけどとてもそうめんじゃないような見た目。まるで天使の髪の毛だ(パスタでそういうのあった気がする)。
あっ、そうめんだ。
さぁ、味の方はどうだろうと茹でてみた。するとどうだろう、どっからどう見てもそうめんだ。うん、普通。はたして味は違うのだろうか。
あっ、うんまい。
どう見ても普通のそうめんだが食べてみると食感が違う。表面がピチピチしていて、普通のそうめんのようにシャキッと噛み切れる感じではなく、モチっと粘りがある感じ。
おぉ、こういう感じか。表面と中心の水分量の違いからくる差だろうか、爽快感では普通の乾麺のそうめん、食べごたえでは生そうめんかなぁ。個人的には生の方が好み。生そうめん、本当に美味しいぞ。
自家製そうめん再び
本当に美味かった生そうめん。賞味期限や衛生管理の麺を考えて三輪そうめん山本さんでは生そうめんは発売する見込みは無いようだ。となると毎回奈良に行って手打ちをしなければ食べられない、やはり生そうめんは幻の食べ物か。やっぱり作れればいいなと、思う。
そして、ビーフジャーキー化させてしまったのが悔しい。ちゃんと出来ていればアイツは伸びたのか。一回目の反省点と手延べ体験を参考に再度チャレンジしたら家でもそうめんが作れると思うのだ。ということでもう一回自家製そうめんにチャレンジ。
改善点その1 足ふみ時間を伸ばし、麺状にしてからの折りたたみ手順を省略
でんぐり返りしてる途中の人みたい
コシを出すために麺状にしてから折りたたんで一本の麺にする手順があったのだが、それは機械がないと難しいので省略して、コシを出すために足ふみ時間を長くすることにした。
麺の太さが大体一定にすることに成功。
初めは折りたたむために麺状にした後、足踏みをしたので麺の太さ、形状を保つのが難しかったのだが省略することにより太さを一定にすることに成功した。これで伸ばす際も一定の感じで伸びるだろう。
ちょうどいいくらいの棒が100円均一に売ってたよ。
なんとなく太いかなと思っていたクローゼットのバーだが、実際に伸ばす棒を見たら圧倒的に太かった。完全にクローゼットはそうめん用の設備ではないのだ。あと、全く関係ないですけど、クローゼットのバーって、なんか、あれですね、ゼーット!って感じしますね。
ほら、良い感じじゃない?
一回目の失敗の原因となった箱室。実物を見てみると、大量に作る際の利便性を上げるためには箱がベストなので箱なんだろう。機能としては乾燥させないよう気密性の高いものならば大丈夫だと思うのだ。
箱って言葉に惑わされるな!
と、言うことで袋にした。ゴミ袋で全体を包んで中に濡れタオル、縛り口のところには濡れティッシュで密封。これで乾燥は防げるハズ。ここを乗り切れば自家製そうめんは出来る。と、思う。
ドキドキしながら一晩経って見てみると。
うおー、モチモチしてるー!!
袋を取ると麺は昨日よりもモチモチ、プニプニして柔らかそうになっている。うわ、うわ、これ、いけるぞ、伸びるぞ、自家製そうめん作れるぞ!
我が家はそうめん屋さん
この間の犬のガムみたいになっていたものとは大違い。これは伸びるんじゃないか。期待に胸膨らませながら伸ばしてみる。
一人で伸ばすときはこうやって伸ばすらしいよ。
さぁ、伸びるのか。ちゃんとした設備がないとそうめんは出来ないのか。いつでも家で生そうめんを食べられるようになるんだろうか。色々と考えながら力を入れる。
うわあああ、おおおお。
伸びればいいな、位の気持ちと裏腹に伸びる伸びる、グングン伸びる。手延べ体験のときはゴムの様にビヨーンと伸びる感じだったがこちらはうにゅーっと粘るように伸びてくる。すごい、これは家でもそうめん作れるぞ、おおおお!
うわあああ、おおおお。体勢的にコローンってなった。
手延べ体験のときとは違い、実際に小麦粉から変化してきた状態を見ているから、この伸びが感慨深い。小麦粉すごいな。やった、やったぞ。
伸びまくりそうめん
秘密兵器炸裂
バッチリ伸びた自家製そうめん、ここからは棒を固定しての作業となる、が、家の中にそうそうちょうど良い高さで棒を固定できる所なんてない。そこで秘密兵器が炸裂する。
目かくしにもなる。
実はこの棒は突っ張り棒なのだ。なので、ある程度の幅の所であればどこでもそうめんを伸ばしたりほぐしたり出来る!クローゼットどころじゃなく、家の中全部がそうめんつくりの設備になる!!
クイクイ引っ張って伸ばせる。
しかも高さは無段階調整。あなたのやりやすい高さでのそうめん伸ばし作業を実現!しかもお値段一本100円!!これはそうめん作りを始めたい人はもちろんのこと、トイレの上のデッドスペースを有効活用したい人にもお薦めです。
完全にそうめん自家製
箸分けもちゃんとできる。
箱室での熟成さえ超えれば、手延べ体験と同じことが自宅でも出来た。これが自家製そうめんだ。
これがそうめんでなければなんである(目隠し)
自家製生そうめんのお味は
ちょい太い感じもするか。
そうめんの形は出来た。後は味だ。ちゃんと生そうめんっぽくなっているのか、美味いのか。粉はうどん粉なのでどう影響してくるか。自家製生そうめん食べてみよう。
あっ、なんと、美味そう!
三輪そうめん山本さんで買ってきた煮麺の出汁で冷製にしてみたら凄く綺麗な感じに出来あがった。
あっ美味い(ピントずれた)。
自家製生そうめん美味い。凄く美味い。表面のピチピチ感、中心のモチモチ感が強くて麺自体の主張が強い。見た目はそうめんなのに、そうめんらしからぬ存在感。あぁ、これは好みの味だ。
やった、これでいつでも生そうめんが食べられる!
しかも残りは乾かしたので日持ちもする。
生そうめん欲求から始まったそうめん作り、これがめっぽう楽しかった。ビヨーンと伸びた時の面白さとうれしさはなんとも言い難い。乾燥と太さの均一、それだけに気を付ければ意外と出来ちゃう様な感じだった。
非常に楽しいし、生そうめんは美味しいのでよかったら一回やってみたらいかがでしょうか。
一回目のチャレンジで乾燥しちゃった時のうどんみたいなうどんが売られていたので、あれも失敗じゃなくてうどんとして成功だったのかもしれない。