特集 2013年2月20日

重さにいちばん強い漢字はどれだ

これだと中に入っている補強は役に立たなそう
これだと中に入っている補強は役に立たなそう
ある日、高いところにある物を取るための踏み台に乗って作業をしていた。その踏み台は木の板と棒を組み合わせて誰かが手作りしたもので、それほど頑丈そうには見えないけど、足元でしっかりと僕の体重を支えていた。

作業が終わって改めて踏み台を見てみると、踏み板とそれを支える柱の間に斜めに筋交いが入っていて、それによって上からの不安定な力に耐えられるようになっているようだった。ちょうど、横から見ると漢字の「四」のような形をしていた。

そのときに思った。上からの力にいちばん強い漢字はなんだろうと。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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漢字を立体で作る

読み方や書き方の難しさ、由来などといった、これまでの漢字トリビアとはまったく違う見方、上からの力に対する強さ。それも「不屈」とか「闘志」といった理論的なものではなく、物理的な壊れにくさを調べたい。

そのために、板を切り出して漢字の形に組み立て、上に重りを乗せて調べることにした。

作る漢字は、下面が平らで自立でき、上に安定して物を乗せられるような形のものを10文字ピックアップ。簡単な設計図を書き、必要な材料を割り出して切り出した。
どの漢字にどのサイズの板が何枚必要かを調べる
どの漢字にどのサイズの板が何枚必要かを調べる
漢字の設計図を書く日が来るとは思っていなかった
漢字の設計図を書く日が来るとは思っていなかった
切り出された漢字のパーツたち。ちなみに板の表面が黒く塗装されているのはその辺にあった廃材を使ったから
切り出された漢字のパーツたち。ちなみに板の表面が黒く塗装されているのはその辺にあった廃材を使ったから
ではさっそく組み立てていこう。

ちなみに板の大きさは最大で縦横9cm、厚さは3mm。組み立てはボンドを使うことにした。
ボンドでパーツを貼り合わせていく
ボンドでパーツを貼り合わせていく
まるでパズルのようにパーツを探して組み立てていくのは楽しい。しかもでき上がるのは立体的な漢字だ。今まで経験したことのない作業に時間を忘れ、真夜中まで没頭して10個の漢字が完成した。
たとえばこれらの板からどんな漢字ができるかと言うと
たとえばこれらの板からどんな漢字ができるかと言うと
長さの違う板をくっつけてL字のパーツを2組作り
長さの違う板をくっつけてL字のパーツを2組作り
もう1枚板を貼ると「北」っぽくなったがまだ途中
もう1枚板を貼ると「北」っぽくなったがまだ途中
さらにいくつかの板を組み合わせるともう分かりますね
さらにいくつかの板を組み合わせるともう分かりますね
底板を貼って「西」の完成!
底板を貼って「西」の完成!
それでは、次ページで完成した漢字を1文字ずつ見てみよう。
重ねたらアジアン雑貨屋で売ってる民芸品ぽくなった
重ねたらアジアン雑貨屋で売ってる民芸品ぽくなった
小物入れとしてちょっとオシャレな気もする
小物入れとしてちょっとオシャレな気もする

構造から漢字の強さを推測する

板を切り出し、ボンドで貼って組み立てた漢字たち。それでは1文字ずつ、上から強い力がかかったときにどうなるかを想像しながら強度を考えてみよう。考える、とは言っても筆者は力学素人なので適当です。
もっとも単純な構造の漢字のひとつ、「口」
もっとも単純な構造の漢字のひとつ、「口」
1文字目は「口」。天板を両側の壁で支えているので真上からの力には強そうな反面、少しでも横向きの力が加わるとそれは壁と底板との接点に集中するので、その場合はボンド頼りになる不安要素がある。

あと、そもそも天板の真ん中に集中して力がかかると割れる可能性もある。
真ん中に入った梁はどんな役割を果たしてくれるのか
真ん中に入った梁はどんな役割を果たしてくれるのか
続いて2文字目は「日」。ほとんど「口」と同じ構造だけど、真ん中に1本梁が通っているのが特徴で、これによって横向きの力を受け止める接点の場所が増えるので「口」よりは強くなりそう。でも天板自体の強さは「口」と変わらないはず。
2本の梁の安心感がすごい
2本の梁の安心感がすごい
3文字目は「目」。中の梁が2本になって俄然強そうである。横向きの力に対抗する接点が多いだけでなく、真上からの力による天板のたわみを2本の梁と底板で抑えることができるので「口」と比べればその強さは比較にならないだろうと思う。
考えるにこれ以上の構造の漢字はあるだろうか
考えるにこれ以上の構造の漢字はあるだろうか
4文字目は田んぼの「田」。横向きの梁だけでなく真ん中に1本柱が立ち、「口」や「日」の弱点だった天板の強度も補っている。これは構造力学的に最良な漢字のひとつ、と言えるのではないか。弱点らしい弱点がちょっと想像できない漢字である。
もう、どう壊れるのかが想像できてしまう哀しさ
もう、どう壊れるのかが想像できてしまう哀しさ
5文字目は形変わって「工」。今回の漢字を選ぶ条件として「下面が平らで自立でき」、「上に安定して物を乗せられる形」という2つを考えたのだけど、まさに最低限それに合わせました、という構造。でもぜったい重いもの乗せるのには向いてない。「20代」の「男性」だからと言って誰もが力仕事できるわけではないのだ。
肩書きと構造の強さは一致しない、という例である
肩書きと構造の強さは一致しない、という例である
6文字目はなんと「王」。ここにきて王様の登場である。写真では実験台にされているにも関わらず毅然と立っているものの、足元の弱さは隠せない。というか強度的には「工」と同じか、途中から余計な腕が出ている分弱いかも知れない。それを地位に伴うメンタルでカバーできるかどうか。
ちょっと無駄な部分が多いけど強そうではある
ちょっと無駄な部分が多いけど強そうではある
7文字目はかなり安定してそうな「亜」。天板を支える柱がやや中央寄りに2本立っていて、天板を補強しつつ支えている。さらに柱には横向きに梁が2本通っていて柱の自立を安定させている。柱の外に飛び出した部分は強度にまったく関係していないとは言え、これはどの方向からの力にも相当強そうな構造をしていると思う。この字と「王」と意味を交換した方がいいのではないかと思うほどだ。

強いて弱点を挙げるとすれば、天板の端に強い力がかかったときに吹っ飛ぶかも知れない、というあたりだろうか。
あまりの頭の大きさに本人も困惑気味
あまりの頭の大きさに本人も困惑気味
8文字目は「里」。これは一見頑丈そうに見えるものの、よく見れば「工」や「王」と同じ構造的弱点を抱えていることが分かるだろう。むしろ頭でっかちな分、こちらのほうが安定性が悪いかも知れない。

上半身をどれだけ頑丈に作っても、ほとんどすべての運命が根元を支えるボンドの接着力に握られている、というのは文字として気の毒な構造だと思う。
支えてるように見えてまったく役に立ってない補強、こういうの人でもいるよね
支えてるように見えてまったく役に立ってない補強、こういうの人でもいるよね
9文字目は僕がこの企画を思いついたきっかけとなった「四」。件の踏み台は筋交いが天板から底板まで斜めに伸びている形だったのだけど、もっと漢字の「四」らしく見せるために途中で折り曲げて左右の柱に接続した。そのおかげで力を受け止める役割はまったく果たせなくなってしまった。

強度的には「口」に毛が生えた程度じゃないかと思うけど、万が一の奇跡に期待したい。
強そうに見えてよく見ると致命的な欠陥を抱えている
強そうに見えてよく見ると致命的な欠陥を抱えている
最後、10文字目を飾るのは「四」を発展させた「西」。天板を2本の柱で持ち上げ、その下を「四」と同じ構造が支えている、ように見えるけど、よく見ると天板を持ち上げている柱は「四」の天板に接着されているのではなく、天板を突き抜けてそのまま「四」の補強部分になっている。

書き順、というか本来の文字の構造を優先した結果だけど、真上からの力に対して直接底板に接している部分がなく、ある意味もっとも脆弱と言っていいかも知れない。でも後悔はしていない。

というわけで、すべての漢字が出揃ったところで次ページから実験を行いたいと思う。
「実験て何されるの僕たち」不安そうな一同
「実験て何されるの僕たち」不安そうな一同

漢字を上から押し潰す

全ての漢字が出揃ったところで実験開始。それぞれの漢字に上から力をかけ、どの漢字がいちばん耐えられるのかを調べる。

実験は500mlのペットボトルに水を入れ、静かに漢字の上に置く、というものすごく地味な方法で行った。
まずは水100ml(100g)を乗せてみることに
まずは水100ml(100g)を乗せてみることに
ペットボトルの中に水を100ml入れて、100グラムの重りを作った。これをひとつひとつの漢字の上に置いてみる。結果は動画にまとめてみた。
あまりに地味なのでせめてBGMは陽気に
BGM:フリーBGM・音楽素材MusMus(http://musmus.main.jp/index.html)
心配された「工」や「王」、そして「里」も、100グラムの重りには耐えた。

そこで、続いて一気に300グラムまで増量してみた。手に持つとややずっしりと感じられる重さだ。これも結果は動画にまとめた。
手で持ってもリアルに重力を感じられる重さ
手で持ってもリアルに重力を感じられる重さ
重りを300グラムに増やしても、すべての漢字が耐え切った。

壊すのが目的なのに、ボンドを強力につけすぎたかも知れない。僕はやや焦りが出てきた。

そこで500mlのペットボトルを諦め、一気に最終決戦に持ち込むことにした。
1.5リットルペットボトル満タン、1.5キログラムの重りである
1.5リットルペットボトル満タン、1.5キログラムの重りである

破壊神、降臨

なかなか壊れない漢字たち。僕は一気に勝負をつけるべく、1.5リットルペットボトルに水を満タンに入れた重りを準備した。一気に5倍。おそらくほとんどの漢字は、これで確実に破壊されるだろう。

これも実験は動画にまとめてみた。
しかし、まだ半分以上の漢字が生き残っている。時間も押し迫り、僕は最終手段に出ることにした。

1.5リットルのペットボトルを上から落とすのだ。それでも壊れなければ、キャップを下向きにしてピンポイントで衝撃を与える。もしそれでも生き残ったら、90度倒して横からの衝撃を加える。

ありとあらゆる方法で破壊を試み、もしそれで生き残った漢字があったら、それがいちばん強い漢字として答えとしたい。
1.5キロを上から落として叩きつける
1.5キロを上から落として叩きつける
というわけで、最終的にもっとも強い漢字が決まるまでをダイジェストでどうぞ。
壮絶な戦いの一部始終をどうぞ
BGM:フリーBGM・音楽素材MusMus(http://musmus.main.jp/index.html)
あらゆる手を尽くしたけど、最終的に、「目」と「田」と「亜」がどうしても破壊されなかった。したがって、この3つの漢字が「重さ(と衝撃)にいちばん強い漢字」として、ここに実験を終了したいと思う。

まいりました。
最後まで壊れなかった3漢字
最後まで壊れなかった3漢字
敗れ去った者たち
敗れ去った者たち
あ、最後に英語圏の人のために「重さにいちばん強いアルファベット」も調べたので見てください。

漢字は強かった

ふとしたきっかけで知りたくなった漢字の強さ。もちろんその構造(とボンドの強さ)にもよるけど、ガッチリ固まった漢字は強くて硬くて、世界でいちばん強い文字なんじゃないかと思った。

これからも力強く気高く、漢字を使っていきたいと思った。
「工」と「H」がどっちがどっちだか分からなくなった
「工」と「H」がどっちがどっちだか分からなくなった
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