3Dおばけとはこういうことです
告知ホームページより
見たら一発で理解できた。赤青メガネで、とびだして見えるアレだ。それで描かれているのは「香山哲が考えたかっこいいおばけ」である。
僕はこの人の描く絵が、大好きなのだ。しかも、おばけとはまた面白そう。なんで3Dにするのかだけわからないが、さっそく個展の取材を申し込んだ。
作っているところは超アナログ
制作現場を見に行った。
多摩の自宅へお邪魔しました
ああいう3Dのイラストというのは、なにかコンピューターをの3D的なソフトウェアを駆使して作られているんだろう。
そう思っていたら、香山さんの3D画像の作り方はちょっと信じられないようなアナログで作られていた。
このように立体構造を一度メモして
かっこいいおばけのラフを描く
固い紙におばけのパーツを作り、切り抜く
なぜか単語帳の紙を使っている。学生の落書きか、って思うが「自分で考えたおばけ」ってそもそものコンセプトが落書きっぽい。
パーツはちゃんと立つように作って
黒をバックに角度を変えた写真を二枚撮影する
最後にコンピューターで赤青の処理をして、2枚の写真を重ねるとできあがり
要は一度立体を作っているのだ。でも完全な立体じゃなくて、平面の重なりである(昔『パラッパラッパー』というゲームがあったがあれと同じ)。この方がより3D感を強調できるらしい。
世界は2.2次元
香山「僕たちの見ている世界は正確には3次元じゃなくて、2.2次元とか2.3次元くらいのものだと思うんですよね」
僕たちが立体感を感じるのは、単に左右の目の画像の違いだけではないそうだ。物の大きさ、ぼやけかた、動いている物だったらそのスピードも関係してくる(遠くにある物ほど遅く動く)。
香山「結局、現実も『絵』として見ているんです。だけど完全な2次元じゃなくて、それよりはちょっと情報があるというか」
なるほど。こうした人間の視覚トリックを利用して、香山さんはよりおばけをとびだたせているわけだ。
材料はゴミっぽい
材料は、その辺にあるような物ばかりである。
黒いワタでぼやかす
黒いワタで、奥にあるものをぼやけさせる。人間は「ぼやけていると遠くに錯覚する」のでより奥行きが演出できる。
アルミホイルを丸めたやつは「岩」
これを写真にとると、おばけが乗ったりするための「岩」になる。他にもラップを丸めたり、ゼリーをぐちゃぐちゃにした物を小道具に使っていた。夏休みの工作だったら、お母さんに勝手に捨てられて泣くパターンである。
何かをメモした紙を裏返して使っている。そして100円玉を重しにして立たせる
高さが必要なものは乾電池を重しにして立たせている
「CGモデリングには出ない味が出る」
そうだ。それは絶対そうだろう。そして、身近な物ばかり使われると「やられた!」って感じがしてなぜか悔しい。
告知ページホームページに出てきたのは「さい眠えん魔」というキャラ。閻魔のわりには催眠のかけかたがショボい
後ろは割りばしと無数のセロテープ
絵の発想とか、設計は小学生の夏休みっぽい。しかし大人が強烈なクオリティーで作っている。細かいところは本当に細かい。
次元がいっこ減るよろこび
撮影スペースが小宇宙っぽくなってる
そもそもなんで3Dをやろうとしたのか?と香山さんに聴いたらこんな話が出てきた。
香山「『圧縮』が好きなのかな、と思って。
3次元の情報がカードに収まるのがすごくシズル感があるというか、フェチっぽいというか。ZIPファイルとかもそんなに小さくならなくても、みんな好きじゃないですか。
それがまた受け手で展開して広がってゆくのがいいですよね」
斎藤「布団圧縮袋とかもそんな感じですかね。圧縮すること自体が好きなのかな」
香山「あれ、持ってる布団を減らせばいい話ですからね」
斎藤「いわれてみると袋の中でどんどん布団が小さくなってゆくの、フェチかもしれない…。それでいくと、刀ってヤバくないですか。鞘から刀を抜くの」
香山「あれヤバいですよね。ヤバいヤバい。(鞘と刀で)見かけ2倍になりますからね」
斎藤「忍者刀だと、鞘にもヒモつけて使ったりして。あれもシズル感ある」
香山「忍者いいですよね」
斎藤「忍者いい!」
意味不明な会話に見えるだろうが、こういうコミュニケーションでお互い深いところが理解できるのだ。酒飲んでないのに会話に興奮して、ちょっと酔っぱらったような感じになった。
香山「赤青メガネは左右逆にしてもへんな感じがして面白い」
シャッター通り商店街の真ん中にある
大阪のミニコミ書店「シカク」
制作訪問から2週間後。
大阪、中津の「シカク」で個展が始まった。行ってみたらこのシカクがまたとんでもないところだったのだ。
個展会場の「シカク」
この日は個展の初日なのだが、僕が埼玉から大阪についたのはとっくに店を閉めた深夜であった。
中に入ると関係者で仲良く鍋を囲っていた
「さー斎藤さんも食べて」
シカクは築100年の古民家を改装した自費出版ミニコミ書店である。これだけ聞くとちょっとおしゃれサブカルなイメージが湧くかもしれないが、実際は古さの迫力がすごい。
おしゃれのつけ入る隙がなくて、どちらかといえば労働者が集まって革命の相談とかしているような雰囲気である。
「にゃん太」という極端に人懐っこい猫を飼っている
置いてあるミニコミはかなり厳選されている。帰りがけにいっぱい買ってしまった…
シカク店主の巴さん
ラトビアのミニコミ
僕が入った時に香山さんは「もうふつうに仕事やっていてもたいして儲からない。娯楽が乏しい国の王様にとりいって、王様専用のゲームを作る仕事をしたい」という話をしていた。
香山「気に入らないゲームを作ったらすぐに処刑されるかもしれない。それでもこの際いい。企画書をめげずに出し続ければきっといつかはかなう」
香山さんはスマートフォンのゲームを作る仕事もしている。それにしても何いってんだろ、この人…と思ったら、店主の巴さんがミニコミを差し出した。
ラトビア(東欧バルト三国の一つ)で作っているミニコミに
香山さんがマンガで寄稿している
旧共産圏のミニコミに執筆している。ラトビアってなんだかよくわからないけれども、すごい実績だ。娯楽が乏しい国の王様付きまでいい線行っているのでは。
このミニコミで一番面白かったページ
シカクには香山さんが昔自主制作したマンガ雑誌「漫画少年ドグマ」も置いてある
メイン連載は「香山哲のファウスト」。主人公は香山哲(自分)なんだけれども、これがドラゴンボールよりおもしろく、私はショックを受けました
これが3D展だ
シカクの迫力にちょっと3Dのことを忘れていた。改めて観てみよう。
3段の展示になっている。上2段が3Dおばけイラスト、下1段が文章コーナー
「どこぞのパウダー」銀色の額縁はアルミホイルを固めたもの
「おしの達人」僕の自画像キャラをモチーフにおばけ化してもらった。「自分の脳を指圧して、脳だけ自己蘇生し続けるおばけ」という設定
「ツル像崇拝」折り目の鋭さがこれほどまでに3Dにマッチするとは
「トロイの秋刀魚」ロックマンの中ボスみたいで、これが一番好き
どれもすごくとびだす。
個展を観た感想が「とびだす」ってのもバカみたいなのだが、単純な赤青メガネでこんなにとびだす、という衝撃がある。
特に折り紙で作った「ツル像崇拝」はとびだし方が鋭利で良かった。あれだけ色々工夫してて、結局一番すごいのは折り鶴かよ、とは思うが。
どうしても鑑賞している姿がマヌケ
文章コーナーは3Dの原理や人間の視覚について解説してある(ジブリ美術館みたいだ)
なくていいのに顔ハメもある
メガネ、2年前に2000個まとめ買いしちゃったそうだ
初日は4人
斎藤「そういえば昨日(展示の初日)はどのくらいの人が来てたんですか?」
香山「4人ですね」
4人か。しかし話を聞いてみると、最初に来店した小学生がとても賢く、一目でこの展示の趣旨を理解したという。「3Dの度がすごい」という感想をアンケートに書いていったそうだ。わかる。このとびだし方、度がすごい、って感じだ。客の質は高い。
その後、大阪から自宅に戻ったら、香山さんから個展がにぎわっている様子の写真が送られてきた。
まだ展示やっているし会場行かなくても見れます
「香山哲の赤青3Dおばけ展」2月いっぱいまでやっている。シカクは大阪の中津にあるので、関西方面の人はぜひ行ってみてほしい。
そして実はこの展示、WEBページバージョンとandroidアプリバージョンとiOSアプリバージョンもある。これだとどこでも観れる。
僕が大阪まで行く必要があったのか、という気持ちは少し残るんだけど。
「香山哲の赤青3Dおばけ展」
・
PC
・
android
・iOS(まだアップル審査中みたいです)