材料は全て最高の健康食品
トウモロコシ粉、ビール酵母、寒天、ぶどう糖。
材料はすべて、ネットの健康食品の店で買えた。
トウモロコシ粉は、皮ごとひきつぶした栄養の多いやつだし、ビール酵母もビタミン補給や整腸剤になる。
食べたら間違いなく健康になる材料ばかりだ。
手順1:ビール酵母と寒天を煮る
学生のころ、研究室でハエを飼っていたので、年じゅうエサを作っていたが、ハエ関係者なら誰しもが一度は思う。
「これ、人間が食べたらうまいんじゃないか
」、と。
手順2:トウモロコシ粉・ぶどう糖を混ぜる
ビール酵母は、ぽふーっん!と香ばしくて本当にいい匂いがする。香り付けでお菓子にも使われる。
そこへアメリカのママが愛用しそうなトウモロコシ粉を加えると、やわらかくとろみがついてコーンの甘い香りが広がり、もはや人間が食わない理由が見当たらない。
手順3 全てを混ぜてもう一度煮る。とろとろ。
コーンポタージュの如くとろとろになり、うまそう度は絶頂に達する。
しかし、実験室ではここで防腐剤を入れるので食品として思えなくなり、薬剤の強烈な酸っぱい匂いも、ホームメイド感を一気に吹き飛んばしていく。
こうして、「食べたいかも……」という気持ちは一瞬で萎え尽くし、誰もが食べずに終わる。
僕はここで一歩前に踏み出したい。
手順4 容器に移して冷まして固める。
できあがり。カラフルな粒々で少しデコった。
悪くないだろう。ちょっと品のいいお母さんが作ったおやつ、ぐらいにはなった。
『手作り☆自然食品で作るイーストコーンゼリー♪
なんて名前でクックパッドに登録できそうだ。
「うちの子は、生まれた時からこれを食べて、元気いっぱい羽ばたいてます♪♪」
とか書いとけば、ナチュラル主婦から絶大な支持、つくレポ1000件越えは間違いない。
さあハエの気持ちになってみよう。
一晩おいてから食べるのが、ハエエサの流儀。
ハエには一晩おいてから与えるのがルールなのだが、僕もそれをマネして一晩おく。
ハエになりたい。
完全にハエになり切って、ハエに共感したい。
そして飼っていたハエたちと語り合いたい。
「うまいっスよねー、それ! わかります? やっぱ人間でも分かります?」
そうだハエたちよ、これは間違いなくうまいと、僕も思うのだ。さあ食べますよ。
いっただっきまーーす♪♪
まずっ! まっずー!! まずーーーーー!!!
まっ、まっ、まっ、まずい!
ちっとも美味しく無い!!
全然ハエと分かりあえない!!!
何より酵母がまずい。苦い! 舌にビリビリ来る!
ビールの雑味となるため、ろ過して除去すると聞くけど、まさに雑味そのもの、という苦さ・エグさ・酸っぱさ。
子供の頃、親の飲んでたビールを一口なめた時の感想にきわめて近い。
食感もぼそぼそしてて、超ヤバい!
しかもブドウ糖入れたのに全然甘く無いし、コーンの粒はざらざらするし、本当に超絶まずい。
こんなものを喜んで食ってるハエは、どうかしている。
脳が狂っている。
僕は人間だぞーーー!
内心、これうまかったらどうしよう、僕はハエになってしまうのかと心配しながらの試食だったが、問題無かった。僕はハエでは無かった。
人間としての尊厳を取り戻すことができて、ほっとしている。
が、よく考えると、ハエの餌を食べて人間であることを実感している時点で、非常にまずいのではないか、とも思う。