湯豆腐でないほうの京都
大阪出身のわたしがあらためて関西のハイカーボ食を考えるきっかけが京都のラーメン屋にあった。
京都新福菜館のハイカララーメンセットがそれだ。
めん、天カス、白飯……野菜がネギとたくあんのみ
これでいいのか
頼んでみて驚いた。麺、天カス、ネギ、ごはんがきた。
ハイカラとは天カスのことだが、そのハイカラがどんどん塩辛いスープを吸っていく。
ハイカラさん、それでいいのかハイカラさん。みんなが心配するのを横目にスープでぶよぶよになっていく『ハイカラさんが通る』である。
スープがどんどん吸い込まれていく、これがハイカラなのか
非常事態の味がする
ごはんに天カスとラーメンをのせるとたしかにいける。だがこの味は有事の味だ。
マラソン大会の朝食のハチミツたっぷりパン、遭難した雪山で食べるチョコレートバー、そんな生存のために必要な味がする。
今こんなことをしていいのだろうか。余ってたユンケルを口さみしさでなんとなく飲むような感覚である。
ふ、ふるえるほどハイカーボ
てきとうに入ったお好み焼き屋にも定食はあった
有名なのはお好み焼き定食だ
「お好み焼きをおかずにごはんを食べるなんて」
美味しんぼで外野が言ってそうなセリフであるが、大阪の実家でもさすがにごはんは出てこない。おにぎりが出てきていたのだ。
一緒じゃないかという笑い話ではない。握るお母さんも食べる子供も全員真顔だ。
みそしるの具がお麩というのも完璧に近い
ごはんがすすみまんねんクン
「やっぱり合いますねえ」
一緒にくってたのが京都人だったが、こちらもふだんお好み焼きごはんはあんまりやらないという。それでもやってみると合う。味がつよいのでご飯がすすむ。
お好み焼きの原材料は「ソース」と「お好み」である
小麦粉ではない何かだ
お好み焼きは粉でできてると思ってるからみんな違和感をもつのではないか。お好み焼きの原材料は“ソース”と“お好み”だ。
知らない何かで構成された固形物、未来の食べ物みたいなものだと思ってもらっていい。
200円でごはんセットがつけられる店を発見。たこやきにつけて定食を作ってみた。
なぜたこ焼き定食はないのか?
お好み焼き定食が成立する一方、たこやき定食は見たことがない。
たこ焼きはおやつに近いというのが関西人の言い分だが、ほんとうにそうなのか食べてみよう。
学校帰りにみんなで分けて、母が土産に買ってきて、家でみんなで焼いてきたあれ。関西の人にとって、たこ焼き=聖なるたべものである。
たべてみるとこれはどこかでたべたような……グラタンだ
グラタンごはんだ
グラタンでたべるごはんだこれは。
関西のたこ焼きはほとんどがトロッとした部分だ。トロッ、とはだし味のついた小麦粉ベースの何か、そう、いわば和風ホワイトソースである。
もちろんなしではないが、普及はしなさそうな味である。
京都の「何にでもチャーハンがつく中華料理屋」に行く。一回目は定休日で二回行った……
チャーハンにチャーハン定食
炭水化物ばかり定食でいうならどうしても行きたいのがこのチャーミングチャーハン。
200円で何にでもチャーハンがつけられるので焼き飯にもチャーハンがつけられる。
禅問答の世界に近い
焼き飯(チャーハン付き600円)
名前がド定番
チャーハンにチャーハンの定食の名前は「焼き飯セット」。
そんな一般的ななまえつけていいのか。ここにくる人はみんなどれだけチャーハン好きなんだ。
目の錯覚定食。親切にもチャーハンと書いてあるから同じものだろうか。
反転させてみても同じ
同じものだ
疲れているのかなと思うほど錯覚のようにチャーハンが二つならぶ。
同じものですか? と聞いてみると
「はい、これは同じものです」と答えが返ってきた。
英語の勉強してるんじゃないのだぞ。なぜ同じチャーハンを二つにわけて出してるのだ、チャーミングさん。
おかずのチャーハンから少量をとって
ごはんのチャーハンを……わからないんじゃないかこれ
わからないんじゃないか、わからないんじゃないか。どこからおかずでどこからごはんかわからなくなってきたんじゃないかこれは。
概念をたべている
チャーハンをおかずにチャーハンを食べる。
そこから本来のチャーハン二口分の味をさしひいてもわずかになにかが残る気がする。これはなにか。
概念の味である。
概念の味だと言える
まいうー(形而上で)
おかずとごはんに分けることによって生まれるかすかななにか。わたしは今、概念を食べているのだという気にさせられる。
壁にかかっている有名人のサインが目に入った。石塚英彦もこの概念に対して「まいうー」と言ったのだろう。
赦しの味がする
湯豆腐じゃない方の京都。うすくちのダシが効いてない方の大阪。
わてら大阪だんねん! と言ってる大阪文化の保守層が苦手で関西から逃げ出してきたが、年を重ねるにつれ、そういうのも愛おしく思えるようになってきた。
炭水化物ばかり定食は総じてアッパーでハッピーで脳がマイルドにとけていく味がした。
世の中は暗い。なので何もかんがえずに白いご飯だけ食べている夜があってもいい。
関西のカーボ定食はそうした赦しをあたえてくれる気がする。
新福菜館のチャーハンはおかずとして成立するくらいの味のつよさだった