手軽に海を感じたい
海はいい。
広い海を見ると、それだけでちっぽけな悩みなんか忘れてしまう。
夏ならばそのまま飛び込んでしまうのもいいだろう。海はすべてを受け入れてくれるはずだ。母なる海、という言葉を実感できる瞬間である。
実は年末嫌なことがありました(実家に帰ったら親とけんかした)。
波にもまれて鼻に水が入る。そのまま砂を噛む、しょっぱい、痛い。鼻の奥にツーンと血のにおいが広がる。水から顔を出してもしばらく喉がヒリヒリしている。
すばらしいではないか。
しかし季節は冬。覚悟なしに海に飛び込める季節ではないのだ。これはせつない。
なんとかして温かい部屋にいながら海を感じることはできないものだろうか。
海水さえ手に入ればなんとかなりそうな気がするのだが。
これは観賞魚用の人口海水。
熱帯魚なんかを扱うお店に行くと、観賞魚用の人口海水というものが売られている。
もちろんこれは便利なのだが、いかんせん専門性が高すぎる。もっとコンビニで、せめてジャスコでそろうものだけで海水を再現できたらいいのにと思うだろう。そのへんで売っている塩で海水を真似る、それが今回の企画趣旨である。
見本となる海水を採りに
というわけで、できるだけ本物の海水に近い塩水を作るため、手本となる海水を採りにやってきた。
そしたら寒いんだこの時期。
やっぱり寒い。
寒さが痛い。寒風吹きすさぶ中、誰もいない海に入る覚悟たるや。
あと、海が寒いから代わりを探すという企画なのにしょっぱなから寒い思いをして海に来ていることに対する疑問もある。
ひざまで濡れながら採取。
今回やってみてわかったことだが、ペットボトルで海水を汲もうとすると少なくともペットボトルの高さ以上の深さの場所まで行かないと水がボトルに入ってこない。バケツをもってくるべきだった。ペットボトルの深さの場所まで行くとたいていその3倍くらいの高さの波がやってきてズボンがびしょぬれになる。
こうして濡れながらも採ってきた海水である。早速ひとくち、口に含んでみた。
うむ、しょっぱい…。
これが今回目指す味である。
いろいろな塩で塩水を作る
今回は海水のあの母なるしょっぱさを自宅で再現していく。
海水は塩分約3.5パーセントらしいので、単純に考えると100グラムの水に3.5グラムの塩を溶かすことでざっと同じような味になるはずだ。
普段水道水をがぶがぶ飲んでいるんだけど、この企画のために天然水を買ってみたらなるほどおいしかった。
今回は水は天然水で固定、溶かす塩をいろいろと変えて味の変化を調べることにした。
今、普通のスーパーでも塩だけで一棚できるくらいの種類が売られているだろう。あれだけ種類があるということは味もその数だけあるということだ。
わが家で使っているとくにこだわりのない塩。
その中にはどれか一つくらい、溶かすと即リアルに海水を再現できる塩があるのではないか。それが見つかれば僕たちはキッチンにいながらにして広い海を手に入れられることになる。気分は海賊である。
今回は普通のスーパーで売られているなるべく普通の塩を5種類用意した。
普通の塩たち。
それでは一つずつ紹介しながら舐め、そして水に溶かし、その味を海水と比べていこうと思う。
まずは基準となるのはさっき鼻水たらしながら採ってきた海水である。
もちろん細かい成分についてはわからないので今回は単純に味だけを目指すことにします。
それでは選手入場です。
5種類の塩で5種類の塩水を作る
まずはスタンダードなところから。赤の瓶が懐かしい食卓塩である。わが家はだいたいこれだし、実家にも確かこれがあった。
塩といえばこれ。
まずはそのまま舐めてみて、そのあとに海水と同じ濃度に作った塩水を舐めて総合的にジャッジする。
結構な量の塩を溶かすのだ。改めて海水の濃さに驚く。
海水の濃さに近づけるには、この量の水にこんなに塩溶かすの?というくらい塩を入れる。料理だったらありえない分量である。海、減塩したほうがいい。
なめてみた結果がこちら。
食卓塩はやはり安心の塩味だが、海水と比べるとなにか深みが足りないような気がする。でも料理に使うならこのくらいがクセがないのが丁度いいのだろう。料理用だから当たり前なのだが。
スタンダードな塩味の記憶が薄れないうちに次を比べたい。こちら。
この絵だけでゆでたまごが思い浮かぶのがすごい。
アジシオである。これもたいていどこの家庭にもあるだろう。子どもの頃、僕はこれが好きで親の目を盗んではなめていた記憶がある。
大人になった今、堂々となめる。
変わらぬ美味さである。
もはやこれだけでラーメンのスープになるんじゃないかというほどの旨みだ。しかしこれが海水かと聞かれると答えはノオだろう。ぜんぜん違う。甘みがある。
厚着しているのは風邪をひいているからです。
なめ比べで難しいのは、塩ばかりなめていると舌が馬鹿になってくることだ。なめればなめるほど訳が分からなくなってくる。
今回はなるべく毎回舌をリセットさせたくて、塩を変えるたびに直前にまんじゅうを食べたり飴をなめたりした。迷えば迷うほど塩分と糖分両方とり過ぎる仕組みだ。
海を探す旅は続きます。
塩ばかりなめる休日
ところで塩の致死量は30~300グラムらしい。
いきなりびびった発言で申し訳ないが、正月明けの休日、塩ばかりなめて体を壊したら嫌だと思って調べた数値をお知らせしています。今回のなめ比べでは間違っても30グラム以上いちどに摂取することはないので大丈夫ということか。
安心してなめたい。次は焼き鳥なんかに使うとうまそうな塩の登場である。
たぶんこれをつまみに日本酒飲んだらうまい。
結果はこちら。全体を通して、なめるにはこの塩が一番バランスがとれていて美味かった。
原材料の粗製海水塩化マグネシウムというのはいわゆる「にがり」である。感じる旨みはこのおかげか。いままでの中で一番海水に近い味だと思う。本家海と比べるとちょっとすっきりしすぎているような気もするがそれも個性だろう。
次はちょっと変り種を用意した。
フォントがかわいい。
クレイジーソルトはハーブが入ったものがおなじみだが、この岩塩はプレーンな塩味を楽しめる。
まさかと思ってラインナップに含めたのだけれど、意外なほど海水に近い味で驚いた。海水から作られた食卓塩よりも岩塩で作った食塩水の方が海水っぽいというのはなんとなく納得できないが、舌がそういっているんだから仕方がない。たぶん含まれるミネラル成分が味に深みを与えているのだろう。
最後はストレートに沖縄の海水から作られたこちらの塩を。
商品名に「海」が入っている。
これは間違いないだろうと思って用意したものである。なにしろ商品名からしてを通り越して海だ。
もうほぼ海水である。喉の奥に残る刺激が海を泳いだときのそれに近い。
ただ、サンプルとして採ってきた海水とはなにか違う気がする。なんというか、こちらの方が旨みが強いのか。あとどれと比べてもそうだが、採ってきた海水は一瞬甘みのような影を感じるのだ。地元のなにか汁でも混じっているのだろうか。
さあわかんなくなってきました。
一通りなめただけではわからなくなって何度もなめくらべたのだが、確かに一つ一つの味はなんとなく違う。
ただ、刺激が強いとか生臭さが感じられないとか、オプション的な微妙な違いよりも、どれも口に含んだ瞬間の「しょっぱい!」というインパクトの方が強いのだ。つまりおおざっぱに言うと3.5パーセントの食塩水は十分海水くらいしょっぱい。
(おまけ)オプション付加で海水に近づける
食卓塩で作った塩水にはもうひとつパンチが足りないような気がしたので出汁を入れてみた。少しでも海水に近づくのではと思ったのだ。
海といえば昆布だろうと。
うーむ。
違った。出汁で旨みが加わったが、いまそういう料理ではない。同じように砂糖を一つまみ入れてみたりもしたが、これもやはり海水に近づくというよりもうまい汁に近づいただけだった。
アジシオ以外はだいたい海水
海水と同じ濃さで作った食塩水はどれもだいたい海水に近い味だった。しいて言えば「クレイジー岩塩」と「やきしお」が頭一つ海水寄りだろうか。
ということで、海に行きたくなったら家にある塩で3.5パーセントの塩水を作ればいいことがわかったが、いまその塩水を散々なめながら、海に行くってそういうことじゃないよな、とも思った。別に僕らはしょっぱさを求めて海に行くわけじゃないのだ。
この気づきを得るためだけの過剰塩分摂取だったかと思うと腎臓に申し訳なくなる。
全部ひっくるめて塩水
売り場には実にさまざまな塩が売られているが、同じ濃さで溶かしてしまうとだいたい海水みたいな味になることがわかった。言ってしまえばアジシオ以外ならどれでもいい、だ。
落ち込んだときには横着しないでちゃんと海に行った方がいい、ということだと思います。