特集 2012年11月26日

県境またがり神社を訪ねて

普通じゃないところがいくつかある
普通じゃないところがいくつかある
当サイトは世の中の要否と無関係に様々な情報をお送りサイトだが、どうも県境や市境が気になりがち。これまで「境」を巡る記事をいくつか掲載してきた。(「デイリーポータル 県境 OR 区境 OR 市境」の検索結果)

境が入り組んでいる場所や店内に境がある商業施設を訪れてきたが、今回は神社。上の写真には県境が描かれているわけではないが、実ははっきり境目がわかるようになっているのだ。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

前の記事:起きろ!ゲシュタルト崩壊

> 個人サイト テーマパーク4096 小さく息切れ

県境どまん中

旧中山道を車で走り、やってきたのは群馬県と長野県の県境にある旧碓氷峠。今回の目的地は、その頂上にある神社だ。
くねくねの山道が峠っぽさを演出
くねくねの山道が峠っぽさを演出
この写真ではまだわからない特殊性
この写真ではまだわからない特殊性
参道に立って神社の方を見てみても、至って普通の静かな神社。石灯籠と鳥居の風合いが年季を感じさせるものの、特にこれといって変わったところはない。
意味ありげな赤い破線
意味ありげな赤い破線
足下にはこんな表示が
足下にはこんな表示が
しかし掲げてあった看板を見ると、この神社の特徴がはっきりとわかる。参道の真ん中に点々と線が描かれている。その左右には、長野県鎮座・群馬県鎮座と描かれているのも確認できる。

さらに参道の地面には長野県・群馬県と刻まれた石板が埋め込んである。そのまま視線を上げると、こういうことになるのだ。
きれいに真ん中にある県境
きれいに真ん中にある県境
看板の赤い破線の意味がよくわかる。参道からして、その真ん中を県境が走っているのだ。
ちゃんと説明してくれてある
ちゃんと説明してくれてある
面ごとに別々の神社名が読み取れる
面ごとに別々の神社名が読み取れる
1つのお宮で別々の神社ということが文でも説明されていた。群馬県側が安中市にある「熊野神社」で、長野県側が軽井沢町にある「熊野皇大(こうたい)神社」だ。
道路のひびに注目
道路のひびに注目
地面の県境表示を神社とは反対側に辿っていくと、前を走る道路にはひび割れがあった。関東でも県境が道路面ではっきりわかる場所が、当サイトの記事で紹介されていた(参照)。ここも工事管轄の違いでこのようになっているのだろうか。

神社も気になるが、まずは道路の反対側の県境がどうなっているかを確かめよう。
わかりやすく地面に引いてある線
わかりやすく地面に引いてある線
線はそのまま建物に吸い込まれていく
線はそのまま建物に吸い込まれていく
道路を越えた広場には、見てわかるように県境の線が引かれていた。さらにその線を追っていくと、すぐそこにある建物にぶち当たる。
誇らしげにも見える県境表示
誇らしげにも見える県境表示
建物の正体は「しげの屋」という茶店。昔、この峠を越える人たちが食べた力をつけたという「力餅」が名物のお店だ。

県境は中でどうなっているのだろうか。お餅も食べてみたいし、入ってみよう。
店内でも続けてくっきりわかる県境
店内でも続けてくっきりわかる県境
県境をまたいで広がる森も楽しめる
県境をまたいで広がる森も楽しめる
うれしいのは店の中にも床に線を描いて県境がわかるようになっていたこと。さらにはそのままベランダ席にも続いていて、わかるところまでとことん引いてくれている。
6種類の味の中からクルミをチョイス
6種類の味の中からクルミをチョイス
お店のサイトにも群馬県と長野県、両方の住所を掲載。会計時にお店の方にうかがったところ、固定資産税は両県それぞれに払っているそうだ。そんな県境トークも楽しめて、県境好きにはたまらないお店だと思う。(すでに今期は冬期休業に入ったので、春まで待って下さい)

おいしくお餅もいただいたので、改めて神社に戻ろう。

細かく楽しい県境神社

改めてお参りしよう
改めてお参りしよう
再び神社に戻ってきた。忘れないように確認しておくがこの写真、縦半分に割って左側が長野県、右側が群馬県だ。灯籠も石段の手すりも、全て別々の県にあることになる。
長野県所属の狛犬
長野県所属の狛犬
こちらは群馬県側の狛犬
こちらは群馬県側の狛犬
狛犬の感じは両県別々ではなく、同じ作者と思われるもの。のっぺりした感じがかわいいタイプの狛犬だ。前足に両方とも補修跡が見られるところも同じで、長い時間の経過を感じさせる。
クラシックながら変わったところのある拝殿
クラシックながら変わったところのある拝殿
そして石段を登ってやってきた拝殿。いくつか普通の神社とは違う点があるが、まずわかるのは神社の名前表示だ。長野県側である左には熊野皇大神社、群馬県側である右には熊野神社と書いてある。名前は似ているが、それぞれ別の神社である。
賽銭箱も2つ
賽銭箱も2つ
その奥の扉は左右で県が違う
その奥の扉は左右で県が違う
賽銭箱も県境を挟んで両側にあり、それぞれの神社名が記されている。奥にある扉の上には、その真ん中が県境であることがわかる表示もある。

ここまできれいに県境ど真ん中とはすごい。どうしてこうなったのだろうか。
鈴緒を一度に両手で持っちゃっていいもんだろうか
鈴緒を一度に両手で持っちゃっていいもんだろうか
お参りするのもなんとなく戸惑う。神社の方に話をうかがったところ、書物などの記録が残っておらず正確にはわからないのだが、どうやらまず1つの神社があって、そのあと江戸時代に上州と信州の境が設定されたという流れであるらしい。

峠の頂上という地点の特性上、神社が建てられたり国境になったりするのはありそうな話だ。ただよく考えると、1つの神社がたまたま境にあっても別に問題はないはずだ。

しかし、昭和に入ってから制定された「宗教法人法」という法律で、神社は県ごとに届け出する決まりになった。そういうわけで、群馬と長野それぞれの県に登記し、別々の神社となったということなのだ。
長野・熊野皇大神社の神楽殿
長野・熊野皇大神社の神楽殿
群馬・熊野神社の神楽殿
群馬・熊野神社の神楽殿
拝殿を挟んでこういう位置関係になっている
拝殿を挟んでこういう位置関係になっている
拝殿に正対して左右それぞれ90度体を回転させると、2つの神社の神楽殿がある。屋根の形がはっきり違っていて面白い。

それぞれお守りやおみくじが並んでいる。まずは群馬・熊野神社の方からのぞいてみよう。
「普通みくじ」という言葉が新鮮
「普通みくじ」という言葉が新鮮
でも気になるのはこっち
でも気になるのはこっち
人は誰でも誰かの子供なのだから
人は誰でも誰かの子供なのだから
図々しくも大吉
図々しくも大吉
いくつかの種類があるおみくじの中から、選んでみたのは「こどもみくじ」。童心に返って、という言葉を都合よく使っておっさんながらに引いてみたところ、雑念を超えて大吉。

喜んでみたが、よくよく読むとメッセージの最後は「おべんきょうしよう」と子供だったら「えー」となるような呼びかけ。大吉と持ち上げておいて、その気にさせる作戦だろうか。続いて長野県側の神楽殿も見てみよう。
軽井沢ブランドで攻めてくる
軽井沢ブランドで攻めてくる
小吉ながらほんわかした内容
小吉ながらほんわかした内容
こちらは所在地が軽井沢町なのを生かしてか、どのおみくじにも「軽井沢」と冠してアピール。それでいて、群馬側にもあった「こどもおみくじ」は激安の10円。

いや、こうしたものに激安という言葉はふさわしくないだろう。少額設定で子供たちにも積極的に引いてもらおうという思いにも読める。「大人なのに10円の方選んでごめん」と思いながら引いたおみくじは小吉。ここで大吉出すのもなんとなく恥ずかしいので、これで十分だ。
熊野皇大神社の絵馬
熊野皇大神社の絵馬
熊野神社はこんな感じ
熊野神社はこんな感じ
お守りもデザインが違う
お守りもデザインが違う
デザインがかっこいいステッカー
デザインがかっこいいステッカー

烏のお札も迫力あります
烏のお札も迫力あります
県境の真上にあると聞いて訪れてみた今回の神社。確かに様々な特徴があって興味深かった。一気に2つお参りできるので御利益も2倍、などと考えると逆効果だろうか。

県境またがり神社については以上なのだが、他にも長野県内の変わった神社を見てきたので、おまけとしてお届けしたい。→つぎへ

長野バラエティゴッド

こちらが神様となっております
こちらが神様となっております
県境またがり神社はロケーションこそ特殊だったが、お祀りしてある神様は一般的な神社と同様だった。しかし、中にはそもそも神様そのものがちょっと変わってるという神社もある。 おまけのこのページでは、長野県内で見つけた意外な神様の神社をレポートしたい。

いつもグターッとなってる神様

長野県内を移動し、やってきたのは県のほぼ中央に位置する長和町。きのこや野沢菜漬の生産が盛んな町であるらしい。
山あいの景色が心に沁みる
山あいの景色が心に沁みる
バス停も気合いが入ってる
バス停も気合いが入ってる
バス通り沿いに移動していくと、道ばたに石碑が立っていた。ただこの石碑、一目見ただけでは何をお祀りしているのかよくわからないのだ。
男女一対になってる細長い姿
男女一対になってる細長い姿
表情はおだやか
表情はおだやか
服こそ着ているが、くねっと細長い姿は明らかに人間タイプの神様ではない。ならば蛇かとも思うのだが、どうも表情などからすると、それも違うように見える。
正体が書いてあった
正体が書いてあった
横にあった掲示板には「ミミズの碑」と解説が書いてあった。農業が 主産業である地域では、ミミズの作るよい土は大切なもの。そういうわけでミミズを祀る碑が建てられたようだ。

説明によると、昔は「みみずのひもの」を解熱剤として飲んでいたとのこと。右下に見える「蚯蚓(みみず)のご案内」には、ミミズの種類の中で大きいものは3メートルにもなるとのことが書いてあった。ありがたいだけでは済まされないミミズトークだ。
散策路が示されている
散策路が示されている
森に向かって進んでいく
森に向かって進んでいく
少し行ったところに小屋の姿が
少し行ったところに小屋の姿が
およそ神社には見えないが
およそ神社には見えないが
付近には「ながわ半時間散歩路」なる小道が設定されているので、看板に従って進んでみる。田んぼを越えて森に入って程なく、木々の向こうに小屋 のような建物が目に入った。
ロケーションは厳か
ロケーションは厳か
ずばり「蚯蚓神社」
ずばり「蚯蚓神社」
あまり神社のようには見えないが、「蚯蚓神社」と掲示がある。説明文の冒頭も「土の中に生きる動物の王者『みみず』」と、力強い。

説明によると、大昔にミミズの大量死があった後、近辺で伝染病が発生して大変な騒ぎになったとのこと。人々はこれを「ミミズのたたり」と思い、ミミズの霊をお祀りしたことがこの神社の発祥だそうだ。
小屋の中には神殿が
小屋の中には神殿が
お昼寝中すみません
お昼寝中すみません
ミミズのたたりというと恐ろしいような気もするが、ご神体とおぼしきミミズ像はコロンと横たわっていて、表情もおだやか。どうかたたりなど起こすことのないよう、よろしくお願いします。

神様の姿は「エ」

続いてやってきたのは、長野県東部の出っ張りにある南牧村の野辺山。レタスなどの高原野菜がよく知られている地域だ。
簡素だけれど実は特徴がある
簡素だけれど実は特徴がある
広大な山々の風景をバックに建つのがこの神社。上の写真だけではこの場所の特徴がわからないので、もう少し引いて撮った写真を見てみよう。
左の碑の文字に注目
左の碑の文字に注目
そういうわけで鉄道神社
そういうわけで鉄道神社
実はここ、JRの鉄道が走る標高最高地点なのだ。この地を旅する人の安全と地域の繁栄を祈願して作られたとの説明が、鳥居の脇の石版に刻まれている。そこまではわかる。
語呂合わせで寧ろ心配になる
語呂合わせで寧ろ心配になる
車輪は夫婦円満のシンボル
車輪は夫婦円満のシンボル
標高が1375mということで、「ひとみなこうふく」「ひとみなごうかく」とも読めて縁起がよいとのこと。さらにはシンボルとして電車の車輪 が祀られているため、夫婦円満・縁結びの神社としても知られているとのこと。

旅の安全と地域の繁栄だけでも十分だと思うが、かなりオールマイティに攻めてきてる。専門性を極めるだけでなく、ゼネラリストの神様でもあるらしい。
賽銭箱はおそらく枕木製
賽銭箱はおそらく枕木製
鈴は独特な釘?
鈴は独特な釘?
ご神体は鈴緒の向こうにある「エ」
ご神体は鈴緒の向こうにある「エ」
その正体はレール
その正体はレール
階段や賽銭箱は木製で、よく見ると枕木として用いられていたもののようだ。賽銭箱の上、普通は鈴がぶら下がっているところにはあるのは太い釘のようなもの。調べてみるとこれは「犬釘」と呼ばれるもので、レールを木製の枕木に固定するために打って使うものとのことだ。

細かいところまで鉄道グッズを散りばめた鉄道神社。石版の説明によると、ご神体は石に埋め込まれた「エ」。レールの断面だ。
専門性の高い願い事が散見
専門性の高い願い事が散見
叶うといいな
叶うといいな
小さな神社だが、絵馬を奉納するお堂にはたくさんの願い事がかけられていた。神社の特性上か、JRの就職採用祈願や運転手志望の子供の絵馬がいくつかあった。

いろいろカバーしている神社とは言え、やはりここは専門分野、鉄道神社の名にかけてぜひ叶えてあげてほしい。

長野はきのこの売り方がラフ
長野はきのこの売り方がラフ

長野で出会ったミミズとレールの神社。小さな神社だが、その分だけ特殊性が地元に密着していて楽しかった。

上の写真は地元のスーパーで見たきのこの売り方。売り場には見たことのないきのこが並んでいて、きのこの本場感を感じました。
▽デイリーポータルZトップへ

デイリーポータルZを

 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ

↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓