特集 2012年11月22日

東京都のマークでルイ・ヴィトンっぽい財布を作る

こういう感じにしたかったわけです
こういう感じにしたかったわけです
ルイ・ヴィトンのあの有名なモノグラムのデザインは、日本の家紋をヒントにつくられたという説もあるらしい。そう言われてみれば、確かに家紋が並んでいるような感じはする。
もし、あのルイ・ヴィトンのモノグラムが、ぼくの愛してやまない東京都章や大田区章だとしたら……もっとカッコよくなるのではないか?
今後、ルイ・ヴィトンから東京都章をあしらった財布が出る可能性はゼロに近いので、ここはぼくが一肌脱いで、もっとカッコいい財布を違法にならない範囲で作ってあげる事にしようと思う。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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都章、区章って何?

ところで、都章、区章と、さらりと言ったけれれど、よくわからない人が多いと思う。
都章や区章というのは、都や区など自治体の紋章、徽章のことで、区報やマンホールの蓋などでよく見かけるあのマークのことだ。
市のマークであれば「市章」、町のマークであれば「町章」、県のマークであれば「県章」……といったように、現在ではほぼどこの自治体にもその自治体を表す紋章がある。
例えば東京都の都章といえばこれだ。
東京都章は、東京市章から続く古い紋章だ。古めのマンホールなどによく描いてある
東京都章は、東京市章から続く古い紋章だ。古めのマンホールなどによく描いてある
都章は「日本東京」という漢字四字をデザイン化したものといわれる。
真ん中の丸と輪っかが「日」で、外側に飛び出た6本の線がそれぞれ「本・東・京」の文字の形を表してるらしい。

このように、自治体の紋章はデザインの中にその自治体を表す文字などが巧妙にデザインされていることが多く、それをいちいち読み解くのも面白いのだ。
大田区の区章は「大」と「田」を表現
大田区の区章は「大」と「田」を表現
ちなみに「東京都のマーク」といえば俗に「いちょうのマーク」と呼ばれている扇形のマークもあるが、あれは「東京都のシンボルマーク」であって「都章」ではない。
イチョウのマークは都章ではない
イチョウのマークは都章ではない

都章と区章でモノグラムっぽい財布を作ろう

モノグラムといえば、思い出すのは財布だ。

そのへんのワゴンセールで売っている茶色っぽい財布に、何らかの方法で都章や区章をペイントすれば、ルイ・ヴィトンのモノグラムっぽくみえるのではないか?

まずはベースとなる財布を探しに出かけた。
左側の縫い目はなんだ? おしゃれ?
左側の縫い目はなんだ? おしゃれ?
左側の切れ込みはなんだ? おしゃれ?
左側の切れ込みはなんだ? おしゃれ?
ぼくが求めているのは茶色っぽい無地の長財布だ。
しかし、ワゴンセールで安売りしているようなものは、表面にステッチがあったり、おしゃれな切れ込みがあったりしてなかなか思い通りのものがない。

アイドルのオーディションで「ダイヤの原石」を探すプロデューサーってこんな気持なんだろうか?
写真を撮り忘れたので別の財布を持ってるところの写真です
写真を撮り忘れたので別の財布を持ってるところの写真です
これが精一杯の妥協の結果
これが精一杯の妥協の結果
そんななか、蒲田のドンキホーテでダイヤの原石999円で売っていた。といっても、表面の質感がいまひとつ納得できないけれど、プロデューサー的な視点で見ると、そのへんのウィークポイントは逆に魅力になるかもしれない。

どうやって描くのか

問題は肝心の着色方法である。あまり似せすぎると、コンプライアンス的にまずいので、あくまで「雰囲気だけを似せる」という点から、ふた通りの着色方法を考えた。

まずは、A4のシール用紙に都章、区章を印刷して切り抜き、財布に貼り付けてマスキングした上から合皮用着色スプレーを吹きかけて着色する方法だ。
ただこれはマスキング部分の紋章をいちいち切り抜かなければいけないので、手間と時間がかかりそうである。
マスキングしてスプレーする方法
マスキングしてスプレーする方法
もう一つ考えたのは、タトゥーシールに都章、区章を印刷して財布に貼り付けるという方法。
これであればプリントアウトした都章、区章を切り取って貼り付けるだけなので、手間もそんなにかからない。水をつけて貼るだけなので楽そうだ。
タトゥーシールを直接貼る方法
タトゥーシールを直接貼る方法
検討の結果、タトゥー法で作ることにした。

これの良い所は、パソコンで作った画像そのままの綺麗な形で財布にプリントできるというところだ。

シールを切り抜く方法は、マスキングするためのシールを一個づつ手作業で切り抜くことになるので、模様のクオリティがバラバラになりそうというところが心配なのだ。
いま、クオリティとか大げさな事をいってみたけれど、つまり面倒くさいということである。大人になったらよく聞く言い訳である。

まさかのタトゥー失敗

今回使う予定の都章、区章は、東京都、大田区、目黒区、中野区に決めた。
東京都「日本東京」を図案化
東京都「日本東京」を図案化
目黒区「目」を図案化
目黒区「目」を図案化
大田区「大」と「田」を図案化
大田区「大」と「田」を図案化
中野区「中」と「の」を図案化
中野区「中」と「の」を図案化
なぜこの四つかというと、特に意味は無い。強いて言えば丸っこくて並べた時に違和感がないかな? という基準で選んだ。

あと、公表後50年以上経過しており、著作権的に問題がないというのも決め手の一つだ。
2枚で1180円のタトゥーシール
2枚で1180円のタトゥーシール
ビックカメラでタトゥーシールを購入。これは本来は肌につけたりして楽しむものらしいが、耐水性のある柔らかいものであればわりと何にでも貼れるのだ。
一つづつ大きさをそろえ
一つづつ大きさをそろえ
一定間隔で並べる
一定間隔で並べる
パソコンで区章と都章を描き、並べて配置。色を金に近い色にしてプリンタで出力。
ビニールの保護シールを張り合わせるときに失敗
ビニールの保護シールを張り合わせるときに失敗
ビニールの保護シールを貼り合わせるとき、手もとが狂って大きなしわがよってしまった。
幸い、一個づつ切り取って財布に付ける予定なので問題ないが、出鼻をくじかれた感はある。しかしこの後、くじかれた出鼻がひん曲がって飛んでいく事態に発展する。

暗すぎて見えんがな

出来上がったタトゥーシールを、試しに財布の裏側に貼りこんでみた。
余白部分は透明なので多少いびつでも構わないかと思った
余白部分は透明なので多少いびつでも構わないかと思った
シールを剥がし、水をつけてゆっくりズラすと……
シールを剥がし、水をつけてゆっくりズラすと……
あれ?
あれ?
これはマズイ。
まず、問題点として、色が金色でなくなったうえに、地の茶色と混ざってよく見えなくなってしまった。さらに、余白部分の白いところが目立ちすぎる。
二重にダメだこれ。
こんなんじゃない……
こんなんじゃない……
まさか、タトゥーシールに裏切られるとは思わなかった。こうなったらグダグダ言っているひまはない。もう一つの方法、シールでマスキングしてスプレーで着色に切り替えるしかない。
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マスキング用のシールをちまちまと切り出す

実はタトゥーシールを買ってくるときに、失敗した時のためにシール用紙も買ってきておいたのだ。
なんという段取り力!
なんという段取り力!
先ほどの画像データをモノクロでプリントアウトし、カッターでちまちま切り抜いていく。
どうしても棟方志功っぽい姿勢になってしまう
どうしても棟方志功っぽい姿勢になってしまう
特に大田区は、中の星のまわりの部分を細く繋げなければいけないので、非常に神経を使う。しかも、特に何も考えずに横一列全部を大田区章にしてしまったので、自分で自分を呪ってやりたい。
細い部分がちぎれないよう気を使う
細い部分がちぎれないよう気を使う
中の切り抜きもおろそかにできない。
中の切り抜きもおろそかにできない。
マスキング完成
マスキング完成
出来上がったシールを財布に貼りこみ、マスキングは完成。本来は表面全部に模様を付けたかったのだけど、切り抜くのが面倒くさいので表面だけにしておいた。
こういう横着をしても誰にも怒られないのが大人の趣味のいいところでもある。

一発勝負のスプレー

「染めQ」というスプレー
「染めQ」というスプレー
スプレーで色を吹き付けるのは、さっきのタトゥーシールと違い、一発勝負だ。最初の一回で必ず成功させなければいけない。中学校の頃、合唱コンクールの指揮者に選ばれた時依頼のプレッシャーだ。
塗装なんて初めて!
塗装なんて初めて!
これで……いいんだろうか
これで……いいんだろうか
ウェブサイトや説明を何回も読んで、やっと決心がついたところでエイヤッとスプレーを吹き付ける……。
いいのか悪いのか。まったくわからない……。
見比べつつスプレーを吹き付ける
見比べつつスプレーを吹き付ける
完全に乾いた
完全に乾いた
本物はあまり濃い色ではないので、控えめに控えめに吹きつけてみた。しかし、地の色と比べられないので、どのぐらい塗れたのかがあまりよくわからない。
もうこれはマスキングをはがしてみるしかない。
ペリペリペリ……
ペリペリペリ……
色が濃すぎたー
色が濃すぎたー
結果はご覧のとおり。
黄色が濃すぎた。ルイ・ヴィトンというより、工事現場のトラ柄に近い。

本物と見比べたくなった

しかし、いくら工事現場のトラ柄に近くなったといっても、やはり自分で作ったものなので愛着がわいてくる。
レイに丸く切り抜くのが難儀した
レイに丸く切り抜くのが難儀した
だって二日もかけて、自分で自分の好きな模様を着色して作ったんだからそれは当然だ。そう思うと、線のゆがみさえ愛おしく思えてくる。

これは、ぜひ本物と見比べたくなってきたので銀座のルイ・ヴィトンに行ってみた。
中に入ったことはない
中に入ったことはない
ルイ・ヴィトンに行くにあたり、いいかげんな格好でいくと、たたき出されそうな気がしたので、出かける前に歯磨きとひげそりをして身を清めた。

店に入り、店の人にお願いしてモノグラムの財布を見せてもらった。

本物は模様の色が絶妙な感じで薄い。あと、外側の皮部分が意外と硬くてしっかりした作りになっている。

自分の作った財布と並べて見比べさせてもらったものの、本物には一種の風格があった。「いつもは発泡酒ばっかり飲んでるけど、店でビール飲むとやっぱ違うわー」みたいな感じである。

模様がまっ黄ッ黄でふにゃふにゃのぼくの財布にくらべるとまったくの別物で、法的には安心していいレベルだった。

これがブランドの力というものであろう。

店内は撮影できないので、写真を撮ることは叶わなかったけれど、本物と並べてみてひとまずぼくの気持ちは整理できた。

みんなちがってみんないい。これはこれでアリではないかという気持ちになれた。

ちなみに、店員のお姉さんに「どうですか?」とぼくの作った財布の感想を聞いてみたところ、笑顔で無言だった。
玉砕したけど気持ちの整理はついた
玉砕したけど気持ちの整理はついた

デイリーライターには評判良かった

せっかくなので、デイリーの会議に持って行ってみんなに見てもらった。出した瞬間「おー、すごい」と褒めてもらえた。しかし、モノグラムの財布っぽいかどうかというと、違うよね。という結論であった。

「似せすぎると違法」という、哀しい矛盾を抱えてこの世に生まれ落ちた都章・区章財布にとって、それは幸せな結論でもあるかもしれない。

この財布は、ダイヤの原石として見いだしたぼくがしっかり使ってやろうと思う。

ただ、遠目にみればそれっぽくみえるぞ。という発見はあった。
ほら、遠目にみるとそれっぽい!
ほら、遠目にみるとそれっぽい!
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