書き出し小説秀作発表、三回目である。
過去二回の発表を経て、応募作のレヴェルも確実に上がっている。非常に喜ばしいことではあるが、そのぶん選考は難渋を極め、のしかかる重圧により、もとは八頭身の体が二頭身に激変するほどであった。
そんな受難に見舞われながら選んだ16作品を発表する。
今回もこの書き出しに続く、豊かな物語世界を想像しながら読んで頂きたい。
そのシェフにサラダを任せたのは、私の気まぐれだった。
TOKUNAGA
僕の履歴書を見た瞬間、面接官は「ひっ」と小さく叫んだ。
サニーサイド3号
目の前の石段を、艶やかな尻尾がするすると登っていく。尻尾だけが
里清
幻想的でありながら、軽いデジャブを感じさせる作品。
買った縄跳びがほんの少し短かったのも、彼のやる気を削ぐ一因だった。
hiyoちゃん
貯金箱を叩き割った。20ルーブル出てきた。
おかめちゃん
これじゃアイスも買えない!(1ルーブル=約2.56円)
コックピットの窓から町内会長の家が見え始めた。
タカノ
晶子はわざわざはしごまで歩いて行き、つまさきから音も立てずにゼリーの中に沈んでいった。
しょま
ダチョウ倶楽部なら「押すなよ押すなよ」と言うだろう。
彼女は僕の手を握り、まるでボクシングの勝者にそうするように高々と掲げた。電車の中で。
めんそーれTOKIO
手相占い師は、死人の生命線を確かめるべきだと思う。
マダラエイ
ふた組のカルガモ親子が見事にクロスしたある日のこと。
もりしょう
今は昔。虹色の橋を封鎖せんとする男ありけり。
蒼月
「ナスを縦に切るだけでオシャレになる」これが兄の遺言だった。
大伴
ユウカリの香りがふわりと舞う。コアラも怒れば噛むのだな。
蒼牙
その後の展開よりもそれ以前の経緯が気になる。リズムもいい。
いや、先生。松下くんがいなくて困ってるんじゃなく、松下くんがたくさんいるから困ってるんです。
ちー
男はカニにまたがると、意気揚々と去っていった。右へ。
からておどり
言われた通り、セグウェイに乗って出頭した。
はらてつや
以上である。
冒頭でも記した通り、作品のレヴェルは確実に上がっている。
但しそれは応募作全体への感想であり、私がそう言いたいのはここに紹介した作品よりも、むしろ紹介できなかった作品たちに対してである。
それらの作品が面白いということは「書き出し小説」の意図が、投稿者諸君に伝わりはじめているということで、その事実はうれしいことである。
ただ懸念もある。採用作の傾向を意識することで、作品の幅が狭められてはいけない。
書き出し小説の最も大切な理念は、創作の自由を共に分かち合うことにある。作品の完成度に腐心しながらも、やはり常に新しい世界観、文体へのチャレンジは忘れないで欲しい。
その冒険がたしかな強度をもって成功した文章は、どれほどの作品に埋もれても必ずや人目をひく輝きを放つだろう。私も選者の責任を持って見逃さないよう務めたい。
さて次回の締め切りは11月28日正午。発表は同月30日を予定している。また次回は月間賞の発表も行う予定である。ゲスト審査員にはウェブマスター林雄司氏を招く。
書き出し作家たちの力作を待っている。以下の投稿フォームで応募されたし!
(最終選考通過者)
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