特集 2012年11月8日

とつぜん野球部の監督に任命されたときの、9の対処法

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僕は野球のど素人だが、勤務している学校で野球部の顧問に指名されてしまい、以来10年、何とか今までやっている。
この経験を元に、野球部の顧問に指名されたときに、いかに素人とばれないようにするかの方法を紹介していきたい。
1978年、東京都出身。漂泊の理科教員。名前の漢字は、正しい行いと書いて『正行』なのだが、「不正行為」という語にも名前が含まれてるのに気付いたので、次からそれで説明しようと思う。

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野球を知らないことにかけては自信がある

僕は世紀末的な運動音痴なうえ、中学・高校と文化部であり、その通っていた中学・高校には野球部が無かったので、本当に部活としての野球を全く知らない。知っている野球はナイター中継とファミスタぐらいである。
僕の野球の知識の全てと言える「ファミスタ’87」
僕の野球の知識の全てと言える「ファミスタ’87」

もし高校野球の監督に、ど素人のあなたが任命されたら

しかし野球部の顧問は、お構いなしに突然やってくる。そう、これを読んでいる皆さんも「野球とは縁が無いし、大丈夫かな……」などと思ってはいけない!
いつ何どき、野球部の顧問という任務が降りかかるかは分からないのだ。
「まさか私が野球部の顧問に!?」
「まさか私が野球部の顧問に!?」
名監督・長嶋茂雄は「セコムしてますか?」と言っていたが、それに匹敵するぐらい監督になる備えも必須である。
そんな「まさか」の時のためにぜひ、この記事を読んで顧問となる備えをしておいてもらいたい。

用具編 (1)まずはこれを買え!「アップシューズ」

さあ、あなたが突然に野球部の顧問になった。しかし野球の道具など何一つ持っていない。
さあどうする。はじめに買うのは何だ?
バットか?グローブか?ユニフォームか?
残念ながらそのいずれも正解ではない。
答えはこれ、「黒のアップシューズ 」である。
通称「トレシュー」、「ベーシュー」ともいう。
通称「トレシュー」、「ベーシュー」ともいう。
この靴は野球の練習にだけ用いられる靴で、他の競技の人は絶対に履かない。
よって、これを履くことによってユニフォーム無しでも一気に「野球業界の人」っぽくなるのである。
そして色がポイントだ。選ぶのは白ではなく、黒である。黒を選ぶことによって、スーツに合わせても浮かないコーディネートが完成する。
スーツにも驚きの自然さ。
スーツにも驚きの自然さ。
野球の業界では黒のアップシューズ&スーツは、もはや燕尾服に次ぐ正装と認められており、これを意識するだけで「野球も知らない青びょうたん」から「たぶん野球を知っている人」にレベルアップできる。
必ず買おう。
未来人の予想図(ただし野球関係者)
未来人の予想図(ただし野球関係者)

(2)次はこれを買え!「ハイネックのアンダーシャツ」

これであなたは「たぶん野球を知ってる人」にレベルアップできた。
しかしあなたは指導者なのだ。
知っているではなく、野球ができる人と思われなければならない。そのために続いて買うべきは何か。
それは「ハイネックのアンダーシャツ 」である。
通称「アンシャツ」。丸首タイプもある。
通称「アンシャツ」。丸首タイプもある。
見れば、ああ、野球選手がよく着ているアレね、と分かってもらえるだろう。
顧問になりたてのあなたは、野球のユニフォームを着るのが恥ずかしくてしょうがないだろう。そして着たらおそらく確実に、野球をやる空気になってしまう。
そこで、これをユニフォームではなく、ワイシャツの下に着るのである。
はやく野球をやりたいぜ……。
はやく野球をやりたいぜ……。
どうだろう、一気に「野球できそうな人」感がアップしたと思わないだろうか。これを着るだけで「ほんとは野球できるんだけど、仕事の間はしょうがなくスーツ着てます」という感じになり、一気に監督らしくなる。
そのためにも丸首タイプではなく、はみ出る面積の大きいハイネックを着用し、「じつは野球できます」オーラを最大限に発散しよう。
おおー、新しく入ってきた外野の子、いい動きするなぁ……。
おおー、新しく入ってきた外野の子、いい動きするなぁ……。
これなら初心者のあなたでも恥ずかしくない。
ただ、着ていると野球ができそうであるため、「監督、ノック打って下さい!」と頼まれたりすることもあると思うが、その際には、
「スーツだから」
「手首が腱鞘炎で痛む」
「お前らにはまだ基礎練習が足りない」
などと言って、うまく避けるようにするとよい。

さて、次は用語編だ。
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続いて学ぼう、用語編

さて、これで見た目はすっかり顧問になった。次は用語編だ。
もちろん、目標はプレイしないまま周囲に、「本当は野球できるんだろうな……」と思わせることである。
そこで野球ニュースでは学べない野球用語をさりげなく会話に織り交ぜ、業界人であることをアピールしよう。

(3)いろいろな場面で使う「カット」

僕が野球の顧問になって一番驚いたのが「カット」という用語の使われ方の広さだ。日本語における「どうも」ぐらいに、幅広い場面で多用される。
これをマスターすることが野球部顧問への第一歩だろう。
全部見ていこう。
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1.[内野手が外野からの返球を中継すること]

中継をする選手のことは「カットマン」という。
うまく成功すると「ナイスカットー! 」と掛け声がかかる。
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2.[ツーストライクからファウルを打つこと]

見逃すとストライクになる球を、意図的に打ってファウルにする戦術。
うまく成功すると「ナイスカットー! 」と掛け声がかかる。
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3.[強くバウンドするゴロをうまく捕ること]

ショートバウンドと呼ばれる難しい打球。
うまく成功すると「ナイスカットー! 」と掛け声がかかる。
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4・[変化球の「カットファストボール」の略]

ピッチャーの投げる変化球の一種。
誰も「ナイスカットー! 」とは言わない。
以上より、誰かが「ナイスカットー! 」と言ったら1~3のどれか、言わなかったら4、と判断できる。よく覚えておいて役に立てよう。

(4)使うと超それっぽい「ひとつ・ふたつ・みっつ・よっつ」

現場で聞くと分かるが、「一塁」「二塁」「三塁」「ホーム」 は言いづらく、試合中では聞き取りづらい。
そこで現場ではみんなこう言わず、「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」 と言う。
そこでこの言葉を会話の中で使おう。
3塁まで回せと言ってますが、言ってる人は100m走17秒です。
3塁まで回せと言ってますが、言ってる人は100m走17秒です。
どうだろう。「みっつ回せ」と言うだけで、普段から現場にいる人間です!という雰囲気があふれ出す便利な用語だ。
ただし「いっこ」と言うと、それは1アウトのことを指すことが多い。注意しよう。

(5)ピッチャーが球を「ほうる」

世間的にはピッチャーは球を「投げる」だが、業界では「ほうる(放る)」と言う人がかなりいる。僕の経験では、年長者ほど、また、強豪チームの人ほど言う確率が高い。
これは高校野球の本拠地が関西であるため、関西弁の「投げる」が全国へ伝わったのだと思う。
言っている人は、ハンドボール投げで14mしか投げられない人です。
言っている人は、ハンドボール投げで14mしか投げられない人です。
なので関東で「ほうる」と言うと、たとえあなたがファミスタと燃えプロしかやったことが無くとも、すごく経験豊富な顧問に見える。必ず押さえたい用語だ

(6)2番打者が「選ぶ」

これも違和感のある言い方だが、簡単に言うとフォアボールのことだ。現場で言われる「2番が選んで」を丁寧に翻訳すると、
2番打者丁寧にピッチャーの投球を見てボールになる球を選んで、フォアボールになって1塁へ出塁した」 となる。
見てる人は変化球の種類が全く分からない人です。
見てる人は変化球の種類が全く分からない人です。
ちなみにその投球をよく見てボールになった場合、選手たちが「よく見た!ナイセン!」とほめ讃え合っているのだが、「セン」の部分が「選択」なのか「選球眼」なのか、はたまた「センス」なのか、いまだに恥ずかしくて誰にも聞けないまま10年間が経過している。
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確実に押さえたい、球場編

と、用語編まで成功すれば、かなり野球を知っている人に見えるだろう。
だが、いきなり難しい話題を振られるとさすがに対処できない。「バスターで二球目を張ってたんだけど、まさかのウェストから、2-5-1でタッチアウトだよ」などと言われても、素人にはさっぱりだ。
そんな時はたくみに話題を変えよう。球場の話をするのだ。
こんな立派な球場はまず使えない。ゼロから学ぼう。
こんな立派な球場はまず使えない。ゼロから学ぼう。
当り前だが野球の関係者は球場の話でよく盛り上がる。
プレイの話が複雑で経験しないと分からないのに比べて、球場の良し悪しは比較的理解しやすく、話題にしやすい。
そこで僕が、素人がゼロから感じた野球界における球場のことを書いていこう。

(7)「マウンド」あれ。そしてマウンドがあった。

マウンドが大地を、野球場と他のものへと分けた。
マウンドが大地を、野球場と他のものへと分けた。
まず野球場を野球場と呼ぶために必要なのは、まず「マウンド」らしい。ピッチャーが球を投げるために少し盛り上がっている部分である。
練習場所を求めて、野球場だか広場だか分からないところをいろいろ見てきたが、同じに見えるグラウンドでもこれがあれば「野球場」、無ければ「広場」である。
まあまあ立派なネットがあっても、マウンドが無ければ「広場」
まあまあ立派なネットがあっても、マウンドが無ければ「広場」
実際にマウンドが有るか無いかは、市役所のホームページとか見ても書いてないので、自分の足で向かって確認するしかない。
素人から見ると、その土を盛った小高い部分がそんなに重要なの? と思ってしまうが、重要なのだ。
初心者には注意が必要だ

(8)素人がはまる「固定ベース」の穴

レベルの高いベースは「固定ベース」といい、穴に刺さっている。
レベルの高いベースは「固定ベース」といい、穴に刺さっている。
誰もが知ってる「ベース」だが、置いてあるだけの「移動ベース」と、地面に穴を掘って固定してある「固定ベース」に分けられる。
移動ベースはスライディングをすると吹っ飛んでしまうので、練習をする分には許せるが、いざ試合となると心もとない。というか試合にならない。
「じゃあスライディングしなきゃいいじゃん」
「じゃあスライディングしなきゃいいじゃん」
と思うかもしれない。
しかし、これも顧問になって分かったのだが、野球の選手は、かっこいいからスライディングしているのではないのだ 。あれには、相手のタッチを避けつつ、ベースできっちり停止するという重大な意味がある。(それまで僕はかっこいいからしてるのだと思っていた)
世の中、全てのことに意味があるものである。

というわけで試合には固定ベースのグラウンドを選ばないと、ここまで築いてきた「野球分かってる人キャラ」がスライディングにより一度に吹き飛んでいく。気を付けよう。

(9)これから「水はけ」の話をしよう

以上の二つがそろうと、野球場の格もだいぶ上がってきて、ちゃんと野球場の形になってくる。グーグルマップで見ても、違いが一目瞭然だ。

大きな地図で見る
これはしっかりとした野球場。

大きな地図で見る
これは野球以外にも使われる運動広場。
これ以上のレベルのポイントとなる照明装置の有無や、スタンドの大きさなどは、グーグルマップですべて確認できる。
では文化系の細腕人間でも、あとは楽々インターネット検索!、といくかと言えば、そうはいかない。野球人にとって大事なファクター「水はけ」があるからだ。
水はけの悪いグラウンドに対する野球人の悪評はすさまじい。
水はけの悪いグラウンドに対する野球人の悪評はすさまじい。
野球人にとって、雨が降ったあとに水たまりが残るか残らないかは死活問題で、これも必ず話題になる。
しかもこれは雨が降ったあと、実際に使わないと分からないファクターであり、素人を大いに悩ませる。
そこで近隣の球場に関して「最近、水はけはどうですか?」と聞いて情報を収集し、他の人に「あそこは最近、水はけが悪くてねェ……」などと巧みに知識を披露しよう。
もはや「あの人、その道のプロ?」と思われること間違いない。

以上を全て実践すれば、任命された日から、その道20年のプロになれる。
ただ、技術の指導が全くできないことが難点だが、プロ野球選手の名前を適宜おぼえて、「阿部の送球をまねてみろ」とか言っておこう。
偶然にも選手が育ったら「~~を育てた大監督」として取材されるかもしれない。
ドカベンも読むと勉強になります。
ドカベンも読むと勉強になります。
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