沖縄には瓶にびっしり整列した状態で売られる魚がいる
沖縄料理に「スクガラス豆腐」という島豆腐の上に、塩漬けの小さい魚(スクガラス)を置いた料理があります。
塩辛いスクガラスと素朴な豆腐がマッチして酒のつまみに合います
「スクガラス」はアイゴ(方言名はエーグァー)という魚の稚魚である「スク」を塩漬けにした保存食。
沖縄らしい風景として市場の写真などで紹介されていたりする食べ物のひとつです。
そんなスクガラス。
魚の小ささにも驚きですが、売り方もなかなか目をひくものがあります。
スクガラスは瓶にびっしり並べられて売られるのです
DEEokinawaでは以前、瓶の中にスクガラスが何匹入っているか数えてみました。
(記事は
こちら)
その結果は大瓶(2000円)に655匹。
比較対象がないのでいまいち多いのかがわかりませんが、なんだか感動した覚えがあります。
さて、もう一度スクガラスが入った瓶をご覧ください。
ある疑問が浮かびませんか?
「どうやってびっしり並べているの?」
と。
ということで、今回はスク詰め現場からのレポートです。
まずは疑問を解消に
やってきたのは牧志公設市場の目の前にある漬物専門店の「浦崎漬物店」さん。
当たり前のようにスクガラスの瓶の中のスクはきれいに整列しています。
いろいろな疑問を聞いてみました。
Q1:スクの整列瓶はいったい、いつ頃からのものですか?
A1:「わからんけど、自分の親の代からやってたよ」
始まりはわからず。
他のお店でも同じ質問をしてみましたが、同様にいつ頃かからかは知らないとのこと。
瓶については、戦後すぐはアメリカ軍から配給された空き瓶や、エゴーの瓶なども使っていたそうです。
Q2:スク以外でこんな風に整列詰めされる食品はあるんですか?
A2:「うーん、前はコーレーグスでもやってたことはあるけど」
島とうがらしがびっしり並んだコーレーグス?
以前は島とうがらしを整列させてたこともあったそうですが、島とうがらしが高くなったことと、びっしり並べすぎたら泡盛が入らないことから、いまはやめてしまったそうです。
そして最も気になっていた疑問を。
Q3:誰がどうやって詰めているのでしょうか?
A3:「私が、箸で」
私が箸で!?
なんと、ほとんどの場合は販売店のお店の方が自分の手で詰めている
そうです。
ちなみに浦崎漬物店さんでは以前は店頭で詰めていたそうですが、最近は家で詰めているとのこと。
いや、しかし箸を使うとはいえ、あんな風にキレイに並べられるものなんでしょうか?
公設市場内に店頭でスクを詰めているお店がある
ということで現在は詰めるのは家で、という人も多くなったようですが公設市場内にときどき店頭で詰めているお店があるよ、と教えていただきました。
それがこちら「上原山羊肉店」さん。
ヤギ肉のお店にスク?
ちゃんとお肉に並んでスクの瓶がありました。
小さい方が500円、大きいのが2000円だそうです
取材の前日に詰めてしまったので今日は空瓶がないとのことでしたが、無理を言って(中身を一度出して再度詰めてもらう・・)瓶詰めの現場を見せてもらえることになりました。
ありがとうございます!ありがとうございます!
インタビューに答えてもらいながら詰めていただきました
―スク詰めはどれぐらいやられているんですか?
7~8年ぐらい。
最初はなかなか上手くできなくて時間がかかったけど、今は小さい瓶だったら10分ぐらいで詰められるよ。
―コツがあるんですか?
うーん、同じ向きで整列させること。
パズルと思えばいいよ
。
まずは1段目を並べて、そして瓶の底に2匹ぐらい並べるでしょ。
で、表面はきれいに並べるけど、中はそのままいれちゃってるわけ。
中まで並べているわけではないの。
そこまでやってしまうと本業に手がまわらなくなるでしょ(笑)
うちでは、暇な時間にこの作業をやるって感じだから。
―スクを詰める時期はあるのでしょうか?
毎年旧暦の6月頃にスクがあがるから、そのときに100キロぐらい買っておくの。
それで塩漬けにして、2ヶ月漬けたやつを詰めていくって感じで。
だから詰めはじめは今ぐらいの時期だけど、そこから年中しているよ。
保存食だから、詰めるのはいつでも大丈夫だから。
―スクをきれいに詰める理由は?
やっぱり見た目にキレイだからかな。
店頭で詰めていると、はじめて見た人は「こうやってやるんだ!」ってみんな言うよ。
機械とか外国でやっていると思う人も多いみたい。
人がやるにしても、もっとおばあが詰めていると思ってたり(笑)
昔は家でこどものお手伝いで詰めていた家もあったりしたみたいだけど。
―整列しているものと、していないものでは量はちがうんですか?
どうかな?よくわからないけど。
箸だと中の方までピッタリ隙間を埋めていくようには詰めるので、こっちの方が多くはなるんじゃないかな。
パズルみたいに隙間を埋められるように、大きさを見ながら魚を選んでるからねー。
あっという間にスクの整列瓶が完成!
話を聞いていると、あっという間にスクの瓶が完成していました。
お話にもありましたが、スクをキレイに並べる理由は「キレイだから」。
たしかにびっしり並んでいるとキレイだし、何より「なんだかすごいぞ!」と感動してしまいます。
ひと手間かけて、買う人に感動を与えてくれるスクの整列瓶。
いつ頃からはじまったのかはわかりませんでしたが、ずっとずっとなくらないで欲しいなーと思いました。
上原山羊肉店さんに行けば、そんな優しい気持ちが詰まったスクの瓶詰め現場が見られるかもしれませんよ。
スクは塩漬けだけにあらず
インタビューにもあったとおり、スクが獲れるのは旧暦の6月頃の一時期だけ。
その時期になるとスクは沖から沿岸に入ってくるのですが、沿岸に来て藻を食べてしまうと苦みが出てしまうらしいのです。
つまり藻を食べる前の数日間がスク漁の時期です。
DEEokinawaでは以前スク漁の時期だけに食べられる、塩漬け前の「生スク」を調理したことがあります。
生スクを使った「極小焼き魚定食」
(記事は
こちら)
見た目はそこそこ定食っぽいですが、生を1匹だとまったく味がしないことが判明。
塩漬けのスクガラスにするとものすごく存在感がある味になるので、まだ食べたことのない方にはぜひ挑戦してほしい沖縄料理のひとつです。
これはスクガラス豆腐を模したスクガラスクッション