日本のどこかに伊勢うどんを待っている人がいる。
これが伊勢うどん。
尋常じゃなく柔らかい、うどんのお粥みたいな料理。それが伊勢うどん。好みは分かれるかもしれないが好きな人はたまらないくらいの鋭い存在であると思うのだ(うどん自体に鋭さ皆無だけど)。
持ち上げるだけで箸がうどんに食い込む硬さ。
でも、伊勢うどんが全国に普及するということは少し考えづらい(なんかもう、凄いから)。というか、お伊勢参りが大人気だった頃から出してたのに広まってないということは今後広まることは無いんだろう。
同じ日本の料理なのに住んでる地域によっちゃフランスとかイタリアよりもはるかに遠い存在伊勢うどん。どうにかなんとか作れたりしないかな、伊勢うどん。
茹でれば良いんじゃない?
伊勢うどんは普通のうどんと作り方が違うのかということを伊勢に行った際にうどん屋のおじさんに聞いたところ、最近近所に病院が出来てひっきりなしに救急車が通る。ということしか教えて貰えなかったので、適当に作る。
どれが伊勢うどんに適しているか。
どこからか得たぼんやりとした情報では、伊勢うどんは1時間くらい茹でるらしい。もしかして、違いって茹で時間だけなのではないか?普通のうどんでも茹でてたらお湯吸って超太くなって柔らかく、伊勢化するのではないか。
そう思い、生麺、乾麺、茹で麺のうどんを用意して、長時間茹でてみた。
まとめて茹でてやる。
適正な茹で時間は生麺で15分、乾麺13分、茹で麺2分と書いてあった。これをどのくらい茹でれば伊勢化するのか、しないのか。しない場合はまた何か考えましょう。
茹でうどんの適正タイム
小刻みに時間と硬さを計って伊勢化するタイミングを探る。と言っているうちに二分。茹でうどんの適正茹で時間。その際の硬さはどのくらいなのか。
二分経過状態。茹で麺すでに切っちゃった。
二分経過状態のうどんさん達。それぞれに全く違う状態で、伊勢うどんとは明らかに違う。とりあえず硬さを計ってみる。
うどんの硬さ計測マシーンver.3
ここで登場するのがうどんの硬さ計測マシーン。伊勢に行った際にも同じものを使ったのだが、それを捨てちゃってたので全く同じものを作りなおした。カップに水を注ぎ、切れた時点での重さを測定するのだ。
茹で麺切れた。
茹で麺が切れた際の重さは41グラム。立ち食いうどんを計測した際の数値も全く同じであったので茹でうどんはこのくらいの数値になるのが一般的っぽい。
全然切れない、乾麺
続いて乾麺を測定したが、全然火が通っていないため切れない。食べてみてもポキポキしている。ようやっと切れた時の重さは203グラムだった。
生麺が、生麺が立ち上がった!
続いての生麺もなかなか切れないし、切ろうとするとなんと麺が立ち上がった。生きているのかと思える動きは流石生麺。結果は134グラムで食べるとえらくしょっぱかった。
伊勢うどんさんには遠く及ばない。
伊勢うどんマジ遠い
おっ、全面的にうどんになってきた。
そうこうしているうちに12分。瞬く間にうどんらしい姿になっている。乾麺の適正茹で時間に近く、さっきまでと違いとてもうどんらしい姿となっている。
瑞々しさのアップした面々。
茹で麺は違いはあまり分からないが、乾麺は完全に火が通ったようで透き通って見える。生麺はまだ塩が抜けきっていないようで黄色みががっている。乾麺のほぼ適正茹で時間での硬さはどうか。
12分茹でて茹で麺の耐加重は伊勢うどんとほぼ同じになったけれど食感が全然違う。硬さという面ではそう違いは無いが、表面が整っているのだ。ドロドロしていない、溶けていない。これは茹でればどうにかなるものなんだろうか。
切ってるときの写真も撮ったけど、代わり映えしないので関係ないうどんの写真載せておきますね。
乾麺は適正な茹で時間だけあって、コシも丁度よく美味い。生麺は中まで火が通っておらず中心はボソボソしていた。適正時間に近いので当たり前だが、伊勢は遠い。
ちゃんとした茹で時間のうどんが美味い
生麺がちゃんと茹であがる時間だ!
そうこうしているうちに15分。生麺の適正時間だ。急いで生麺だけを取り出す。
ピッチピチだ。うどんもやはり鮮度が大事。
冷水で締めてざるうどんで食べる。表面はツルツルスベスベで噛むと押し返してくるコシが心地よい。美味しいうどん屋さんで買ってきた生麺なのでしっかり美味しい。
美しい。ピッチピチ。
スッベスベでシコシコ、うどんにおいてのベストな状態だろうと思う。茹でてる途中でこの状態になったら、食べなきゃ!と思う。
もっと、もっと茹でてデロデロに!とは思えない。やはり伊勢うどんはそもそものうどん自体が違うものなのではないかと思い始めた。ちなみにこの時の耐加重は67グラムだった。
見えてきた可能性
幻の生き物みたいになってきた。
そもそものうどんが違うのではないかという思いを抱きつつもお構いなしにうどんは茹でられる。鍋の中で踊っている。
どの麺もデローンとしてきた。
全ての麺の適正茹で時間を大幅に超えて、見た目に違いが少なくなってきた。麺が疲れているかのように見える。
見た目の違いが少なくなっては来たが、食べてみると歴然の差。乾麺、生麺ではコシが残っておりこういううどんもあるよな。という感じ。
再び関係のないうどんの写真載せておきますね(美味い)。
対して茹で麺は明らかに茹で過ぎ。とろけそうな感じになってきているが、表面はツルッとしており伊勢うどんとは全く別の食感。行けども行けども伊勢うどんの背中は見えてこない。走っている方向が間違っているのかもしれない。
35分経過。
茹で始めと比べて明らかに太くなってきてる。
それでも、とりあえず噂に聞いた一時間くらいはやろうと続ける。実際やっているときは気づかなかったが、写真で見ると太さが凄く変わっている。
なんだか、全体的にボテッとしてきた。
ここで少し感じが変わってきたことに気づく。なんだかボテッと、ヌメっとしてきている。これは…。
ゼロっ!計測不能!!
ここで耐加重を計って衝撃。記録、ゼロ。実際には装置の刃自体の重さがあるからその重さによるものであるが、ついにうどんの硬さ計測マシーンの限界を超えてしまった。
そして食感!ついに表面が崩壊してデロッとしてきた!伊勢うどんの雰囲気が、光が少し見えてきた。
世界の変化
これは、これは本当に伊勢うどんが出来るのではないか。うすうすの期待に光がさして俄然やる気が出てきた。
世界(鍋)の大気(茹で汁)の状態にも大きな変化が。
そうして麺だけでなく、鍋の中にも変化が起こっている。茹で汁の中にアクのようなものが現れだした。アクが出るようなものは無いので、うどんだ。茹で汁の中でうどんの膜が張り始めた。
存在が揺らいで見える。
45分経過で全体的にうどんがぼやーっと見えるようになった。うどんから何かに変わろうとしている間くらいの存在。とても不安定に見える。
見えてきてる、確実に見えてきてる。今はまだ伊勢うどんではない、伊勢うどんに似てる茹で過ぎたうどんだ。けれど、この流れだと、この流れだと!
これが目指したお伊勢さんや
茹で始めてから1時間。伊勢うどんの茹で時間と噂される時間が流れた。さぁ、うどんは、うどんはどこに…。
うああああ、伊勢だあぁぁぁぁ!うどんが伊勢に行った!!
どうだろうと鍋を覗いて驚いた。適正茹で時間を超えて、表面がざらついてきていたうどんがちゅるんっちゅるんでピカっとしている。うどんが、生まれ変わった…!?
凄い、なにこれなにこれ、クラゲ?イカ?
いっぱい茹でたら結構変わるな…その程度の感覚だったのに、1時間を迎える最後の10分間の変化があまりにも劇的で衝撃。
もちろん、どの麺も耐加重は計測不能!見分けるのも難しいくらいに同一化、伊勢化を完了している。
持つだけで手がうどんである。
耐加重どうこう言う前に持つだけで崩壊しそうな位の状態になっており、触ればそこにうどんが付く。伊勢うどんを実際に計測した時と同じ状況だ。
これは、伊勢うどんだろ!?
適当に検索して出てきたレシピの伊勢うどんのタレと絡めてみる。おおおっ、これは…伊勢うどんだ。伊勢うどんだろ!?太さはどうしても本家に及ばないまでも質感、形状、どう見ても伊勢うどんである。
味は、味は…!?
さぁ、実際はどうなんだ…。ずぞぞっと食べる。口の中に入れると一瞬でとろけて広がる。感覚全部がでんぷんで覆われる。デリュドラリュリャーという食感。
太さゆえの体当たりしてくるような感覚は無いが、ずぼぼっドスン!といううどん食べたハズなのになにが起こった!?という感じはある。これは、これは十分に伊勢うどんと言っていいだろう。伊勢うどん、出来た!!
普通のうどんとは全く別物だと認識していた伊勢うどんだったが、一時間茹でるという伊勢うどん特有の工程を経れば普通のうどんも伊勢化することが分かった。全く別物だと思っているものでも何らかの工程で同じものになる。これを教訓として誰か、人は皆~みたいなことを言い始めたらいいと思います。
伊勢うどんに興味を持った方、一時間でお伊勢参りの気分を味わえる偽伊勢うどん、是非一度ご賞味あれ!衝撃だから、ほんとに。
うどんと一緒に食べようと思って買ってきてたアナゴの天ぷら、うどん食べ終わってから発見した。