特集 2012年9月26日

雨が降ると現れるまぼろしの大河

まぼろしの大河が現れた
まぼろしの大河が現れた
大雨が降ると、そこかしこに水たまりができる。

無作為に現れるような気がする水たまりだけど、よく考えれば、それは一見すると平らに見える部分の、わずかな高低差を露にしているとも言える。

そして、水たまりから水があふれると、そのわずかな高低差に沿って川となり、うっすらと流れていく。

そういうものを見つけると、ただの水浸しの地面が、大地を空から見下ろした光景に見えてくるのだ。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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雨が降ると現れる

久しぶりの休日、起きてみると外は土砂降りの雨であった。

とりあえず用事を済ますために家を出ると、駐車場の排水溝のまわりに水たまりができていた。水が集まりやすいように、排水溝に向かって傾斜がつけられているのだろうと思う。
駐車場に降った雨が排水溝の周りに集まる
駐車場に降った雨が排水溝の周りに集まる
だけど、水たまりからあふれた水が、舗装の継ぎ目に沿って駐車場の外に流れ出していた。

きっと、舗装の継ぎ目が排水溝の縁よりもわずかに低くなってしまっているのだろう。
手前のスロープの方に流れ出していた
手前のスロープの方に流れ出していた
駐車場のスロープにできたその小さな流れは、よく観察するとまるで険しい岩山の斜面を流れ落ちる、何段にも分かれた滝のようだった。
ミクロ的に見るとものすごい高低差である(あたりまえだ)
ミクロ的に見るとものすごい高低差である(あたりまえだ)
段々に流れ落ちてきた水は、その先でひときわ大きい、垂直に切り立った幅の広い滝となって、道路の側溝に流れ込む川の本流に注いでいた。
脳内でスケールを1000倍くらいにして考えてください
脳内でスケールを1000倍くらいにして考えてください
ほとんど妄想に近いスケールで考えないとイメージできないけど、でも道路と駐車場の境目のコンクリートをよく見ると、ちょうど水が流れている部分だけ、角が削られて中の石が露出している、ように見える。

コロラド川が何千万年もかけて大地を削り、あの雄大なグランドキャニオンを造ったのと同じ現象が、ここでも起きていると言えるだろう。

いや、ひょっとしたら違うかも知れない。でもそう考えると楽しくない?つまりこの記事が言いたいのはそういうことだ。
流れ込んだ本流は側溝に落ちてゆく
流れ込んだ本流は側溝に落ちてゆく
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隣の駐車場に渓谷あらわる

舗装されていない隣の駐車場を覗いたら、巨大な水たまりが目に入った。

そこには、駐車場のあちこちから細い流れの水が集まってできた、比較的大きな川が注いでいた。
奥の方から大きな川が流れてきている
奥の方から大きな川が流れてきている
目に見えるほどじゃないけど、砂利の上を流れる姿はアップで見ると激流である。僕らのサイズに当てはめるとすれば、ラフティングやカヤックで水しぶきを上げながら下っていくような渓谷だろうと思う。
さすがにこれは理解されないかもなー
さすがにこれは理解されないかもなー
大きな湖(水たまり)に流れ込んだ水は、マンホールの穴から下水に流れ落ちているようだった。

マンホールの穴、これがまるでダム穴である。
マンホールの中に流れ込んでいるようだ
マンホールの中に流れ込んでいるようだ
ミクロ的にはダム穴に見えるんじゃないか
ミクロ的にはダム穴に見えるんじゃないか

俄然楽しくなってきた

せっかくの貴重な休日が雨で、テンションが下がっていたこともあって、こういう小さな流れを見ているうちに何だか楽しくなってきた。楽しさハードルが下限である。

たとえば、矢印の向きに道路脇を流れる水が、雑草の生えた中に流れ込んでいた。
ここだけ道路脇に雑草がもさもさ
ここだけ道路脇に雑草がもさもさ
雑草に隠れて流れは見えなくなってしまった。これ、分子レベルで見ればアマゾン川の源流のようだ。

と、そのときのメモに残されていた。今となっては何が言いたかったのかさっぱり分からない。
これを見て「アマゾン川だ!」と思ったらしい
これを見て「アマゾン川だ!」と思ったらしい
妄想はさらに続く。

誰かの家の門からスロープが延びていた。門のところに大きな水たまりがあって、スロープの上をくねくねしながら流れ降りていた。
途中途切れているように見えるけどちゃんと流れていた
途中途切れているように見えるけどちゃんと流れていた
このくねくね具合が、太古の昔の石狩川のようだ。

そのうちくねくねした部分の根元が削れてショートカットして、三日月湖がいくつもできるかも知れない。
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公園は地球だ

近所の公園にやってきた。
水たまりだらけ
水たまりだらけ
降り続く大雨で、広場は一面水浸しである。

でもよく見ると、うっすらとした川が何本もできている。そのうちの1本の川は、4本くらいの支流が合流してできた、この公園でもっとも大きな川だ。
川の合流点(マウスオーバーで川の流れが分かります)
川の合流点(マウスオーバーで川の流れが分かります)
公園内を流れる川は、広いだけあって水量もなかなか豊富だった。そして支流ひとつひとつにも特徴がある。

たとえば、いちばん右端の支流は、公園の周囲に植えられた木々から滴り落ちる水滴が水源になっていた。
大粒の水滴が滴り落ちる
大粒の水滴が滴り落ちる
このあたりの地面だけでなく、木々に降った雨までほとんどが水源。そのお陰で、支流の中でも圧倒的な水量だ。

流れ込んできた雨雲が山脈にぶつかり大雨が降る、太平洋側の山間部などとほぼ同じ原理と言えるだろう(たぶん違う)。

4本の支流が合流したあとは川幅が広く、流れも緩やかだ。
川幅が広い(マウスオーバーで川幅が分かります)
川幅が広い(マウスオーバーで川幅が分かります)
支流部分ではそれほど広くないのに、合流した場所で一気に川幅が広がった。つまり山間部から平地に出てきた場所なのだろう。利根川で言えば前橋のあたり。片品川や鏑川、神流川などが合流して一気に川幅が広がる場所だ。

利根川と違うのは、こちらには堤防らしい堤防がないので、雨が多く降れば、その分川幅はどんどん広がっていく。つまり氾濫原だ。はるか昔の関東平野も、大雨が降れば平地に川の水があふれ出ていた。

しかし、平地は人が暮らしやすいので、川に堤防を造って、もともと氾濫原だった場所にも人が住んだり農地として使うようになった。そのおかげで、ひとたび川が氾濫すると大きな被害が出てしまう。

だから堤防を高くしたり川の流れを真っすぐにしたり、放水路やダムを造ったり、水門と排水機場を整備したりして、川の流れを堤防と堤防の間に閉じ込めておくような努力が行われている。

つまり、それが治水である。治水が行われていなければ、大雨の際はこの公園と同じ状態になるのだ。逆に雨が降らなければ川は枯れ、地面は乾き、人が住めなくなるだろう。治水が行われれば、この川の周りには大勢の人が住み着き、産業が発達し、巨大な都市ができるだろう。それはこの公園国の首都かも知れない。

なぜ僕はこんなに熱くなっているのだ。

遊具を縫う川

遠くに目を移すと、ブランコの下にできた水たまりから川が流れ出していた。
別の川にも注目したい
別の川にも注目したい
その川の流れが雲梯の下を通るとき、基礎に幅が狭められ、細くて急な流れになっていた。
矢印のあたりが細くなっている
矢印のあたりが細くなっている
流れが速いので小石が流される
流れが速いので小石が流される
これぞ渓谷である。じっと見ていたら、小石が流されて川底の土と大きな石がむき出しになっていた。
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これは水たまりではない、太平洋だ

近くにある別の広場にやってきた。

ここはかなり広い範囲が完全に水没していた。
これは海だ、太平洋だ
これは海だ、太平洋だ
そして、その海に流れ込む大河(ここまで来た皆さんはもう大河に見えますよね?)が何本もあった。
もう流れを書かなくても分かりますよね
もう流れを書かなくても分かりますよね
これもかなり立派な川だ
これもかなり立派な川だ
1本1本の川をたどって歩くと、やっぱり細くなっている場所があって、そういうところはここでも砂が流され、地面がむき出しになっていた。
この川の治水基準点はここだ
この川の治水基準点はここだ
こういうボトルネックになるところを安全に流せる水量を計算し、過去最大の大雨が降ってもその数値を超えないように、ダムや堤防などの治水計画が立てられる。利根川で言えば八斗島(そういう基準点があるのだ)である。

もう治水の話はいいか。
ここをあふれさせないようにコントロールする
ここをあふれさせないようにコントロールする
この広場には、真ん中に突然四角い岩が突き出していた。エアーズロックだろうか。
地元の(ミクロの)人々の信仰の対象かも
地元の(ミクロの)人々の信仰の対象かも
エアーズロックをよく眺めてみたら、上にも雨水が溜まっていた。すごい、岩上の天然湖だ!
何年かに一度、多雨の年にだけ出現するという天空の湖
何年かに一度、多雨の年にだけ出現するという天空の湖
また、植え込みの中に水が溜まり、仕切りの切れ目から水が下に流れ落ちていた。これはまぼろしの滝だ!
上から木の幹を伝って水が流れて来ていた
上から木の幹を伝って水が流れて来ていた
肝心の滝は写真ではよく分からない
肝心の滝は写真ではよく分からない
写真に撮ってもよく分からないので、最近買った防水のデジカメで動画を撮ってみた。
買っても使い道のなかった防水デジカメ初仕事
買っても使い道のなかった防水デジカメ初仕事
「これがまぼろしの滝だ」
その後、ちょっと雨が弱まってから家に帰ったら、いちばん最初に見た排水溝の周りからあふれた川はなくなっていた。
ここに川があったなんて誰も信じないだろう
ここに川があったなんて誰も信じないだろう
やっぱり、これもまぼろしの川と言っていいんじゃないかと思う。

この時間は予定内容を変更してお送りしました

小学校の頃、授業中に突然ものすごい豪雨が降ってきて、窓際だった僕は校庭があっという間に水浸しになるのを目撃した。よく見ると単なる水たまりではなく、低いところへ流れる川になっていた。それに気づいたことが、僕の水モノ好き、川モノ好きの原点のひとつになっていると思う。

今回、本当はまったく別の企画を用意していたところ、取材予定日の天気がこの有様だったので、急遽そんなことを思い出す企画に変更したのだった。
とは言え背中をぐっしょり濡らしながら地面の写真を撮るアラフォーはいろいろまずい気もする
とは言え背中をぐっしょり濡らしながら地面の写真を撮るアラフォーはいろいろまずい気もする
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