いなり寿司の新時代を開く
一緒に食べる機会も多い、おにぎりといなり寿司。それならばおにぎりの定番の具をいなり寿司に入れたものはないか、と思って調べたら、あまりヒットしなかった。
これは灯台もと暗し、新たなビジネスチャンスの到来だ!と思ったけど、これだけのメジャーメニュー同士のコラボを誰も思いつかなかったわけがない。定番化していないのにはそれなりの理由があるのかも、という気もして、期待と不安の入り交じった実験となった。
とりあえず油揚げを買ってきた
まずは、企画の根幹となる、いなりの皮を作る。
油揚げを軽く煮て油抜きし、醤油と砂糖、みりん、そしてだしを混ぜた汁で煮詰める。
ぐつぐつ煮込んで
味を染み込ませる
煮汁がなくなる直前まで煮込んだら冷まして、軽く絞って酢飯を詰めたら完成だ。
このまま食べた方が幸せだろうか
でも今日は、ここにおにぎりの定番の具を入れる。本当は中に詰めようと思ったけど、見た目を重視して上に乗せることにした。
そこで準備したのは以下の食材たち。
コンビニおにぎりの定番とやや変わり種の皆さん(マウスオーバーで種類が出ます)
さっそく、先ほど準備したいなり寿司の上に乗せたり、直接油揚げの中に詰めたりして、ありそうで見たことのないいなり寿司を10種類作った。
写真ではとてもおいしそうに見える(マウスオーバーで種類が出ます)
見た目は彩り華やかで、とてもおいしそうだ。では順に試食してみよう。
ます寿司
もともと駅弁で有名な富山県の郷土料理。それがコンビニおにぎりとしての登場で一気に全国区になったんじゃないかと思う。
控えめな酸味がごはんとの相性抜群だけど、甘い油揚げが加わってどうなるだろう。
油揚げと生魚の組み合わせはどうなんだ
食べてみたけど、いたってふつうのいなり寿司。口の中のどこを探しても、ますの存在感がまったくなかった。
本格的なます寿司が手に入らなかったので(主にコスト面で)、コンビニで売っていたおにぎりを整形してそのまま入れたのでますが薄く、味の濃い油揚げにまったく歯が立たなかった。単純に部員9人の弱小野球部が1回戦で部員100人超の強豪校に打ちのめされた、という話である。
とは言え手軽に手に入ったのはコンビニおにぎりのおかげで、実験としてます寿司いなりを作るとすればこの方法しかなかった。
ねぎとろ
これも、いなり寿司1個のためにパックで売られているねぎとろを買う勇気がなく、コンビニおにぎりを崩して突っ込んだ。やっぱり量が少なくて、もっと豪勢に盛りたいと思った。
なにより見た目がしょぼいのが残念
残念な見た目とは裏腹に、わさび醤油が染み込んだねぎとろの味をはっきり感じ取ることができる。そして意外にも、それが味の濃い油揚げとうまく混ざり合う!
ちょっとこれは新しい味ではないか。もっと食べたい。やっぱり奮発してちゃんとしたねぎとろを買っておけばよかった。
ダメ元で1口買った大穴馬券が当たってしまい、嬉しさよりも1000円突っ込んでおけば...!と後悔するあの感じだ。
チキンライス
コンビニおにぎりの変わり種として、チャーハンおにぎりやチキンライスおにぎりがあると思う。あれをいなり寿司にして、和と洋を融合してみたいと思ったのだ。そこで少量のチキンライスを作って、油揚げに詰めてみた。
茶色とオレンジという色合いも和と洋
合わなくは、ない。
でも一緒になった意味もないかも知れない。噛んでも噛んでも違和感はなく、特別美味しくもなく、音もなく風も吹かずに、喉の奥に消えて行った。食べたことを忘れるくらいの存在感。もう味もよく覚えていない。
駅前でギターを弾きながらラブソングを熱唱する歌のうまい男性のイメージ、などと表現するのは性格が悪いだろうか。
納豆
おにぎりというか、のり巻きだけど定番中の定番。姿は違うけど大豆から作られた同士、手を取り合って味を増幅させてほしいのだけど。
ふつうにタレとカラシを入れて混ぜてある
なんと、あの強い納豆(とタレとカラシ)の味がほぼ消える!
ここで初めて分かった、油揚げの存在感すごい。噛んでいる間ほとんど油揚げの味しかせず、飲み込んで最後に納豆の風味(たぶん嫌いな人が臭いと感じる部分)がぷーんと漂ってくる。これはよほどの納豆好きでなければ食べる意味がないかも知れない。
人気のあった中心メンバーが卒業したあとの、名前も顔も分からない女性たちのアイドルグループのようだ。何の話だっけ。
ちなみに、ねぎとろで余ったわさび醤油をつけてみると風味が引き立っておいしくなった。いなり寿司にはわさび醤油なのかも知れない。
唐揚げマヨ
これぞコンビニおにぎりというメニュー。唐揚げだけでも味が濃いのにどうしてマヨネーズをかけてしまうんだろう。嫌いじゃないけど。
回転寿司ではありそうな組み合わせだけど見たことない
これはふつうにおいしい。
油揚げとの相性が少し心配だったマヨネーズも違和感はない。唐揚げのしょっぱさも、油揚げの甘さとちゃんと混ざる安定した味だけど、でも定番メニューにないのは「やっぱり別々に食べた方がよりうまい」ということに尽きると思う。いなり寿司で不満だった「肉喰ってる感」があるのは嬉しいんだけど。
別々のグループの人気タレント同士が組んだユニットのCD売り上げが本家を越えることはまずないという現象、これで説明できるんじゃないかと思う(まわりくどすぎ)。
梅干し
コンビニなんて登場する何世紀も前からあったであろう、史上初めておにぎりに入った具なんじゃないかと思う梅干し。どうしていなり寿司には入らなかったのか。
あまりに酸っぱそうなので量は少なめ
両方とも歴史ある日本の食材だし、合わないわけがなかろうと思っていたら意表をつかれるアンバランスさ。
梅の酸っぱさと油揚げの甘さが、ものすごい勢いで綱引きしている。舌の上で酸性とアルカリ性による俺が俺がの猛アピール。今回は上に乗せたけど、酢飯にまぶして詰めたらもう少し食べやすかったかも知れない(そういういなり寿司はあるみたいです)。
方向性の違う政党同士の連立政権みたい、なんて知ったように書いているけどよく分かっていません。
ドライカレー
おにぎりとして定番とは言えないけど、たまに見かけるドライカレー。さっきのチキンライスの具が余ったのでカレー粉を入れて炒めた。油揚げにとってカレーは未知のスパイスだろうと思う。
茶色一色
ドライカレーが思いのほかパラパラにできてしまい、半分食べたら中身がこぼれて崩壊した。
それはともかく、中のカレーは突っ張っているのに油揚げのなんと過保護なことか。スパイスの刺激的な部分をすべて内側に閉じ込めてしまうので、味がまったく混ざらずに合わない。
幼なじみを遊びに誘ったら、家の中からお母さんと言い争う声が聞こえてきた、みたいな気まずさを感じた。
明太子
今回いちばん期待していた、というか、どうして明太子いなりが定番にないのだろう、と思って作ってみた。
これはおいしそうだと思うんだけどなあ
これは判断がとても難しい。
明太子の適量が分からないので適当に増減しながら食べたんだけど、少ないと存在感が分からない。でも、ある一線を越えると急に魚卵の生臭さが出てくる。明太子がこんなにじゃじゃ馬だったとは。
そんなクセのあるところにハマる人もいるかも知れないけど、これが定番メニューにない理由が分かった気がする。ほかの具にも言えるけど、油揚げがもっと薄味だったらもう少しまとまりやすいのかも。
スパム
ゴールデンウィークの
缶詰食べ比べ(僕はスパムを10種類食べ比べた)のときの残りがまだ冷凍庫の中にあるので、スパムむすびならぬスパムいなりを作ってみた。
ごはんが詰まった箱
とてもはっきりした味で、いなり寿司だけど、畑の肉じゃなくて肉そのものを喰ってる!という食べごたえ。
油揚げとスパム、どちらも噛むと内部から必要以上の脂分が染み出してきて、それらが混ざり合うことで独特のうまみが生まれると同時に、中年男性としてはそれ以上の不安感が芽生えてくる。
食生活から自分の年齢を考えてしまう、青年と中年の試金石となるいなり寿司だと言える。
ツナマヨ
最後はツナマヨいなり。食べたことはないけど、クックパッドか何かで見たことはある。まあ、きっと大きくハズレることはないだろうな、という安心の食材である。
これがまずいわけないだろう
なくはない、けどなぁ...。
やっぱりこれも、1+1が2に届かない系の組み合わせだと思った。ツナマヨの甘さと油揚げの甘さが、ベクトルの向きも強さも違うので、やんわりと互いの存在を否定しあっている気がする。
電車の中や喫茶店で聞こえてくる、まったく噛み合っていないのに延々続く中年女性の集団の会話のような居心地の悪さを感じてしまった。
いなり寿司は酢飯に限る
今回わかったことは、いなり寿司には具などいらない、というか、油揚げが具なのだ、ということだ。考えてみればあたり前だけど、そんなこと考えたこともなかった。
きっと、長い歴史の中では僕と同じように、いなり寿司におにぎりの具を入れて一儲けしようと思って、結果的に唇を噛んだ人が各地に何人もいるに違いない。そんな人たちと集まって酒を酌み交わしたい気分だ。
ねぎとろをいなりに詰めた残りのおにぎりに余ったツナマヨを入れて食べたら目が覚める美味しさだった。おにぎりってうまい。