葛西が生んだスター
今年の春、全国的なスターとなった脱走ペンギン。しかし捕獲後は特に続報が届くこともなく、彼のその後が気になっている人もきっと多いことだろう。
こんなふうに大海原を泳いだんだろうか ※写真はイメージ
2カ月半の逃亡でマッチョになって帰還
3月4日に脱走を図ったペンギンは約2カ月半にわたってシャバの空気を満喫。5月24日、千葉県市川市で水族園職員によって捕獲された。健康状態もよく、外界の海や川を泳ぎ回ったおかげでむしろマッチョ化したなんて報道もあったくらいだ。そんなたくましすぎる彼はきっと今頃メスペンギンにモテモテだろう。
その後、一般公募で愛称を募集したところ6433通もの応募があり、選定委員会を経て「さざなみ」と命名されたらしい。
そんな「さざなみ」に会うため開園一番乗りでやってきた
近所だけどじつは初めて来た。ここにやつがいる
東京湾に面した葛西臨海公園内に水族園はある。遥かなる大海原を目の前に、広い世界が見たくなったのだろうか? ずいぶんとフロンティア精神のあるペンギンだ。
おれがペンギンだったらむしろ園内で一生ぬくぬく過ごしたい
ちなみにこの水族園、目玉はペンギンではなくマグロである。無数の巨大なクロマグロが泳ぐドーナツ型水槽は有名。まさに「日本一よだれの出る水槽」である。
しかし、脱走ペンギンというスターが生まれたことでマグロの地位も危うくなっているかもしれない。
巨大マグロが名物
うまそうな魚がいっぱい
今回の目的は脱走ペンギンだが、ここ葛西臨海水族園にはそれ以外にも珍しい海洋生物が多数展示されている。
イワシの大群。うまそうですね
世界最大の両生類「オオサンショウウオ」
沖縄の市場でよく見かける魚。唐揚げにするとうまそう
味のあるご尊顔。体長は約2m程で食べ応えがありそう
海藻に擬態する「リーフィ シードラゴン」
板のようにペラペラのルックダウン。アジの仲間なので、タタキにするとうまいかも
腹減った
魚を見て癒されるという感覚がよく分からないので正直な感想を書いたら半分が「うまそう」「食べ応えありそう」になってしまった。来場者の目を楽しませるべくレイアウトされた水槽も、ぼくにとっては寿司屋の生簀だ。
そんなぼくにとって最も魅力的な生簀がコチラ。
当水族館の目玉、マグロの回遊水槽
高速で泳ぎ回る極上のクロマグロ
体長2mはあろうかという巨大なクロマグロが高速で回遊する様は圧巻である。思わず、この水槽でトロ何人前だろうなどと考えてしまう。
土産もマグロ推し
脱走ペンギンのグッズはない
名物だけあって、ショップで売られている土産もマグロ推し。一方、新たなスター候補である脱走ペンギンのグッズは残念ながらなかった。
フンボルトペンギン自体のグッズはあった
せっかく有名になったんだから、それにどんどんあやかればいいような気がするが、便乗する気配はまったくない。もっと脱走ペンギンを軸にしたプロモーションを展開していけばいいのに。
レストランにもとくに脱走ペンギンがらみのメニューはなかった
魚を見たあとのシーフードカレーは格別
前置きが長くなったがそろそろ本命のペンギンくんに会いに行こう。
この先にやつがいる
意外と暑さに強いペンギン
9月になっても残暑が厳しい日本列島。この日も30度を超える暑さだったが、フンボルトペンギンは野外で元気に泳ぎ回っていた。
逆にこっちがまいりそうな暑さ
幼鳥と成長では体毛の模様が異なるらしい
逃げ出した頃は幼鳥だった脱走ペンギン。夏を超え、体毛も白黒に生え変わり立派に成長していることだろう。さあ会いに来たよ。
ってどれ?
まったく見分けがつかない
なんせ飼育されているフンボルトペンギンの数は135羽。この中から特定の一羽を見つけ出すのは容易ではない。ぜんぶ同じ顔してるし。
また逃げないように個室などで厳重に管理されているのかと思いきや、他のペンギンと一緒にフリーな感じで飼われているのでまったく分からない。
こんだけいたらそりゃ逃げても気づかんわ
ちなみに、ここにはフンボルトペンギン以外にも、キングペンギン、イワトビペンギン、フェアリーペンギンなどがいるが、キングペンギンとイワトビペンギンはこの時期、冷房の効いた室内で休んでいる。その点、フンボルトペンギンは夏バテ知らず。さすが千葉まで泳いでいくだけのことはある。
こちらはフェアリーペンギン。赤ちゃんみたいでかわいい
ひとり群れを離れるフェアリーペンギン。もしや脱走か!
飼育員でも見分けは困難
それにしても脱走ペンギンはどれなんだ。まったく分からんぞ。
聞くところによると毎日顔を合わせている飼育員でさえ見た目で特定のペンギンを判別するのは困難だというから、素人にはとても無理だろう。
多すぎ!
そこで、飼育員さんに電話で見分け方を聞いてみたところ「ペンギンの翼についているカラーリングで判別できる」とのこと。なるほど確かにどのペンギンもオシャレなリングをつけているね。
リングの色の組み合わせでペンギンを判別しているとのこと
ちなみに脱走ペンギンは両の翼に「ブルー」と「シルバー」が混ざったような、ひと際輝くリングをつけているとのこと。さすがはスター、オシャレさんである。
リングが赤と黒なので、こいつではない
こいつも違う
違う
お、青!と思ったけど左のリングが白
素早く泳ぎ回るペンギンの中から青いリングの一羽を見つけ出すなんて、イチロー並みの動体視力でもなけりゃ無理だ。
名札でもぶらさげときゃいいのに。
うじゃー
エサのお時間
そうこうしているうちにペンギンのエサやりタイムがやってきた。脱走ペンギンはこんなふうに定期的にエサを与えられるのが当たり前の生活から、いきなりサバイバルに飛び込んで生き延びたのだから、やはりたいしたペンギンだ。
エサは10:30と15:00の2回
園児にも大人気
エサやりタイムに合わせて幼稚園児の集団が集まってきた。我先にと柵に駆け寄る園児に、引率の先生は「大丈夫、ペンギンは逃げないよ」と言っていた。いや、逃げたんですよ先生。
「脱走ペンギンは―?」と子供たち。やはり人気だ
色めき立つペンギン
体内時計でエサの時間が分かるのか、きっかり1分前になるとペンギンたちが一気にざわめき出す。
一カ所に集まり出すペンギンだち
大興奮
凄まじい争奪戦
エサはアジなど40kgの魚。40kgといっても、なんせペンギンたちは全部で135羽もいるから、それはもう激しい争奪戦が繰り広げられる。
ペンギンたちは体をバシバシぶつけあいながら飼育員のお兄さんのもとへ群がり、エサを貪り食うのである。
お兄さんの登場にペンギンの興奮もMAX
エサ投入
それにしても凄まじい勢いだ。これでは満足にエサにありつけないペンギンも出てくるのではないか。もしかしたら脱走したあいつも、争奪戦に嫌気がさして外のうまいもんを食いに行ったのかもしれない。
あっという間にエサはカラに
まさに弱肉強食の世界。こっちのほうが野生より厳しいんじゃないか?
エサやりタイムが終わってもお兄さんの周囲をうろつくペンギン
ふいに群れを離れる一羽
エサの時間が終わり、ペンギンたちは食後の運動とばかりに群れで泳ぎはじめる。と、その時ふいに群れを離れ、岩場のほうへと泳ぎ出す一羽のペンギンが現れた。
翼にブルーのリング。…もしや!
両の翼にキラキラ輝くブルーのリング。すっかり羽も生え換わり、脱走時の面影はみられないが、もしやこいつが「さざなみ」なのか。
彼はそのまま岩場へとたどりつき
岸壁にて孤高の咆哮
そういえばさっき電話で問い合わせた時、「さざなみは一人で岩場の真ん中に立っていることが多い」とも言っていた。探し求めた脱走ペンギン、こいつに違いあるまい。
気持ち良さそうに泳ぐ仲間を尻目に、ひとり岩場にたたずむ
どんなに仲間が気持ちよさそうに泳いでいてもまるで関係なし。そのマイペースっぷりが、彼がさざなみであることの証明だ。
それにしても立派になって
凛々しすぎるその表情
まさに「漢」
鋭い眼光。そんじょそこらのペンギンとは表情からしてまるで違う。
こちらが、そんじょそこらのペンギン
ゴッドファーザーのような貫録をみせる脱走ペンギン。さすが野生の修羅場をくぐってきただけのことはある。上司にしたいペンギンNo.1である。
遠い目をする脱走ペンギン。ねえ何を考えているの?
まさに孤高
冒険が男をでかくする
ひとり岩場にたたずみ遠くを見つめる脱走ペンギン。その表情はまるで、かつて旅した外の世界に思いを馳せているようだった。
男は未知の世界を経験することでひと周り大きくなれる。それはペンギンとて例外ではないようだ。