やさしい沖縄の綱引き入門
というわけで、本日は南風原町喜屋武(きゃん)の綱引きについてご紹介をしたいと思うのですが、まずは沖縄における綱引きというものについて簡単におさらいしておきましょう。
綱引きについては
Naokiがまとめていますが、沖縄の各集落では主に旧暦6月15日(6月ウマチー)、旧暦6月25日、26日(カシチー、アミシー)、旧暦8月15日(お盆)に綱引きが行われます。
暦6月15日の6月ウマチーは稲の収穫祭、旧暦6月25日のカシチーは稲の収穫を感謝する日(翌日の26日はアミシーという雨乞いだったりウイミという農耕暦の折目だったりする)で沖縄の農耕暦に密接に関連した行事であるとされています。そして綱引きをすることの意味については
・豊年を引き寄せる、豊漁・豊作祈願
・厄払い・害虫よけ(集落によっては綱引き後の綱の一部を集落の外で燃やしたりする)
・雨乞い
的なものがあるとされています。綱引きはその集落を二分(大体は東(アガリ)と西(イリ)に分かれる)して、綱を引くことが多いのですが「アガリが勝つと豊作、イリが勝つと豊漁」みたいな伝承があって1回目にどちらかが勝つと、2回目は相手に勝ちをゆずる集落も多いようです。
綱引きの綱は稲わらでできていて、雄綱(おづな)と雌綱(めづな)
があります。那覇大綱挽きをご存じの方は大体の形状はわかるとおもいますが、雌綱の輪のなかに雄綱が入って、そこを「カヌチ棒」という木の棒でつなぎ合わせて綱引きを行います。
前述の通り2回綱を引く場合、引き分け(どちらかが勝ったら、次は相手に勝ちをゆずる)になる集落もあるのですが、ガチンコ勝負の地域もあります。激しい勝負の場所は「ケンカ綱」などと呼ばれたりしています。また、この綱引きのガチンコ勝負を心待ちにしている綱引き大好きな人を「チナムシ(綱虫)」と呼んだりします(与那原大綱引きの「綱武士」は「チナムシ」をもじったものだと思われます)。
他にも色々あるんですが、長くなりますのでこのへんで。
旧暦6月26日、南風原喜屋武集落
それでは2012年8月13日(旧暦6月26日)の南風原喜屋武の綱引きの様子をお伝えしたいと思います。南風原町喜屋武では旧暦6月25日に2回、翌6月26日に1回綱引きが行われます。
以前は旧暦6月25日の2回戦はチカラアラガーといって他集落の人は参加できない喜屋武の人のみで行われる綱引きで、6月26日はシュニンヅナといって他集落の助っ人OKな綱引きだったのだそうですが、今はどちらの日も綱引きに参加できます。1日目も参加しましたが、現在はどちらかと言えば二日目のほうが盛り上がっている気がします。
先述の通り、毎年引き分けで綱引きが終わる集落もあるのですが、
喜屋武の綱引きは3戦全てが真剣勝負。
毎年アガリ、イリともに3勝を目指します。
前日の戦果はアガリ1勝、イリ1勝。
そして喜屋武の綱引きで特徴的なのは綱引きの場所が平坦でないことです。アガリが綱を引く場所は写真のように坂になっていまして、アガリは坂を上りながら綱を引っ張らないといけません。
そのためにアガリは綱を担いで引き始めるというスタイルをとり、イリは綱についている細かい綱(ティーンナとよばれる)を引いていくというスタイルをとっていてそれぞれ綱引きのスタイルが異なるのです。
綱引きの始まり
22:00くらいから綱引きがスタート。
(めちゃめちゃ写真がブレてますが)まずはアガリからカヌチ棒が綱引き会場まで運ばれます。
続いて松明に灯がともされて、いよいよアガリの綱が運ばれます。
鐘の音と松明に囲まれて、ゆっくりとアガリの綱が運ばれていきます。
アガリの綱を待つ、イリの綱。喜屋武の綱引きではイリの綱はほとんど動かず、アガリの綱がやってくるのを待っています。
アガリの綱がイリの綱まで到着。これもブレてて恐縮なのですが後ろにものすごく沢山人が居るのが見えると思います。
ここからが長い、喜屋武の綱引き
アガリの綱が到着して、いよいよ綱引き…かと思うとそうではありません。
まずは若者同士のぶつかり合い。これ写真で見たらものすごいケンカをしているように見えますが、殴り合ったりはせずにアガリとイリの若者同士が体をぶつけ合っています。この時点で殺気が凄い。
続いて棒術をアガリ、イリ交互に披露。
そしていよいよカヌチを入れる段階に進みます。まずはイリの雌綱が輪っかを持ち上げて
アガリがイリの輪っかに雄綱を入れる段階に進みます。
しかし、ここでまた悶着が起きます(毎年)。先述の通り、アガリは坂の上を綱を担いで引くスタイルなので少しでも体制を上の方に持って行こうとします。反対にイリは地面すれすれで綱を引くために少しでも下の方でカヌチをいれようと試みます。
お互いが綱の上に乗って強引に上に上げたり、下に下げたりを試みたり、
一回綱を離して、再度綱をあわせたりを繰り返します。この時間30分以上
。真剣勝負であり、綱の開始位置は双方引けないところなので、カヌチが入るまでかなり長い時間がかかります。
綱を引き始めてからも長い
すったもんだの末、カヌチが通って、綱引きがはじまります。
(ここら辺からさらに写真のブレが酷くなりますがご容赦ください)
綱引きの勝敗、それはどちらかが一定の距離綱を引いたら勝ち、というルールが一般的ですが喜屋武は違います。
あきらめた(手を離した)方が負け
というルールのため20分でも1時間でも綱を引き続けます。アガリが一方的に引かれる時もあれば、イリが一方的にアガリを引き寄せる時もあり単純な力勝負というより根性合戦です。
綱を引いてない人も
タオルで応援
青年から子ども、そして大丈夫なの!?と心配してしまうくらいのお年を召した方まであらゆる年齢層の人が一丸となって綱を引き続けます。
いつの間にか綱を引く人もふくれあがってものすごい状態に。
そして綱を引くこと10分くらい(写真のデータを見返したらそれくらいだったけど30分くらい引いてる気がした)。今回の綱引きはアガリの勝利。
綱引きが終わって見えた雄綱と雌綱の結合部。このあと、アガリはが綱を元の場所に運んで、綱引きは終わりです。
おとなもこどもも、おねーさんも
というわけで血湧き肉躍る南風原町喜屋武の綱引き、いかがだったでしょうか。毎年ものすごくケンカっぽいアガリとイリですが、
・去年はどっちが何勝したのか
・誰とケンカしたのか
は全く覚えていないそうです
(目の前にいたからケンカしたけど誰かは忘れた)。昔はアガリとイリで集まってこの後、酒を酌み交わしたりなどもしたのだそうで、基本的にアガリとイリが対立するのは綱引きの瞬間だけだといいます。
綱引きの始まる前に70歳くらいのおじいさんが「私はチナムシだから死ぬまで現役だし、今年も綱を引く」みたいな事を言っていてはじめから終わりまで綱を離さなかったり、小さな子どももものすごい形相で綱を引いているというまさにチナムシにふさわしい、そんな喜屋武の綱引きでした。
ちなみに僕もアガリを引きましたが(また期をあらためて書こうと思うけど、僕の大学の先生が南風原喜屋武の出身で毎年行けるときはアガリを引きに行くのです)、3日間くらい全身が筋肉痛で死ぬかと思いました。
この季節は各集落で綱引きが行われますので、まだ見たことがないという方は(来年、あるいはお盆に)是非綱引きを見に行ってみてください!!
僕の恩師とTシャツビリビリコレクション
記事にもちらっと書いたのですが、僕の大学時代の恩師はこの南風原町喜屋武のアガリ出身です。しかもかなりのチナムシなので毎年綱引きの時期になると授業前に「喜屋武の綱引きでアガリを引くように」とお達しを頂いておりました。冗談かと思ってたんですが留学してきた研究生にも同じようなことを言ってたので割と本気だったんだと思います。そんなわけでうちのゼミ内では「綱引きに参加してアガリが勝ったら単位がもらえるのでは」みたいな噂がまことしやかに流れておりました。
今でもうちの研修室のOB、OGは(僕も含めて)現在も1年に一度綱を引きに集合しています。
毎年本気の戦いを見せる喜屋武の綱引きですが、あまりの激しさ故にTシャツが破れてただの布になってしまっている人を多く見かけます。最後はおまけでTシャツがビリビリになってしまった人たちを写真でご紹介しておきます。
喜屋武以外にも沖縄県内には「ケンカ綱」と呼ばれる綱引きが激しい集落がいくつもあるらしいので、来年は別の集落の綱引きをお届けする予定ですのでご期待ください。