特集 2012年9月12日

ルーレット付おみくじ機、最後の工場

実はこれ、東北でいまも作られているのです。
実はこれ、東北でいまも作られているのです。
むかし、喫茶店やレストランの机の上にこういうマシーンがよく置いてなかったですか?自分の星座の穴に100円入れてレバーを引くと、ルーレットがジャラーン!と回っておみくじがコトン、と出てくるやつ。最近はめっきり見なくなりましたが…実は、まだその工場があるそうなのです。ということで夜行バスでひとっ走り行ってきました。
1972年佐賀県生まれのオトナ向け仕事多数のフリーライター。世間の埋もれた在野武将的スゴ玉の話を聞くのが大好き。何事もほどほどに浅く広く、がモットー。

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盛岡市民は夏バテ中

自分の体験でいえばあのおみくじ機はここ数年見てない。子供のころ、親に百貨店の屋上のレストランにたまに連れていかれるとあった印象がいまだに残ってる。当時の100円は子供にはちょっと出せない…それだけに機械は覚えてても占いまでしたかは覚えてないんですよね。やりたかったけどやれない、ちょっと憧れのマシーン。30年近くの時を経て、あのおみくじ機に触れそうだ。

工場があるのは岩手県盛岡市、のとなり。個人的な話ですが、初岩手。東京発の深夜バスなので早朝に着いたんですが、これが思ったより暑い!
盛岡市到着。ばっちり日差しがキツイ。
盛岡市到着。ばっちり日差しがキツイ。
河の上の橋とか他に比べて風が涼しくて助かる。
河の上の橋とか他に比べて風が涼しくて助かる。
あとで乗ったタクシーの運転手さんからも「盛岡暑いでしょ?普通盆過ぎたら涼しくなるんですけどねえ」「みんなもう夏バテしてますよー」と言われたくらいだから、例年とはちょっと違う気候なよう。TVでも雨降らなくて大変、て言ってたし。東北=涼しい、と思っていた自分が甘すぎた。うへえ。
こんな全裸ぽい感じで涼みたい。
こんな全裸ぽい感じで涼みたい。
とりあえず朝7時近くについて取材時間まで間もあるので、パン屋で朝食をいただくことに。この辺りのぶらつき&小麦粉フード事情についてはまた後日。
盛岡って小麦粉好きですよね。
盛岡って小麦粉好きですよね。
朝からあんこ。でもうまいよ。
朝からあんこ。でもうまいよ。
ぶらぶらしたところで工場のある盛岡市の隣、滝沢村へ向かうことに。いわて銀河鉄道へ。IGRのロゴがちょっと雑誌のサブラっぽくてかっこいいです。エリックヘイズ調。
IGRのロゴTシャツとか欲しい。
IGRのロゴTシャツとか欲しい。
電車はいたって普通です。
電車はいたって普通です。
ゴトトンゴトトンと銀河鉄道に揺られて一駅、となりの青山駅へ。もちろんこの「銀河鉄道」のイメージは宮沢賢治ですね。

ちなみに『銀河鉄道999』で知られる松本零士先生が沿線に住んでいる西武鉄道の「銀河鉄道風」はこういうのです。
同じ銀河鉄道でもえらい違いだ。
同じ銀河鉄道でもえらい違いだ。
そんな銀河鉄道つながりはおいといて。盛岡の街から一駅、すっかり郊外ぽい雰囲気の青山に到着。
☆マークあるとそれだけでなんか格好良くていいですねえ。
☆マークあるとそれだけでなんか格好良くていいですねえ。
青山駅の近所にはこちらが。
青山駅の近所にはこちらが。
あ、このタイミングで来ればよかった…。
あ、このタイミングで来ればよかった…。
宣伝カーもけっこう走ってました。
宣伝カーもけっこう走ってました。
村という響きにけっこうな田舎を勝手にイメージしてたけども、あとで聞いたら滝沢村は日本一人口の多い村で、村→町、をスッ飛ばして村→市も考えられてるような地域なのだとか。たしかに新しめの住宅や幼稚園が目についたり、ニュータウンぽいもんなあ。

そんな小綺麗な住宅街の中に今回の目的である北多摩製作所が。特に「おみくじ機最後の工場!」とかの看板もありませんが、間違いなく最後の工場なのです。
遠くに見えるは岩手山。
遠くに見えるは岩手山。
やっと到着。いったい工場の中は…。
やっと到着。いったい工場の中は…。
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おみくじ機の中はこうだった

今回連絡をとって話を聞かせていただくことになったのは、ルーレット式おみくじ機、最後の工場である北多摩製作所の進藤部長。事務所で話うかがうことになり、デスクの上を見ると…おお、これですよ! あのおみくじ機!
おおー、なつかしい。調味料とかの横にあったアイツ!
おおー、なつかしい。調味料とかの横にあったアイツ!
いやー、何年ぶりに見たんだろうか…。ちなみに正式名称は「卓上小型自動販売機」。自販機の一種なんですね。ではさっそく進藤さんに話をうかがってみます。ちなみに事務所の扉一枚隔てた工場からは金属を切ったり削ったりする音がウインウインなっております。
ルーレットってのも最近見ないですね。
ルーレットってのも最近見ないですね。
--さすがにルーレット付占い機だけで会社運営されてるわけじゃないんですよね?

「違います(笑)。もともとは金属加工が本業なんです」

--見た感じ、工場も別に占い機の製造ラインとかあるわけじゃないですもんね。いつ頃から作り始めたんですか?

「作り始めたのはもう…30年前くらいですかね。当時他にいろんなタイプが他で作られてたんですよ。それで流行ってるの見て、社長の友人が『作ってみたら?』って言ったもんだから、それで面白いんじゃない、てことで(作りはじめた)」

--30年前…たしかにその位前にはあちこちにあった気がします。

「当時はいろんなタイプがあって、流行ってたのはこのルーレットの部分が灰皿になってるやつ。それでうちは上をドライフラワーにした奴だしたけど、あんまり売れなかったんです」

--花じゃダメでしたか!

「昔は禁煙とかなかったからね~。灰皿とか付いてる方がよかったんでしょうね」
なんかこのイラストとか印象に残ってます。不思議と。
なんかこのイラストとか印象に残ってます。不思議と。
--それがなんでルーレットに?

「ひとつはまだルーレット自体が目新しい時代だったことですね。あと、ギャンブル好きは数字にこだわる人が多いから(笑)」

--なるほど!でも普通のが100円入れてレバー押せば占い出るだけですけど、それプラスルーレットだから結構改造も大変でしょうね。

「もうそれは試行錯誤ですよ。中の部品変えたりして3年かかりましたね…」
そう言いながら特殊ドライバーを回す進藤さん。すると上フタが開いて…おお、中身はこうなってたんだ!おみくじが中にはびっしり。ちょっとリボルバー式のピストルっぽいですね。
おみくじ以外は思ったよりシンプルな中身。
おみくじ以外は思ったよりシンプルな中身。
おみくじは59本。部品のパーツは60個以上だそう。
おみくじは59本。部品のパーツは60個以上だそう。
しかもこれって今ごろ気づいたんですけど、電池とか電源の類が一切不要なんですね。コインの重みとレバーだけで稼働。それも実はすごい職人的なレベルの調整があるから出来る凄さだったりするのですよ!
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限定バージョンのおみくじ機も!

お金を入れて、レバーをひいたら、くじが出る。それだけのアクションというと一見単純に思えるかもしれない。しかし、実際はそんな簡単な機械ではないのだ。特に大変なのが100円玉以外を入れてきた時の対策。
--電池も使わないって凄いですねえ。

「いろいろ細かい所があるんですよ。たとえば、これは100円玉で占いするわけですけど、いたずらする人がいます。それ対策で、まず10円玉は入らない穴のサイズで出来てます」

--ふむふむ。

「次、5円玉や50円玉は入るんだけど、くじは出てこないように出来てるんです」

--へえ~。こんなシンプルな機械なのに、そんな対応が出来るんですねえ。

「そこが企業秘密なところなんですけどね(笑)。なんせ100円なんで、これが5円とかで出されたら困るわけですよ。しかもこの機械の調整が出来るのが、うちの社長と長くやってるおばちゃんと私だけなんです」

--は~、実は職人的機械なんですね!
ここから入れる100円玉、その先にすごい手作業テクノロジーが。
ここから入れる100円玉、その先にすごい手作業テクノロジーが。
このルーレット式おみくじ機、もともとは特許も取ってたそうですが、現在は更新してないそう。「今から新しく作ろうって人もいないだろうし、もし作っても(100円玉しか出ない)調整はマネ出来ないから」とのこと。なるほど!あと作るとしても金型から作ると数百万単位になるので、そこまでやる人もいないだろう、というのもあるそう。

そんな話をしばらくうかがった後、おみくじ機工場も見せてもらいました。…とはいっても、現在では毎月決まった数が出荷されるわけでもないので、基本的には受注販売だそう。
あちらこちらにこういうパーツが。
あちらこちらにこういうパーツが。
本業の金属加工の商品の合間に転がってます。
本業の金属加工の商品の合間に転がってます。
--やっぱり始めた当初とか売れ行きも凄かったんですか?

「全国北海道から沖縄まで卸してましたね~。ほんと作っては売り、作っては売りで。何十万台じゃないですか?」

--そんなに!

「お店としてもドル箱だったんですね。当時の100円って今の100円に比べたら数倍価値ありますし。しかもその日の現金収入ですからね」

--置いてるだけでいいわけですからねえ。

「目新しい頃は月に8万円とか売り上げだしてたお店もありましたね。だからチェーン店とか試しに一店入れたら、すぐ他の店も入れてくれたりして」

--置いてるだけですごい副業になるわけですね。

「だから回収とか行くと、100円玉ジャラジャラ持って歩くわけですよ。それで郵便局に行ったら、警察が来て職務質問されたこともありましたね。ちょうど自販機荒らしが流行ってたらしくて(笑)」
完全手作業での制作です。
完全手作業での制作です。
さらに「こんなのもあるんですよ」と進藤さんが持ってきたのは色違い…と思ったら横にイラストが。おおお、こんなレアバージョンもあったのか!
水色って珍しい…とよく下を見たら
水色って珍しい…とよく下を見たら
「どこでもいっしょ」のトロが!
「どこでもいっしょ」のトロが!
ゲーム「どこでもいっしょ」や「めざましテレビ」なんかにも出演していた猫のキャラクター・トロが側面に!これはまたどんな事情で?
「これは『お台場冒険王』(フジテレビの夏イベント)用に作った期間限定のトロバージョンですね。普通は中に入ってるくじはウチが作ったものですけど、これはあっちが考えたトロ用のやつで」

--イベント中にレストランとかに置いてたんでしょうね。人気だったろうな~。

「凄かったです!イベントが始まったその日に『動かなくなった!』ってフジテレビから電話が来たと思ったら、くじが無くなってたんですね。普通は一台置くと中のくじが無くなるまで何ヶ月かかりますけど、一日もたないんですよ!あと盗まれてネットオークションに出されたり…」
なるほど、そのままだと最近○○カフェみたいなキャラクター関連ショップなんかもあちこち出来てるし、そういう店に置いてあればけっこうやる人多そうだなあ。まだ可能性はあるような気もする。
そのくじの中身についてももちろん聞いてます。
そのくじの中身についてももちろん聞いてます。
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そして今、全国何カ所に?

このルーレット式おみくじ機、全盛期の話は聞かせてもらったけども、では現在稼働してるのはどのくらいなのだろう?
基本は赤と紺の2種。これは試作器だそう。
基本は赤と紺の2種。これは試作器だそう。
--では今、このおみくじ機って全国で何台というか何店舗くらいにあるんですか?

「それがもう把握してる分としてない分があってね(苦笑)。わかってる分で200軒くらいかな」

--しかし全国200軒を一手に相手にするのも大変ですよね?

「昔は間にいくつか販売元があって、そこが売ってアフターケアもしてたんだけど、どこも無くなってしまって。それでいきなりお店からウチに『くじどこで売ってるんですか?』『壊れたんですけど』って連絡が来るようになったんです」

--もうメーカーしか聞く所もなくて。

「正直こういう工場なんで職人気質なもんで、売るとかアフターケアとかはあんまり気にしないんですよ(笑)。でも社長がそれじゃダメだ!と。それで問い合わせが来た所は『ウチが直接対応します』って言っちゃったんですよ」

--でもそれって盛岡から全国対応するってことですよね?

「そうなんです。社長と私と工場長の3人が全国のお店回って、くじを補充したり、故障があったらその場で直してくんです」

--なんか富山の薬売りみたいですね。

「そうですね(笑)。一日にうまく回れても4、5件ですけどね。行くのに半日かかるような所もあるので…」
全国にくじの納品とメンテナンスにエッチラオッチラ…大変すぎる!交通費の元がとれるのか心配してしまうなあ。そしてそのくじ、その内容はどんなだったか覚えてない人もいるだろうので、実際ひいてみますか。
ひいてみよう!というか3つもらってきました。
ひいてみよう!というか3つもらってきました。
ひとつ引いてケースから出すとビロビロビロビロ。
ひとつ引いてケースから出すとビロビロビロビロ。
中吉!変化があって面白い、かあ~。
中吉!変化があって面白い、かあ~。
下の方はルーレット占い。
下の方はルーレット占い。
ちなみにこのくじは先に書いたとおり一台で59個入ってるのですが、そのパターンは150種類。その内容は最初に作られた約30年前のままだとか。絶対ケータイとかメールとか出てこない感じですね…。

さてこのおみくじ機たち、今後もどこかで見ることはあるのだろうか。それとも失われていくだけなのか?
--ちなみに今毎月新規で何軒くらい取り扱い店は増えてるんですか?

「どれくらいだろうなあ。月によるけど20軒くらいなあ」

--あ、そんなに!意外と多い。

「でも減っていく分も多いからね。プラスマイナスゼロかな。でももうちょっといけるけど、300越えるとメンテナンスやくじの補充なんかで僕らが外回りしっぱなしになって会社にいれなくなっちゃう(笑)」

--本業の金属加工も大事ですしねえ。

「社長が『これは私の代で終わりだ』って言ってたんですけど、それも惜しいなと。それで公式サイト作ったりしてアピールするようにしてるんですけどね。せっかくだからもうちょっと広まってほしいですね(笑)」
出荷を待つおみくじ機たち…。
出荷を待つおみくじ機たち…。
お話うかがった進藤さん。ありがとうございました!
お話うかがった進藤さん。ありがとうございました!
いやー、懐かしグッズと思いきやまだまだ現役。先のトロバージョンみたいな形だったらまた復活してもおかしくないような気もするし。ちなみに北多摩製作所のサイトに連絡すれば個人でも買えるらしいので、自宅を昭和の喫茶店ぽくしたい人は問い合わせをするもよし。このレバーひと押しに込められた職人の心意気、いまこそ試してみる価値はある!

普通の光景に見えますが…。
普通の光景に見えますが…。
真ん中下に毛っぽいやつがフワフワ。
真ん中下に毛っぽいやつがフワフワ。

岩手の高い空にはいろんなものが

ちなみに北多摩製作所からの帰り道、バスを待ってたらやたらタンポポの種みたいなのがフワフワ浮いてました。もしかしてケサランパサランてやつ?現物(らしきもの)見たの初めてなので「間違いない!」と言いづらいんですが…。

しかしおみくじ機で見た昭和感と遠くに望む岩手山、フワフワ浮かぶ謎の生物。なんかこの村にしかありえないような空気をたっぷり感じることができました!
取材協力
北多摩製作所
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