カンヂー買った。
これが「ガンヂーインキ消」だ。
子供の頃、小遣いをもらうと文房具屋に走る文房具好きの少年であった僕だが、この「ガンヂー」は何に使う道具なのか分からず、ちょっと遠い存在であった。
さらにこのE.T.のようなマークが不気味で、何やら触れてはならない道具のように思え、常に距離を置いていたように記憶している。
カンヂー、改めて見てみよう。
今でこそインド独立の父、マハトマ・ガンジーを模したものであることは分かる。しかしなぜ、こんな口の場所が不明な絵にしてしまったのだろうか。まるで逆さ絵だ。
インド独立のために非暴力抵抗を行い投獄をされたガンジーも、遠い日本で口をふさがれ、逆さ絵にされるとは、報われない話である。
インドで抗議運動の一つも起こるかもしれない。(たぶん平和的に)
万年筆のインクが消えるらしい
さてこのガンヂーインキ消、万年筆のインクを消すための道具らしい。
万年筆なんて子供が使うわけがないので、かつて縁遠く感じたのも当然だが、大人になったいま、僕はいちおう万年筆を持っている。久しぶりに取り出してみよう。
インク瓶。のび太がしずかちゃんに投げられる道具というイメージがある。
インクに漬けて、くるくると吸い上げる。楽しい。
この使うインクを自分でビンから吸い上げる感覚、そしてインクを細く紙になぞりつけていく感覚が大好きだ。なにかこう、筆記することの原点に帰らせてくれるものがある。
普段は水性顔料ボールペン(いわゆるシグノ)ばかり使ってるので、たまにはこういうプリミティヴな筆記もいいだろう。さて担当の安藤さんに手紙でも書くか……。
しまった! 間違えた!!
さあこんなとき、ガンヂーインキ消しの登場である!!!
中身。紅白そろって、祝いまんじゅうのごときルックス。
赤塗って、白塗って。
ガンヂーには手順がある。
この二種類の液を、赤→白→赤、の順に塗るらしい。
まずは赤。ガラス棒で塗るという不思議な薬品。
次に白塗ったら……、消えた!!!
赤塗って、白塗って。
白液を塗ったら、たちどころにインクの色が消滅した。
真っ白になるわけではないのだが、ブルーブラックのインクが見る見るうちに、薄茶色へと変色していったのだ。これまでに無い新鮮な体験である。
修正液に慣れている僕らには、「インク自体の色を消す」という発想自体が斬新で、こんな道具があったのか、という感動を隠しきれない。
すごいぞガンヂー! 織田裕二も驚きだ!(それはカンチ)
最後にもう一度赤液を塗って、ここまで消える。すごい。
キッチンハイターではダメなのか。
匂いが全くおんなじです。
途中で気付いたのだが、この白液、匂いが完全にキッチンハイターと同じなのである。あの塩素の匂い、鼻にツーンとくる匂いだ。
ということはどっちも中身はほぼ同じで、白液はインクを漂白して消しているのではないだろうか。
試しにキッチンハイターを使って実験してみよう。
あっ! 駅名間違えた!(今はとうきょうスカイツリー駅)
でもキッチンハイターを塗ると……おお、消える!!!
赤液を塗ってさらに完璧!!!
キッチンハイターでもわりと消えたのだが、ガンヂーより消えが悪かったので、そのあとに赤液を塗ったら同程度まで消えた。
比較用の『田無市』(赤液無し)と比べてほしい。
白液の効果が劇的なので、赤液はあまり意味が無いように思っていたが、じつは地味に後押しをしてくれていたことが分かった。
戦隊ものでレッドは目立つ主役だが、ガンヂー・レッドでは影の立役者である。
再筆記。少しにじんだ感じになります。
「でもさ、万年筆って使わなくない?」
そう、これを言われると非常に悲しい。
この21世紀の時代に万年筆を常用している人がほとんどいないのも事実なのだ。じゃあどうするのか。
実は、ガンヂーにはもう一種類ある。
ボールペン用の「ガンヂーインキ消」だ。
どどーん! もたいぶって出し惜しみしましたが、ボールペン用です。
万年筆のインクが消えるのには驚いたが、ボールペンのインクの色が消えるとは全く想像しがたい。
本当なのかさっそく実験してみたい。
新たに登場、青液
レッドに変わってブルーが登場。
ガンヂー・ボールペン用では、赤液に代わって青液となる。3本揃うとトリコロールだ。フランスの国旗だ。どうでもいいや。さっそく使ってみよう。
あ!「加熱」と「加藤」、間違えた!! しかもボールペンだし!
これは僕が最もよく犯す書き間違いだ。
しかも書き間違えたあと、致命的に恥ずかしいパターンのやつである。嘲笑しか起きない。
ああ、はやく無かったことにしたい。
助けて!ガンヂー・ボールペン用!
白液塗ってからの……
青液……消えた!! あっという間に消えた!
すごい!消えた!しかもスッと消えた!
インクの色は万年筆用と比べ物にならないほど早く、まさに魔法のようにスッと消えていった。
これはヤバい、またも近年にない衝撃である。
ペン軸を分解するとねっとりしていて、100年経っても色が消えるようには思えないあのボールペンのインクが、スッと消えるのである。
青液の威力ハンパ無い!
すごいぞガンヂーブルー! すごいぞ非暴力主義!
水性インクはもはや全滅!
こういう道具を見ると、実験魂が騒ぐ。
どんなインクでも消せるのだろうか。試しに手持ちの筆記具・インクで手当たり次第に実験した。
ガンヂー、水性に強く効果を発揮する(結果は画像をクリック!!)
水性ボールペン各色には、きわめて効果あり(画像をクリック)
水性サインペンにはどうだろう
ついでに新聞の印刷も消しちゃうぜ!
しかし青液を塗ったときの感覚が不思議だ。
ペンのインクが一瞬で消えるという、これまでに無かった体験が爽快である。
ああ、消したい! もっとインク消したい! という、子供のような衝動が胸の奥から突き上げてくる。
衝動を止められなかった僕は、欲望のおもむくまま、近くの新聞を手に取ってガンヂーを塗りつけた。
あれ、消えない。
タウン誌の写真も消えない。
だめである。
一時は万能の魔法薬のように思えたガンヂーだが、プロの印刷物には恐ろしいぐらい役を成さない。相手が悪いと初めから吸い込まない。やはりガンヂーは、筆記具の色を消すのが、その限界のようだ。
結論
使いはじめは魔法の薬のように思えたガンヂーだが、新聞のインクにはまるで効果を示さないことが判明し、さすがに魔法の薬ではなかった。
そしてどんなインクにも対応できる修正文具として、修正液が開発されたそうである。確かにどう考えても修正液が便利だ。
誰が使ってるのかと思い、商品の口コミを見たら、お母さんが子供の落書きを消すために使っているケースが多く見られた。なるほど。
いつか僕も子供ができたら、その後ろを淡々と追いかけて落書きを消し、無抵抗主義を貫いていきたいと思う。