どうやって釣る!?
その名は「ハクレン」。近い仲間にコクレンというのもいて、併せて「レンギョ」と称されることが多い。いかにも大陸的な響きでかっこいい名前だ。
日本における主な生息水域は利根川水系。
昔、食用目的で日本各地に持ち込まれたものの、利根川水系でしかうまく繁殖できず、よその川では定着しなかったらしい。
変わっているのはエサで、主食はなんと植物プランクトンだという。へー、おもしろい。
…いやいやちょっと待て。そんなもん食べてる魚、どうやって釣れっていうんだ。釣り鈎にミカヅキモでも刺せっていうのか。無理無理。
じゃあ水に飛び込んでタモで掬うか?それも無理無理。相手は「ブリみたいに速い巨大魚」だ。おそらく触ることはおろか近付くこともできない。仮に接触できても体当たりで吹っ飛ばされるのが落ちだ。
八方ふさがりで諦めかけていた時、釣り具店の店員さんから耳よりな情報を得た。
「マッシュポテトで釣れますよ。」
言われるがまま作りましたよマッシュポテト。
なるほど。ジャガイモは植物質。マッシュポテトなら水中に沈めたら微粒子になって溶けだすからそれはもう植物プランクトンみたいなものだ。
釣り人って色々思いつくなー。
こんな感じで丸めて鈎につけるそうだ。
なおジャガイモと牛乳だけではどうにもゆるく、一瞬で釣り鈎から落ちそうだったので小麦粉をつなぎに加えた。
準備はできた。さあ、いざ利根川へ!
マッシュポテトの底力
のんびりウキを眺める時間。楽しい。
とりあえず釣り具店の店員さんが沖の方でハクレンが跳ねるのを見たというポイントへ向かい、手探り状態で竿を出す。
川なんだから当り前だが、流れがあるので仕掛けがすぐに岸に流されてくる。
そして岸際に仕掛けが辿り着くと決まって小さな魚がマッシュポテトをつつくのだ。
ワタカと言う魚。いかにも川魚といったシンプルかつ味わい深い見た目。
丸々太ったヘラブナ
まあフナでもなんでも釣れれば楽しいんだけどね。と思いながらマッシュポテトを投げ込み直すと何やら大物が!ついにハクレンか!?
60センチくらいの立派なコイ
…そこそこの大物なのだが、期待を抱いた分ものすごくがっかりした。
釣られてもらっといて我ながらひどい言い草だ。普段だったら素直に喜ぶんだろうけど。
それにしてもいろいろ釣れるなマッシュポテト。これから食卓でマッシュポテトを見る目が変わってしまいそうだ。
ついに本命が!
しばらくこんな感じで本命でない魚と戯れていると、不意にものすごい勢いで糸が引っ張られた。
は?なにこれ!?
釣り竿の先にいる何かがものすごい勢いで沖に向かって突っ走る。
大型のアジ類とか、海の回遊魚みたいな強烈な泳ぎが手元に伝わってくる。
すげえ!こんな川魚が日本にいたんだ!(外来魚だけど。)
ただ、パワーはすごいけどスタミナはあんまり無いようで、数分後には足元に寄って来た。それがこちら。
銀ピカ!ちなみに英語ではシルバーカープと呼びます。
デカッ!重ッ!なんかすごいの釣れた!!
そう、これがハクレン。中国からの来訪者。完全に帰化してるけど。
見た目はあまり川魚っぽくない。流線形のボディに受け口の顔、シュッと伸びた胸ビレ。
なんかボラとマグロをミックスしてメッキがけしたみたいだと思った。
水中に散在しているプランクトンを漉しとるために異様に発達した鰓が口からのぞく。
写真を撮影していると遠くでフナを釣っていた釣り人が声を掛けてくれた。
「何狙ってるのかと思ったらレンギョだったの?そんなの沖に向かってテキトーにルアー投げてればいくらでも引っ掛かるよ~。」と教えてくれた。
まさか。こんな苦労してやっと1匹釣ったのに、そんな馬鹿なことあるわけないじゃないか。そう思って言うとおりルアーをテキトーに投げて見ると…。
えっ…
…小さいけど本当に掛かっちゃったよ。3投目で。
どうやら沖の方には想像を絶する密度でハクレンが群れているらしい。
今までの試行錯誤は一体何だったのか。マッシュポテトは夕飯に取っておいた方が良かったのではないか。
ともかくこの方法ならいくらでもハクレンを捕まえることはできそうだ。しかし変な所に引っ掛かったら悲惨なことになりそうだし、これ以上捕まえても食べきれないのでここで満足して帰路についた。
食べます。
さあ、美味しいと評判のハクレン。いかほどのものか。
まな板に乗ると急に食材に見えてくる。
うん。こうして見ると確かになかなかおいしそうだ。
ちなみにグロテスクすぎたので写真の掲載は控えるが、でっぷりとした腹の中にはものすごく長い腸が詰まっていた。さすが生粋のベジタリアン。
ぱっと見スズキぽい感じもする。
身はきれいな白身で美味しそうだ。
なんとなく癖のなさそうな感じがするので、メニューも癖のないもので揃えた。
本日の御献立 ハクレンづくし
皮は剥ぐべし
ザ・定番の塩焼き。皮は外して焼くべきだった。
まず塩焼きから一口とかじった瞬間、口と鼻に川魚特有の臭みが広がった。「美味しいっていう噂は嘘だったの!?」と慌てたが、冷静に分析するとその臭いのもとは皮のようだ。
実際、皮を取り除いてしまえば美味しく食べられた。
「泳ぎがブリっぽいらしい」というだけの理由で作った照り焼き
照り焼きはあらかじめ皮を削いで焼いていたので、臭みを感じることもなく一口目から大変美味しくいただけた。
中骨に肉が残ってしまったので適当に作ったあら汁。
あら汁も無難においしかったが、やはり海の魚と比べるとあまり出汁が出ていなかったような気がした。
うん、皮以外はおいしい!
まあ総評としては「普通においしい」の一言に尽きるだろう。
投げやりなコメントに聞こえるだろうが、今の僕の舌ではこれぐらいのことしか言えない。
ハクレンとはそれくらいクセが無くて無難においしい魚なのだ。
禁漁期間に気をつけて!
世の中は広いので、ひょっとするとこの記事を読んでハクレンを釣ってみたい、食べてみたいと考える奇特な方もいるかもしれない。特にマッシュポテトを使ったハクレン釣りは繊細かつダイナミックなのでぜひ挑戦していただきたい。しかし、毎年5月20日~7月19日はハクレンの禁漁期間であるので気をつけたい。それから川で釣りをする際はちゃんと入漁券を買いましょう。
川に向かってマッシュポテトを投げる日が来るとは…。