特集 2012年5月29日

理想の「行ってきましたクッキー」を求めて

詰め込め、思い出を!
詰め込め、思い出を!
私的な話で恐縮だが、つい先日八丈島へ行く機会があった。
そこで買って帰ってきたのが、「八丈島へ行ってきました」という名のクッキー。有名な観光地や高速のパーキングエリアなどでよく見かけるあれだ。

ところが帰宅後、封を開けてみた際に事件は起こる。
パッケージでは堂々と「八丈島へ行ってきました」と謳っているのに、中の小袋には「旅行に行ってきました」とだけ書かれているではないか。

おいどうした、しっかりしろ、とクッキーの肩を掴んでがくがくと揺らしたくなる。
旅行に行ってきました、というざっくりとした報告。
足りない。圧倒的に情報が足りていない。八丈島はどうした。

決して間違ってはいないがどうにも納得がいかない。
世間の「行ってきましたクッキー」はみんなこうなのだろうか。
石川県出身。以前は普通の会社員。現在は透明樹脂を用いたアクセサリーを作る人。好きな色は青。好きな石はサファイア。好きな犬はウェルシュ・コーギー。

前の記事:夏におすすめ!冷たい麺類を寿司ネタに

> 個人サイト capria

行ってきましたクッキー、23区内にもあるはず

つまりパッケージだけ変えてあちこちで販売しているということだろう。
まさかあの行ってきましたクッキーが、そんなフレキシブルな運用をされている商品だったとは。

そして身近なところでいえば、東京23区内は言わずと知れた一大観光地だ。お台場、浅草、都庁、などなど、例のクッキーがある可能性は高い。早速探しにいってみよう。
しかし、まずやってきたのは上野アメ横
しかし、まずやってきたのは上野アメ横
Twitterで情報を募集したところ、アメ横の「二木の菓子」というお店にお土産物の菓子箱が沢山揃っていますよと教わった。

心当たりの観光地を巡るつもりだったが、一箇所で揃うなら話が早い。労せずして行ってきましたクッキーを大量獲得しようという、昔話の悪いおじいさんみたいな行動理念でもって素早くアメ横にやってきた。(こういう人は大体後で酷い目に遭う)
コロコロのついたキャリーバッグまで持参。これを行ってきましたクッキーで満杯にして帰るのだ!
コロコロのついたキャリーバッグまで持参。これを行ってきましたクッキーで満杯にして帰るのだ!
お土産が揃っていると噂の、二木の菓子
お土産が揃っていると噂の、二木の菓子
確かに、店内所狭しと土産物の菓子箱が詰まれている
確かに、店内所狭しと土産物の菓子箱が詰まれている
お台場土産の隣に北海道土産が並んでいる。予想を超えた混乱っぷり。
お台場土産の隣に北海道土産が並んでいる。予想を超えた混乱っぷり。
しかし、無いのだ。行ってきましたクッキーが全然見当たらない。
おいしいところだけ楽して掠め取ろうとした人間(私)に、早速天罰が下った瞬間である。張り切ってキャリーバッグまで持ってきたというのに。

潰れた土偶のように虚ろな目で落胆していても埒があかない。電車に乗り、そのまま次のスポットを目指すことにした。
東京駅です
東京駅です
ここなら沢山のおみやげが揃っているに違いない、と踏んだ。また楽をしようとしている。神様この人全然懲りていません。
色々揃っていそうな、みやげセンターとやらを覗いてみたが
色々揃っていそうな、みやげセンターとやらを覗いてみたが
ない。全然ない。
ない。全然ない。
案の定というか、スカイツリー関連のおみやげはたくさんある。それならついでにスカイツリーに行ってきました、というのも置いておいてほしい。なぜ今置いていないのか疑問ですらあるが、多分それはここがスカイツリーではないからだろう。店側の冷静な判断が恨めしい。
別の店舗も覗いてみました
別の店舗も覗いてみました
こちらは先程の東京みやげコーナーとは別に、全国各地のおみやげを取り扱う店舗だ。東京駅にそんな場所があるなんて知らなかった。
しかし、やっぱりない。ご当地KitKatは豊富なのだが。
しかし、やっぱりない。ご当地KitKatは豊富なのだが。
石川県(出身地)のおみやげがあったのでテンションが上がる。ふとした瞬間に発揮されるおのぼりさん感。
石川県(出身地)のおみやげがあったのでテンションが上がる。ふとした瞬間に発揮されるおのぼりさん感。
地元の商品に喜んでいる場合ではない。結局東京駅でも見つけられずに終わってしまった。

どこにあるんだ行ってきましたクッキー。段々と、本当に23区内にあるのかどうか疑わしくなってきた。もういっそツチノコでも探した方が簡単に見つかるんじゃないかという気がしてくる。クッキーとUMAが同列である。

キャリーケースがコロコロ音を立てる。まだ空のままである。

ここに無かったらもう諦める

もうどう考えてもここにならあるだろう、絶対あるだろう、という場所にやってきた。
東京タワーである
東京タワーである
ここで見つからなかったらもうお手上げだ。

話題のスカイツリーに行こうかと一瞬迷ったが、行ってきましたクッキーが似合うのはこちらだろうと(勝手に)判断した。間違ってはいないと思う。
東京タワーである
東京タワーである
そしてここで、ついに、念願のあれとの対面が叶うこととなる。
ああ、あった! あったぞ!
ああ、あった! あったぞ!
まごうことなき、行ってきましたクッキーだ。
やっと見つけた。思わずスキップでレジまで持って行きたくなる。さすがは東京タワー。私、信じてました。

しかし、思っていたのとは少し違う。
「東京タワーに行ってきました」というお菓子があると思っていたのだ。
それが、「東京」に行ってきました、となっているではないか。

東京に行ってきました…?

買って帰って、改めてそのパッケージを良く見てみよう。
ああ東京に行ってきたんだね、と一目で理解できる、力強いアピール
ああ東京に行ってきたんだね、と一目で理解できる、力強いアピール
現在完了形による主張
現在完了形による主張
まさか「東京」と一括りにされているとは思わなかった。

これを作る側の気持ちも分かる。細分化すると何かと大変だから、いっそまとめてしまおうという発想だろう。都内有名観光地の写真(東京タワー、浅草雷門、東京駅、都庁)が並んでいることからも、この商品が持つ応用力の高さが伺える。
東京の観光名所、勢揃い
東京の観光名所、勢揃い
どこにいっても馴染むやつなのだ。人間でいうならコミュニケーション能力が高く、即戦力になりうる人ということになるだろう。就活にめっぽう強いタイプだ。
そして、その中身
そして、その中身
「旅行に行ってきました」とは書かれていない。しっかり記載された東京の二文字。そして東京タワー。

行ってきましたクッキーとしては完璧だろう。これなら会社で配っても「ああ、東京に行ったんだね」となる。そこに混乱はない。

しかしちょっと待ってほしい。本当にこれで良いのか。
やっぱり、旅の報告としてざっくりしすぎてはいないか。「東京」って広すぎだろう。(一応言っておくが、八丈島も東京である)

どうせならもっと、旅の思い出を詰め込みつつ大きな声で「行ってきました」と報告できるようなクッキーがあってもよいと思う。

理想の行ってきましたクッキー、ここはさくっと自作するのがてっとり早いのではないだろうか。
ちなみにクッキー本体には「MILK」と。東京とは一切関係ない。
ちなみにクッキー本体には「MILK」と。東京とは一切関係ない。
いったん広告です

これが理想の「八丈島へ行ってきましたクッキー」だ!

そんな経緯を経て、作ったのがこれだ。

件の八丈島旅行。その模様を必要以上にアピールする、行ってきましたクッキーである。
旅の思い出を詰め込みました
旅の思い出を詰め込みました
色々な絵柄を入れた都合上、やたら大きくなってしまった(直径20cm)のは致し方ないとして。

行ってきましたクッキーとはこうあるべきなのではないだろうか、という提案である。お土産話の詰まったお土産クッキー。あなただけの行ってきましたクッキー。One to Oneマーケティングってこういうことだろう。(違うかもしれない)

ではひとつひとつ解説していこう。
まず、残念ながら滞在中は悪天候だったのだ
まず、残念ながら滞在中は悪天候だったのだ
それを図柄で表現してみました
それを図柄で表現してみました
そう、ずっと天気がぐずついていた。おかげで上るはずだった山にも登れなかった。(上の写真は登山道の入り口です)
そんな、ちょっと残念な気持ちをこめてみた。これを見た人にはすぐ「ああ雨だったのか、残念だったねえ」というのが伝わるはずなのだ。
島で最初に食べたのは、島寿司という名産品
島で最初に食べたのは、島寿司という名産品
美味しかったのでもちろんこれもクッキーに採用
美味しかったのでもちろんこれもクッキーに採用
寿司かな? 作りかけの下駄かな? という戸惑いを生みかねない絵だが、それは描いた人の技量の問題なので一旦置いておくとして。
寿司ネタは、漬け込まれた金目鯛。わさびの代わりに辛子がピリッときいた、その美味しさが伝われば幸いである。
そういえば牛を見た。これは重大な思い出だ。
そういえば牛を見た。これは重大な思い出だ。
絵に自信がないので鳴き声でごまかすというパターンも、クッキーならばきっと許される
絵に自信がないので鳴き声でごまかすというパターンも、クッキーならばきっと許される
八丈富士とよばれる山があるのだが
八丈富士とよばれる山があるのだが
山頂には常に雲がかかっていて、滞在中に全貌見えず。そこも忠実に再現
山頂には常に雲がかかっていて、滞在中に全貌見えず。そこも忠実に再現
島ではちょうどフリージアが満開。ぜひ見ていきなさい、とタクシー運転手さんに勧められ。
島ではちょうどフリージアが満開。ぜひ見ていきなさい、とタクシー運転手さんに勧められ。
実は近くでは見なかったので花の形が分かぬまま帰ってきたのだが、そういうディテールはweb検索で解決だ。
実は近くでは見なかったので花の形が分かぬまま帰ってきたのだが、そういうディテールはweb検索で解決だ。
体験した遊びはパターゴルフ。強風と小雨の中で。
体験した遊びはパターゴルフ。強風と小雨の中で。
一応楽しかったのだが、図案にするといまいち伝わらない。なんだこれキュビズムか。
一応楽しかったのだが、図案にするといまいち伝わらない。なんだこれキュビズムか。
まとめるとこうなる
まとめるとこうなる
八丈島に行ってきましたクッキー、完全に旅の思い出を具現化していると言ってよい。

ちなみに作り方はこう。
描いた下絵をクリアファイルに転写して
描いた下絵をクリアファイルに転写して
カッターで線にそって切り抜いて
カッターで線にそって切り抜いて
全部の図柄で型を作る
全部の図柄で型を作る
それをクッキー生地に置き、ココアの粉をポンポンとステンシルの要領ではたいていけば完成
それをクッキー生地に置き、ココアの粉をポンポンとステンシルの要領ではたいていけば完成
こうして完成した、行ってきましたクッキー。その名にふさわしい姿を提示できて満足だ。

ちなみに、一枚焼くのに30分以上かかっている。大勢に配布するには向かないおみやげ物だが、ここぞという相手に渡すことでどうにか上手いこと活用していただきたい。
別名:思い出の押し売りクッキー
別名:思い出の押し売りクッキー

廃れゆく品なのか

思いの外、23区内で「行ってきましたクッキー」が見つからずとても焦った。ひょっとして絶滅の危機なのだろうか。レッドリスト入りか。

それならいっそ、旅先でのクッキー製作体験をセットにしてしまえばどうだ。生地には地元の特産品など練りこんで、その場で好きな図柄を描いてもらって、旅先での思い出が詰まったオリジナルクッキーを焼いて持って帰れるようにすれば…。
一気にビジネスの香りがしてきた。参入するなら今のうちだ。
欠点:食べづらい
欠点:食べづらい
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