特集 2012年5月28日

北京ダックの皮で鮭を包む

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高級スーパーで「北京ダックの皮」を見つけた。

焼売や餃子、春巻きといったおなじみの皮たちのそばにしれっと並んでいて最初は何だか分からなかったが、「北京ダックロール」とある。北京ダックを巻く専用のものらしい。

普通に生きていてはちょっと(少なくとも餃子の皮のようにカジュアルには)手にすることはないと思っていた食材だが、普通に売っていたのか。

驚いて買ってきたが、さて我が家に巻くべき北京ダックはないのである。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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重ね重ね北京ダックは家にない

テラテラに丸焼きしたダックさんの皮をうやうやしくテーブルの脇でサービスの方が切り分け、小麦粉の皮にキュウリやネギ、味噌なんかと一緒に巻いて食べる。皮で皮を包む料理というのが北京ダックのイメージだ。

もちろん北京ダックの調理法としては巻いて食べるだけではないが、やはり「北京ダック!」としてイメージするのは皮(と皮に近い肉)を巻いて食べるあれだろう。

そして北京ダックというのはどうしたって高級品である。少なくとも日常的に自宅で食べるようなものじゃない。

しかし私の家の冷蔵庫に、いまその北京ダックを巻く皮がある。

北京ダックはない。
その名も「カオヤーピン」。「鴨」という文字が入っている。まさしく専用品だ。
その名も「カオヤーピン」。「鴨」という文字が入っている。まさしく専用品だ。

なぜ北京ダックの皮がスーパーに

そもそも、なぜこれがスーパーに売られているのかが最初まったく分からなかった。

買ったのは高級スーパーだったわけだが(同じチェーンの店舗2軒でどちらもこの北京ダックの皮を扱っていた……!)、高級スーパーで買い物をするような家はしばしば自宅で北京ダックを食べるというのか。

お金持ちの人と庶民の間の壁の分厚さはそこそこ分かっているつもりだったが、北京ダックが食卓にと思うと格差もいよいよ越えられないもののように感じられて手の汗がぬるい。
と、思ったら。ここ
と、思ったら。ここ
ぬるい汗をびしょびしょ手のひらにかいていたが、カオヤーピンのパッケージにある記述を見つけた。

実はこの北京ダック用の皮、鶏や豚を巻いて食べてもおいしいらしく、そのように使われることも多いようなのだ。

パッケージには、筆頭として勧められているのは「鴨肉の細切」であるものの「鶏肉と焼き豚」とも書いてある。

もちろん自宅で北京ダックを楽しむためにこの皮を買う家庭もあるとは思うが(あるのか? あるのかなあ)、そんな人ばかりではないのだ。

鮭の皮を包んで食べる

そういったわけで、北京ダックの皮が巻くのは北京ダックばかりではないと分かりほっとしたところで今日の企画がスタートします。

せっかく「北京ダックの皮でございます」と我が家に登場したカオヤーピン。北京ダックはないがそれらしく食べてみたいのだ。

すでに述べたが「北京ダック」というとどうしても北京ダックの皮を巻いて食べるイメージがある。ならば我が家でも「皮」を巻いていこうじゃないか。

身近な皮といえばそう、鮭の皮である。

いま急展開しましたが、つまり今日の企画はそういうことなのです。
スーパーで100円で買ってきた鮭を焼いた。妙に静かな写真だな
スーパーで100円で買ってきた鮭を焼いた。妙に静かな写真だな

あと、ホッケの皮と鶏皮もね

さらに前日の夕食であったホッケの塩焼きの皮と、今日の晩ご飯で使う鶏肉の皮も巻いて食べてみようか。
これが我が家の北京ダック
これが我が家の北京ダック
豪華なんだかなんなんだかさっぱり分からない料理がテーブルに現れた。これはこれで豪勢なようにも見えるのだがどうだろう。

巻いて食べてみよう

追加で準備したのはテンメンジャン、きゅうりとネギの細切り。

テンメンジャンは中華風の甘味噌で、これを使うことは北京ダックの皮のパッケージにも推奨されていた。
しかし、同メーカーのものは手に入らなかった。ごめん
しかし、同メーカーのものは手に入らなかった。ごめん

「鮭」「ホッケ」「鶏」できました

カオヤーピンは蒸して食べよということだったので数枚一気に蒸す(問題なくはがれた)。パッケージには丁寧に包み方まで乗っていたので北京ダック初心者にも安心である。

北京ダック専用とお高くとまっているかと思いきや、なかなかいいや奴じゃないか。カオヤーピン。
鮭の皮ときゅうりとネギとテンメンジャンを巻いていく
鮭の皮ときゅうりとネギとテンメンジャンを巻いていく
これ、なんていう料理だろう。「北京ダック」に沿って言うならば「鮭」といことでいいだろうか
これ、なんていう料理だろう。「北京ダック」に沿って言うならば「鮭」といことでいいだろうか

これがおいしいんだわ

どういうことになっちゃうんだろうと不安もあった。が、食べるとこれが妙においしい。

まず皮がおいしい。さすが高級スーパー出身である。これは素直に力量の高さを認めざるを得ない。薄いのにもちっとしていてちょっと香ばしい。

さらにしょっぱくて脂っこい鮭の皮がキュウリやネギと合わさってさっぱりし、テンメンジャンとよくなじんでいる。

ちょっとなになに、北京ダックって鮭や鶏の皮でいいんじゃないの。

ただホッケの皮は量を多く入れすぎたか、みょうにしょっぱさばかりが際立ってしまった。
巻いてあるのがまさか鮭やらホッケの皮だとは誰も思うまい
巻いてあるのがまさか鮭やらホッケの皮だとは誰も思うまい

カオヤーピンは作れるらしい

これはいいぞと思うも、このカオヤーピン、実は10枚で700円近くするのだった。買う場所によってはもっともっと安く買えるとは思うが、調べると簡単に作れるようだ。

ちなみに北京ダックを包む皮としてはこのほか「薄餅(バオビン)」、「荷葉餅(ホーイエビン)」、「春餅(チュンビン)」などいろいろ種類や分類があるようで調べるうちに収集がつかなくなってしまった(チュンビンはバオビンの一種らしいなど事情が込み入っている)。

なにしろ小麦粉と塩を混ぜたところに水を入れて溶いて焼くというシンプルな作り方で良いらしい。

レシピによって油や卵を入れたり塩の量もばらばらだったので、一番シンプルに小麦粉に塩と、じゃぶじゃぶになるくらい水を入れて焼いてみることにした。
買ったのとはずいぶん違うビジュアルになってしまったものの、できた
買ったのとはずいぶん違うビジュアルになってしまったものの、できた

安すぎる北京ダック風料理を

買ったものとは洗練の様がまったく違うにせよ、食べるともちもちしていて、ぎりぎりカオヤーピンと同じ種類の食べ物にはなっている。これで十分いけそうだ(あとから分かったのだが、焼くときに最初火をつけていない冷たいフライパンに生地を流して弱火で加熱していともっとカオヤーピンらしく作れるらしい)。

それにしても、粉+塩+水、以上である。ずいぶん安く作れたものだ。あの北京ダックの皮なのに。

これで巻く中身も安くできたら、毎日でも手軽に北京ダック(風のものが)食べられるな……。そう思って安い油揚げで具を作ってみることにした。
油揚げを焼いてテンメンジャンと砂糖としょうゆを混ぜたものをからめる
油揚げを焼いてテンメンジャンと砂糖としょうゆを混ぜたものをからめる
合計約200円の北京ダック(風)、できました
合計約200円の北京ダック(風)、できました
うん。なんだろうな、これは。

北京ダックではないが、やらんとしていることは北京ダックであることが伝わるビジュアルと言えるだろうか。

これを人が見たら「北京ダックっぽいものを食べたいんだなあ、すごくすごく、食べたいんだな、でも……お金がないんだな……」という風に思われてしまうかもしれない。そして実際その通りである。
包むと……お?
包むと……お?
一瞬空気がしーんとしたがそれもつかの間、なんと包んだらちょっと北京ダックぽくなってきたぞ。

ナイス、カオヤーピン!

この写真なら「北京ダックなう」ってツイートできる。

しかしどんでん返しもここまでだった。味が完全に油揚なのである。北京ダックではないし、鶏肉や豚肉ですらない。

鮭の皮や鶏の皮はばっちりはまったのに、油揚げが思いのほか主張している。
北京ダックなう! しかし食べているのはとんでもなく自分ちだ。しかも油揚げだ
北京ダックなう! しかし食べているのはとんでもなく自分ちだ。しかも油揚げだ
くそう、油揚げめ。テンメンジャンのたれまでからめたのに。これが油揚げのプライドか。

カオヤーピンのプライドは

油揚げのプライドが思いのほか高かったことで低価格北京ダックの道は絶たれてしまった。

それに比べるとカオヤーピンは素直だ。鮭の皮やらホッケの皮やら包まされてもおとなしくしている。意外にプライドをかなぐりすてて仕事を選ばないタイプなのかもしれない。今度はそこを広げてみたい。

鮭の皮も包める、ホッケの皮も、鶏の皮も包める。

じゃあ、生クリームもいけるんじゃないか。

そうなのだ。カオヤーピン、製法があまりにクレープみたいなので、これクレープでもいけるぞと思ったのだ。

ちなみに手製のカオヤーピンは油揚げを巻いて食べつくしてしまったので、ここでまた既製品の方のカオヤーピンにご登場いただこう。
こんなにクレープらしいクレープを作ったのは人生初かもしれない。北京ダックの皮だけど
こんなにクレープらしいクレープを作ったのは人生初かもしれない。北京ダックの皮だけど

北京ダックの皮はクレープになれるか

買ってきたカオヤーピンは実際のクレープのふわっとした生地とくらべかなりしっかりしていて強い。初心者の私にも大変に包みやすいのは大きく利点だった。

だが。だが、なのだ。問題の味が、これがぜんぜん合わなかったのである。なんとまあ。

やはり牛乳の入った薄甘い生地でないとクレープはクレープたらないのか。

カオヤーピンというよりも、クレープ側の厳しいドレスコードにはじかれてクレープ界への参画をお断りされた具合である。
見た目的にはこんなにもクレープに受け入れられているのに
見た目的にはこんなにもクレープに受け入れられているのに
結局、油揚げに続いて生クリームにもNOをつきつけられてしまったカオヤーピンである。

やはりカオヤーピンは北京ダックを巻く運命なのだ。ときに鮭の皮や鶏皮を巻く器の広さは見せても、本命はやはり北京ダックただ一人なのだ。

かってきたカオヤーピンはまだ6枚残っている。残りはちゃんと北京ダックを包んであげよう。と、思う気持ちもあるが我が家にはやはり北京ダックはないのである。

北京ダック、その幻

そもそも私は北京ダックを食べたことがあるのか。子どものころ、バブル景気に乗って商売に成功した祖父母に食べさせてもらったことがあるような気もするが何せ20年以上前の話で味の記憶はまったくない。

20代前半にも都内で手ごろな値段で北京ダックを食べさせる店に何度か連れて行ってもらったことはあるのだが行くときはいつも泥酔していてこちらも味を覚えていないのだ。

私にとって北京ダックは幻である。

今回、中身は得ずに皮だけを得たというのもまた北京ダックの幻具合をよりいっそうのものにしたと思うと感慨深い。
自分でもう一度小麦粉を水で溶いて焼いて、クレープにしてみた。完全に普通のクレープができあがり、煙に巻かれた気分になった
自分でもう一度小麦粉を水で溶いて焼いて、クレープにしてみた。完全に普通のクレープができあがり、煙に巻かれた気分になった
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