特集 2012年3月26日

家庭用プリンタを3Dプリンタとして使ってみる

ぼんやりと浮かび上がる3Dのシルエット
ぼんやりと浮かび上がる3Dのシルエット
3Dプリンタというものがある。

その名の通り、データから立体物をプリント(造形)してくれる未来的な装置である。かっこいい。とてもかっこいいがしかし、庶民が気軽に入手して扱いきれるようなものでもない。

手元にあるのはごく普通のインクジェットプリンタだ。
これでどうにか3Dプリントできないものだろうか。
石川県出身。以前は普通の会社員。現在は透明樹脂を用いたアクセサリーを作る人。好きな色は青。好きな石はサファイア。好きな犬はウェルシュ・コーギー。

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> 個人サイト capria

つまりこういうことです

我が家のプリンタ。買ってからもう7-8年は経っている、普通のインクジェットプリンタ。
我が家のプリンタ。買ってからもう7-8年は経っている、普通のインクジェットプリンタ。
インクジェットプリンタはインクジェットプリンタであってドラえもんではなく、ましてや私はのび太でもなく、いくら「スネ夫がこの3Dプリンタは3人用だって意地悪いうんだよお」とすがりついて泣いてみたところで何のソリューションも提示してはくれない。便利なポケットだってついていない。泣き損である。

しかし、だ。例えばこんなのはどうだろうか。
通常、3Dプリンタは物体を一層ずつ成形していく
通常、3Dプリンタは物体を一層ずつ成形していく
立体を出力、といってもいきなり完成物がポンと出てくる魔法の箱ではない。素材となるプラスチック等を下から少しずつ積み上げて形を作るイメージだ。
それならば、家庭用プリンタで透明なフィルムシートに平面図を印刷して、それを数百枚重ねれば…?
それならば、家庭用プリンタで透明なフィルムシートに平面図を印刷して、それを数百枚重ねれば…?
横から覗けばひょっとして、透明なブロックの中に立体物が浮き上がって見えるのではないか。お手軽3Dプリントだ。

いや、結局シートの表面にしか印刷できないわけで、厚み部分を考慮すると無理だろうか。でもなんとなくできそうな気もする。もやもやと脳内でイメージを組み立ててみるが、分からない。分からないのでこれはもう実際にやってみるしかない。
というわけで透明シート(OHP用フィルム)を買ってきました。インクジェット対応。
というわけで透明シート(OHP用フィルム)を買ってきました。インクジェット対応。
尚、シートにモザイクがかかっている理由は後に明らかになります。

ロボットを作ろう

3Dでプリントするモチーフとして「ロボット」を選んでみようと思う。

ロボットに対して特別大きな思い入れがあるわけではない。単純に、直線と平面で構成されていて簡単そうだから、という理由である。水が低い方に流れた結果だ。曲面が出てくると一気に話がややこしくなるので、一種のリスク回避と言えなくもない。
ざっくりと設計図を書く
ざっくりと設計図を書く
透明シートの厚みは約0.1ミリ。そこで5センチ角の紙片を500枚重ねて、一辺5センチの立方体を作ることを想定した。

そのサイズに収まる形状のロボットを考えたのが上の図だ。細々とした数値は各所の寸法メモである。
さらに、断面図を考える
さらに、断面図を考える
要はとても細かいロボットの輪切りを作って、それを積み重ねようというわけだ。

この場合ロボットの頭から足、上下の空白も考えて、八種類の断面図を用意すればよいということになる。
それを元にしてこういった図も作ってみたのだが
それを元にしてこういった図も作ってみたのだが
結局最後は紙に印刷&手書きメモ。デジタルを活用しきれていない感。
結局最後は紙に印刷&手書きメモ。デジタルを活用しきれていない感。
尚、ピンクの数字がそれぞれの必要枚数となります
尚、ピンクの数字がそれぞれの必要枚数となります
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乾かないインク

あとは必要枚数だけプリントして切って重ねればOK、というところまで来て、全く思いもよらなかった穴にストンと落ちた。
透明シートに印刷したものの、これがびっくりするくらい乾かないのだ
透明シートに印刷したものの、これがびっくりするくらい乾かないのだ
時間を置いてみても全く変わらず、ちょっと触れただけでこの有様。

焦った。漫画ならひらがなの「つ」みたいな汗が頭の上辺りに2、3個飛び出していたと思う。 しかしあいにくと現実にはそんな超常現象も起こらず、ただただ馬鹿みたいにシートを見つめ続けることしかできない。

だって確かにインクジェット対応って書いてあった。それなのにこの事態。不可解にも程がある。
別メーカーの用紙と比較。またもや愕然とした。
別メーカーの用紙と比較。またもや愕然とした。
たまたま買い置きがあった別メーカーのOHPフィルムを使用してみると、同じデータなのに仕上がりが全く違う。左、恐ろしい滲み具合。
つまりこの場合、悪いのはどう考えても…
つまりこの場合、悪いのはどう考えても…
正直に告白しよう。安かったのだ。

OHPフィルム、実は割と高級品である。A4サイズで一枚100円程度する。
そんな中、他メーカーのOHPフィルムに比べ格段に安いものを見つけたので飛びついたのだ。その結果がこれである。2012年最初の「安物買いの銭失い」がまさかこんな状況で訪れようとは。
というわけで買い直しに出向いた。結果的に銭も時間も損していて実に馬鹿馬鹿しい。
というわけで買い直しに出向いた。結果的に銭も時間も損していて実に馬鹿馬鹿しい。
勢い余って50枚入りのパックを購入。そんなに要らないのに。
勢い余って50枚入りのパックを購入。そんなに要らないのに。

やっとプリントする段階まで来た

こういったロボット断面図を
こういったロボット断面図を
ずらっとプリントしていく
ずらっとプリントしていく
今度は滲みも全くなく、しばらく乾かせば手で触っても問題なさそうだ。さすが高い方のフィルム。頼もしい。
続いてチョキチョキ切り分ける
続いてチョキチョキ切り分ける
重ねた時に邪魔になるので、黒い枠が残らないよう切り落としていく。

単調作業だが意外と時間が掛かる。測ってみれば、A4一枚(紙片15枚分)を切り終わるのにおよそ10分を要していた。34枚プリントしたので、休みなしに切り続けたとしてこれだけで5時間半掛かる計算だ。

ちょっと気が遠くなりかけるが、明けない夜はないと思うので淡々とこなしていきたい。
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忍び寄る、失敗の気配

ひとまずロボットの上部と下部にあたる、なにもプリントされていない空白パーツを切り終えた。
これで50枚。「透明」フィルムのはずなのだが。
これで50枚。「透明」フィルムのはずなのだが。
重ねるとまったく透明感がなくなった。大丈夫か。
透過度。15枚の場合。
透過度。15枚の場合。
50枚。完全に下の文字が消えている。
50枚。完全に下の文字が消えている。
さらに、最も重要な「横から」の図
さらに、最も重要な「横から」の図
何も見えそうにない。想定ではこれを500枚重ねて、同じ角度から眺める予定だったのだが。

じわじわと嫌な予感が忍び寄ってくる。「失敗」の2文字が壁からチラチラと顔を出してこちらを伺っているような気がする。

パーツがプリントされた箇所であればちょっとは違うだろうか。半ば期待、半ば諦めの心境でハサミを進めた。
足の土台となる(はずだった)部分
足の土台となる(はずだった)部分
横から。ぼんやりと青が主張しているような、いないような。
横から。ぼんやりと青が主張しているような、いないような。
あれ、幻覚かな? というレベルで見える気もする青い色。富山湾の蜃気楼だってもうちょっとはっきり観測できるはずだと思う。

クリア感はなく、ひたすら白い。
樹氷を見に行こう、とロープウェーで蔵王の山頂まで登ったら、見事に猛吹雪で樹氷どころか1メートル先すら見えなかったあの日のことを思い出した。どこまでも真っ白。
ロープウェーからの眺望も白一色だった
ロープウェーからの眺望も白一色だった
このまま500枚を切り分けて重ねても、思わしくない結果になることは目に見えている。「失敗」さんが壁の影から身を乗り出し、大きく手を振っている。今からそっちに行くよ、と言わんばかり。

どうしよう。だからといって「ではここからは蔵王の思い出を語る記事になります」というわけにもいくまい。

悪あがき、からの

匙を投げるのはもう少し後にして、もうちょっと悪あがいてみよう。

例えば横から見るのをあきらめて、上から覗き込む方式に転換できないだろうか。
全パーツを数枚ずつ重ねてみたところ。これだと訳が分からないが、
全パーツを数枚ずつ重ねてみたところ。これだと訳が分からないが、
でもこう、ちょっと斜めにずらしたりすれば、ほら
でもこう、ちょっと斜めにずらしたりすれば、ほら
だめだ。うっすらロボットの形になりはしても、どうしたって3Dには見えない。

重ねる枚数を増やしたり減らしたり、光に透かしたりしてみるがどうにもうまくない。無理なのか。このまま失敗君と仲良くするしかないのか。

いや待て、重ねすぎて真っ白になるというのなら、例えばシートの一枚一枚に少し隙間を持たせて固定すればどうだろう。
適当なマッチ棒を土台にして組み上げてみる。半ばヤケに近い試みではあったのだが。
…おや?
…おや?
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浮かび上がるシルエット

あ、ロボットだ、と思った。

積み重なったシートの中に浮かび上がってきたそのシルエットはまぎれもなく、私が適当に設計図に書いたあいつだ。
ぼんやりとたたずむ影
ぼんやりとたたずむ影
緑色の腕も確認できる
緑色の腕も確認できる
これは、3Dと言い切ってもいいんじゃないだろうか。うっすらホログラムのように浮かび上がる虚像。やや斜め上から見下ろす角度で眺めるのがベストポジション。
遠目にみるとより立体っぽいかもしれない
遠目にみるとより立体っぽいかもしれない
ちゃんと立体に見えることに、じわじわと嬉しさが湧いてきた。
当初想定していた形とは別物だが、非常に近いものができあがったと思う。粘ってみるものだ。
真上から。この状態でもぎりぎり立体に見えなくもない。
真上から。この状態でもぎりぎり立体に見えなくもない。
なるほど要領がつかめたので、調子に乗って他の形も試してみよう。
幸いOHPフィルムはまだ余っている。なぜなら50枚も買ったから。
15枚の「丸」をプリント。
15枚の「丸」をプリント。
重ねれば、トランプのダイヤ型に!
重ねれば、トランプのダイヤ型に!
いえ、実を言うと赤い「球」を作ろうとしたのですが、きちんとサイズを計算せず適当に作ったら縦に伸びてこうなったのですが。
壺のようにも見える
壺のようにも見える
だんだん楽しくなってきた。続いてこんなのはどうだろう。
話題の東京新名所
話題の東京新名所
こちらも黒い丸を積み重ねただけ。
30枚使って高さを出したので中心がずれてやや歪んでしまったものの、割とそれらしく見えるだろうか。
青いロボット、赤い菱形、黒いスカイツリー。こう並べると何かの暗号っぽくもある。
青いロボット、赤い菱形、黒いスカイツリー。こう並べると何かの暗号っぽくもある。

3Dのようなものをプリントできて満足

3Dプリンタにヒントを得た試みではあるが、極端な話、このやり方なら別に手書きでもよいのだ。 油性ペンと透明なフィルムがあれば事足りる。

ただ、マッチ棒を組み上げるのは、実は地味に面倒くさい。
簡単なフレームを作ってフィルムの出し入れ自由、という仕組みを作ればもっと遊びの幅が広がりそうな気もする。
マッチ棒が組みあがった様は、なかなか美しくはあるけど
マッチ棒が組みあがった様は、なかなか美しくはあるけど
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