「北海道あるある」を用意
北海道の人と仲良くなるにあたって、すでに準備をしてある。知り合いの北海道出身者から「北海道あるある」を聞いておいたのだ。
本州から初めて来た人間が、みょうに北海道の細かいところにまで詳しい。これは北海道の人にも面白がってもらえて、話がはずむんじゃないのか。
武器は多ければ多いほど良いと思い、4名からネタを仕入れている。現地で僕が確認した写真と一緒に、読者のみなさんにも見ておいてもらいたい。
工藤孝浩(室蘭市出身)さんの北海道あるある
ケーキといえば「きのとや」。ここのケーキをおみやげに持って行くと「ちゃんとした人だ」と思ってもらえる
つぼ八、ニトリ、ハドソンは北海道出身の有名企業
玄関先に「玄関フード」というのがある
田中義剛は北海道出身ではない
当サイト編集の工藤さん。「きのとや」のケーキで「ちゃんとした人」になるという価値観がおもしろい。きのとやは道民にとってマナーの一つなのだ。千歳空港に売っていたが、たしかに一目で「ちゃんとした」雰囲気がわかっておかしい。
吉田ヤスシさん(小樽市出身)の北海道あるある
雪かきといえば「ママさんダンプ」
回転寿司のクオリティが高く、寿司店に行く必要がない
唐揚げではなく「ザンギ」
「ママさんダンプ」という言葉を聞いたことがなかったが、ふつうの除雪具であった。これのどこがダンプなのか。
「ザンギ」は聞いたことがある。実際に看板を見たら「ドリカム」にすごい当て字がしてあった。来てみないとわからない、北海道ギャグだ。
小柳健次郎さん(札幌市中央区出身)の北海道あるある
お墓に向かって「サッカーで優勝したよ」と報告するCMがはやっていた
電車代が高い
大塚美容整形外科のCMを完コピするのがはやっていた
冬道用の自転車タイヤがあって、おじいさんがよく乗っている
当サイトのライター、小柳君からは懐かしのCMネタをもらった。yotubeで確認したが、たしかに二つともマネしたくなるような不思議さがある。
「冬道用の自転車タイヤ」は滞在中になんとか見たかったが、最後まで見つけられなかった。その変わりに、完全に雪に埋もれている自転車をいくつも発見した。ここまで完全に打ちひしがれている表情の自転車を見たことがない。僕には、北海道の大地が自転車を食べているように見えた。
上西智恵さん(札幌市西区出身)
ゴミ集積所のことを「ゴミステーション」という。ゴミを捨てることを「投げる」という
札幌に住んでいない人は「札幌の飯はマズイ」って思ってる。特に海産物は各地にうまいものがあるから
「札幌の飯はマズイ」とは生々しいコメントだ。札幌市は海に面してないため、北海道各地の港で水揚げされた物を直接食べるのにくらべると、一段負けるという。
しかし、実際に札幌のご飯を食べてみたらうまかった。「札幌以外の北海道の人はどんだけ日頃良いもの食べてんだ!」と思う。
準備はできた
他にも「舟守さちこのスーパーランキングの話をすると良い」(小柳)、「千秋庵の山親爺のCMソングは誰でも知っている」(工藤)、「川崎市は東京、神奈川県も東京、でも横浜は横浜という認識がある」(吉田)など、ここに書ききれないほどのネタを頂いた。
中にはあやしいのもあるが、武器としては充分すぎるほど充分だ。それでは北海道民と対決するべく、出かけよう!
琴似へ
やってきたのは札幌から2駅離れた「琴似」。
なるべく地元の人しかいかないようなところを教えて下さい、と工藤さんに聞いたらここを教えてもらった。札幌のベッドタウンらしい。
東京観光に来て、埼玉県の川口市に出かけるようなものだろうか。だとすれば狙い通りである。ここで地元の人しか行かないような飲み屋を見つけたい。
カウンターで大衆的で騒がしい雰囲気のところだとなお良いのだが…。
よくある地方ベッドタウンの風景で、どこにいったらいいか全然わからん
全国でチェーン展開している美容室ですね
美容室、いいかもしれない。美容師は若い地元の人だから、絶対に地元の人が集るところを知っている。ついでに、さっきの「北海道あるある」が本当に有効かを試すのだ。
旅行先で散髪。奇策のようだが、理にかなっている。はりきって美容室に入った。
よくみたら髪が伸びきっている。これから知らない人と仲良くするのだからさわやかな印象の方がいい
カルテに「埼玉県川口市…」と書くのがみょうに恥ずかしい。読めないぐらい汚くかいてしまった
つかみはまずまず
ほぼ同年代と思われる女性美容師がついた
希望のヘアスタイルについていくつかのやりとりをしたあとに、自分から雑談を切り出してみた。話題のストックがあるので強気だ。
「ぜんぜん関係ないけれど、今日旅行中なんですよ。」
「え。どっからきたんですか?」
「東京…、というか。埼玉というか…。」
(*吉田さんによると川崎は東京なので、僕の住んでいる埼玉県川口市も東京のはずである)
「ええ?なんでまた!」
「いや、旅行らしくないことをしてみようかな…と思いまして。」
「旅行らしくなさ過ぎですよ(笑)!そもそもの旅行の目的は何ですか?」
「基本的には札幌観光なんですが…」
本気で驚いている様子だ。そういえば、そもそもこんなに美容師と会話が弾んだことなんて今までない。楽しい。
旅行中に髪きる人なんていないんだろうな
「北海道ってすごく寒いですね。びっくりしますよ。」
「今日なんてすごくあったかいですよー。暑くて汗かいてるくらいですもん。いつもならマイナス10度より低くなりますからね。」
でたな、北国の「本当の寒さはこんなもんじゃない」アピール。話も転がり出してきたし、そろそろ仕入れてきたネタをぶつけてみよう。
ママさんダンプは有効
「僕、今回北海道に来るにあたって…いろいろ北海道に住んでた人に聴いてきたんですよ。たとえば…北海道の人は『ママさんダンプ』を使う、とか」
「ああ、ママさんダンプ(笑)。あえてママさんダンプですか!」
「ママさんダンプ」という言葉が出ただけで少し笑いが生まれている。そんなに面白いのか、ママさんダンプ!
これが!
「『ママさんダンプ』って言葉だけ聞いても、どんなものか想像つかないじゃないですか。」
「そこら中にありますよ~」
「ですね。見つけたときはうれしかったですね。『これがママさんダンプか!』って。」
札幌のご飯おいしくない説はNG
もっと踏み込んだところを聞いてみようか。
「あと、これも聞いたことなんですが。『北海道の人は札幌の食事は一番おいしくないと思っている』って本当ですか?」
「え?『おいしくない』?」
表情は見えないが、明らかに声のトーンが変わった。
ハサミの音も変わった
まずい。急いで言葉を続ける。
「いや、聞いた話なんですけれど。北海道は各地においしい物の名産があるから…結果的に札幌が一番イマイチになってしまうとか、なんとか。」
「そんなこと、思ったことないけれどな…。スープカレーはもう食べました?」
「食べてないですね。」
「私、最近すごくハマってて…もう30軒くらい行ってますよ。こっちではスープカレー、すごく人気ですね。絶対食べた方がいいです。」
今、札幌ではスープカレーが流行中。東京でも「北海道で人気」と紹介されて出店している。ブームは落ち着いたと思っていたが、現地ではまだまだホットな話題のようだ。
それにしてもうまく話題がポジティブな方向に行って良かったと思う。髪を切っている人の機嫌を損ねるの、恐い。この実験には、僕の髪の毛がかかっている…という事実に今更ながら気付く。
大フィーバー
今度は美容師の方から話を振ってきてくれた。
「あと、北海道の食べ物といえば…ザンギとか。カツゲンとか。ガラナとか。」
「あれも東京にはあんまりないですよ。カツゲンがホテルのモーニングに出ててびっくりしました。」
良い雰囲気だ。この流れでどんどん話題出してみよう。
「お墓の前で『サッカーで優勝したよ』っていうCMが懐かしネタだって聞きましたよ。」
youtubeでしか確認できてなかったもんで、この話題出すのは緊張した
「ああっ!なんかそれ聞いたことある!知ってる!」
「地元の人に言うとウケるって聞いてきました。」
「よくそんなところまで調べましたね~!」
ほとんど感動の声が漏れた。その他にも「ゴミステーション」「きのとやのケーキ」「回転寿司のクオリティ」などの話題も反応が良かった。
話題を提供してくれたみんな、ありがとう(今の今まで本当かどうかちょっと疑っていました)!
「ふる里」がおすすめ
会話は弾んでいるが、あんまり知ったかぶりばかりしているのも良くない。今度はこちらから聞いてみよう。
「この辺で地元の人が使う居酒屋とかありますかね?観光客は絶対来ないような」
「『ふる里』がおすすめですね。カウンターがあって、その時旬な魚を出してくれて。串焼きもおいしいし。外れないですね。」
おじさんが行くような落ち着いた居酒屋、ということらしい。美容師さん自身は「ちょっと良いことがあった日にみんなで行く」と言っていた。東京だったら雑誌『おとなの週末』あたりに載っているようなところだろうか。
カウンターなら隣の人とコミュニケーションできそうだ。この美容室は完全勝利と位置付けて、次のラウンドはそこに決めた。
髪もさっぱりしました
ふる里
美容室を出ると、すぐにふる里は見つかった。
なかなか渋い
サッポロビール
僕の横には40代くらいの女性と60代くらいの女性が二人で飲んでいる。親子のようだ。比較的、攻略しやすいターゲットと言えるのではないだろうか。
この人たち優しそう!
店員が注文を取る時に「東京から旅行で来ているんですが、なにかおすすめはありますかね?」と
言ってみる。
さっそく隣の親子から反応があった。
「えー?東京?すごいですね!」「東京から…やっぱりここ(ふる里)、有名なんだ」「おいしいもんねー。正解ですよ。」
有名じゃないところをわざわざ聞いてきました、とは言えない。この季節はタチ(白子のこと)が良い、と隣に勧められて、それをそのまま注文する。
タチの天ぷら
それから本州ではあまり食べられないホッケの刺し身も
白子のうまさに言葉が見つからない
うまい。はっきり言って激ウマである。東京で同じ質の物を食べようとしたら軽く2倍くらいはとられそうだ。
本当に琴似にきて良かった。タチは琴似に限る!(琴似は内陸であるということを踏まえた北海道ギャグです)
料理の写真を撮っていると、また隣から声がかかる。
「よかったら写真撮りましょうか?」
よっしゃあ!コミニケーションとれてきてる!という声を押し殺しての一枚
「お若いみたいですけれど、おいくつですか?」
「29です。」
「えー!私、未成年が居酒屋来てるって思っちゃた!」
若々しく見られているのが話題になっている。これはさっきの散髪の効果だろう。髪の毛をツンツンにセットされている。
北海道ネタをぶつけてみようか。また「ママさんダンプ」から入ろうかな…。
話始めのタイミングを外した
あ、なんか空振りした。落ち着いてもう一回…と思ったのだがしかし。
なんかけっこう話し込んでいて入り込めない
なんか急に難しくなった。さっきはフレンドリーに向こうから話しかけてくれるくらいだったのに。こっちの仕掛けようとしている意図が読まれているのか。
ふつうに飲んでいるふりをしながら機をうかがう
なにも話せないままブリの刺身がきた
タチの磯辺揚げもきた
だめだ、一人で居酒屋に入って1.5時間経ったが、最初のところ以外まったく話ができていない。
なんとなく手持ち無沙汰になって、最終的にはデイリーポータルZのメルマガを読みながら酒を飲んでいた。
先週は、藤原くんがクビになった記事が一番人気だったそうです
ケータイを見ながら酒を飲んでいるって、ずいぶんとさみしい人に見えることだろう。しかも東京から来てこれだぞ。
メルマガを読み終わったタイミングで、店を出た。なにがママさんダンプだ…と思う。雪の多いところに除雪具があるのは当たり前じゃないか。
その後悔しくて札幌のプロントで酒を飲み、そこから先は曖昧である
一勝一敗
美容室で一勝、居酒屋で一敗なので「北海道民と仲良くなる」計画は引き分けである。念入りな下準備をしていただけに悔しい。
それから、旅先で気に入った髪型に切ってもらった場合、次はどうすれば良いのか。散髪のたびに北海道に行くわけにもいかない。髪が少しずつ伸びるごとにモヤモヤする。
次の日市場に行ったらタラバカニと記念写真撮らされた