一生やめられないスウェット
僕がふだん使っていていちばん古そうなものは、確か中学のときに母親が近所のスーパーの2Fあたりで買ってきたスウェット。いまでも、冬になると家の中ではほとんどこれを着て過ごしている。
ある日の原稿執筆風景
こんな姿、全国の皆さんに見せるのも申し訳ないのだけど、馴染んだ格好を見てもらうのがいちばん説得力あると思って載せてみた。
20年以上着ているこのアクリル100%のスウェット、もうヨレヨレを通り越して、いまでは毛玉もできず織目も緩んで、まるでシルクのような肌触り。首回りや袖口のゴムが伸び切ったフィット感もちょうど良くて、もはや手放せない逸品だ。
破れたりしない限り買い替えないだろうし、一生を終えたときにはこれを着せて棺桶に入れてほしいとさえ思っている。
ところで、最近までまったく意識していなかったけど、改めて見てみたら胸のところに「UPDATED STYLE」「FOR MEN」「AMERICAN SPORTS」などと書かれていた。
雲を掴むようなコピーの数々
更新されたスタイル。しかし僕にとっては旧態依然である。そして対象性別が正面に書かれた服ってふつうないと思う。これ着て外歩いたら勘違いされそうではないか。アメリカンスポーツという言葉の捉えどころのなさも比類ない。
それは今回の本題ではないので追求しないけど、とにかく、こういった何気なく長持ちさせてしまっているモノを見せてもらいたいと思って、ツイッターやデイリーポータルのメールマガジンで募集したところ、たいへん多くの方にご協力いただいた。
それらをまとめてみたら、いくつかの傾向が見えたので、順番にご紹介したいと思う。
手作りの服は捨てられない
まずは僕のスウェットと同じように、ほかと比べてやたら長い付き合いの服があるというパターン。ちょうどいま当サイトのクラブ活動で「
毒部」を連載している伊藤さんが「
高校の部活動用(20年前)のジャージを部屋着として使っています
」とのことで写真を送ってくれた。
一見ふつうのジャージ
「伝統を重んじる部活で、当時の時点で20年以上前のモデルだったため、デザインが古くて使いづらいくせに特注で高価だった
」とのことで、言われてみれば最近の高校生が着ているパリッとしたジャージと比べてシルエットがぼんやりしている気がする。Jリーグ開幕の2年前の話だそうだ。
それでも、よく見ると県立の県が「縣」と旧漢字なところなど、渋いモデルだと思う。Jリーグも、開幕当時のユニフォームは太ももが妙に出ていたり時代を感じるから、流行り廃りのないロングランモデルだからこそ今も着ていられる、のかも知れない。
衣類で多かったのは、自分で作った服、もしくは母親が作ってくれた服をいまも着ている、という意見。
ツイッターでコメントをお寄せいただいた@myulさんは「5歳のピアノの発表会のときに、母がつくってくれた
」スカートを30代になったいまも履いているという。
かわいいけど物理的に履けるのがすごい
5歳のスカートを着ていろいろ大丈夫なのかと思うけど「当時は確かくるぶし丈でしたが現在はちょうどひざ上で、いい感じ
」とのこと。時間の経過を想像するとリアルミンキーモモである。しかしここまでのロングライフはお母さんも想定外だろう。
そのほか、小学校や中学校の家庭科の授業で作った服やパジャマを今も着ている、という方も何人かいた。
服ではなく、子供の頃に買ってもらった針山を30年以上経ったいまでも使っているのは@tommmmm08さん。
いい表情の唐子人形がついている
10代の頃は「自分が着る服の7,8割を自分で作っていた
」とのことで、針を刺しまくったせいでピンク色の部分がだいぶ剥げてしまっているけど、針はともかく針山は買い替えよう、と思うタイミングが難しい気がする。
幼稚園のときの文房具を会社でも使ってる
おそらく、今回情報をいただいた中でいちばん多かったのは文房具。特に、幼稚園や小学校で使っていたハサミやホチキスを大人になっても現役で使っている人が多くてびっくりした。
たとえば@lilithz_nanaさんのハサミは幼稚園の「お道具箱」に入っていたもので「「30年くらい使ってます。錆びもせず、切れ味も衰えず
」とのこと。僕が先日100円ショップで買ったハサミはすぐに持ち手が折れたけど、昔のこういう製品って衰えというものを知らないと思う。
持ち手が象になっている
メールで送ってくださったKAMIJOさんも幼稚園のときに買ってもらったハサミが現役。何度か引っ越しをしたのに失くすことなく手元に残っているのは「このハサミで母親がなんでも直してくれた記憶のせいでしょうか
」と、中年の琴線に触れるコメントを添えてくれた。
手書きの名前も泣ける
そのほか、子供の頃から使っている文房具を送ってくれた人は多かった。その一部を写真で見てみよう。
@funakowaさんも幼稚園のお道具箱のハサミを25年以上愛用
謎の太陽マークがお気に入り、とのこと
@uchimura_mgkさんが約40年前に幼稚園の卒園式でもらったホチキス
@drhirameさんが30年以上使用しているホチキスには今はなき社名が
@k0e0iさんのご主人が小学生の時から使っている定規で名前はお母さんが書いたそう
@CAP10_ayさんの学研の付録の定規には単位換算の豆知識が書いてある
@tablesaltさん「真ん中のグリップは高校生の頃、友達が捨てるシャーペンからラバーだけ強奪してつけました」
@yukohigakiさんが図面を引いていたお父さんから26年前に買ってもらったロットリングとファーバーカステル
@tb_lbさん「12歳から使い続けているペンケース、高校受験も大学受験もこいつと一緒でした。20年物です」
あろはさんが30年以上使ってる学研の巻き尺。形はちょっと違うけど僕も持ってた!
@nobu_24hさんが15年前の上京の際に持ち出した、お父さんの持ち物だった工作板
今ではそれでジャニーズコンサートでの応援うちわを作っているらしい、というかあれはこんなに本格的な工作だったのか
文房具、特にハサミやホチキスは機能に問題なければ買い替える理由がないので、必然的に長い付き合いになるのだろう。そう考えると幼稚園の「お道具箱」の存在は、日本のハサミ、ホチキス業界にものすごい影響を及ぼしていると思う。
成人してもライナスの毛布
今回ハサミやホチキスと同じくらい多かったのがタオルや毛布である。面白いと思ったのは、所有者がほとんど女性で、皆さんいわゆる「ライナスの毛布」的な使い方をされていること。たとえば@yokutoさんは「生まれたときから使っている(28年)ベビー毛布。じつはごく最近までライナスのタオル的な使用をしておりました。今も初夏の腹掛けに使っています
」とのこと。
「向かって右上ばかり握りしめるものだからそこだけボロボロです」
もっとすごいのは@thedrunkcatさんで「姉用に母が昭和47年に購入した、いわゆる『ライナス毛布(これはタオル)』。20年位前、補強の為に中心と周囲を縫合済み。夫すら気味悪がっている
」ということで、補強しながら姉妹でタオルを40年近く愛用している。タオルって40年も持つんだ!という新鮮な驚きがある。
姉妹に愛され40年
@kinox2kinokoさんも「私が生まれる前に母が準備しておいてくれた毛布です。上京するときも引っ越し荷物にいれて持ってきて、に帰省するときも持って行きます。もうすぐ21年目です
」と完全に毛布の虜だけど、ご本人はライナス状態に気づいているだろうか。
お前がいないと生きていけない
世の中にはさまざまな日用品が溢れている。だけど、その中からなぜか1つだけ選んで、頑にそれを使い続けてしまうことがあるだろう(今回の企画ぜんぶだけど)。理由は本人にも説明できない。身体のどこかの部分がそれを欲して、頭のどこかの部分がそれ以外のものを受け入れないのだ。
たとえばMonkさんは、小学3年生から同じ爪切りを使い続け、なんと40年を越えている。
壊れても修理して使い続ける
「先日、使っている最中に上下を繋いでいる小さな金具がゴミ箱の中へポトリ…諦めて新しいのを買おうと思いましたが、よくあるクリップ(画像左)の金具を短く切って取り付け、みごと復活しました。直った時は最高の気分でした!たぶん、これからも一生使い続けると思います
」
すごい。何がそこまでこの爪切りに執着させるのか。「鉄製はたわまないから、今のステンレス製に比べて使いやすいんですよね
」とのことだけど、それだけじゃない気がする。
同じく、@pen_yamaさんも粗品でもらった爪切りを30年以上使い続けている。
犬の形のかわいい爪切り
「小さい頃(1970年代)から家にあって、一人暮らしを始める際に持ってきて ずっと使っています。動眼が壊れてしまったので付け替えています
」
見た目はかわいいけど、やや使いづらそうな爪切り。しかも機能関係ない眼が壊れてしまったのを付け替えるというあたり、時間経過によって育まれた愛情を感じる。いや、分かる。分かるけど、分かるのと実際やる間にある壁はそんなに低くないと思うのだ。
ちょっと面白いと思ったのは@szr_Ishikawaさんが送ってくれた20年前のドライヤー。
初めて見た据え置き型のドライヤー
この据え置き型に慣れてしまって、ハンディ型ではうまく乾かせない気がする、とのこと。ここまできたらぜひこの個性的なドライヤーを使い倒してください。
もうひとり、いい出会いがあったのがメールをくださった伊藤毅さん。「私のFenderプレシジョンベースは、1970年もしくは1969年あたりに製造されたものだと思われます。今でも現役でレコーディングやライヴでいい音で鳴ってくれます
」とのことで、レーコーディング?ライヴ?と思って調べたらプロミュージシャンの方!
プロ愛用のベース
プロの機材はじっくり吟味した結果だろうし「気がついたら長い付き合い」というわけではないと思うけど、いい出会いがあって結果的に長い付き合いになるのはお互いにとって幸せなんだろうな、と思う。
いい出会いから長い付き合いという意味では、もっと多いかと思ったらひとりだけだったのがぬいぐるみ。@meguzoさんのぬいぐるみは6ヶ月くらいの頃に買ってもらって以来、およそ30年で10回以上の引っ越しをくぐり抜けた2人だそうだ。
これぞ30年以上一緒、というくたびれ感
ただでさえ子供が大人になる間に淘汰されていくぬいぐるみ達。しかも引っ越しなんてその都度取捨ての葛藤があると思うけど、それを10回以上くぐり抜けてきたこの2人は本当に運命的な出会いなんだと思う。ぜひ末永く一緒にいてあげてもらいたい。
@kaynagさんが小学校の頃にもらった財布は、22年経ったいまでもカード入れとして使われている。
「キルティングの糸がきれていたりウサギのリボンがとれかけていますが、気に入っているので捨てるつもりもありません」
「ファスナーの『color』という文字のフォントがかわいくて気に入っています」
何というか、女の子が大人になる過程で、ぬいぐるみが淘汰されるのと同じように、たとえばブランド物に価値観が移るとかそいういうことがあると思うのだけど(もちろん人によるだろうけど)、それを抜けて子供の頃から使っているものが大切にされているのを見ると、なんだか胸が熱くなったりはしないだろうか。僕がおっさんになったからか。
お別れできないキャラクターグッズ
過去には、その時代時代を彩ったさまざまなキャラクターがいた。今でも人気のあるものからいつの間にか姿を消したものまで、そういったキャラクターグッズを使い続けている人もいる。
たとえば、部屋の家具を北欧系でキメている@san596sanさんは、気がついたらゴミ箱だけ違うテイストで残っていたらしい。
ギリギリ北欧ではない
また、およそ25年前、長く入院していたため学校に友達がいなかった@shinabon32さんのご両親が、会話のキッカケになれば...と持たせてくれた缶バッグのキャラクターは、大人の事情でいつの間にか封印されていた。
まだ世界が遠かった頃のキャラクターである
ご両親の心配をよそに友達もでき、しかも最近家に来たその友達が、25年ぶりにこの缶バッグを見てびっくりしたとのこと。封印されたキャラクターもお役目を果たしたということだろう。
すっかり長くなってしまったけど、最後に「いまこのキーホルダーを使っている人がいるんだ!」と感激したふたつを紹介して終わりにしたい。
自宅の鍵を筑波万博のキーホルダーにつけている@CAP10_ayさん
自宅と実家の鍵をノリピーのキーホルダーにつけている@_miyatatuさん
何気なくかけがえのないもの
というわけで、いろいろな人に何気なく使っているいちばん古いものを教えてもらった。本当に何でもないものから本人にとっては貴重なものまで、多くの話を聞くことができて楽しかった。
でも、スペースの都合や話の流れ上、ご紹介できなかった方がほかにもたくさんいます。すみません。