万能すぎるがゆえのダブルブッキング
かけもちスポーツマンにとって辛いのは、2つの競技の試合日が重なってしまった時だ。いくらスポーツ万能といっても体はひとつだから、どちらかは断念せざるを得ない。
だが、2つのスポーツを同時にこなしてしまえるほどの超アスリートなら話はべつである。
例えば、サッカーとボクシングの大会が重なったとしよう
超アスリートはスポーツを差別しない
サッカーとボクシングの試合が重なったとする。そこらの軟派なスポーツマンなら、女にモテるサッカーを安易に選ぶに違いない。
だが、究極のアスリートはサッカーとボクシングを両立する。つまり、ボールをキープしながらパンチを避けるという、いばらの道を選ぶのだ。
対戦相手にグローブをつけてあげる、いばらの道の求道者
今回はデイリーポータルZ編集部の安藤さん、同じくライターの西村さんにサッカー、ボクシングそれぞれの対戦相手になってもらう。一方が奪いに来るボールをキープしながら、もう一方が繰り出すパンチを避けるという、亀田兄弟でもやらないトリッキーなスパーリングだ。
グローブをつけてテンションがあがるおじさんたち
なんか楽しそうである
まず、2人のパンチ力をチェックしボクサーを決める
厳正な審査の結果、ボクサーは西村氏に決定(安藤さんより弱いというのが決め手となった)
2分間パンチを避けつつボールキープ
ルールは簡単。アマチュアボクシングの1ラウンドにあたる2分間、西村さんが繰り出すパンチを避けつつ、安藤さんからボールをキープする。最終的にノックアウトを免れ、ボールを保持できていれば僕の勝ちとする。
なお、僕からはパンチを一切出さない、また一度ボールを奪われても、奪い返すのはアリとする。
果たしてサッカーとボクシングの両立は可能なのだろうか?
緊張のゴング
と、同時にキックオフ
ちなみに、サッカー歴9年です
足元に集中しすぎるとパンチが襲ってくる
パンチに気を取られると足元がおろそかになる
安藤さんを体でブロックしながらボクサーに対処
できてる、両立できてる
と思ったら、こけた
ボールは安藤さんの足元へ
開始後1分。ボールを奪われる
まだ闘いは続く
足がもつれて転倒し、ボールを奪われてしまった。 写真で見るとKOされたみたいだが、これはボクシングでいう「スリップダウン」(パンチ以外による転倒)というやつなのでノーカウント。どんなアスリートだって、時には何もないところで転ぶというおじいちゃん的失敗をするものだ。
でもちょっと休憩させてください。
疲れるドラえもん
仕切り直し
すぐにボールを奪い返して、再び体制を整える。スポーツを愛する者として、2人がかりの卑怯者に負けるわけにはいかないのだ。
などと、偽りのスポーツマンシップで自分を鼓舞してみても、とにかくしんどい。酸欠で視界がぼやけ、ひざが笑う。サッカーとボクシングを同時にやると集中力と体力が2倍のスピードで消耗することが分かった。まあ分かってたけど改めて分かった。
これ、思いのほかいいトレーニングだ。亀田兄弟もニワトリ追いかけてないで、これをやればいいと思う。
こういうモンスター、ポケモンにいそう
ボクサーとサッカー選手の間を中央突破
追いかけるボクサー
そしてまた奪われる
残り時間は少ない。早く奪い返さないと
しかしその前に立ちはだかるボクサー
やんや、やんや
わーい(楽しそう)
楽しい
楽しそうだ。とにかく楽しそうである。じっさい現場では3人ともキャッキャ言いながら少年のように狂喜乱舞していた。改めて写真で見てもその狂騒っぷりが伝わってくる。
平日の昼間からおじさん3人が走りまわる姿は見る人が見れば顔をしかめるかもしれないが、色んな人を勇気づけると思う。
しかし体力は限界。安藤さんに三度ボールを奪われる
ここで2分経過。試合終了
パンチは全部避けたが、ボールキープには失敗
この後、とうぶん立てませんでした
結果的にKOされたみたいな形になった
パンチは全部避け切ったがボールは取られてしまった。サッカーに負けてボクシングに勝利したということになる。
まあ西村さんはやさしいので本気でパンチを打ち込んだりしないのは分かっていたが、そういう相手の社会性も見越したうえで勝利を得るのが大人の処世術というものだ。
ずる賢い知恵だけが蓄積されていく
ボクシングとビジネスは両立できない
第二回戦に備えて呼吸を整えていたら、取引先から電話がかかってきた。大事な要件かもしれないがどうしよう、僕は今グローブをしているので電話を取ることができない。
ボクシングとサッカーは両立できるが、ボクシングとビジネスは両立しにくいことが分かった。
電話がとれない
安藤さんに介助してもらって事なきを得た
お手数かけます
先方も電話口の向こうにこんなコミカルな状況が広がっているとはまさか思うまい。じっさい本当にけっこう大事な要件だったので、会話の内容とふざけた格好の折り合いをつけるのに苦労した。
野球とマラソンを両立する
さて続いては野球とマラソンの両立に挑む。野球の試合とマラソン大会の日程が重なってしまった時のためのシミュレーションだ。
このあと地獄が待っていようとは
つまり、マラソンを走りながら、打順が回ってきたらバッターボックスにも立つというわけだ。
マラソンを走りながら
バッターボックスに立ち
またマラソンを走る
これと似たような話を漫画「こち亀」で読んだことがあるような気がするのだが、本当にあったかどうか定かではない。とにかく、マラソンを目標タイムで完走することと、バットで結果を残すことを両立するのだ。
平均タイムを上回り、かつ3割を打つ
とはいえマラソンを走る体力も根性もないので1500mでなんとか勘弁してもらいたい。
この公園は1周約400mなので4周弱で1500m。4周走る間に、安藤・西村バッテリーが10打席の勝負を仕掛けてくる。1500mの31歳平均タイム12分を切りつつ、一流バッターの証である打率3割越えを目指したい。
1周400mのコースを走る
安藤-西村のバッテリーは先回りして待ち伏せ
第2打席
ピッチャー安藤、投げました
空振り
そしてまた走る
先回りしなきゃいけないこのふたりもけっきょく走らされる
当たらない
安藤さんはかなり山なりのボールを投げてくれているのだが、まったくバットに当たらない。
致命的な野球のヘタさを「マラソンしてるから」という言い訳でごまかすことができるのは助かるが、それでは両立していることにならない。なんとかヒットを打ちたい。
走ってバッターボックスへ。野球選手なら賞賛に値する姿勢
第3打席
空振り
悔しい
第4打席・空振り
第5打席・空振り
ヒットどころかかすりもしない。仕方ないのでバットを短くもち、大きいのを捨ててミートに徹することにした。
今回は数十メートル手前から集中力を高める
運命の第6打席
さあ来い
カキーン!
きれいなクリーンヒットが芝生をとらえた
やった!
バットマンの覚醒
ホームランを打ちたいという欲を捨ててバットを短く持った途端、結果が出た。まるで人生のようではないか。これからもミートに徹してコツコツ生きていこう。
また打席に入る20m手前あたりで、マラソンから野球モードに切り替えるのもヒットを打つコツだ。
20m手前で野球モードへ切り替え
カキーン
第6打席・ヒット
第7打席・ヒット
第8打席は惜しくもファウル
第9打席・ヒット
この時点で3割確定
ここまで9打数4安打。この時点で打率3割が確定した。あとはタイムである。
ヘロヘロの足取りで最終打席へ
残る力を振り絞ってフルスイング
白球は青空の彼方へ
ホームラーン
高々と舞い上がった打球は青空の彼方へ吸い込まれた。最後の最後にこの日一番のホームランをかっ飛ばすことができてうれしい。記憶と記録に残る10打数5安打である。
そして感動のゴール
瞬間、とてつもない疲労感に襲われ、泥のようにうずくまった
タイムは惜しくも44秒オーバー
両立ならず
バッティングでは結果を残したが、1500mのタイムは惜しくも目標の12分を切れなかった。こんなに頑張ったのに夢が叶わないなんてことがあるんだろうか。世の中は無情だ。
うそでしょー
両立の壁は思いのほか高い。だが、次こそ夢を叶えたいと思う。
でも1時間休憩させてください
サッカーと相撲の両立
サッカーと相撲。どちらも日本の国民的スポーツである。これが両立できたら日本を代表するアスリートになれるに違いない。
ちなみに、かつて朝青竜が本場所と巡業の間にサッカーをしていたが、今回やるのはそういうことではない。
まずゴールキーパーを用意し
ゴールの手前10mに土俵を書きます
強敵・西村を倒してゴールを決める
ルールはこうだ。西村さんと相撲で対決をしながらスキをついて安藤キーパーのいるゴールにシュートを放ち、ゴールを決める。むろん相撲にも勝ってゴールも決めることが両立の条件となる。
ちなみに、西村さんは「体がでかい」という理由だけで相撲部に入部させられそうになったほどの力士。相手にとって不足はない。
しかし実際には入部を断ってしまうほどの意思の持ち主
ちなみに僕は相撲の経験はないがちゃんこは大好きだ。ちゃんこパワーでなんとか金星を上げたい。
はっけよい
のこった(&キックオフ)
足腰をふんばりながら利き足にボールを移動
シュート! しかしボールはゴールマウスの外へ
シュートしてちゃうとただの相撲になる
一瞬のスキをついて放ったシュートはゴールの枠を大きく外れた。惜しくもゲットならず。ボールが飛んで行ってしまったので、ここからは純粋な相撲対決である。せめて相撲だけでも勝ちたい。
西村乃国の強烈な寄り切り
しかし土俵際で切り返し
重心を低くして一気に押し出す
勝った!
かつての小兵力士・舞の海は「小が大と同じ戦い方をしては負ける。小は小なりの戦い方が必要だ」と語ったといわれている。
べつにその戦い方を参考にしたわけではないが、自分より体格のいい西村さんを相撲で破ったことは、この先の人生においても大きな自信になりそうだ。
しかしまたもや両立ならず。ガーン
第二番
しかしここで諦めないのが相撲道。今こそ大横綱・貴乃花が大関推挙伝達式で述べた「不撓不屈」の精神を発揮する時だ。
というわけで第二番
のこった!
さきほどと同じくボールを右足の前へ運び
シュート!
見事ボールはゴールマウスへ。ゴール!!
あっ
ボールがゴールに吸い込まれたその瞬間、僕は雲ひとつない美しい青空を仰いでいた。シュートを放った直後、無残にも倒されてしまっていたのだ。
西村さんいわく「シュートを打つ瞬間にバランスが崩れる。そのスキを狙えば簡単に倒せる」とのこと。なるほど。では次はその点に注意して臨むとしよう。
ラストチャンスの第三番
のこった!
強烈な寄りに耐えつつシュートチャンスをうかがう
よし!打てる
と思ったら安藤キーパーの思い切りのいい飛び出しでボールをとられる
そして相撲にも負ける
完敗
両立できない
ここでも両立は叶わなかった。安藤さんも西村さんも、おっさんの健気な夢を叶えるためにちょっとくらい手を抜いてくれたってよさそうなものだが、そこはガチでやるのが礼儀だと思っているのかもしれない。そんなスポーツマンシップいらないから勝たせてほしい。
ちなみに僕らはこの遊びをたいそう気に入ってしまった。もう少しきちんとルールを整備し、ゆくゆく「すもッカー」として正式に競技化することを検討している。
この後、3番とりました
ラストは短距離と相撲の両立
次がいよいよラストの競技。挑むのは短距離走と相撲を組み合わせた「短距撲(タンキョモウ)」だ。本当はマラソンと相撲を組み合わせたマラモウにしようと思ったのだが、体力が限界なので距離を短くした。
ラストもルールはシンプル。コース上をふさぐ2人の力士をなぎ倒しながら100mを駆け抜け、目標タイムの15秒を切りたい。
よーいドン!
コース上に待つ第一の力士
はっけよい
のこった
のこったのこった
そして散々のこった挙句
惨敗
しかしまだタイムという希望が残っているので
すぐに立ちあがって走る
安藤丸とけっこうな大相撲を展開してしまったので体力と時間を大きく消耗してしまった。
どうせ負けるならすぐに負けちゃえばよかった。
第二の力士・西村乃国
のこった!
瞬殺!
二連敗!
諦めへん!
何度たおれても前へ
そして感動の
ゴール!
最初は距離を500mにし、100mごとに刺客を置いてしかもだんだん敵が強くなる死亡遊戯システムを考えていたが、やめてよかった。たぶんそれをやったら死んでいた。
「短距撲」はそれくらいハードな競技なのである。
タイムは48秒。相撲に負け、タイムも大きく届かなかった
両立は叶わなかった。疲労とショックでぐったりしていたところ、近くでバーベキューをしていたとみられる若者グループに安藤さんが写真撮影を頼まれていた。
ここを押せばいいんですね
ハイ、チーズ!
若者よ、おじさんは意外と傷つきやすいんだぞ
その後、なぜか僕も若者グループと一緒に写真を撮ることとなり、冒頭の集合写真が生まれたというわけだ。若者にしてみれば日本代表の18番を着て公園を疾走しているおじさんが珍しかったのかもしれない。
「本田にしてはぽっちゃりしてますね」という、若さゆえの無邪気な一言が胸にささった。
スポーツ×スポーツはおもしろい
惜しくも両立は叶わなかったが、スポーツとスポーツを組み合わせるというのはおもしろい遊びだった。とくにすもッカーは大の大人が思わず夢中になってしまうほど秀逸な遊びだった。
「もう少しきちんとルールを決めてやればポートボール程度には流行るんじゃないですか?」。そんな西村さんの言葉が印象的だった。
ぽっちゃりを笑う者はぽっちゃりに泣く。そんな言葉を彼らに贈りたい