天が与えた猫背
いまでこそ若干ぽっちゃりしている筆者だが、数年前までは痩せていた。しかし、痩せているころからその猫背っぷりには定評があったのだ。まさに天性の猫背である。できることならもっと違う才能がほしかった。
しかし、なんにせよ人より傑出したものがあるというのはいいことだ。もし、ぼくが本当に誰よりも猫背であるならば、これは誇ってもいいのではないか。
自信を確信に変えるため猫背を測る装置を開発し、猫背バトルの旅に出ることにした。
これがその猫背計測マシーン。「オール阪神1号」
IT界屈指の猫背と対決
やってきたのはデイリーポータルZの編集部があるニフティの新しいオフィス。日々パソコンに向かって仕事をしているIT企業の社員はさぞかし猫背に違いない。
さっそく「我こそは猫背」という挑戦者を募ったところ、いきなり最強のチャレンジャーが現れた。
デイリーポータルZ編集部の石川大樹氏である。
自他ともに認める最強の猫背
最も出っ張っているこの部分を起点に
脳天までの傾きを「猫背力(ねこぜりょく)」として計測
背中の最も出っ張っている部分から脳天までの傾きを計測。最も背筋が伸びている状態が90度だから、数字が小さいほど「猫背力」は強いということになる。
それにしても石川さん。さすがは編集部イチの猫背を自称するだけあって、ものすごく姿勢が悪い。大樹とは名ばかりのしなだれっぷりである。
これはいきなり凄い記録が出そうだ。
驚愕の「猫背力60」!
凡人の場合はどうか
「驚愕の!」なんていわれても、この記録がどれだけ凄いかイマイチ分からないと思うので、参考までに一般的な背中で測ってみよう。
姿勢のいい編集部・安藤さんで測ってみる
計測中
猫背力83
見るからに姿勢のいい安藤さんの猫背力は83。ビジネスシーンでは好ましい限りだが、猫背シーンにおいては明らかに劣等生である。石川さんとはじつに23もの開きがある。
では、気になるぼくの猫背力はいくつなんだろう。
最もナチュラルな状態で静止して計測
見た目は石川さんに負けず劣らずのまんまるっぷり。これぞ猫背界の頂上決戦だ。相撲でいえば千代の富士VS大乃国である。
ドキドキ
「猫背力55」! 猫背のK点を超えた瞬間だ
アイム・ア・チャンピオン
もっと強いやつと闘いたい
脅威の猫背力55を叩きだしたぼくはもはや人間ではなく猫といっても過言じゃないだろう。これからは胸を張って猫背といいたい(ややこしい)。
もはや人間界に敵はいない。自分を燃えさせてくれる相手を求めて海を渡ったダルビッシュのように、ぼくも猫背界のメジャーリーグを目指すことにした。
まずはVS「胡蝶蘭」
ニフティの受付には、オフィス移転を祝う胡蝶蘭がたくさん置かれていた。美しい花々の重みで頭を垂れる胡蝶蘭は茎がしなって見事な猫背っぷりだ。猫背界のペドロ・マルチネスである。
植木業者のふりをしてこっそり計測
90度じゃ足りなかったので分度器を裏返して計測
なんと「猫背力-27」
胡蝶蘭の猫背力はなんと「マイナス27」だ。こんなのに勝てる人間は原人か100歳のおばあちゃんくらいだ。これは恐れ入った。
世界にはまだまだ凄い猫背がいる。まだ見ぬ猛者を探して、外へ飛び出した。
このアングルでも背中の丸さが分かる
井の中の猫背
案の定、世界は猫背で溢れていた。例えば、ガードレールやエスカレーター、そして石。
それぞれのさりげない佇まいの中にひそむ猫背っぷりを見て取ると、冷たい無機物にも親近感がわくから不思議だ。
丸そうなやつは大体ともだち
猫背力69。筆者の勝利!
いい猫背してますねえ、大将
猫背力43。筆者の負け
じたばたするなよ、減るもんじゃないし
猫背力43。筆者の負け
あんた、セクシーだねえ
猫背力40。筆者の負け
世界は広かった。自分のことを猫背界のカリスマだと思っていたが、街にはぼくなんぞより凄いやつらがゴロゴロいたのだ。日本で敵なしの高速スライダーをメジャーリーガーに打ちこまれる松坂大輔の気持ちが分かった。
ぼくらの猫背、なにレベル
ちなみに街中には、ぼくや石川さんたちの猫背力とまったく同じものもあった。
思春期の男子みたいにとんがった彼の猫背力は
ジャスト60。石川さんと同レベル
石川さんの背中と思って撫でまわすとヘンな気持ちになる
新宿区のポールは
猫背力83。こっちは安藤さんと同レベル
ちなみにぼくは自転車置き場の鉄柱と同レベルでした
猫背力55
おれの背中こんな曲がってんのか。そう思うとちょっと不安になる
どうですか? 似てますか?
屋根を支える強度を計算して、最適な角度に曲げられた鉄柱。一見頼りなさげに映るその猫背によって、風雪から自転車を守っているわけだ。
ぼくも誰かを支え、守れる人間になろうと猫背に誓った。
猫背なあの人も
そしてこの人も、みんな丸い背中で闘ってるんだ
ビジネスシーンでは背筋を伸ばすことがマナーとされているが、猫背だってがんばっているんだ。むしろ猫背が日本を支えているといっていい。猫背なビジネスマンがもっと増えれば、株価だって上がるはずだ。
あ、ハトだ
もしかしたらハトも猫背かもしれない
ハトや~い
ハトよ~い
測らせてくれませんでした
ハトは猫背じゃない
捕って食われると思ったのか(こっちは猫だけに)、ハトは背中を測らせてくれなかった。でも見るからに姿勢のいいハトばかりだったので、測るまでもなくハトは猫背じゃないといえるだろう。ハト界のビジネスシーンではマナーが遵守されていた。立派だ。
猫背な銅像
さて、ハトにつられて公園にやってきたら、猫背の大先輩に出会ってしまった。
拙者、猫背でござ候
猫背界の偉大なる先達
名前は分からないが新宿中央公園で銅像になっていた武士の人。その背中は見事に丸かった。どんな偉業を成した人なのかは知らなくても、その猫背っぷりだけで無条件にリスペクトだ。
新宿中央公園には姿勢がいい銅像もたくさんいた
これなんか、姿勢がいいのを通り越してふんぞり返ってる始末
公園内にはたくさんの銅像が設置されていたのだが、猫背な銅像は少なかった。やはり銅像になるような人物はそもそも猫背じゃないんだろうか。
そんなふうに思い始めた時、素晴らしい才能と遭遇した。
ほおっておけないその背中
せつなすぎる後ろ姿
今すぐあったかい毛布をかけてあげたくなるような背中だ。いったい彼に何があったんだろう。
ねえ、どうしたんだい?
果たしてその猫背力は
猫背力63。やはりかなりの実力者
なんだよ!
「猫背=モテる」という確信
やはり猫背な背中には独特のメッセージ性があると思う。その丸い背中には、怒り、悲しみ、くやしさ、切なさ、やりきれない様々な思いが詰まっているのだ。もしかしたら単純に寒いだけなのかもしれないが、それにしたって耐えしのぶ男のハードボイルドな哀愁が漂うのだ。
いま、猫背の社会的地位がグングン向上しているのを感じている。そろそろ『an・an』で「猫背系男子」の特集が組まれてもおかしくない。
そして、ぼくはそんな猫背系男子の神様ともいえる存在に出会ったのだった。
究極の猫背系。それは猫でした
猫は猫背なのか?
そろそろ撮影を終了しようかと思っていたその時、目の前に現れたのは猫の銅像。こんな偶然があるだろうか。
運命的な出会いに感動を覚えると同時に、脳裏に浮かんだひとつの疑問。それは「そもそも猫は猫背なのか?」ということだ。
これは確かめるしかあるまい。
一礼してから計測に挑む
失礼します
猫の猫背力は65
結果、猫はそんなに猫背じゃないという驚くべき事実が発覚した。もしかしたら猫背界のタブーを犯してしまったのかもしれない。
猫背バンザイ
ここまでさんざん猫背を賛美してきてなんだが、じつは本日をもって猫背を卒業しようと思っている。理由は健康上の都合。猫背というのは体に負担がかかり、腰痛や病気の原因にもなり得るという。まさにNEKOZE or ALIVEだ。
こんなにかっこいい猫背を捨てるのはもったいないが、これからは背筋を伸ばして生きていこうと思います。
会社別にいちばん猫背な胡蝶蘭を探そうかと思ったが、ニフティと取引先の関係が悪化しそうなのでやめた