サラリーマンの伝統
サラリーマンたる者、心地よい酩酊状態に陥ったときには頭にネクタイを巻くのが礼儀であろう。
仕事中は首に巻いているネクタイを頭に移すだけで、気分は一気に祭り。浮かれたハチマキのような風貌が特別な日(ハレ)感を演出する。あっという間に酔っ払いの仲間入りだ。
カンパーイ!
ふう‥少し酔いも回ってきたなあ‥
そろそろか。よいしょ‥(キュッ)
わーわー
イメージするのはこんな調子である。
実際写真で見てみると、やや古風な感じがする。携帯の電波が飛んでない時代の文化だ。かっこいい。ぜひマスターして古きよき伝統を発展的に継承したい。
頭に巻いてかっこいいネクタイを知る
何が頭に巻いていいネクタイか?
それを知るために品評会を開催することにした。やはり酔っ払いとはいえ、頭にネクタイもファッションの一種である。よって、確かな目を持った人に、どれがいいネクタイなのか判断してもらうべきである。
確かな目を持った審査員たち
そろった審査員はデイリーポータルZ編集部・ライターの男性3人、女性2人。彼らに私のネクタイ姿を見てもらい、「良い(3点)」「ふつう(2点)」「わるい(1点)」の点数をつけてもらった。
さらにデイリーポータルZ編集部古賀さん(丸枠 左)と、女性向けコミュニティサイト
Style Walker編集 許斐麻梨子さん(丸枠 右)にコメントをもらう。
私が持参したネクタイは以下の9種。
左から普段使い(3本)、100円均一(2本)、ぼくの父のもの(3本)、そして伊勢丹で購入した5000円のいいネクタイ(1本)である。
ネクタイナイン(今回用意したネクタイたち)
この中から「酔っ払って頭に巻いたらかっこいいネクタイ」が決定される。
最後の伊勢丹のネクタイについては、今回の企画に備えて店員さんに「かっこいいのどれですか?」と相談して買ったので、少し自信があるのだがどうだろう。
「みなさまお疲れ様です!」
敬礼!
このように頭にネクタイファッションショーが行われた。点数は集計して、ランキングを作った。
次ページで最下位から発表していこう。
かっこいいネクタイ鉢巻ランキング完成
ここから私のぼんやりした笑い顔の写真が続くので恥ずかしいのだが、そもそも酔っ払いは恥ずかしいものなので気にしないことにして、ランキングの発表に移ろう。
第8位は同率で普段使いの紺色ストライプのネクタイと、父親のフランスモチーフネクタイであった。
点数は6点。5人中4人が1点(ダメ)を投票したことになる。もし宴会で酔っ払っても、その日、このようなネクタイをしていたら頭に巻くのは危険だ。
ふだんのネクタイ。たしかにぎこちない。
首に巻いても頭に巻いてもダメなネクタイ
【ふだん紺ストライプ(6点) 寸評】
・スーツに”合わせてきた”というあざとさを感じる (男性)
・新人っぽく、まだ飲み会でハメを外せる段階にないのでは(男性)
【父フランスモチーフ(6点) 寸評】
・辛気臭く、酔っ払いが持つ明るさがない(男性)
・頭の横に幽霊がいるっぽい (女性)
・年配の人がしてるネクタイのよう(女性)
人気のなかったフランス柄
フランスモチーフのパッとしなさはともかく、よくある紺色のストライプは頭に巻くと印象が良くないことがわかった。確かに写真を見ても、ぎこちなさを感じる。
酔っぱらいの浮かれ感と無難なデザインはマッチしないようだ。気を付けたい。
続いてあまり人気がなかったのは、紺に小さなイヌが配置された父親のネクタイ。
小さなオシャレはあまり効果を発揮せず
小さなイヌが散らばってる
【父イヌ柄(8点) 寸評】
・小さい柄はおもしろくない。明日にはいたことを忘れる酔っぱらい (男性)
・おみやげの寿司がしっくり来る柄(女性)
・小さい犬を人に見せるところはおもしろかったが、酔っぱらいとしてはふつう。急いで酔っ払いになった感じ(女性)
・ネクタイみたいでぐっとこない。ネクタイっぽく見えないのがスタイリッシュなのかもしれない(女性)
頭に巻くネクタイとしては、小さなポイントで気を使っても無駄なようだ。むしろ小さな柄をアピールする行為が、酔っぱらいの負の側面を際立たせることになる。
飲み会というハレの場では、チマチマした柄はよくない。普段はしないネクタイに挑戦するような、大きな気持ちで臨もう。
落ち着いた柄の2本が5位にランクイン。自分にしては高級な伊勢丹ネクタイもここに!
黒地に明るいラインがレーザーに見えるそう
いいネクタイなのでちょっと前に寄ってしまった
【ふだん黒チェック(10点) 寸評】
・清潔感がある。酔っ払ってる感じがする(女性)
・暗い所では黒が背景に溶けて、柄だけ見える。レーザーっぽい (男性)
【伊勢丹(10点) 寸評】
・可もなく不可もなく、初級編としてはアリかも。真面目な印象がある (女性)
・ペイズリーの白抜きが清潔感がある。真面目!!!(女性)
実は親にもらった商品券で買ったわけだが
清潔感があるのは首に巻くネクタイとしてはいいのかもしれないが、頭に巻くとそこそこという印象で終わってしまうのかもしれない。“ふだんのネクタイ”と“頭に巻くネクタイ”のズレを認識した。
あと親の金(商品券)で買ったネクタイを「真面目」と言われたので騙した気分になった。
酔っ払いに小さなおしゃれは向いていない
【ふだん赤ストライプ(12点) 寸評】
・情熱の赤というか、確かにやる気を感じる(男性)
・ストライプがねじり鉢巻っぽくなって酔っ払いの脱力感をなくしている(男性)
・頭から血が吹き出してるみたいで華やか(女性)
これを付けて僕が登場したとき、みんなが「おっ」という雰囲気になったのを覚えている。黒い頭に巻くならこれくらいの色のほうが目立つのだろう。
無人島で宴会をする時に一本だけネクタイを持っていってもいいと言われたら、赤いものを選択しよう。かっこいい上に目立つから救出率も高くなるはずだ。一石二鳥ですね。
上位に位置する3位にあらわれたのは100円均一で購入したネクタイだ。
頭に巻くとおしゃれな感じ
100均界では有名なNativeClub
【100均ブラック(13点) 寸評】
・全体の色がまとまっていてオシャレ度は高い (男性)
・目立たないけど光沢がある。法事にアリ? (女性)
・ネクタイが深い色でかっこいい。頭には目立たない気がする (男性)
100円で買ったものなのだが、オシャレ度の評価は高かった。派手でもなく地味でもない生地の光沢と模様が、フォーマルな場に適しているという意見があった。
法事の席では「酒を呑むのが故人の弔いですから」などと言いながら、こういうネクタイを頭に巻いてオシャレにキメたい。
1位はやっぱり2本ランクイン! 100円均一のピンクのネクタイと、父親から借りた謎の柄のネクタイだ。
評価を見てみよう。
色味、長さ、ヨレ具合が全てマッチした
【100均ピンク(14点) 寸評】
・長いので歩くとなびく。やや肉感的(肉色、ハム色)でSEXYなところもあるか (男性)
・ネクタイがくたびれているのもいい。ストライプがゆがんでいるのもドランク (男性)
・ゆるふわ感あり。うかれてる。首にはナシだが、頭にはアリ (女性)
・ザ・若手という色のネクタイですね。細身だからかわいらしく見えます(女性)
よくわからない柄だが頭にはハマった
【父謎柄(14点) 寸評】
・ランボーのようなジャングルでの戦闘を想起させる。酔っ払い界のヌーヴェルヴァーグ、こういう流れもアリかとはっとさせられる。 (男性)
・幅が広いし、ハチマキ部分もよい。 (女性)
・柄が大きい方が「おっ巻いたな!」って感じがする。ダイナミック(ダイクマくらい)。何の柄かわからないところがよりミステリアス (女性)
・首に巻くネクタイとしては趣味が悪いけど、頭に巻くとおしゃれ感がある(女性)
どちらもふだん使うネクタイとしてはどうかと思うデザインだが、頭に巻くと俄然存在感が高まった。酒の席には気取り過ぎないネクタイが最適なのだろう。
「買ったもののやっぱり使う機会がないなあ‥」なんてネクタイがあったら飲み会専用として改めて評価するのはどうだろう。骨董的価値があるかもしれない。奥深い世界だ。
ダサいネクタイがかっこいいという不思議
ふだん使っているネクタイはあまり頭に巻くのには適さず、逆にちょっと‥‥と思うようなネクタイがハマった。評価の高かった100円均一のネクタイは手軽に用意することができるので、ぜひ用意しておいて欲しい。私も100均のピンクのネクタイはかばんに常備しておくことにした。
それにしても普段のネクタイがダメで、ダメなネクタイが良い感じだなんて不思議なものだ。みんな、飲み会というワンダーランドに迷い込んだアリスなのかもしれない。