「お兄ちゃんはサンタになりたいんだ」
サンタを信じている子供にサンタの話を聴く。「デイリーポータルの取材です」というわけにもいかないので、今回こういう設定で話を進めることにした。
・僕はサンタクロースになりたいと思っている人
・だけどどうやったらなれるのかわからない
・なので昨年サンタが来た子供たちからサンタ情報を収集している
この設定は編集部の工藤さんが考えてくれました
これで子供たちの夢を壊さずに済みそうだ。でも、僕は小さな子供とふだん全然交流がない 。ちゃんと話ができるだろうか。緊張しながら一人目の取材に向かう。
太郎くん
太郎くんは当サイトライター西村さんの子供。待ち合わせ場所に行ったら、唐突に太郎くんの方から話しかけてきてくれた。
なんか怪しい人間に見えるけれど、お父さんに撮影してもらってます
斎藤 太郎くん、こんにちは!
太郎 ねえねえ、飛行機のおもちゃ作れる?
斎藤 え?飛行機?作れない。なんで?なんで飛行機?
太郎 だって…僕んちにトミカの飛行機ある。
どうして初対面の人に突然飛行機のおもちゃの話をするんだろう…。子供とうまく話せるか、という不安は意外な形で吹き飛んだ。
太郎 トミカ作ったことないの?
斎藤 トミカって最初から出来てるんじゃないの?作ったことないなー
太郎 それじゃあ、紙飛行機は?
斎藤 紙飛行機は、作ったことあるよー!
太郎 それじゃあ、紙をハサミで切って、エイ作ったことある?
斎藤 エイ?魚の?作ったことない。
太郎 僕ね、もう作ってね、カバンの中に入ってる。
斎藤 なにそれすごい!見せて見せて!
このエイがまたすごく良く出来ている
見せてくれたのは太郎くんが保育所で作った紙のエイ。これを見せたかったのか。唐突と思えた飛行機の話は、自分の工作を見せる前フリだった。
たしかに紙切りのエイよりも、飛行機のおもちゃの話の方がいくらか一般性が高い。入り口として正解だ。よし、こっちもそろそろ聴きたいことを聴かせてもらうか。
サンタさん来た?
太郎 家に紙あるんならー、エイ作った方が良いよ。
斎藤 わかった。作るよ。あ、それでさ。今日は相談があって…お兄ちゃん、サンタさんになりたいんだ。
太郎 サンタさん?
斎藤 うん。だけれど、どうしたらなれるかわからなくて…。太郎くんちって去年サンタさん来た?
太郎 来たよ。キックスクーターくれた。あとパズルの地図。
キックスクーター検索したらこういうの出てきた
太郎 僕が寝てる時にねー、(サンタさんが)ドスンて音立ててた。
斎藤 へー、サンタさんの音、聴いてたんだ!
かわいいなあ。サンタクロースのことを信じて疑っていない。足音の件は本当に聴いたのかもしれないし、信じている過程でできた創作かもしれない。
煙突の問題
太郎 ねえねえ、うちに来る?あのビルが僕んち。
太郎くんの言っている「ビル」とは高層マンションのこと
斎藤 あそこに住んでるんだ!ねえ、太郎くん、サンタさんって「煙突から来る」っていうじゃん。太郎くんちって煙突あるの?
太郎 ない!だってビルだもん。
斎藤 ないよね。ああいうビルってどうやって入ればいいのかな?
太郎 わかんない。んー、あそこ(マンションの最上部)にソリをつけて、落ちてくる。
落ちてくる、じゃなくて降りてくる、だな
なるほど。サンタクロースは、マンションの一番上にソリをつけて落ちてくる。たしかにマンションの玄関につけて上がって行くのは大変なので理にかなっている。
サンタどうでもいい
太郎 ねえねえ、アトムって知ってる?
斎藤 知ってるよー。
太郎 足から火が出るやつ。アトムってかっこいいよねえ…
しばし鉄腕アトムの話題
太郎くんはサンタの正体に気付いていない、というよりもサンタ自体にほどんど関心がないようだ。取材もここまでかな。最後に西村さんと仲の良い写真を撮影。
サンタさんは君の後ろにいるよ
すると太郎くんからの自作のエイの撮影リクエストが来た。しかも、一枚だけじゃ納得いかない様子である。エイのアングルを変えて何枚も撮った。
言われるがままに撮った
もじっとしてられないのでブレる
子供がいるときっと良いカメラ欲しくなるんだろうな
素晴(すはる)くん
お友達のぬいぐるみ作家、
せこなおさんの子供の素晴くん。
待ち合わせの改札で僕を見るなり「さいとーくーん!」と駆け寄ってきてくれた。彼とは初対面なのだが、人見知りのしない人で助かる。
駅構内で良さそうなパンフレットを見つけたそうです
素晴くんはファミレスに移動すると、パンフレットの上に薄紙を敷いて電車の写真をトレースし始めた。以下はその合間に聞けた話です。
お母さんにべったり
斎藤 素晴くん、ちょっと聴いてー。お兄ちゃんサンタになりたいんだけれどさ、どうすればいいかわかんなくてさあ。どうすればなれるかなー。あ、素晴くんちって去年サンタさん来た?
素晴 僕寝てたからわかんない。でも夢で見たよ。
斎藤 夢でみた!どんな夢?
素晴 ドアを見てるとねえ、サンタさんが下にいたよ。
「ドア見ているとサンタが下にいた」ってこんな感じか
夢と現実の区別がついていない雰囲気である。ついでに言うと本当に夢で見たのかどうかもあやしくて、ただの創作かもしれない。幼児は幻想怪奇ミステリー小説みたいな世界を本気で生きている。
サンタさんへのお手紙
斎藤 欲しいものってサンタさんにどうやって伝えているのかな?
素晴 この前お手紙書いた。
斎藤 見せて見せて。
覚えたての字
仮面ライダーフォーゼのロボだって
と、ここでせこなおさんの解説。
仮面ライダーは毎年9月に新作が始まる。クリスマスが近くなると関連のおもちゃは、ほどんど売場になくて、ネットオークションで高値がつくような状況なんだそうだ。
手に入るようなおもちゃに子供を誘導するのも一苦労、とせこなおさんは言っていた。サンタの成立には、繊細な段取りが必要である。
「親達も必死ですよ…」
サンタよりも女
斎藤 素晴くんはさ、サンタのこと好き?
素晴 女じゃないから好きじゃない。
え!そういう問題なの。何気なくした質問だけれど、ショックな回答だ。
斎藤 ああー、そっか、なるほどな。でもさ、「好き」っていっても色々あるじゃない。素晴くん、仮面ライダ-フォーゼとか好きでしょう?
素晴 好き。
斎藤 それと同じような感じでさあ、サンタのこと好きじゃないの?
素晴 あんまり好きじゃない。好きなのは、このケーキ!
ママサンタの手前なんとか「サンタのことが好き」という言葉を引き出したかったのだが
ついさっき「プレゼントのために親がどれだけ頑張っているか」という話を聴いていただけに、気まずい。そうか、サンタよりもケーキか…。
帰り際に「抱っこして!」と言われる。そんなに僕ら仲良かったっけ?でも悪い気はしない
意味もなく別れを嘆く
むぎくん
当サイトの読者の今西さんにも協力してもらえた。
サンタを信じているむぎくんは6歳
偶然だが、今回サンタを信じている子供として取材できたのはみんな6歳男子だった。来年度から小学生で学年も同じだ。これも何かの縁、20年後くらいにこの3人で集って記事を見ながらオフ会でもして欲しいと思う。
すれ違いの手紙
ガストのドリンクバーにはしゃぐむぎくん、飲み過ぎを牽制するお母さんという構図
斎藤 お兄ちゃんさ、サンタさんになりたくて。でもどうしたらいいかわかんないんだ。みんなに聴いて回っているんだけれど、むぎくんちって去年サンタさん来た?
むぎ プレゼントは置いてあったけれども、サンタさん見てはいない。
斎藤 去年はどんなプレゼントもらったの?
むぎ 車のおもちゃ。
斎藤 乗り物好きなんだね。
むぎ ううん。別に…
斎藤 他にもっと欲しいものあった?
むぎ うん。
これはお母さんがっかりなんじゃないか。余計な波風を立ててしまったか。
今西 むぎくん、去年はお手紙書かなかったもんね。
むぎ ううん。書いた。テーブルの上に、置いておいた。
今西 あれ?書いてたの?それ、サンタさん見なかったんだねぇ…
「手紙、あったかな?」
斎藤 今年は手紙書かないの?
むぎ あのさ、僕はお手紙は書かないから、プレゼントはお楽しみにしているの。
今西 それで変なもの来たらどうしようか?
斎藤 要らないものとか、ゴミみたいなケシゴムとかだったら…それでも良い?
むぎ うん。
ゴミでも良いと言い切った。むぎくんは、意地悪な質問に答えるのをめんどくさがっているように僕には見える。その一方で、「そうか…あんまり期待してないのかな…」と今西さんがつぶやいた。
サンタいつもは何をしているのか
むぎ 僕も、サンタさんにはわからないことがある。
斎藤 うん。
むぎ 去年、サンタさんはプレゼントくれたけれど、それから1年どうやって過ごしているのかなって思う。
斎藤 ああー、確かに。何しているんだろう。
今西 お仕事したりしているのかな?会社員だったりするのかな。
兼業でサンタってのも大変そうだ
むぎ でもね(幼稚園でやった)クリスマス会。あそこに来てるのは本物じゃないんだよ。
今西 サンタさん3人来てたもんね。
むぎ あの中の1人は、(幼稚園の友達の)リョウくんのおじいちゃんだよ。だってリョウくん教えてくれたもん。
それはリョウくん言っちゃいけないだろう。むぎくんは「おじいちゃんサンタは本物のサンタと別物」と考えているが、他の園児はサンタの仕組みに気付いてしまったかもしれない。
プレゼントの調達先
今西 サンタさんってさ、どうやっておもちゃ用意してるのかな?おもちゃ屋さんで買ってるのかな?
むぎ そしたら自分がサンタクロースだって(おもちゃ屋に)バレちゃう。
今西 ふつうのかっこしてればバレないんじゃないかなー。
むぎ わかるよー!ヒゲこんなに生えてたらわかっちゃう。
この時むぎくんが指したのは、コカコーラのサンタ
服を変えてもバレるね
今西 サンタさんはじゃあ買ってないんだ?
むぎ 買ってないよ!自分で作ってる。
サンタクロースはおもちゃを自分で作る?
お母さん、なかなか深いところまでえぐってくる。それにしても「自分で作っている」というのはさすがに無理がないか。僕はこの応答でむぎくんが感づいてしまうんじゃないかと、ハラハラしてきた。
サンタをダシに遊ばれているこに気付かないで無邪気に甘えておる
さっきの素晴くんもそうだが、むぎくんもお母さんにべったり甘えている。恋人同士のようだ。お母さんたちは「相手するのめんどくさい」なんて口では言うが、まんざらでもない様子。
自分も小さい頃はこうだったはずだ。いくらか残っている記憶がフラッシュバックしてきて、母には敵わないな…としみじみ思った。
その後むぎくんはデジカメのモニタに出ている波形に興味を示し
いろんなところにカメラをむけて波形が動くのを楽しんでいた
むぎ 本当はね、ライダーのベルト欲しいの。
今西 えっ。そうなの。そうだったのか…。今まで言わなかったよね。
むぎ だって、欲しいって言うと怒る。
今西 怒らないよー。でもママはライダーのものは買わないもんね。
むぎ あー、今の話、サンタさんが聞いてくれてたら良いのになー!
斎藤 あはは、聞いてくれてたら良いね!
サンタに興味なし
今回3人の子供に話を聴いて共通しているのは「サンタ自体にほとんど興味を持っていない」ということだった。それにひきかえ、正体のお父さんとお母さんはなかなか大変そうだ。
無邪気さゆえの無関心と、両親の愛情が良いバランスでまざりあって、この世界のサンタ制度が成立しているんだろうな。そんなことを考えながら一人で帰った。