特集 2011年12月13日

きりたんぽの中は空洞のままでいいのか

これが市販のきりたんぽ。けっこう大きめの穴が空いております。
これが市販のきりたんぽ。けっこう大きめの穴が空いております。
秋田の名物鍋料理といえば、きりたんぽ鍋だ。

きりたんぽには、ちくわと同じ原理で穴が空いている。しかしあの穴、果たして必要なんだろうか。昔の製法を踏襲しているだけで、本当は穴なんて要らないんじゃないのか。

長年の疑問を解決させるべく、きりたんぽの穴を塞いだ状態でイチから作ってみた。
1968年秋田県生まれ。食べたり飲んだりしていれば概ね幸せ。興味のあることも飲食関係が中心。もっとほかに目を向けるべきだと自覚はしています。

前の記事:鶏団子ふわふわ問題にケリをつける


まずは簡単に説明します

きりたんぽの基本的な作り方。
1、ごはんを潰す
2、それを杉の串に貼り付ける
3、表面を焼く
4、串を抜く
以上。簡潔に説明しすぎたせいで簡単な作業のようだが、これがなかなかに面倒くさい。というか、こんなの作ったことがない。だいたい杉の串なんてどこに売ってるんだ。

ごはんを潰すところからスタート

「ラーメン食べたいなあ。よし、小麦粉こねるか!」という人がいないのと同様、秋田でもきりたんぽを最初から作る人は少ない。

でも今回はやるんです。穴のないきりたんぽのために。
炊きたてごはんを、すり鉢へ移し、
炊きたてごはんを、すり鉢へ移し、
すりこぎでグイグイ潰していきます。徐々に重くなってい くため、これがなかなかに重労働。
すりこぎでグイグイ潰していきます。徐々に重くなってい くため、これがなかなかに重労働。
よく誤解されるが、きりたんぽに餅米は使わない。100%ごはん。

冒頭で「作ったことがない」と書いたが、串を使わず団子のように丸めた「だまっこ餅」なる物は子どもの頃、よく作らされた。

というわけで、ここまでの作業なら経験済みである。任せてほしい。
ぜんぶ潰し切らないところがポイントか。
ぜんぶ潰し切らないところがポイントか。
だいぶ粒が潰れてきた。

さて。本来はここでこれを杉の串に貼り付けるわけだが、今回は代わりに違うものを使ってみたい。
(はい。これがこの企画のキモです)

まずはギョニソから

形状をきりたんぽに似せるとしたら、長くて細い物が好ましいだろう。
…となれば、例えばこういう物がいいですね。
…となれば、例えばこういう物がいいですね。
これを杉の串に見立てて、ごはんを貼り付けていくわけで す。よろしいですか。
これを杉の串に見立てて、ごはんを貼り付けていくわけで す。よろしいですか。
ご存知、魚肉ソーセージ略して「ギョニソ」である。久々に買ってみて、色がピンクじゃないことに驚いた。

そうか。言われてみれば、あれは着色料だったのか…と感慨に耽りながら、ごはんを巻き付けていく。
できた。意外に簡単!
できた。意外に簡単!
きりたんぽ鍋の基本は鶏ダシに醤油味だが、ギョニソならきっとマッチしてくれるのではないだろうか。

さて、次は何に貼り付けようか。長くて細いもの…となれば、コレなんてどうだろう。
同じく穴の空いたもの同士、気持ちはわかり合えるに違い ない。
同じく穴の空いたもの同士、気持ちはわかり合えるに違い ない。
「君の無念が僕にはよく分かるよ。語り合おう!」とばか りに、ちくわに抱きつくきりたんぽ。
「君の無念が僕にはよく分かるよ。語り合おう!」とばか りに、ちくわに抱きつくきりたんぽ。
ちくわときりたんぽは同士みたいなもんだと勝手に思っている。

それぞれ活躍するフィールドは違えど、バッタリ巡り会えた際はお互い、語り尽くせぬ思いがあるのでは…と思っていたのだが。
なぜか「逃げるちくわに襲いかかるごはん」に見えなくもない。
なぜか「逃げるちくわに襲いかかるごはん」に見えなくもない。
とりあえず、ちくわの穴に何か詰めたいのをグッと堪えた自分を褒めたいと思う。

野菜も入れよう

細長い上に、さらに固さが求められる野菜となると、そう数は多くない。
まずはごぼう。さすがに生ではなく、煮たものを用意。
まずはごぼう。さすがに生ではなく、煮たものを用意。
ほぼ串と言ってもいい形状なだけに、作業のしやすさはピ カイチ。
ほぼ串と言ってもいい形状なだけに、作業のしやすさはピ カイチ。
アスパラガスも、いちおう茹でてみました
アスパラガスも、いちおう茹でてみました
若干ふにゃふにゃですが、もう手慣れたもんです。
若干ふにゃふにゃですが、もう手慣れたもんです。
魚介、野菜と続いたら、残るは肉関係だ。

細長い肉といえば…

肉といっても種類はいろいろあるが、気軽に手を出せる肉といったら、もはやこれしかないだろう。
身もふたもない商品名ですが、好感度大。
身もふたもない商品名ですが、好感度大。
確かに「ながーい」です。うってつけ!
確かに「ながーい」です。うってつけ!
以上5種類、食べられる物を串代わりにしたことで、穴の空きようがないきりたんぽが完成した。
特筆すべきはウインナーたんぽの大きさでしょうか。
特筆すべきはウインナーたんぽの大きさでしょうか。
本来は、串を囲炉裏の灰に差し込み、じっくり焼くのが正しい姿なのだが、どう頑張ってもそのような環境を用意できなかったので、オーブンで焼くことに決定。

何℃で何分セットすればいいのか皆目わからなかったので「グラタン」のボタンを押してみた。きっと適度な焼き色が付いてくれるに違いない。
完成。…見事に縮んだなぁ(主に中の代用串が)。
完成。…見事に縮んだなぁ(主に中の代用串が)。
焼き色はさほど付かなかったが、期待通りにごはんがカチカチになってくれた。

まずは半分に切って、中を見てみようではないか。
お、なかなかカラフルでいい眺めじゃないですか。
お、なかなかカラフルでいい眺めじゃないですか。
表面はカチカチのサラサラで、まったく手に付く心配がない。

きりたんぽはマタギの携帯食が発祥とも言われているが、なるほどこれなら特に包装の必要もなく、荷物の中にポイッと紛れ込ませることが出来そうだ。

食べるときはグツグツに煮えた鍋の中に放り込むだけでいい。なんて手軽なんだ。さっそく私も鍋に投入してみよう。

意外な結果

まずは鉄板だと思われるギョニソから。
ここまで縮むとは…な魚肉ソーセージ。なぜか巨大なエノ キ茸のようになってます。
ここまで縮むとは…な魚肉ソーセージ。なぜか巨大なエノ キ茸のようになってます。
びっくりするほど合いません。
びっくりするほど合いません。
ギョニソがこれほど主張の激しい奴だとは思ってもみなかった。単体で食べるより魚臭さが一層際立ったように感じ、鶏ベースの汁と全く合わない。あー驚いた。
続いてちくわ。この穴にもごはんを詰めるべきだったか。
続いてちくわ。この穴にもごはんを詰めるべきだったか。
うーん、まぁ別にいいんじゃないの? な味。
うーん、まぁ別にいいんじゃないの? な味。
続いてのちくわもギョニソほどではないものの「そういえば、ちくわも魚だったんだよねぇ」と改めて気付かされるほどに、その存在を主張してきた。

はっきり言おう。きりたんぽ鍋に、魚っぽい味は全く馴染まない。やるだけ無駄! というか、やるんじゃなかった!

野菜は大丈夫ははず

いくらなんでも、野菜がダメってことはないだろう。それにごぼうは、きりたんぽ鍋には欠かせない具材でもある。
なにやら全体的にかわいいサイズになりました。
なにやら全体的にかわいいサイズになりました。
うん、うまい! 当たり前のように合う!
うん、うまい! 当たり前のように合う!
これは良かった。ごぼうの適度な歯ごたえと、もっちりしたきりたんぽの組み合わせが楽しく、いくらでも食べられそうなほどにおいしい。

やっぱり中に入れるのは野菜がいいのかも…と思ったのもつかの間、次でまたも大きなダメージをくらうことに。
無惨に縮んだアスパラ。色も悪くなった上に、
無惨に縮んだアスパラ。色も悪くなった上に、
おもわず「うぬぉー!」と声が出るまずさ。
おもわず「うぬぉー!」と声が出るまずさ。
すごいレベルで合わない。合いません。

ごはん×アスパラガス in 鶏ダシ醤油味の、なにがそれほどダメなのか分からないが、不思議なほどにまずい。味の方向がまるっきりバラバラなまずさ、とでも言おうか。

興味のある方がいらっしゃったら、くたくたになるまで煮たアスパラガスとごはんを一緒に食べてみることをオススメする。きっと「うおおおおお!」と声が出ますから。

残すは肉のみ

正直に言います。すみません、ウインナーは見た目の面白さのみで参加させました。
だって、これですよ。「なんて面白い食べ物だろう!」っ て興奮するじゃないですか。
だって、これですよ。「なんて面白い食べ物だろう!」っ て興奮するじゃないですか。
というわけで、味には全く期待していませんでした ……………が!!!
というわけで、味には全く期待していませんでした ……………が!!!
なんと一番おいしかったのがウインナーだった。もうぶっちぎり。燻された香りがプ~ンと漂うのもたまらない。

きりたんぽ鍋の具(鶏肉、舞茸、白滝、ごぼう、ネギ、せり)というのは、どれかが欠けたり、他に何かを足したりするとバランスが崩れてしまうくらいギリギリまで練り上げられた、質素でありながらも完成された世界だと思っていた。

そんなシンプルで繊細な鍋の景色をもっとも台無しにしてしまいそうなウインナーが、なぜ合ってしまうのか…。

おそるべしウインナー

というわけで見た目・味ともに、ウインナーがきりたんぽの串代わりにちょうどいい、という答えが出た。こんな結果でいいのか。

せっかくなので、残ったごはんでもう一本作ってみたい。
今回は表面を焼かずにフライパンで焼いて、塩こしょうで 味をつけて、
今回は表面を焼かずにフライパンで焼いて、塩こしょうで 味をつけて、
鍋には入れずに、このまま食べることに。
鍋には入れずに、このまま食べることに。
これはまるで、ごはん版のホットドッグではないか。いや、この場合は「たんぽドッグ」と言うべきだろうか。(秋田では「たんぽ」と略すのです)
食べやすく切ってみた。これはいいぞ
食べやすく切ってみた。これはいいぞ
このままでももちろんおいしい。これにマスタードとケチ ャップなんか付けたら、もろにドッグですな。
このままでももちろんおいしい。これにマスタードとケチ ャップなんか付けたら、もろにドッグですな。

ウインナーの底力を見た

にぎやかし要員のつもりで入れたウインナーが、まさかここまできりたんぽとマッチしてしまうとは思ってもみなかった。

田舎くさい和風の鍋に「ハローハロー」と言いながらいきなりずかずか入り込んで来て、どう考えてもケンカになるシチュエーションだというのに気がついたら結婚してた…みたいな鍋だった。

あと、きりたんぽの穴ですが、構造的に汁をよく吸うという意味で、おおいに意味がありました。あれはあった方が良い!

というわけで、空洞オッケー、気がむいたらウインナーを差してもオッケーという、かなりハッピーな結末となりましたことを、ここにお知らせする次第であります。
そのまま食べるより、やっぱり鍋に投入してしまったくら い気に入りました。
そのまま食べるより、やっぱり鍋に投入してしまったくら い気に入りました。
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