特集 2011年12月7日

ベトナムの格闘技・ボビナムって何だ?

いったいどんな技があれば、この体勢を取るロゴマークが生まれるのか?
いったいどんな技があれば、この体勢を取るロゴマークが生まれるのか?
格闘技、というと一時期のゴールデンタイムにバンバンやってる時期を過ぎて、それなりに一般的なスポーツ・趣味として定着した気がしますね。それも空手や柔道といったメジャーなものだけでなく、柔術やカポエラといった一般的にはここ10数年で初めて知られたような格闘技も増えました。しかしそれでもまだ未知の格闘技もあるのです…。たとえば「ボビナム」って知ってます?
1972年佐賀県生まれのオトナ向け仕事多数のフリーライター。世間の埋もれた在野武将的スゴ玉の話を聞くのが大好き。何事もほどほどに浅く広く、がモットー。

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日本人で初めて免許皆伝!ボビナム伝道師へ

ボビナムの存在を知ったのは、ある一本の電話から。以前「ネパールでプロレスをしてきた男」の取材でお世話になった富豪富豪夢路さんからだ。夢路さんが参戦している「地下プロレスEXIT」でアジア各地で試合を重ねてるうち、ベトナムの知られざる格闘技に出会ったのだという。
ゴツゴツした試合で魅せるプロレスラー!
ゴツゴツした試合で魅せるプロレスラー!
こういう怪しい本の表紙が似合う男。
こういう怪しい本の表紙が似合う男。
その格闘技とは、空手だったりカンフーだったり、あとルチャリブレ(メキシコのプロレス)ぽかったりするらしい…。にしても聞いたことないなあ。聞いたことないものはまずはインターネットに聞いてみよう。ということでYou tubeで検索してみると、あったあった。
太鼓のリズムをBGMにしたデモンストレーション
イタリア人選手(男女)による護身のデモンストレーション
女の子と不審者としての芝居に場内から笑いが
たしかに空手とかカンフーっぽいけど、ピョンピョン跳ねっぷりはもっとスタントっぽいというか、不思議な格闘技だなあ。あと2つめの動画とか、護身術のデモンストレーションなんだろうけどやたら演技入ってるのが気になる。ということでボビナムの真実を知るべく、夢路さんの待つ道場に向かってみると…。
夢路さんは別方向に怪しくなっていた(失礼)。
夢路さんは別方向に怪しくなっていた(失礼)。
金髪に青い道着ってインパクトあるなあ!特撮番組にこの格好で出たら文句なしに「正義か?悪か?謎の男参上!」って扱いだと思う。それはともかく!

まずはこの(日本では)謎の格闘技・ボビナムを知ることになったきっかけからうかがってみた。
「タイ・オーストラリア・ハワイ・香港と海外のいろんなところで試合してるんですけど、次はベトナムで試合しようと思っていろいろ調べてたんですよ」

--へ~。そもそもベトナムってプロレスはあるんですか?

「それがプロレスは出来ないんですよね。社会主義国家なんで、国民が集まってその中からヒーローが生まれるような集会は国が認めたもの以外は出来ないと。近い将来出来そうですけどね」

--じゃあ試合はムリだ。

「それでどうしたもんかな?と格闘技について調べてたら『ボビナム』というのがあるのがわかったんですよ」

--ベトナムでは有名なんですか?

「あっちでは誰でも知ってますよ。公園でこの胴着を着て練習してるし、自分がボビナムのTシャツ着て歩いてると『ボ~ビナ~ム』って話かけてくるし。それで、ちょうどベトナム行った時に世界大会がやっていて。72年の歴史の中で2回目の世界大会」

--歴史長いんだか短いんだか分からないですね。

「でも参加してる国は22ヶ国だから小さくはないんですよ。日本やアメリカ、中国とかがないくらいで」
大会も広く行われているそう。大会でもすげえ跳ぶ。
大会も広く行われているそう。大会でもすげえ跳ぶ。
夢路さんによると、もともとボビナムはフランス統治下のベトナムで1945年に流派旗揚げされた武道。外国に抑圧されるベトナム民族を格闘技で励まし、鍛えることを目標とし、ベトナムの伝統武術に海外の格闘技の要素も加えたものだそう。ふむふむ。

しかし、その後に宗主国であるフランスにより稽古を禁止されたりして、なかなか表に出ることはなかったそう。それがこの10年でようやくベトナム内外で知られるようになったのだとか。それも元フランス領ということで、フランス発でヨーロッパに広まったよう。
今回は毎週行われているボビナム研究会におじゃましました。
今回は毎週行われているボビナム研究会におじゃましました。
テキストもただいま制作中。夢路さんの手書き!
テキストもただいま制作中。夢路さんの手書き!
「それで世界大会で50人くらいが一斉にウラカン・ラナ(立ってる相手の頭に足を絡めて投げるプロレス技)みたいな技をかけてウェーブを作ったりするわけですよ。それを見てこれはすごいなと」

--そんなに技が正確なんですね。

「型が中心と聞くと、格闘技やってる一部の人は軽んじるんですけど、受け身まで含めてこれは凄いなと。それで実際道場に通うことにしたんです」

--おそらく日本初のボビナム使いに!

「それで一ヶ月くらいいるつもりで毎日通ってたんです。それが2週間くらいで『変な日本人がボビナム習ってる』と噂になったみたいで。それでマスター・ウェン・バン・チュウという最高師範が道場に来たんですよ。それで僕の先生がえらく怒られてる(笑)」

--勝手に日本人に教えるな、的な?

「通訳に聞いたら僕の扱いに困ってるみたいで。ただ『本気で習いに外国からきたわけだから、もっとレベルの高い技術を教えなきゃ駄目じゃないか。』みたいな話になったみたいで。言葉は分からないけど言ってるんですよ」

--言葉は分からないけど(笑)。

「結局、それからもっと上の道場で教えてもらえるようになって。周りからも『あいつはマスターが認めたらしいぞ』って噂になったおかげで、扱いが変わって」

--変な日本人から客人扱いに。

「三ヶ月分の稽古量を一ヶ月につめこまれて、やっと免状がもらえたんです。この帯はマスター。4段にあたり、指導を認可された一年生ですね。」
最高師範と夢路さん。現地では有名人らしい。
最高師範と夢路さん。現地では有名人らしい。
日本人で唯一という指導者クラスの帯。
日本人で唯一という指導者クラスの帯。
3倍早く修得…といっても特別に優遇されたわけではなく、夢路さんに空手とレスリングの基礎があることと、日々みっちり練習したことあってのこと。練習も大変なら、言葉がぜんぜん分からないだけに帰って復習するのがまた大変だったとか。

かけ声から全てベトナムムードで

ではさっそくボビナム研究会の開始!一般への指導は12月末からで、夢路さんがレスラーたちを呼んで指導出来る人を増やしている段階。では練習風景を見せてもらって…と思ったら、あれ?
「大坪さんもやってください!」ということで…。
「大坪さんもやってください!」ということで…。
「頭でわかろうじゃダメなんですよ。ムリなことはしないから大丈夫ですよ」って、前転すら10年くらいやってない気がするのに…。道着姿も着慣れてないからかなんか仲居さんっぽいし…。ちなみに着て一緒に練習したものの、唐突でカメラマンを用意してなかったので自分が動いてる写真はないです。とほほ。

まずは上のイラスト版テキストにもあるように「ネイ・ニン・ニンラー・ラー」のかけ声と共に挨拶。
武道ですから礼に始まる。右手は胸に。
武道ですから礼に始まる。右手は胸に。
まずは受け身、そして蹴りの練習。
まずは受け身、そして蹴りの練習。
受け身の種類も豊富。マットにスパーン!と音が鳴る。
受け身の種類も豊富。マットにスパーン!と音が鳴る。
立ち方の基本が3パターンあり、突き・手刀・ヒジ・ヒザ・蹴り・手刀受けといった技のバリエーションがそれぞれ数種類ずつある。そのふたつを組み合わせた数百の技があり、それを連続して見せることで変幻自在の技を見せることが出来る。

そして受け身の種類も普通の格闘技より多いんじゃないでしょうか?こっちに関しては自分も詳しくないので印象だけれども。それもやたら音が派手なのもあったり、最初に思った「スタントっぽさ」を醸し出してるのは攻撃よりも受け身だったりする。

と、冷静に見聞きしてるフリしてるけども、ただ、正直運動不足の身としては初歩の初歩たる前転や飛び込み前転的なのでもうヘロヘロ。酔ってないのに何この頭クラクラ…みたいな。

ちなみに練習中のかけ声は全てベトナム語です。ひと突き、ひと蹴りごとにモッ!ハイ!バー!
練習中はこれが貼ってあります。
練習中はこれが貼ってあります。
今回は練習全体をさらっと見せていただいたわけですが、前半は打撃中心のメニュー。この辺をいちいち画像で紹介しても分かりづらいので、ここは夢路さん、ではなくマスター・フゴの型の一部をご覧ください。
ここでまだ型の四分の一くらい。空手の経験もある夢路さんによると「型がとにかく複雑ですね。それを小学生とかがやるわけですよ。だから覚えるのが大変!」たしかに…。体力も自信がないけど、暗記力はさらに怪しくなってきてるからなあ。

皆でひととおり打撃を練習したあと、立ったままでの関節技やカニばさみっぽい技なども見せてくれました。この辺はもともとの軍隊格闘技の要素ですねえ。一歩間違うと骨折れちゃうよ系。もうこの辺は物騒過ぎて初心者の自分は見てるだけです。
立ったままでヒジを極めちゃう。
立ったままでヒジを極めちゃう。
下から足を絡めて相手を倒す。
下から足を絡めて相手を倒す。
そして最後の方で見せてくれたのが、「ドンチャン」と呼ばれる足技のバリエーション。相手に飛びついて倒すこの技は格闘技では珍しい。夢路さんもこのあたりはまだまだ研究中だとか。とはいえこんな技が炸裂!
おー、これは当記事最初に載せたワッペンの技っぽい!しかしもっと高等な足技もあるのだというから、もっとボビナムの真髄を見てみたい。

ちなみにボビナムは決まった型を披露して芸術…という部門もあれば、ヘッドギアやプロテクターを着けてポイントを取り合う実戦的なものもあって、こんなドンチャンを決めれば高ポイントなのだとか。相当難しそう…だけど決める人もいるそうなので、本場は凄ぇ!ただ現地の人は型の方が好みなのだそう。
最後は握手しながら「ボービナーム!」と言って、
最後は握手しながら「ボービナーム!」と言って、
やっぱり一礼。武道ですから。
やっぱり一礼。武道ですから。
これからの夢路さんの目標は、何より日本でボビナムの認知を高めていくこと。そして次の世界大会がフランスで行われるので、そこで初の「日本代表」として参加すること。ちなみにボビナムの道着の色、青はベトナムでは希望の色。海と空の色を表しているのだとか。日本も海に囲まれ空もそこそこ広い国。相性いいんじゃないんでしょうかね。
このワッペンがどれくらい増えるかな?
このワッペンがどれくらい増えるかな?

ノートの細かさが現地の苦労を偲ばせました。
ノートの細かさが現地の苦労を偲ばせました。

大空の下で技競い合う若者たち!

日本だと格闘技系の運動といえば体育館ですが、ベトナムだと外で雨降らない限り室外がほとんどだとか。しかも公園。たまに道着が白・青・黒と三色のメンバーが公園に一斉に集まってたりして、白=空手、黒=中国拳法なのだとか。一度そういう光景見てみたいなー。

富豪富豪夢路の夢バカ日誌

追加情報

2011/12/23(FRI) 銀座ゴールドジム 17:15~18:15「ベトナム武道ボビナム・護身術体験講座」
社団法人日本ボビナム協会講師/マスター富豪2夢路協力/日龍、三州ツバ吉、高岩竜一
参加費ゴールドジムメンバー500円ビジター 2100円
一般の方に、無理なくわかりやすいように日本に初上陸したボビナムを解説しながらどなたでもできる武道・護身術を体験していただきます。参加ご希望の方は動きやすい服装を持参ください。
終了後銀座三州屋にて「EXIT-JAPAN大忘年会」19:00~21:00飲み放題4500円
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