特集 2011年12月5日

自前着ぐるみで行くご当地キャラ祭り

孤独とは雑踏の中でこそ感じるもの
孤独とは雑踏の中でこそ感じるもの
ご当地キャライベントに、勝手に着ぐるみを着て行ってきた。そんな晩秋の一日の記録をお届けしたい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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虎穴に入らずんば虎子を得ず

日本各地の自治体を盛り上げる、ご当地キャラクターが人気を集めるようになって久しい。全て把握できないくらいの数が全国各地に揃っていて、どれも様々な個性がある。

最近はそうしたキャラクターが一堂に会するイベントも行われるようだ。
レッドカーペットまで用意されてる
レッドカーペットまで用意されてる
楽しげな本物の皆様方
楽しげな本物の皆様方
今回やってきたのは、11月26日・27日の二日間に渡って埼玉県羽生市で行われた「ゆるキャラさみっとin羽生」というイベント。私は二日目に訪れたが、会場はかなり大規模で、前日には55000人もの来場があったとアナウンスされていた。

そ、そんなに来たのか…。自分が企てていることを改めて思うと、足がすくむような気にもなる。
ご当地グルメも充実
ご当地グルメも充実
各キャラクターのテントが立ち並ぶ
各キャラクターのテントが立ち並ぶ
ん?何?
ん?何?
名刺もらった
名刺もらった
ご当地キャラと同様に注目を集める地方のB級グルメの販売もいろいろあり、いかにも楽しい秋のイベントだ。

それぞれのキャラクターには基本的にブースとなるテントがあるので、まずは空気をつかんでおこう。結構有名なキャラから、こんなのもいるんだと思わされるものまで幅広く集まっている。
あっ、コバトンだ~
あっ、コバトンだ~
メロン熊もいる~
メロン熊もいる~
ブースを飛び出して、会場で来場者に愛想を振る舞うキャラクターも多い。うわー、いるぞいるぞ。

埼玉県民である私としては、やはり県のマスコットであるコバトンを見つけるとカメラを向けてしまう。他キャラとは一線を画すインパクトのメロン熊も、実物はさらに迫力がある。

なんだ、普通に楽しんでいるじゃないか、自分。そう意外と好きなのだ、着ぐるみ。そしていつか中の人をやってみたいと思っていたのだ。
愛され年代の幅が広い
愛され年代の幅が広い
だいぶわかんない感じのも人気
だいぶわかんない感じのも人気
俺、大丈夫かな…
俺、大丈夫かな…
この雰囲気の中、やってけるかな…
この雰囲気の中、やってけるかな…
どのキャラクターも、来場者と握手をしたり写真を撮ったりと、それぞれにふれあいを楽しんでいる。老若男女を問わず、みんなが笑顔のお祭りだ。

その輪に無理やり入ろうとしている自分。本当にここでやっていけるのだろうか。

それでも、こうしたキャラクターたちに常々感じていたことがある。写真の通り、彼らはしっかり完成されていたり、手堅くまとまっていたりしているのだ。ゆるさを名乗っているというのに、それでいいのだろうか。

ぶっちゃけお前ら、あんまりゆるくないんだよ。ゆるいってのは、こういうことだ。
(コメント考え中)
(コメント考え中)
トナカイ、と思った方は正解だ。どこの町にも属さない、フリーランスのキャラクター、トナカイのトナちゃんだ。
こういう状態でうちに来たトナちゃん
こういう状態でうちに来たトナちゃん
子供たちの夢は守る!
子供たちの夢は守る!
できるだけ安く、というテーマでレンタル着ぐるみ選んだのがトナちゃんと私の出会い。往復の送料込みで5日間5000円ほどだったから、やろうとしていることのバカらしさからしても許容できるプライスだ。

地域の期待や、地元の人達の思いを背負うことがないキャラクター、トナちゃん。だからと言って、狼藉やハチャメチャをやりたいわけではない。ゆるさを提案しつつも、あくまで穏やかに溶け込みたいのだ。

そういうわけで、人のいなくなったタイミングを見計らい、駐車場ですばやくトナちゃんチェンジ。よし、ちびっこたちには誰にも見つかってないぞ。それでは移動しよう。
小賢しくクリスマスも意識したチョイス
小賢しくクリスマスも意識したチョイス
犬があからさまに警戒
犬があからさまに警戒
道すがら、通りかかった犬が「…ぬっ!」みたいな顔になっている。おい犬くん、大丈夫か。ここから先の本会場にはこんなのがいっぱいいるんだぞ。
なんか様にならない
なんか様にならない
よし、ちょっと開けたところでトナちゃんタイムを始めよう。…と思ったが、ただ立っているだけだとどうにもならない。えーと、どうしよう…。

上の写真でも通りがかった家族の注目は、すっかり気球に奪われている。よし、昨日家で一応練習してきたんだ。その成果を発表しようじゃないか。
「やあ!ぼく、トナちゃんだよ」
「やあ!ぼく、トナちゃんだよ」
必殺ギャグ「あの、サンタ知りませんか?」
必殺ギャグ「あの、サンタ知りませんか?」
ネットで調べておいた既存キャラクターのポージングをまねすると、それなりにファニーに見えてくるからすごい。ゆるさとかわいさがギリギリのところで拮抗している。

もちろんオリジナルポーズも考えておいた。クリスマスにはまだ早い時期のトナカイであることを踏まえた「あの、サンタ知りませんか?」だ。

数分間、こんな風にじたばたしていただろうか。そして、神はひたむきに何かをしようとしている者に手を差し伸べる。
起きた、奇跡が起きた
起きた、奇跡が起きた
知らない子供が「わー」と駆け寄ってきたのだ。天使は存在したのである。

ここぞとばかりに精一杯に愛嬌を振りまく。「別に騙してることにはならないよな…」と自問自答しながら、握手をする。

よし、君のおかげでなんだか自信でてきたよ。本会場の方に歩いていってみよう。
内部からの視覚イメージ
内部からの視覚イメージ
それを踏まえるとスリリングな写真
それを踏まえるとスリリングな写真
晴天とは言え晩秋のこの日、風はなかなか冷たかったのだが、着ぐるみの中はポカポカと温かい。これからの季節、着ぐるみ日和が続くのだろう。

それはいいのだが、視界はどうしても悪い。白い首のフサフサのところにのぞき窓はあるのだが、毛が邪魔をして見づらいのだ。

普段とは違う特殊な状況。しかし、だからこそ気づいたことがある。
内なる声に耳を澄ませて
内なる声に耳を澄ませて
むなしく空振るポーズ
むなしく空振るポーズ
視界は限られているが、その分聴覚が研ぎ澄まされるらしい。着ぐるみの布を超えて、私の耳にすれ違う人たちの声がとてもよく聞こえてくるのだ。

「これは…何?」「なんか違うね…」。そんな言葉たちが次々と胸に刺さる。

「これもキャラなの?」「いや、個人でしょ」と見透かされているようなやりとりさえ聞こえてきた。何だ、この状況はなんなんだ。

いやそんなこと最初からわかってたことだろう、ともう一人の自分が答える。やはりライバルキャラたちがうろうろしている本会場では、フリーランスはきつい。
「………」
「………」
警備本部の前、歩くのなんかやだな…
警備本部の前、歩くのなんかやだな…
そのいぶかしがり、正解です
そのいぶかしがり、正解です
加須市の藤こまち&無所属のトナちゃん
加須市の藤こまち&無所属のトナちゃん
普段の数倍の聴覚に、すれ違う人たちの笑い声が聞こえる。どうすることもできず、俺のことなんだろうな…と静かに思うより他ない。

他のキャラクターに向けられる笑顔とは種類の違う笑い。微笑ましさが思わずあふれるというのではなく、声を出した笑いなのだ。

一度寄ってきて、何かを察して戻っていく子供もいた。ずばり「キャラクターですか?」と聞いてきた少年には「違います」と正直に答える。
ゆっくりと走馬灯が回り始める
ゆっくりと走馬灯が回り始める
着ぐるみ着てればホームだったはずのこの会場で、完全にアウェイ。アピールするものも特にない在野のキャラクターは、完全に目的を見失っている。

さらに鋭さを増したようにも思える聴覚は、数メートル先からの「超哀愁ただよってない?」とのギャル声も拾う。いいんだ、それでいいんだ。それこそ僕が狙っていたもののはずなのだから…。
一人孤独に耐えてるかというと、
一人孤独に耐えてるかというと、
意外とそうでもない
意外とそうでもない
しかし、愛想のいいキャラクターがあふれているこの会場で、この哀愁は逆に人目を引く要素になったらしい。白く霞む視界の遠くに、こちらをじっと見つめる子供の姿が見える。そうだ、心に抱えた孤独こそ、僕の輝ける個性なのだ。
気づかないままメモリアル
気づかないままメモリアル
私は全く気づいていなかったのだが、じっとしゃがんでいる間、横に親子連れが来て写真を撮ったりしていたらしい。あとから写真係の同行者に状況を説明してもらって、初めて知った事実。

心を閉じて座っていた僕に、何かを感じてくれたらしい。知らず知らずのうちに、心の雪解けはゆっくりと進んでいたのだ。
僕だって生きてていいんだ
僕だって生きてていいんだ
静かに起きてる革命
静かに起きてる革命
人は何度でも生まれ変われる
人は何度でも生まれ変われる
命のともしびが今燃えさかる
命のともしびが今燃えさかる
やっと心を開けた自分。それまでダラダラとなんとなく歩いていただけだったのを、腕とおしりを大きく振りながら歩くようにしてみると、次々と声がかかる。

練習してきたポーズを今こそ決める。子供たちの明るい笑い声は、もう嘲笑ではない。

調子に乗って、子供との別れ際に「クリスマスにまた会おうね~」などと言い出す始末。「えっ、しゃべった!」と驚かせてしまったのはまずかったか。着ぐるみの不文律をうっかりまたいでしまったかもしれない。
もうさっきまでの僕じゃない
もうさっきまでの僕じゃない
プリプリ歩きも板についた
プリプリ歩きも板についた
すっかり馴染んできた、着ぐるみとしての自分。それでも僕は、このイベントではあくまでインディーズ。分をわきまえることを忘れてはならない。

ステージではまだいろんなキャラクターが陽気に来場者を楽しませている。ここは長居することなく、ひっそりと風のように消え去るのがいいだろう。出会った人たちの心には「なんか変だったな、あいつ…」と、冬の蜃気楼として刻まれているはずだからだ。

フィジカルもメンタルも限界
フィジカルもメンタルも限界
たくさんのオフィシャルキャラが集まるイベントに、着ぐるみ一市民として混ざった今回の試み。新しい軸でのイベントの楽しみ方だ。

それほど長くはない滞在時間だったが、その間に起きたことは人生の縮図のようにも思える濃密さ。着ぐるみは人を笑顔をさせるだけでなく、中の者の心にも光を灯すのだ。
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