沖縄で捕まえます
野生のスッポンは本州、四国、九州と広く生息しているが、近年その数は少なくなってきているようで、日本本土では探しても意外と見つからないものだ。
しかし、僕は沖縄に住んでいた頃にあちこちでスッポンを見かけた。
そんなわけでやってきました。スッポンの暮らす沖縄の河川。
もともと沖縄にスッポンは分布していなかったのだが、昔誰かが外から持ち込んだものが野生化してしまったそうだ。特に生態系に害を与える恐れもなさそうなので駆除されることもなく、温暖な気候と豊かな自然の中で栄華を極めているらしい。本来そこにいないはずの生き物と分かれば、捕らえて食すにあたっての罪の意識も少しは和らぐというものだ。
罠を仕掛けよう
さあ、早速川に入ってスッポンを探そう。
沖縄は海が綺麗なことで知られるが、川だって負けず劣らず透き通っている。これだけ澄んだ水で育ったスッポンはさぞおいしいのだろう。
水がきれい!
ところがこの川にスッポンが棲んでいることは間違いないのだが、川底を見渡してもスッポンの姿はどこにも見当たらない。
それもそのはず。スッポンはどちらかというと夜に活動することが多いのだ。
ならば罠を仕掛けて朝まで待とうではないか。
罠の概要。いわゆる「はえ縄」みたいなもの。
罠といっても川にロープを張ってそこから餌を付けた釣り鈎を垂らしておき、翌朝鈎にかかったスッポンを回収するという原始的なものだ。今回はエサに見切り品のサバを使ったが、スッポンは匂いを頼りに食べ物を探すようなので、より匂いの強いサンマや腐りかけの肉などの方がよかったかもしれない。
(注:地域によっては河川へのこういった仕掛けの設置は禁止されている場合があります。)
スッポンが好みそうな流れのゆるい場所に罠を仕掛ける。
この日は9月下旬。今思い返すとそんな時期に川に飛び込んでも平気ってすごいな。さすが沖縄。
普通の釣りでも狙ってみよう
さて、罠を仕掛け終わったらあとは朝を待つだけ…でもよかったのだが、万が一不発に終わった場合のことを考えるとどうも落ち着いていられない。
そこでなるべく暗くて水が濁っている川を探して釣りをすることにした。
スッポンおいでー。
来たっ!
竿を出して数十分。何者かが針にかかった。流木を引っかけたようなだるい感触の奥にモゾモゾと生物特有のうごめきを感じる。
スッポンを釣ったことは無いがこの引きは何度も味わったことがある。間違いなくカメのそれだ。
やった!スッポンだ!
改めて写真を見返すとすごく痛そうな顔をしていて少しかわいそうだ。
でもちょっと小さいんだよなあ…。
甲羅の長さが20センチくらいしかない。食べられるサイズではあるのだが、できればもうちょっとサイズがほしい。悩んだ末、観察して逃がすことにした。
噂どおりかなり凶暴。手当たりしだいに咬みついてくる。歯もまるで鈍い刃物のよう。
しかも顎の力が強い!
「雷が鳴るまで放さない」という言い伝えはこの顎の力強さからきているのだろう。こんな顎と歯で咬まれたら大なり小なりケガをしてしまうだろうな。こわいこわい。
スッポンを持つときは長い首を伸ばして咬みつこうとするので、首の回り込めない甲羅の後ろの方をつかむのがコツ。
灰色の背中と異なり、腹側は白っぽい。甲羅も小さくて後足や尻尾は丸出しだ。エロいっ!
バイバイ!
結局その後、さらに大きなスッポンを釣ることはできなかった。望みは明日回収する罠だけとなった。
デカいのが捕れた!
さて翌朝である。いよいよ罠を回収する時だ。
かかってるかなー。かかってるといいなー。
生き物を捕まえるトラップを回収する瞬間というのは本当にわくわくするものだ。プレゼントを楽しみにしていた少年時代のクリスマスの朝の気分に近い。まあ気まぐれな生き物が相手なので空振りも多いのだが。
釣り鈎を回収していくと、一本の仕掛けが川底に向かってピンと張っているのに気付いた。急いで駆け寄るとそこには…
スッポン!しかもデカい!!
体の色が川底の石にそっくりで一瞬気がつかなかったが、釣り糸を引っ張ると大きな影が動いた。スッポンだ。
これは食べ応えのあるサイズ!
片手では持つのが難しいほど。
よかった。なんとか無事にスッポンを捕まえることができた。あとは食べるだけだ。
いただきます
さっそく捕まえたスッポンを料理して食すべく、友人宅にお邪魔した。
んなもん持ち込んですいません…。
旅先でなければ自宅で処理できたのだが今回はそうもいかない。しかし恐る恐る頼んでみると二つ返事でOKしてくれた。持つべきはよき友だ。
むしろノリノリである。
当然誰もスッポンなんて料理したことが無いので、ネットで調理方法を検索しながらさばいていく。IT革命バンザイ。
噂に名高いスッポンの血
まず首を刎ねて血を抜くのだが、スッポンの生き血は体に良いとかねがね聞いていたので捨てるのはもったいなく感じる。酒で割って自己責任でチャレンジすることにした。(野生のスッポンの血には寄生虫がいる恐れがあるので真似しない方が賢明です。)
一気にぐいっと。
…うまいモンじゃないです。
うわっ、塩辛っ!というのが口に入れた瞬間の感想。続いて濃厚な血の味と匂いが口の中に広がる(当り前だが)。酒で割っても隠しきれない、かなりクセのある味だ。その上喉ごしが悪く、ネバネバイガイガと喉に絡みつく。正直言ってちょっと僕の口には合わない。もう二度と飲むことは無いだろうと思った。
出来上がったスッポン鍋。見た目はあまり良くないが…。
そうこうしているうちに料理が出来上がった。王道のスッポン鍋だ。スッポン自体の味を楽しむべく、その他の具材は白菜とネギだけにしてみた。ただ、そのせいか少し見た目が質素というか粗末というか、食欲をあまり喚起しないものになってしまった。
でも小皿に盛ると結構美味しそう。黄色いのはスッポンの脂肪らしい。
人生初スッポン。いただきます!
うむ、いとうまし!
ああっ、おいしい!生き血の印象が強すぎて一口目を食べるまでは少々抵抗があったが、食べてみると実に濃厚な味わいでうまい。
黄色い脂肪のこってりと深いうまみが柔らかな肉に絡みつき、他の獣や魚からは得られない独特の味を紡ぎだしている。
滋味に富むとはこういう食べ物に使う言葉なのだなと思った。
特においしいのがこのエンガワ。プルップル。
スッポン特有の甲羅を覆っている皮である。これがまた珍味にして美味であった。
この食べっぷりがその味のすべてを物語っていると思う。
友人たちにも大好評で、あっという間に取り合いになり、鍋は瞬く間に空になってしまった。
頭も甲羅もしゃぶってねぶってこの通り。
「スッポンは捨てる部分がない」と聞いていたが、実際しゃぶりつくされて骨格標本さながらの姿になってしまった。皆がここまできれいに食べてくれたことが、スッポンへのせめてもの慰めになればと切に願う。ごちそうさまでした。
採って楽し、食って美味し
いやー、やっぱり自然の中で生き物を探し出して捕まえるのは楽しい。そこに食べるという目的が加われば喜びはひとしおだ。さらに獲物を気の合う仲間と料理して食卓を囲むなんていうのはある意味最高の贅沢なのかもしれない。
スッポンは割と捕まえやすい動物だし、味は折り紙つきだ。こういうジビエもどきの外遊びのターゲットとしては最適だろう。
皆さんもスッポンを求めて川へと繰り出してみてはいかがだろうか。