探せ、銀のエンゼル
とにもかくにも、モデルとなる銀のエンゼルを入手しなくてはならない。彼とは久しく会っていないが、そこそこチョコボールを買い込めば一匹くらいは見つかるだろう。
そういう気軽な考えのもと、買ってきましたチョコボール
全部で4種類。定番のピーナッツがないのは、私がナッツを苦手としているからです
そしてミルクがやたら多いのは、私がホワイトチョコを好んでいるからです
このくらい買えばいいだろう、と20個購入してきた。
大量のチョコボールをドサッとレジに持っていくのが何となく恥ずかしかったので、近所のコンビニを3件もはしごした。変なところで心の弱さを露呈してしまったと思う。チョコボール20箱くらい、もじもじせずに堂々と買える大人になりたい。
地球缶とやらが出たらしい。気になる。
缶に心奪われつつも、とにかく今回のお目当ては銀のエンゼルだ。
さすがに一匹くらいはいるだろう。というか、ぜひいてほしい。いてもらわないと困る。
開封&チェック、まずは一個目。ハズレ!
いくらなんでも初っ端から当たりがくるとも思っていないので、そんなに落胆はしない。
まあそのうち見つかるさ、と淡々と作業を再開し、わずか数十秒後のことである。
「やあ! 僕だよ!」
なんと、たった4つめにして出会ってしまった。
あまりにあっさり見つかったことに驚いて、しばらくエンゼルと見つめ合ってしまった。よくよく見ると君、やたら自信たっぷりな顔だね。
驚くべき比率
嬉しいのだけど、どこか拍子抜けでもある。
あるのか? ないのか? 次の1個こそは! というドキドキを味わう間もなく登場しやがった。中途半端だ。どうせなら20個目に満を持して華々しく出現するとか、そういうロマンチックな演出というのも必要だと思う。(記事の盛り上がり的に)
空気の読めないエンゼルだ。
「文句があるなら帰らせてもらうけど!?」
いやそれは困るのでもうちょっといてください。
それにしても20分の4ですでにエンゼル発見。これは残りの16個にも期待できそうだ。 モデルとしては一匹で十分なのだが、うっかりおもちゃ缶がもらえるくらい集まればそれはそれで嬉しい。
しかしその後、開けても開けてもエンゼルの姿はなく……
各キョロちゃんは微妙に表情が違う、という豆知識を発見している場合でもなく
結局全て開封してみても、エンゼルがいたのはあの一個だけだった。
なんだ、やっぱりそんなものか。ちょっとガッカリするものの、そうなってくると俄然、先ほどのエンゼルのありがたみが増してくる。空気が読めないとか心ないことを言ってしまって申し訳なかった。改めて、一匹のエンゼルとの出会いを大切にしていきたい。
チョコボールにおける一期一会だ。
ともあれ一匹は無事に捕獲できたので、これを元にして銀のエンゼルの銀化チャレンジを進めたい。
「まあがんばれクエッ」
私には造形センスがありません
銀を素材にした造形にはいくつか手法があるが、今回は一番手軽と思われる「銀粘土」で作ってみようと思う。普通の粘土のように扱うことが出来、焼けば銀に置き換わるらしい。なんだか魔法っぽい。彫金などに比べたらそこそこ初心者向きといえるのではないだろうか。
しかも純度99.9%以上の、ほぼ純銀といってよいものが出来上がるそうだ。
純銀のエンゼル。かっこいい。
買ってきました。よく分からぬまま、保湿タイプとやらを。
保湿タイプ、つまり乾くまでの時間が長いのでゆっくり作業できますよ、ということだそうだ。
うん、形作る段階では間違いなくもたもたする自信がある。私みたいなタイプの消費者ニーズをしっかり捉えた銀粘土、「SLOW DRY」の文字が心強い。
封を開けました。このガムみたいのが、銀になるらしい。
まずは説明書に従って柔らかくなるまでこねた。さて。
……どうしよう。
モデルとなる銀のエンゼルの不敵な笑顔を見ながら、手が止まってしまった。
粘土はある。しかし、どうやってそれをエンゼルの形にしたらいいのか。
イメージではなんとなくこねこねしながら形を作っていけたらいいかなと思っていたが、いざ直面してみると粘土とエンゼルの間には予想以上に大きな壁がある。これは素人が多少こねたくらいではどうにもなりそうにない。
なんといってもエンゼルの体長は1cmほどしかないのだ。小さすぎる。
考えた挙句、この結論
そうだ、クリアファイルの下にエンゼルを敷いて、その形に沿ってちょっとずつ粘土を盛っていけばいいんじゃないのか。
我ながらナイスアイディア、と思った。そして盛り盛りと粘土を足していった結果がこれだ。
近年稀に見る酷さ
これはひどい。
今すぐ編集部に電話して「すみませんこの企画無理でした」と相談しようかと一瞬迷った、そのくらいひどい。限りなくゴミに近い。
思えば、私には造形の才能がないのだ。小学校の図工の時間に四角い大きな石鹸を彫刻して好きなモノを作ろう、という課題でペンギンを作ったはいいものの、丸みを帯びさせる術が分からず見事に豆腐みたいなペンギンが出来上がった。
そういう苦い思い出を沸き起こさせるエンゼル。これはまずい。かなりまずい。
というかこれを見て「ああエンゼルだね」、と見抜ける人がいたら逆に気持ちが悪い。間違いなくエスパー。
まずい、まずい、と言いながら必死で修正しました
表面を整え、どうにかこうにか大まかな輪郭はなぞれたような気がする。もう贅沢は言うまい。大体エンゼルみたいなもの、が出来ればそれでよしとしたい。
さらにこれを土台として、細かなパーツを乗せていく作戦。まずは腕。
羽パーツ。エンゼルにとっては最重要の部位。
土台に羽を乗せて固定。羽は片側をギザギザさせたい。(できないくせに欲張るタイプ)
薄ぼんやりとエンゼルになってきた気はする。しかし安心はできない。「エンゼルであってほしい」という願望が見せる幻覚である可能性も捨て切れない。
常に自分自身を疑いながらの作業である。
右腕らしき形を作り、向かって左半分の髪を盛る。エンゼルの髪型は真ん中分けだ。
よくよく見れば元のエンゼルには手足の指もきちんと描かれているのだが、そんなディテールは早々に諦めている。
次はもう半分の髪を盛りつけたい、のだが。
「毎朝ホットカーラーで巻くのが日課さ!」
巻き髪…!
そんな細かく巻かれた髪を粘土で再現なんて、今日はじめて銀粘土を触った人間には高難度すぎる。
スケート未経験者にトリプルアクセルは無理だし、サッカー初心者はワールドカップには出られないのだ。
(スポーツに例えることで無理やり一般的な話っぽくしようとしています)
お前ちょっと今すぐストパーかけてこいよおお、と真剣に思った。エンゼルだからってくるくる巻いてりゃいいってもんじゃない。銀にしようとしている人間の身にもなってほしい。
でも、諦めない気持ちで!
極小のフランスパンみたいなものが頭に乗ったところで、匙を投げた。これ以上は無理だ。不可能だ。
誰がなんと言おうとエンゼルヘアーはもうこれで完成として、あとは顔に取り掛かろう。
丸めた粘土で目を作って、口を削って…。
「くけけっけけええ」
怖い。
どうしてこんなに禍々しいものが出来上がってしまったのか、自分にも分からない。可能な限り目を合わせたくない。
いくらなんでも、このままでは銀のエンゼルではなく銀の悪魔が生まれかねない。顔だけどうにか修正できないだろうか。
急激に生じたハニワっぽさ
正直言って、ここまで仕上がった時には「どうにかなってよかった!」と思っていたのだ。
為せば成る、とすら感じていたが、今改めて写真を見ると何も成せていない。 エンゼルか丸めたティッシュかと問われれば若干ティッシュ寄りの存在が出来上がった。
しかしそこらのティッシュと一緒にしてもらっては困る。なんと、焼けば銀になるのである。(そういう粘土で作ったからだ)
エンゼルのもの言いたげな表情には目をつむり、さっさと焼成の工程に移ろう。
粘土が銀になる
さて丸一日かけて乾燥させたエンゼル。次はいよいよ、これを焼いて銀にする工程である。
乾燥させたら表情が変わったような。贔屓目かもしれないが、ニパッ、と笑っているように見える。
サイズ感はこのくらい。人差し指の爪に乗る大きさ。
銀粘土は家庭のコンロで焼くのが一般的らしいが、残念ながら我が家はIHコンロのため使えない。
しかし、要は火があればよいのだ。
こういうミニバーナーでどうにか焼けないだろうか
銀粘土の説明書によると、一応バーナーでも焼成可能と書いてある。しかし続いて「弊社が推奨するバーナーで行なってください」という文言も。そして手元のミニバーナー、なんと推奨されていない。
これは、適当なバーナーを使ったら大失敗するからな、知らないからな、という類の警告だろうか。
失敗は困る。もう造形段階で泣きをみるのは懲り懲りなのだ。
どうしたものかと考えて、エンゼルの前にひとまず小さな破片でテストしてみることにした。これでOKであればまあ、エンゼルを焼いても大丈夫だろう。
余った粘土のカケラでチャレンジ
余った粘土のカケラでチャレンジ
そしてしばらくすると……
バーナーの炎(見えない)を向けて数十秒後、ツヤのない灰色だった粘土の固まりがいきなり輝きだした。
あれ、これってもしかして銀? 銀になった?
びっくりして思わず触ろうとしたら、当たり前だが熱いなんてもんじゃなかった。ヤケド注意。
見事、粘土が銀になった。どうやらこのバーナーでもなんとか焼成できるらしい。
ではいよいよ本番ということで、マイエンゼルにご登壇いただきたい。
いってきます! と言っているように見えなくもない。いいぞエンゼル、勇ましいぞ。
若干の緊張感と共に見守りながら、ゴーッと焼く
ぎ、銀のエンゼル!
やや顔周りが溶けてしまったような気もするが、この輝き具合は間違いなく銀。
ようやく出会えた、これが本来の意味での「銀のエンゼル」だ。
その後、頭の輪っかも追加で焼いた
この辺りになるとすっかり愛着が湧いてしまっている。粘土の段階では「うーん…」と思っていたのが、とても可愛らしいものに思えてきた。
どうせならもっとピカピカにしてあげたい。
通常、焼成後の銀粘土はこういったブラシで磨くらしいのだが
エンゼルが小さすぎて上手く磨けている気がしない
エンゼルより先に私の爪がボロボロになっていくので、ブラシ作業は早々に終了とした。
私の爪と引き換えにエンゼルの完成度が高まるのであればボロボロになるのもやむなしだが、磨いても磨いてもあまり変化が見られないのだからやる気もおきない。働けど働けど、である。啄木を気取る前に焼成前の完成度を上げておけという話だが。
ともあれ銀のエンゼル、これにて完成である。
「どうもこんにちは、銀でできた銀のエンゼルです」
本物のエンゼルと比較
表情の穏やかさゆえだろうか、元のエンゼルよりも性格がマイルドになったような気がする。
エンゼルというよりオバケっぽいとか頭の輪っかが輪っかになっていないとか、そういう細かなことはいいのだ。
よく見てほしい、元のエンゼルには「銀」と注意書きがしてあるではないか。つまりそう明記しておかねば「銀だ」とは思ってもらえない可能性があるということ。
その点、うちのエンゼル(もう自分の子扱いだ)はどうだろう。一目で銀だと分かると思う。
そう思えば、彼のぼんやりした笑顔もなんだかより晴れやかに見えてくる。
彼にはこれからも堂々と銀のエンゼルを名乗ってほしい。そして最後に、銀のエンゼルとしての一仕事を見せてもらおう。
もしも銀のエンゼルが本物の銀でできていたら
ある日コンビニで何気なく手に取ったチョコボール。
定番のキャラメルも悪くはないけど、今日はちょっと気分を変えていちご味。
こういうの、仕事の合間についパクパク食べちゃうよね
チョコボールの醍醐味といえばこれ、開けるときのお楽しみ
チラリ。わあ、これはもしかして!?
うわあ銀のエンゼルだ! 当たったー!
…という小芝居で遊ぶこともできる。
小学生のお小遣いでも買えるお菓子、その箱から純銀の固まりが出てくるのである。なんというお得感。少なくとも、これが出てきたらチョコボール本体のことは一瞬忘れる。私なら忘れる。
いやもちろん、初対面で彼を「エンゼル」と正しく認識できる人は少数派かもしれない。作者の私ですら、ここまでの過程をふっとばしていきなりこの物体を見せられたら少々判断に苦しむと思う。最悪の場合「ごみ…?」とかいう暴言を吐きかねない。
しかし、である。それでは本物のエンゼルはどうなのだという話だ。
よく見れば本物には「エンゼル」と但し書きがしてあるではないか。卑怯だ。こっちも書いておけばよかった。
私の気が回らないばかりに。ごめんよエンゼル。
いや、でもうちのエンゼルは素材の持ち味で勝負しているということでいいのかもしれない。「銀」だの「エンゼル」だの、そういう文字情報に頼った小細工は不要だ。
それに、エンゼルだって十人十色。もしも世界が100人のエンゼルだったら、一匹くらいはこういう得体のしれないやつがいるかもしれないではないか。
というわけで引き続き、エンゼルの、エンゼルらしい活躍をご覧頂きたい。
実はこのエンゼルには本物と異なる大きな利点がある。彼は可動性に大変優れているため、くちばし以外のあちこちに出張もできてしまうのだ。
チョコボールはベルマークの図柄もキョロちゃんで大変可愛らしいのだが
そこをあえてエンゼル
パッケージにも素晴らしくなじむ
もはや何の違和感もない、むしろあって当然といった雰囲気
おいしさの解説だってエンゼルにおまかせだ
かなりの汎用性を発揮する銀のエンゼル。彼のポテンシャルの高さがお分かりいただけたことと思う。
そして更にエンゼルの居場所はないかと箱のあちこちを探し回っているうちに、いちご味のパッケージに気になる表記があることに気づいた。
ハッピーチョコボール?
初耳だが、最近のチョコボールにはそんなものがあるのか。ハートのピノ的なやつか。
それなら、と一箱開けて探してみたが、残念ながらそのハッピーチョコボールとやらは発見できなかった。
しかし落ち込むのは早い。私にはエンゼルがいるではないか。
私なりのハッピー
やってみて気づいたが、さすがにこれは無理がある。(そもそも食べられない)
銀のエンゼルも万能ではない。誰にだって限界はあるのだ。
純銀のエンゼルは予想以上に良いものでした
惜しむらくは私の造形スキルである。ここがもうちょっと高ければ、さらにハイクオリティなエンゼルが生まれただろうと思うと残念でならない。
あと現実問題として、今我が家には大量のチョコボール(開封済み)があります。どうやって消費しようかというのが目下の悩みです。