博物館ぽくない
この「お鍋の博物館」、実はぜんぜん博物館ではない。「中尾アルミ製作所」というお鍋メーカーのアンテナショップに付けられた屋号である。
お店ですね
まさしく、ザ・鍋
ただし、母体の「中尾アルミ製作所」自体ははメーカーなので、かっぱ橋によくある厨房設備の卸売業者とは一線を画している。
有名ホテルのシェフが、特注の鍋を作りにきたりもするらしい。
その生産技術が、お店の外で僕のような素人にもわかりやすいように示されていた。
鍋ロボット
こっちにも
近くで見るとちゃんと鍋している(メモリと取っ手)
室内にも。これは一目で鍋っぽい
室内に展示してある鍋ロボットには値札がついていた。お店だから売り物でもあるのだ。
950,000円と、軽動車くらいの値段である。鍋ロボットは自動車のように動いたりしないが、いざというときには鍋としても使えるな、と思った。
取材に応じてくれた鈴木店長。ラーメン屋に行くと鍋の手入れ状態がすごく気になってしまうらしい
手作りのでかいヤカン
このヤカン、一枚の金属板から職人が1ヶ月くらい掛けて打ち出している。取手の曲線の部分を作るのがむずかしいそうだ。
値段をつけるならいくらくらいですか?と聞いてみたら300万円、という答えが返ってきた。300万円のヤカンを作る中尾アルミの技術力…そう言ってみるとなんとなくすごさがわかってこないだろうか。
ウロコのような模様も全部手打ち
適当に描いたがこういうキャラみたことある
でかい厨房機器が気になる
店内ところ狭しと鍋が陳列されているのだが、やはり目を引くのは単純に「でかい」やつだ。さすがにさっきのヤカンほどではないが、その辺のホームセンターではそうそう見ないような業務用がゴロゴロ置いてある。
鍋に圧迫される、という経験
店で一番でかい鍋をリクエストしたら、寸胴鍋コーナーに案内してもらえた。
店で一番でかい寸胴は60センチ×60センチ、164リットル、8万円!
以前は、ホテルの厨房でブイヨンなどのダシをとるために使われるサイズだった。ところが今は加工食品の質が良くなってきて、ホテルなどでもほとんどが出来合いのブイヨンを使うになってきた。
今ではこうしたサイズを買うのは、ラーメン屋さんくらいになってきているそうだ。
ホテルからラーメンと、時代とともに需要は変わる。ともかく、これだけの大きさになると相当特化したところにしか使えないだろう。水を入れたら全く動かせない。
頭にしては絶対ダメなタイプの鍋だ
寸胴鍋は、お鍋の直径と深さが同じものをいうそうです
突然変異ミュータントのようなでかい泡立て器
うちで使ってる小鍋ぐらいあるオタマ
昨今使われなくなった、牧場での搾乳する時の「ミルク缶」。今では機械で搾乳しちゃう
これも昨今使われなくなった「おかもち」。16380円から4980円と特価!
今では使われなくなったものが新品で置いてあるのを見ると、やっぱり博物館ぽいような気もする。しかしそのおかもちに「SALE」の札がついていてバーゲン価格になっている。やっぱりこれは在庫なのだ。
ある意味、博物館よりも生々しく実用品の流行りすたりを見れていると思う。
こういうので魚とか煮込んたら確かにおしゃれ
趣味のお鍋
最近ではちょっと料理に凝ってみたい男性が「良いお鍋」や「良いフライパン」を買いにくるようなケースも増えているらしい。
さっきの業務用製品から、話題がぐぐっと身近になってきた。どうせなら、もっと実感を伴うような話を聴いてみたい。
「ちなみに、僕くらいの独身男性がフライパン買うとしたら、どんなものがおすすめなんでしょうか?」
おすすめフライパン
「ひとり暮らしの男性が買うんだったら、やっぱり鉄製のフライパンがおすすめですね。テフロンのフライパンとか、やっぱりどうしても炒め物が水っぽくなっちゃうんですよ」
なるほど。プロの目から見るとそうなのか。こういう情報を記事に盛り込もう、くらいに最初は思っていた。
非常にこなれた説明をしてもらえた
「やっぱり業務用のものはいいですよー!10年持ちますからね!…やっぱり料理も道具からですよ。これは本当にそう思います」
「こういう鍋、デパートで買うとすごく高くなる」とは撮影に同行してくれた編集部の工藤さんの弁
「熱伝導率の低いものが良いんです。食材を入れても、温度が下がらないんですよね…それから鉄の鍋は、油膜を保持するんです。これが他の材質との一番の違いですね」
なるほど、なるほど…鉄鍋…か…。なんだかむずむずしてくる。
油膜を保持するってなんだかすごく良いものなんじゃないのか
鍋が美しい
ひとしきり店長に「おすすめフライパン」の話を聴いたら、不思議なことが起こった。店内に陳列されている鍋が、急にすごくかっこよくえてきたのだ。
取手の曲線の美しさ
楕円の美しさ(20%オフの札も見逃せない)
リベットの一つ一つ
買った
家で使っているやつより、だいぶ重い
2700円ほど。手頃である
こんな経緯があり、僕は鉄のフライパンを手に入れた。
使い始める前の「カラ焼き」「油ならし」という作業をしたら男らしい黒さになった
肉ともやしを炒めたのだが、やはり格段に違う。ちょっとしたごちそうだ。「テフロンと違って水っぽくならない」とはこのことか。店長の言葉をようやく理解した。
これが毎日喰えるわけだ。うん、買って良かった。
これがさっきイラストの中で想像した「キャーステキー」である
博物館と販売店の狭間で
目を引くような展示品や業務用品の傍らに、そこそこ手頃な鍋が売っている。するとものすごく欲しくなって来るのだ。結局のところ、この「お鍋の博物館」の狙いというのはこういうことなんだと思う。
しかし、狙い通りに動かされて、もやしがうまいのだから幸せである。もし僕が再びここに行ったら、また何か買ってしまうだろう。