泊まる人がいるからインもできる
東京には日本橋○○町という地名がたくさんある。
むかし、日本橋区というのがあって、そのなごりが町名に残っている。
たとえばみなさんご存じ金融の中枢「兜町」も正式には日本橋兜町という町名だ。
日本橋には大企業の本社やいろんな問屋などが多くあって、地方から仕事でやって来る人が多いのだろう、ビジネスホテルがたくさんある。
そのせいで、日本橋は「イン」だらけなのである。
問屋街なのでビジネス客が多いのか
数えたら10軒
地図上で「イン」がやたらと目につくので、数えてみたら10軒もあった。
文字にすると、イン・イン・イン・イン・イン・イン・イン・イン・イン・インである。
いくらなんでも、多すぎるんじゃないか。
インその1 東横イン東京日本橋
どれくらい多いのか、地図のうえにマークしてみた。
こりゃインだ。インまみれだ。
ある意味においてはインモラルですらあるではないか(否、インモラルではない)。
いきおいあまって「インね!」ボタンを作ってしまうほど、インに満ちあふれている。
全部巡ってみよう
このように、地図の上ではインだらけなのは理解できたが、はたしてそれで済ませてしまっていいものだろうか。
やはり、自分自身のこの目で実際にすべてのインを確認しなければならないのではないか。
10軒のインを巡る
「イン」を辞書で引くと「1 (酒場つきの昔ふうの)宿屋, 小さな旅館 2 (サービスを規格化・簡略化した大きな近代的)ホテル, モーテル. 」とある(→
プログレッシブ英和中辞典 第4版より)。
意味は理解しているのだが、インという言葉にどうしても微妙な違和感を持ってしまう。
おそらく、「イン」とたった二文字なのに「サービスを規格化・簡略化した大きな近代的ホテル」などという長い意味が込められているところに、不思議な感覚があるのではないだろうか。
インその2 鴨川イン日本橋
鴨川なのか日本橋なのか
日本橋本町には「鴨川イン日本橋」というホテルがあった。
千葉の鴨川でリゾートホテルを経営している鴨川グランドホテルという会社が日本橋に作ったビジネスホテルだ。
また、「西鉄イン日本橋」というのもある。
西鉄というと福岡をイメージするが、ホテルがあるのは日本橋だ。
インその3 西鉄イン日本橋
インその4 トレストイン日本橋
また「トレストイン日本橋」や「セルメスイン日本橋」などの、聞き慣れない言葉で構成されているインもある。
インその5 セルメスイン日本橋
おしゃれな感じだ
残念なイン
冒頭から、日本橋のインは10軒と書いているが、じつは11軒目のインもあるのだ。
せっかくのインなのだけれど
日本橋茅場町に「京王プレッソイン」というインがあるのだが、あろうことか店名が「京王プレッソイン 茅場町」なのである。
せっかく日本橋なのに、日本橋を名乗らないとは。
名乗らぬものを数えるのは道理に反すると思うので、日本橋イン10選からは申し訳ないけれども除外させてもらった。
ちなみにこのグループは日本橋本石町に「京王プレッソイン 大手町」というホテルも経営している。
どうやら「日本橋イン」には興味がないらしい。
なんと! 茅場町!!
日本初のビジネスホテル法華クラブのイン日本橋
日本で最初のビジネスホテルといわれているのが、大正9年に京都駅前に開業した法華倶楽部だといわれている。
そのグループが営むインがホテル法華イン東京日本橋だ。
元祖の名に恥じないたたずまいのインである。
インその6 ホテル法華イン日本橋
醤油の町日本橋蛎殻町
法華インの先を歩いていたら、「醤油会館」という建物があった。
この辺は江戸時代からの醤油の町らしい。
インを巡りながら「やばい、この記事書くことないぞ…」と感じていたところに現れたナイストピックである。
醤油会館というのがあった。よのなかにはいろんな会館があるものだ
しょうゆってすごい! ストレートすぎるコピー
インじゃないのもある
もちろん、すべてのビジネスホテルがインなわけではない。
普通に「○○ホテル」と名乗ったり、他のしゃれた名前がついていたりする。
でも、やっぱりインがかっこいいな、と僕は思う。
インじゃなくていんですか!
日本橋にたいへんなこだわりを持つ東横イン
京王プレッソインが日本橋に対してずいぶん淡泊だったのと対照的に、東横インはただならぬこだわりを持っているようだ。
なんと、東横インには「日本橋」と名のつく店舗が5軒もあるのだ。
インその7 東横イン日本橋浜町明治座前 看板では日本橋を主張していないが
正式名称は「日本橋」がついている
インその8 東横イン日本橋税務署前
インその9 東横イン日本橋人形町
地下鉄出口が店名に
東横インの場合、ビルに掲げられた大きな看板では「日本橋」が省略されている店舗もあるが、たぶんこれは「日本橋」が多すぎてわかりづらいためだろう。
逆にわかりやすさを強調しているのが「東横イン日本橋三越前A4」だ。
最後のA4というのは、地下鉄三越前駅からの、最寄り出口を表している(たぶん)。
店名に地下鉄出口の番号を付ける大胆さ、僕は大好きだ。
インその10 東横イン日本橋三越前A4
これはもう日本橋ではなく、インドだ
というわけで、日本橋にあふれるインを巡ってきた。
実際に歩いてみると、地図で見る以上のインっぷりだ。
人生には三つの大切な袋があるというが、日本橋には10のインがある。
このことを、あらためてしっかりと胸に受け止めて、残りの人生を歩んでいきたいと思う次第である。