特集 2011年9月29日

空き缶ポエム

エントリーNo.1 月曜4:00のカロリーメイト
エントリーNo.1 月曜4:00のカロリーメイト
道ばたの空き缶の写真を撮りためている。
ポイ捨てしてあるのではない。ゴミ箱に入りきらずに並べてあるのでもない。
「街にそっと取り残された空き缶」だ。
特に、道ばたのちょっとした縁にちょこんと乗っけられていたり、だれも気づかないような隙間にこっそりとおさまっているものがいい。見知らぬ誰かがそこで立ち止まって一息ついた痕跡に、都会の息づかいのようなものを感じるのだ。
…なんだろうこのポエジーな感情は。いっそのことポエムにしてみようか。
1984年うまれ、石川県金沢市出身。邪道と言われることの多い人生です。東京とエスカレーターと高架橋脚を愛しています。

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エントリーNo.2 月曜20:00の缶ビール

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採録地:JRのどこかの駅
飲料種類:ビール(キリン)
飲主推定:30代男性
時刻推定:月曜20:00
短評:駅である。ベンチ下にそっとおかれた、ビールの缶である。駅のホームでアルコールを飲むひとは、容赦なく周囲の冷たい視線をあびるだろう。しかしこの日はどうしても、飲みたかった。そういう葛藤のみられる、月曜20:00の缶ビールである。彼はこれから家に帰る。家には、妻も子どもも待っている。妻は最近、ビール腹のめだちはじめた夫のことを心配している。「飲んでいい日は木・金だけ」と約束した。妻に心配はかけたくない。彼のささやかな抵抗である。

エントリーNo.3 火曜13:55の微糖コーヒー

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採録地:地下鉄の乗越精算機前
飲料種類:コーヒー(微糖)
飲主推定:20代男性
時刻推定:火曜13:55
短評:打ち合わせの約束は14:00である。駅からはふつうに歩いて7,8分。走れば間に合うか。あそこは遠くていつも面倒なのだ。今日も昼を食べる時間はなかった。乗る前のホームで辛うじて砂糖入りの缶コーヒーを買う。しかし電車が着く前に会社から着信が入っていた。2度も。嫌な予感がする。かけ直す。案の定、別件のトラブルだ。こんなときに限っていつもPASMOの残高はない。左手にケータイ、右手に缶コーヒーとPASMO、もう遅刻は確実。トラブル対応しPASMOをチャージする頭の片隅で言い訳を考え始める。

エントリーNo.4 水曜15:50の缶コーヒー

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採録地:どこかの駅前
飲料種類:コーヒー(BOSSレインボーマウンテンほか)
飲主推定:20~30代男性
時刻推定:水曜15:50
短評:「え、おまえおれはいつもジョージア派だつってんじゃんよ、なによこのレインボーって」
「すみませんすみません、自販機これしかなかったんで…」
「まぁいいけどよ、おまえこういうところで道が分かれてくのよ?」
「はぁ…」
「ナカタさん知ってます、ササキさん、今度福井に転勤になるらしいっすよ」
「え、マジで。あのひと、いいひとだったのになぁ」
「ですよね、俺もショックっす」
「まぁ、いいひとなだけじゃ世の中渡っていけねぇってことだよなぁ…だからほら、おまえも気をつけろよ、レインボーとか買ってる場合じゃねーぞ」
「はぁ…あ、すみませんすみません」

エントリーNo.5 木曜8:25のカフェオレ

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採録地:神戸三宮高架下
飲料種類:コーヒー(カフェオレ)
飲主推定:10代女性
時刻推定:木曜8:25
短評:朝食べている時間はない。きょうもお母さんとは口をきかなかった。高校はふつう。友だちもいる。でももうこんな街には飽き飽きしている。自販機で買う冷たくて甘いカフェオレが好き。ものすごくたくさんのひとがここを通りすぎるのにわたしのことなどだれの目にも留まっていないようにおもえる、この時間だけが好き。

エントリーNo.6 金曜19:00ののどごし生

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採録地:どこかの駅の公衆電話
飲料種類:第3のビール(のどごし生)
飲主推定:40代男性
時刻推定:金曜19:00
短評:ビールを飲みながらかける、公衆電話。緊急の用事ではない。いつものきまった時間の、きまった相手への電話である。東京で働く彼は48歳。週末には年老いた母親の介護のためひとり九州の実家に帰省する。「だからそげんことはわかっとろーが」つい口調がきつくなる。こんなことを伝えるための電話ではなかった。新幹線の車窓にうつる自分の顔をただ見つめる。

エントリーNo.7 土曜16:20のレッドブル

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採録地:汐留
飲料種類:エナジードリンク(レッドブル)
飲主推定:30代女性
時刻推定:土曜16:20
短評:休日出勤である。しかも、まだ終わりは見えない。連休初日。ショッピングや、アンパンマンショップを訪れる家族連れなど、同じ年頃の女性たちが汐留の街をたのしげに行き交っている。いまはやっかいなクライアントを抱えている。レッドブル。あの先輩が考えた、あの有名なキャッチコピー。ここで立ち止まるわけにはいかない。

エントリーNo.8 日曜6:50のブラックコーヒー

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採録地:博多区下川端町
飲料種類:コーヒー(BOSS BLACK)
飲主推定:20代女性
時刻推定:日曜6:50
短評: それなりの進学校だった。同級生はほとんど本州の大学に進学した。でもこの街に残った。ここでやりたいことがあったからだ。仕事の前に飲むブラックコーヒー。わたしの朝。わたしの街。

エントリーNo.9 日曜22:00のドクターペッパー

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採録地:ゆりかもめのどこかの駅
飲料種類:清涼飲料水(ドクターペッパー)
飲主推定:20代男性
時刻推定:日曜22:00
短評:お台場のホテルでの華やかな披露宴が終わって、まだ未婚のメンバーばかりで大騒ぎの二次会、さらに三次会、さすがに明日は仕事だから解散、解散と、そのままのテンションでなだれこんだゆりかもめのホーム。ほとんどのメンバーは先にきた新橋行きに乗り込み、気がつくと豊洲行きを待っているのはひとりだった。日曜のこの時間、ゆりかもめの本数は少ない。さっきまでのばか騒ぎが嘘のようなホームで、静かに電車を待つ。

エントリーNo.10 月曜7:00のエメラルドマウンテン

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採録地:京急のどこかの駅
飲料種類:コーヒー(ジョージアエメラルドマウンテン)
飲主推定:20代男性
時刻推定:月曜7:00
短評:わりと人生をぼんやりと生きてきた。早起きだけが取り柄である。地元のこの駅から都内の職場までは片道1時間半。 親には就職したと嘘をついている。実際はレンタルビデオ店のバイトをやっている。危機感がない代わりに、特になにかを諦めてもいない。人生ってそんなもんだ。駅のホームで飲むコーヒーは無性にうまい。人生ってそんなもんだ。

都市システムと空き缶

空き缶に感じているこのわかりにくい叙情を、そのままポエムにしたらきっとおもしろいに違いないと、書いてみたら、冗談になるどころか感情移入しすぎて困った。時間と場所と飲料種類、これがそろうと、空き缶に人生がみえてくる。

ちなみに前住んでいた場所の近くには、道ばたの空き缶を金属として回収している、組織されたホームレスの皆さんの集積所があった。そこからも、都市のシステムと人の営みがみえる気がしている。
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