特集 2011年9月14日

スカイツリーのてっぺんにのっかる方法

影のてっぺんはどこだ?
影のてっぺんはどこだ?
来年5月22日にオープン予定の東京スカイツリー。地上部分の工事はまだ終わっていないものの、電波塔部分の建設はすでに完成しており、押上の街に高さ634メートルの巨大な塔がその姿を見せている。

ところで、ぼくはこのスカイツリーをみるたびに、あの電波塔(ゲイン塔というらしい)の一番さきっぽに乗っかることできないかしら? と、ふと思う。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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無理なのは分かってる。でも影のてっぺんなら……。

あそこに行ってみたい……
あそこに行ってみたい……
ただ、現在はもちろん、おそらくスカイツリーが開業したとしても、あのゲイン塔の頂上に登るなんてことは、無理だと思う。でも、スカイツリーの「影」のてっぺんだったらどうだろう? これなら乗れるんじゃないだろうか。しかも今すぐ。

影なら、街のどのあたりに落ちるのかを計算で求めることができるはず。たぶん、こんな感じで計算すればいいんじゃないかな?
太陽の角度がわかれば影の長さわかるんじゃねーの?
太陽の角度がわかれば影の長さわかるんじゃねーの?
たしかこれ、三角関数ってやつだ。数学の時間で習った記憶はある。ただし、実際にどういう計算式にどういう数値を代入して計算すればいいのかはよくわからない。わからないけれど、もう36歳の大人なんだし、今はネットで色々調べたり、計算機も使っていいわけだし、なんとかなるんじゃないか。

そう思ったぼくは早速、図書館に行って太陽観測の本を借りてきた。

ナメてた

『天文アマチュアのための』らしい
『天文アマチュアのための』らしい
借りてきたのは『太陽観測』という本だ。「天文アマチュアのための」って表紙に書いてあるぐらいだから、たぶん初心者でもわかるだろう。
えーと太陽の角度は……
えーと太陽の角度は……
か、角度…… …
か、角度…… …
かくどっ……
かくどっ……
とりあえず、スカイツリーの影の長さを計算で求める。というのは無しにした。だって分からないから。
よく考えたら、ぼくは数学の成績で3以上をとったことが無いということを思い出した。
無謀だった。

そんなやつでも「三角関数ぐらいネットで検索すればなんとかなるんじゃないか」なんて思わせちゃうインターネットって、危険。

これが巷で喧伝される「ネットの闇」ってやつに違いない……恐るべし、インターネット!

別の方法を考える

要はその日、その時間にスカイツリーの影のてっぺんが、街のどのへんに落ちているのかがわかればいいのだ。

そうだ。本屋で売ってる墨田区の区分地図の縮尺と、同じ縮尺のスカイツリーの模型を地図にたてて、直接太陽に照らせば、影のてっぺんがわかるんじゃないか?
こんなのを作ればいいのでは?
こんなのを作ればいいのでは?
我ながらかなりの妙案。さっそく制作に取り掛かりたい。
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造形力のなさを痛感

びっくりするぐらい軽い紙粘土にびっくりした
びっくりするぐらい軽い紙粘土にびっくりした
模型のスカイツリーを作るにあたり、紙粘土を購入。
紙粘土なんて何十年ぶりだろう。子供のころ、粘土細工は得意だった。たぶん、なんとかなるだろう。
どれぐらいの粘土を使えばいいのか適量がわからない
どれぐらいの粘土を使えばいいのか適量がわからない
家にある墨田区の区分地図は、1/8000。ということは、634mのスカイツリーをセンチメートルになおして63400cm。

63400÷8000=7.925

約7.925cmの模型を作ればいいわけだ。いくら数学が苦手でもこの程度の計算なら電卓があればできる。(電卓がないとできない)
まずは土台の部分をコネコネ
まずは土台の部分をコネコネ
根元は三角形なんだよな
根元は三角形なんだよな
ものさしを横におき、見本のスカイツリー画像を見ながら製作開始。ゲイン塔部分は爪楊枝を逆さまに突き刺して長さを調節。
そして完成したものがこれだ。
スカイツリー、堂々の完成です!
スカイツリー、堂々の完成です!
予想以上にヒドイものが出来上がってしまった。
卑猥。という言葉が脳裏をよぎる。
たぶん親がこれを見たら泣く。「こんな下品なもんを作るような子に育てた覚えはない」と言って泣く。ヒドイ。完全に親不孝だこれ。

そもそも、スカイツリーって下が三角形なのに、上に行くにしたがってだんだん丸くなっている。そんなこみ入った造形を紙粘土で再現しようなんて実に無謀だった。無謀2回目。

そして、ここまでやっておいていまさらなんだけれど、スカイツリーは、わざわざ模型にすることもないことに気づいた。要は7.925cmのスカイツリーの影が地図上に落ちればいい。影絵の要領でスカイツリーのシルエットを作ればいいのだ。それなら何とかなりそうだ。

スカイツリーは紙製に

ウィキペディアのシルエットを参考に、長さを測って紙を切り出す。
iPadって便利ですねー
iPadって便利ですねー
展望台の縮尺と割合はちゃんと調べました
展望台の縮尺と割合はちゃんと調べました
コンビニで等倍にカラーコピーしてきた地図を、ハンズで買った板に両面テープで貼り付ける。そしてさらにその上に紙で作ったスカイツリーのシルエットをはりつける。ゲイン塔部分は逆さまにした爪楊枝にして長さを調節する。
ぶかっこうだけど、まあ、影がちゃんとでればOK
ぶかっこうだけど、まあ、影がちゃんとでればOK
影はスカイツリーそっくりだ!
影はスカイツリーそっくりだ!
出来た。いびつだけど、まあ影はスカイツリーっぽい。

本当にこれでOKか、理科の先生にきいてみた

ところで、このスカイツリー日時計。本当にこれでOKだろうか? この模型の影が、そのまま本物のスカイツリーの影と一致するのだろうか?
なんだかちょっと心配になってきた。心配なので、知り合いの理科の先生にこれで大丈夫なのか電話できいてお墨付きをもらいたいと思う。
知り合いの理科の先生の加藤さん
知り合いの理科の先生の加藤さん
--あの、この前言ってたスカイツリーの日時計の件なんですけど、結局、地図と同じ縮尺の紙型を地図に貼って、その影が落ちるところに行って影のてっぺんを探そうと思ってるんですよ。
「あー、あれ。地図で、なるほど。大丈夫だと思いますよ」
--理屈としては間違ってないですよね。
「間違ってないです。ただ、北と水平は合わせないとダメっすよ」
--あぁ、影がずれちゃう?
「ですね、縮尺が小さくなると、ちょっとの誤差が大きい差になりますから」

さすが理科の先生、即答だ。しかも、計測する際の注意点までアドバイスしてくれた。
これで憂いはなくなった。押上に向かう。
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スカイツリーのてっぺんの影探しスタート

影のてっぺんはどこかなー
影のてっぺんはどこかなー
雲がじゃっかんあるものの、なんとか晴れてくれた。さっそく橋の欄干の平らなところで影の位置を確認してみる。
水準器で水平を、iPhoneのコンパスで北をあわせる
水準器で水平を、iPhoneのコンパスで北をあわせる
向島三丁目の円通寺付近だ!
向島三丁目の円通寺付近だ!
現在、影のてっぺんは向島三丁目の円通寺付近だ。現在地の東武橋から歩いて5分ぐらいの場所だ。
5分と言ってもバカに出来ない。太陽って結構な速度で動いてる。5分でもかなり影は移動する。急がなければいけない……。
おばちゃんに褒められた
おばちゃんに褒められた
そんななか、東武橋から円通寺に向かう途中、観光客のおばちゃんに「これ、なにしてるの?」ときかれた。屋外でこんなことをやってると、好奇心旺盛なおばちゃんが何をしてるのか聞いてくることがしばしばある。
「スカイツリーの影のてっぺんを探してるんです」と答えたところ「大学の研究かなにかで?」と聞き返されてしまった。
こういうときはいつも返答にこまる。「えーと、インターネットのよみものサイトの……」といちいち説明するのはちょっと面倒くさい。面倒くさいのでたいてい「趣味です」と答えるようにしている。
で、研究じゃなくて趣味だと答えたら「あらー偉いわねー」と、孫の自由研究を褒める感じで感心されてしまった。

さすがのスカイツリーも雲には勝てない

モダンな建物の円通寺
モダンな建物の円通寺
そうこうするうちに円通寺に到着。スカイツリーを見上げてみると、スカイツリーの上に雲がかかってきた。
太陽が隠れた!
太陽が隠れた!
こうなるともう、手も足も出ない。じっと雲が晴れるのを待つしかない。

コンパスが狂い始めた!

じっと待つこと数分、だんだんと晴れ間が見えてきた。しかし、けっこう時間が経ってしまったため、晴れてもスカイツリーの影らしきものは見当たらない……。
雲がかかってると日時計も使えない……
雲がかかってると日時計も使えない……
仕方がない、影が移動してきそうな場所に先回りし、影を待つしか無い。晴れている今のうちに影チェックだ。
なかなか水平にならない……
なかなか水平にならない……
iPhoneのコンパスがおかしな方向を差し始めた
iPhoneのコンパスがおかしな方向を差し始めた
すると、ここにきてトラブルが発生。
iPhoneのコンパスがなんだかおかしい。どう考えても北ではない方向を北だと言い始めた。さっき歩いてきた方向を考えると明らかに変なので、地図をコンパスの北に合わせると、スカイツリーの影が逆戻りしてしまう。
最初に調べた場所より、影が逆戻りしちゃってる
最初に調べた場所より、影が逆戻りしちゃってる
ただ、同行してくれた編集部・石川さんのスマートフォンのコンパスも同じような方向を示していたので、もしかしたら青木ヶ原樹海みたいなコンパスを狂わすなにかがここにあるかもしれない……。
と、のんきなことを妄想しているひまはない。
もう、こうなったらスカイツリーのゲイン塔の後ろに、太陽が隠れる場所を目視で探すしかない。
結局は足だ。
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目視でもけっこういける

iPhoneのコンパスがおかしくなったため、スカイツリーのさきっぽをながめながら移動。まぶしくはあるものの、目視でもけっこう大丈夫かもしれない。
2ページも費やして悪戦苦闘しつつ作ったこの「スカイツリー日時計」は一体なんだったのか。
存在意義が問われる
存在意義が問われる

スカイツリーの影っぽいところを発見するが……

ゲイン塔の位置と太陽の位置を目視で確認しながら移動すること数分。ついにスカイツリーの影らしき場所を発見した。
太陽の位置がちょうどゲイン塔の後ろに
太陽の位置がちょうどゲイン塔の後ろに
まんなかのぼんやりした影。これがスカイツリーのゲイン塔の影だ
まんなかのぼんやりした影。これがスカイツリーのゲイン塔の影だ
上の写真の真ん中へん。ぼんやりとした影が見えるけど、これがスカイツリーのゲイン塔の影だ。
ぼんやりしててよく分からないと思うので、上の写真にわかりやすく色をつけた写真と見比べて欲しい。
影がぼんやりとわかると思う
影がぼんやりとわかると思う
実は、加藤さんに電話で裏付けをとった時、加藤さんはこんなことも言っていた。

-回想シーン-
「たぶん、影はぼんやりしてると思いますよ」
--え? なんでですか?
「光の回折ってのがあって、光ってどうしても回りこんじゃうんですよ、で、影が遠くなればなるほど縁がぼんやりしちゃうんですね」
--じゃあ、スカイツリーのてっぺんの部分はけっこうあいまいな感じになっちゃいますかね?
「でしょうね」
-回想おわり-

さすが現役の理科教師。おっしゃるとおり、影はぼんやりしております……。

しかし、考えようによっては興奮できる

影すごい! (マウスオーバーで影を表示)
確かに影はけっこうぼんやりしている。でもしかし「これがスカイツリーの影なのだ!」と思うと、あのスカイツリーのてっぺん部分と自分が繋がったような、そんな感覚にとらわれ、空を飛んでるような不思議な興奮がわきあがってくる。なんだかわかんないけど、影すごい!(自己暗示)

スカイツリーには迷惑してる

スカイツリーのてっぺん部分の影が落ちる十字路の角に、古そうなせんべい屋さんがあったので、店のおっちゃんに話を聞いてみた。
「レモン桜」というザラメのせんべいがうまかった
「レモン桜」というザラメのせんべいがうまかった
--このあたり、スカイツリーの影が落ちる場所になると思うんですけど、意識したりすることあります?
「スカイツリー? んあ゛ーないね、ないけど、スカイツリーは迷惑してんだよ」
--迷惑してる?
「いつもより(せんべいを乾かすのが)90分余計にかかるようになっちゃったもん」
--屋上でせんべい干してるんですか
「そう、干してるン。スカイツリーは電車に乗ったとき小岩あたりの遠くから見ると『でかいなー』って思うけど、こんだけ目の前でみるとわけがわからないな」
--近すぎて大きさの感覚がマヒしちゃうんでしょうね
「せんべいの粉を店の前にまくんだよ」
--突然、何の話かと思った。え、粉をですか?
「すると鳩が寄ってくるだろ、で、車が減速して事故防止になるんだよ」
--事故防止ですか……
「最近は観光客が上見ながら歩いてて危ないからな」
--あー、耳が痛いです。す、すみません……。

どんどん脱線していくおっちゃんの話も面白いけれど、最後はやんわりと注意されてしまった。スカイツリー見物のみなさん。上ばかり見てると危ないので気をつけましょう。

ついに影のてっぺんを確認

せんべい屋さんで話を聞いているうちに、十字路にスカイツリーの影が落ち始めたようだ。
てっぺんの影がその全貌をあらわした(マウスオーバーで影を表示)
やっぱり、ぼんやりしてて今ひとつはっきりはしないけれど、ここがスカイツリーのてっぺんの影だ。
この地点からまっすぐ線を伸ばすとスカイツリーのさきっぽを通って太陽までつながっているのだ。そんなことを想像すると、なんだかすごい気になってきた!
とりあえず「スカイツリーのてっぺんにのっかる(影の)」という当初の目的は果たせたかと思う。

スカイツリーの影さがしもなかなか楽しめる

30の辺りが、ぼんやりしてるけど、スカイツリーの影(マウスオーバーで影を表示)
試行錯誤して作ったスカイツリー日時計が、実際にはまったく役に立たなかったり、影がそんなにはっきり出ないなどの困難はあったものの、現地でスカイツリーの影をさがしながら歩くのはなかなか面白かった。
これ、スカイツリーの展望台が開業したら、展望台にいる人にスカイツリーの影をみながら携帯で指示をしてもらえばもっと簡単に影のてっぺんを特定できるんじゃないだろうか? と、またひとつ、誰も必要としてない無駄なソリューションを思いついてしまった。
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