これがコットンパールだ!
コットンパールは最近流行の素材らしく、街中のセレクトショップやデパートなどでも随分見かけるようになった。
元々は数十年前によく作られていた素材だそうで一旦は廃れてしまったものの、ここ数年でリバイバルブームが巻き起こっているそうだ。
これがその、コットンパール
言われてみれば繊維っぽい
本物の真珠とは別物だが、これはこれでアンティークな風合いで味わい深い。
さらにこのコットンパールには一点、大きな特徴がある。原料を考えれば当然ではあるのだけど、これがもうとにかく軽いのだ。
さすがに本真珠のネックレスは持っていないので、普通のプラスチックパールで比較
プラスチック、41.5g
コットンパール、驚異の16g!
ほぼ同じボリューム感のネックレスで、この重量差。実際、始めてコットンパールを手にとった人は大抵その軽さにびっくりするらしいが無理もない。
柔らかいと信じてかじりついたワッフルが硬かった時に人間が取るリアクションを想像してほしい(
参照)。
そんな、ただでさえ意外性の塊みたいなコットンパールを更に座布団から作ろうというのだ。座布団から生まれた真珠を持ち上げてみたらやたら軽かった、という訳の分からない光景をどうにか現実のものとしてみたい。
綿の座布団を探せ
座布団から真珠、正確に言うと座布団の中身の綿からコットンパール。
まずは座布団を調達しなくては。と、張り切って買ってきたはいいものの、ここで予想外の罠に引っかかる。
100円で買えたぜ! と喜んだのもつかの間
か、化学繊維……!
目を疑った。何かの間違いであって欲しかったが、残念なことに何度見直してみても燦然と輝くポリエステルの6文字。切り裂く気満々で用意したハサミも一旦置かざるをえない。
どう考えてもマズい。ポリエステルで作った真珠は、それはもうポリエステルパールであってコットンパールではない。 駄目だ。調達しなおさないと。
というわけで買い直しました
今度はちゃんと綿100%!
どうやら世間一般ではポリエステルの座布団の方が圧倒的に優勢らしく、数件回ってやっと見つけた綿座布団。
価格は19倍に跳ね上がってしまったが、散々探しまわってやっと見つけた一枚だったので迷わず買った。しかも京都の職人による手作り。本来ありがたがるべき話だが、直後に切り裂く気でいることを考えるとむしろ申し訳なさが先に立つ。
職人さんのことを考えると気が引ける行為
せめて切り裂く範囲は控えめにしておこう
そして綿を取り出してみたが、
やたら不純物が目につく。ごみ?
真っ白な綿を想像していたが、茶色い不純物の混じった、あまり綺麗とはいえないものが出てきた。
何だこれ、と一瞬手が止まったが、よく見ると乾燥した植物のカケラっぽいので、多分綿の実の破片が混じっているということだろう。
まあ多少の不純物があったところでどうせ丸めてコーティングするんだしあまり問題はない、と信じて突き進むことにする。
綿を丸くする方法
さて座布団の綿は用意できた。次はどうにかしてこれを丸い真珠の形にしてやりたい。
適当な量を取りわけて
ぎゅーっと手で圧縮してみる
更にころころと丸めてみるものの
あ、駄目だこれ
何となく丸い形にはなるものの、ちっとも圧縮されないし固まらない。固まる気配すらない。ふかふかだ。
困った挙句、どうしようもないので人に相談することにした。コットンパールを使ったアクセサリー製作を得意とする知人がいるので、あの人ならきっと詳しいに違いない、と思ったのだ。
よくよく考えればパン屋に小麦の栽培方法を尋ねるような行為ではあったが、結果的にこれが大正解。喫茶店内で話をしていたのだが、どうやらこう作っているらしいよ、という貴重な情報に思わずテーブル越しに身を乗り出してしまいそうになる。懐かしの某番組かというくらい「へえ~」という言葉が出た。
ちなみに冒頭に出てきたネックレスは、その知人の作品です。
それが、この方法
芯材にぐるぐると綿をキツく巻きつけて丸くしていくらしいのだ。屋台のわたあめ方式、と考えればなるほど納得が行く。
巻いていく作業はなかなか楽しい
徐々に丸くなってきた、まさにわたあめの様だ
が、調子に乗って巻きすぎたらぼわぼわになった
綿の量を多くしすぎると、途端に形が歪になってまとまり感もなくなる。何事も欲張ってはいけないということだろう。
雀のお宿で小さいつづらを選ぶような正直じいさんに作業をさせたら、上手に丸くしてくれるのかもしれない。
正直でもじいさんでもないけど、ここまでできました
さて次は表面にパール塗装。
何を使ったらいいのかまるで検討もつかず悩んだが、経験上、こういう問題は東急ハンズに駆け込めば大体解決する。
案の定、割とあっさり解決した
右のジェルメディウムはクリーム状の素材で乾くと半透明になるらしく、見た目や質感は木工用ボンドに少し似ている。これに右の、パールっぽいラメの入った絵の具を混ぜて使うことにしよう。
パールホワイト、の名前を持つ絵の具と、
ジェルメディウムとを混ぜて、
綿に塗ってみる
コーティングってこういうことでしょ?
スポンジケーキの土台に生クリームを塗るようにしてとりあえず覆ってみたが、どうだろう。光沢感はパールだ(パール色の絵の具を使ったから当然だ)。
けど、頭の隅の方から「カマキリの卵……」という声が聞こえてこなくもない。聞こえないふりでとにかく乾燥させよう。
しばらく時間をおいて
固まったのがこちら
なんだかますますカマキリの卵っぽいけど、多分串に刺さってるビジュアルのせいだろう。取り外せばきっとそうは見えなくなるはず。
取り外しは力任せに引っ張ればOKだったよ
よし、カマキリの卵から少し遠ざかったね!
見た感じは割とコットンパールの風合いに近いのではないだろうか。ニヤリと満足してしまいそうになるが、しかしこのパール、ぱっと見ただけでは分からない致命的な欠点も抱えていたりする。
柔らかい
指で簡単に押しつぶせるほど柔らかい。ふんわりしている。
これが焼きたてパンだったらそれでも悪くないが、真珠である。これはマズイ。ついでに言うなら本物のコットンパールも当然、柔らかくはない。
要は綿の圧縮具合が足りないのだろう。
理想は当然ふわふわしていないパールなので、改良を加えながら作りなおすことにする。
座布団パール(改)
こんなこともあろうかと、もう一つ素材を調達しておいたのだ。
グロスポリマーメディウムー!(ドラえもんの声で想像しよう)
先のメディウムのお仲間だが、こちらはもっとサラっとしていてニスのよう。 これをどう使うかというと……。
串に綿を薄く巻いて
塗る!
その上からまた巻いて
更に塗る!
少しずつ綿を固め、この繰り返しで球を作っていく。
なぜ最初からこうしなかったんだ、というお叱りはごもっともなのだが、この方法だとメディウムが染み込んだ分だけずっしり重くなりはしないかと心配だったのだ。なんといってもコットンパールの魅力はその軽さにあるのだ。
でもまあ、背に腹は代えられないというし。
丸め終わったところで
先ほどと同じ塗料でコーティング
あとはひたすら、この一連の単純作業を繰り返すだけだ。最終的にはネックレスにしたいので、それなりの数を作らなくてはいけない。
一個を丸めるのに大体10~15分程度かかることを考えると気が遠くなるが、こんなことでへこたれていては座布団を切り裂かれた京都の職人さんに申し訳が立たない。必ずや立派なコットンパールを作らねばならぬ。背筋を伸ばして取り掛かろう。
ずらりと用意
段々手際も良くなってきた気がする
つくねのようにも見えてきた
いや、やっぱカマキリの卵だな
伸ばしていたはずの背筋も徐々に曲がり、途中で飽きて放り出したりおやつタイムを挟んだり家具カタログを眺めて現実逃避したりしつつも、どうにかこうにか無事に大量生産できた座布団パールたち。
一晩乾燥させて、串から取り外す。さて今度はどうだろう?
見た目はほぼ前回と同様、肝心の強度は?
大丈夫! 潰れない!
実はまだ本物のコットンパールに比べると少しふわっとしているが、それでも一度目と比べたら桃とスイカくらい違う。心配していた重さも、手に持った限りではほとんど変わらない気がする。
やれやれ、どうにか納得のいくものができて一安心だ。買ったばかりのオーブンで焦がし続けたクッキーをやっと上手に焼けるようになった時くらい嬉しい。そのくらいの達成感。
この真珠でネックレスを
さてせっかく作った座布団真珠、このままでは寂しいので繋いでネックレスにしてあげよう。
その際の糸はアクセサリー用のテグスなどを用いるのが一般的だが、今回はあえてコレを用意した。
せっかくだから、綿つながりということで
本当は同じ中綿を使って糸も自分で紡ごうとしたのだが、どうにも上手く行かずにグズグズな糸もどきしか作れなかったのであっさりなかったことにした。真珠が作れただけで十分満足だから別にいいもん、という負け惜しみだけ残しておく。
ともあれ、さくさく繋げていく
金具を取り付ければ、
座布団真珠のネックレス、できました!
こうしてきちんとネックレスの形にしてみると、一粒だけの状態よりもずっとパールらしく見える。少なくとも座布団から作ったようには思えまい。
京都の職人さん、あなたの作った座布団が今こうしてネックレスの姿になりましたよ、と報告したいところだが、そんなこと報告されたところで職人さんも困惑するだけだろうからやめておこう。
身につけてみる、やっぱり軽い
そりゃそうだ、重さは16.5g!
本物と比較。座布団の方はややテクスチャーが荒々しい。
一応、個人的には十分満足してニヤニヤしているのだが、コットンパールを知らない方には「どこが真珠?」と言われてしまいそうな出来上がりではある。
そこで、先程登場した知人に完成品の写真を送り、感想を聞いてみた。ここでコットンパールとの類似度まで否定されてしまっては目も当てられない。
こんなの作ってみたんですけど、どうでしょう?
通知表を受け取る間際みたいな変な緊張を味わいながら、恐る恐る待った。そしてもらった返答は、「(本物より)ワイルドでドキドキする」「一粒ほしいくらいだ」というもの。肯定的だ。5段階価の5とはいかないが、3くらいはもらえたと勝手に思っていいだろうか。
でも輝きだけは本物にも負けていない、と信じてる
余談ではあるが、完成品を眺めているうち、この表面を更に樹脂でコーティングしたい欲が沸いてきた。一つの山に登ったら次に目指すべき山が見えてきた、みたいな感覚。
座布団真珠が目指すべきゴールは、ひょっとしたらもっと遥か彼方なのかもしれない。
座布団から真珠
瓢箪から駒、は「冗談で言ったことが本当になる」とか「思わぬ場面でびっくりするようなことが起こった」とかいう意味合いで使われる諺だが、座布団から真珠、が諺だとするとその意味は何だろう。
「工夫次第で身近なものが意外なものに化ける」かな。
そのまんまだな。