お好きな人にはたまらない、ご存じ、これが天下一品のこってりです。うわーい。
飲み歩いていた頃、シメと称して最後にラーメンを食べることがよくあった。
なかでも私が好きだったのが、天下一品のこってりだった(あっさりもあり。ただし注文してる人を見たことがない)。口に入れた途端、ねっとりと絡んでくる濃厚すぎるスープは、さんざん飲んで荒れた胃壁を補修してくれるのでは…? と思わずにいられないほどの力を持っている。他ではまずお目にかかれないほど独特だ。
先日、夫に「いやー、ふざけて1日に2回も天一に行っちゃった」と言われた途端、私のなかで何かが弾けた。ああ、あのスープがどうしても飲みたい。今すぐ飲みたい。でも近所にはあいにく店舗がない。
さあ、どうする。作るか。っていうか作れるのか?
1968年秋田県生まれ。食べたり飲んだりしていれば概ね幸せ。興味のあることも飲食関係が中心。もっとほかに目を向けるべきだと自覚はしています。
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まずは味を思い出そう
考えてみたら、もう何年も天下一品のラーメンを食べていないことに気付いた。いまいち味が明確に思い出せない。目標の味の輪郭がぼやけるようでは、自作しようがないではないか。
というわけで週末を利用し、電車とバスを乗り継いで、わざわざ行ってまいりました。久しぶりの天一へ。
あまりの懐かしさに、思わずコーフン。
この濃厚スープ、初めて食べた時は「何か配合を間違えた のでは?」と不審に思ったほどビックリしたものです。
スープの濃厚さを示すエピソードとして「京都の本店なんて、濃すぎて箸が立つくらいドロッとしてるらしい」という話がある。
無駄とは思うが、試してみた。
麺があるところでは立ちますが
スープオンリーのところでは当然立たず。
久しぶりに食べたこってりは「懐かしすぎて泣けてきた!」というほどではなかったものの、しみじみ「あー、そうそう、こんな味だったな、うん。相変わらずだな…」という静かな感動を私にもたらしてくれた。
手探りで作ってみよう
よし、味の確認は済ませた。どうせ作るなら、箸が立つと評判の京都本店レベルの濃厚さを目指したい。
というわけで、さっそく帰りに鶏のガラと手羽元を買い、味の再現に挑んだ。
まずは鶏ガラをさっと下茹でしたらよく洗って
コラーゲンぽい部分も必要かと思い、手羽元も数本用意。
グツグツ煮てアクを取ったら、圧力鍋で40分ほど加圧。 ご覧のとおりのクタクタに。
ちょっと力を加えるだけで、骨がモロモロに崩れます。
えーと、あとは骨を砕いて、強火でガンガン加熱していくと白濁したスープが出来るはず…だよな?
と、鍋の中を見ても、ここから何時間くらい煮ればスープがドロドロした状態になるのか見当もつかない。っていうか、本当にこの工程で合ってるのか?
ためしに中身を取り出して漉したら、
こんなサラサラの白濁スープが取れた。これで水炊きでも したら、さぞやうまかろう。
どっちにしろ、これっぽちのスープと骨片を煮詰めても、最終的に出来るのはごくごく少量に違いない。さて、困った。
無理やりドロドロ化
あまり煮詰めなくても済みそうな工程はないものか…と考え、目を付けたのが、濃し網に残った骨、皮、身の残骸たちだ。
これをすり潰したら、さすがにこってりしてくれるんじゃないのか?
漉して残った全ての部分を、すり鉢ですってみよう
スープで伸ばしながらペースト状に。おお、いい感じ。で もまだ荒いな…。
というわけで、ミルサー登場。ウィーンと回したら、
ご覧の通りのクリーミーさ。これはイケるかも…!
あの巨大だった鶏ガラや、ゴツゴツと硬かった手羽元が、いまこうして形を変えて目の前に出現したことに感動してしまった。
…すごい。というか、妙に恐ろしい。
かなり近い
ドロドロの液体を火にかけ、塩と昆布出汁と醤油を少量入れて、味を調えた。
もうずいぶん前から、台所には天下一品のスープっぽい匂いが充満している。
火にかけたら、もう笑っちゃうほどこってり。徐々に水分 が飛び、ボコッ、ボコッと温泉地の泥沼のような状態に。
器に入れてみた。これはスープっていうよりもポタージュ に近いな。いや、既にポタージュでもないか…。
もちろん、箸なんて余裕で立ちます。
その箸を抜いたらポッキーみたいになった。
まさかここまでドロドロになるとは思わなかった。スープのこってり具合はクリアしたといっていいだろう。
問題は、麺とどう絡むかだ。
茹でた中華麺を投入するも、なかなか沈まず。
なんとか沈めて、それっぽい具を乗せてみました。
ラーメンの具というのは「スープに浮かぶ」のが通常なのだろうが、ここでは完全に「スープに乗って」いた。どれ一つとして、沈み込む様子を見せない。
よし、観察するのはここまでだ。実際の食感はどうなのか、いざ麺を持ち上げよう。
スープが絡まりすぎ、重くてなかなか持ち上がりません。
麺がスープの中で絡まりまくっているせいで、うまく持ち上がらない。
なんとか一口分を確保し、口に入れてみた。
どれどれ…。
うん! 味はじゅうぶん天下一品っぽい!
味はかなり近い。ネギやショウガで臭みを取らなかったことも、本物っぽい雰囲気を醸し出している。
そして、やはり特筆すべきはその濃度だ。とにかく水分がないに等しいので、飲むための水を確保してからでないと食べ進むのがツラくなってくる。
天下一品のこってりならぬ「ぼってり」と言ったところか。
っていうか、これはスープではないし、もはやラーメンで もない気がしてきた。
ためしに夫にも食べてもらったところ「お、これ、味はほとんど天下一品だねぇ」とのお墨付きをもらった。
この先、どうしても天下一品のこってりが食べたくなったら、何も考えず、圧力鍋で鶏を煮ようと思う。その時は、せめて具が沈む程度にはスープの濃度を調節しよう。そうしよう。
食べたくなったら似たものを自作しよう
行き当たりばったりで作ったにも関わらず、ここまで本物に近付くことが出来るなんて思いもしなかった。当初、濃度が足りないようなら野菜をすり潰して入れようと思っていたくらいなので、うまくいってラッキーだったと言うほかない。
天下一品のこってりが大好きなのに、気軽に食べに行ける環境にない方には、ぜひ自作をおすすめしたい。圧力鍋がなくても、数時間煮込めば同じ効果が得られますよ。
ちなみに、京都本店近くに住む知人に「本店のスープは箸が立つほど濃いって本当か?」と聞いたところ、「麺のところでは立つだろうけど…」という回答だった。ですよねぇ。
濃厚すぎたせいか完食ならず。この残った分だけで、普通 のラーメン一杯分くらいの満足度はあると思う。