穴場スポットJICA横浜
そんな、まさしく穴場スポットともいえるのが国際協力機構、JICA横浜の中にあるのだ。
JICA横浜
みなとみらいのど真ん中
みなとみらいの駅から巨大観覧車の脇を抜け、赤レンガ倉庫に向かう途中っていう、どう考えてもハッピーな気持ちになるシチュエーションに、JICA横浜というどこか堅い印象のする文字の架かった建物がある。
たぶん「ああ、あるな」と思い出される方も多いと思う。
観覧車のすぐそば
かっこいい歩道橋の目の前
開発途上国からの研修生のための施設
観光に来ているときは横目で見過ごしてしまいそうな建物だが、ここは開発途上国から日本に研修にやってきた人たちが宿泊する施設があるのだ。
その人たちのためにあるレストラン「ポートテラスカフェ」が、一般にも開放されているというわけだ。
こんな料理が食べられる
祖国の味を
様々な国から研修にきている人たちは、長期間(長い人では数年)をここで過ごすので、母国の味を提供して、離れた外国での暮らしをサポートしようということで、このレストランはある。
だから、「こんどタイ料理食べに行こうかー!」みたいなエンターテイメントとしてのエスニックフードではなく、生活に根ざした食事なのだ。
ランチとディナー、週末は喫茶も
国際色に富みまくりの店内
ともかく食べよう
細かい説明はあとにして、ともかく料理を食べよう。
ランチタイム終了ギリギリだったので、店内は少しすいているが、お昼時にはとても賑わうそうだ。
店入り口のショーケースにあるサンプルから食べたいものを選んで、それに該当する札をレジに持っていってそれと引き替えに食券を購入し、食券を料理と交換するシステムだ。
一見効率が悪いような気がするが、言葉が通じなくても食べたいものが食べられるようになっているのである。
僕はムスリムでも食べられるよう決まりにのっとって処理された肉を使ったラムのソテーを食べることにした。
珍しいジュースもあったので、それも飲んでみようか。
ハラールミートのラムのソテー
外国のジュース
これで650円
ラムのソテーが390円、いっしょに頼んだトルティーヤが110円、ブラジルのガラナドリンクが150円、全部で650円である。
ちょっと信じられない安さだ。
ファーストフードだってそれくらいの金額はしてしまう。
それなりの店に行ったら、たぶん倍以上だろう。
トルティーアをつけた
おねだん以上
見た目からしておいしくないわけがないのだが、値段を考えると、と思ってひと口食べたが、ラム肉は柔らかくてとてもうまい。
僕は出身が北海道で、ラム肉には親しみがあるのだが、つい故郷を思い出してしまった。
本当はもっと外国料理っぽいものをチョイスした方が取材的にはいいはずなのに、期せずしてここで研修している人たちと気持ちをほんのすこし共有できることになった。
いただきます
おいしー
見たことないものを食べる同行者
この日は編集部から石川さんが撮影係としてついてきてくれたのだが、彼は「フェジョアーダ」という聞いたことも見たこともないような料理を注文していた。
フェジョアーダ(ブラジルの黒豆とお肉の煮物)
ごはんにかけて食べる
いや、見たことがないというのはうそで、どこからどう見ても「おしるこ」である。
どうみても甘そうなのだけれど
肉の味がしっかりしてる
僕もひとくちいただいたが、見た目とは裏腹に、肉のうま味がぐっと凝縮された、塩味の豆スープという感じだ。
ランチにこんなのが食べられたら、午後の仕事がたのしくなりそうなくらいおいしい。
明日またきてこれを食べたい。
おしるこじゃあない!
もうここでしかごはん食べない
ちなみに石川さんが食べた料理はしめて750円。
こんな海の見えるようなシチュエーションでこれだけおいしいのにこの値段、ぼくはもうみなとみらいに来たらここでしかごはん食べないんじゃないだろうか。
いいお店を見つけてよかった。
ガラナもうまい
お店の人にお話を聞いてみる
おいしい食事を終えて空腹も満たされたので、お店の方に話を聞いてみよう。
外国の人向けに料理をするって大変なんだろうな。
食堂主任の佐藤さん
お話を伺ったのは、JICAから委託を受けてこのレストランを運営する会社の食堂主任 佐藤さんだ。
余談になるが佐藤さんは37歳。写真の通りものすごくお若く見える。
その秘訣も聞こうかと思ったが、忙しい時間を割いてもらっているのでがまんした。
ごく普通の社員食堂の厨房的なのに
現地に食べに行きます
~知らない料理を作るって大変じゃないですか?
最近はインターネットで調べればだいたい作り方がでてきますね。
だから食べたことがないものでも想像でつくっちゃったりします。
若い頃はプライベートで海外に行って、現地のものを食べたりしましたよ。
これがホントの味なんだ! って。
見たことのない調味料が
~想像で作っていたのとはどう違いました?
自分で作ったのよりもずっと辛くて、酸っぱくて驚きました。
でもあの刺激にしちゃったら、日本の人から叱られちゃいますね。
研修員用の施設なので外国の方が主体ですが、昼は日本人のお客さんも
多いんですよ。
ナンプラーとか
タイ醤油とかが調味料コーナーにあって、さすがだ
味は中間、自分で足してもらう
~でも、その国出身のの方には物足りないですよね
そうなんですよ、世界各国からお客様が来るので、みんなの口に合わせるのは難しい。
だから味は中間を意識していますね。
厨房から、お客さんが自分でスパイスをかけているのが見えるんです。
ああ、もっと辛いのが食べたいんだろうなって思いますけど、それくらいがちょうどいいんじゃないでしょうか。
アンケート用紙も国際的
厨房でお客さんから手ほどきも
~それでも満足できないって声はありませんか?
そういう意見をいただくためのアンケート用紙があるんですけど、ときどきそういう声もありますね。
昔は「もっとこれを入れた方がいい」と厨房で直接指導をされたこともありましたよ。
「もっと入れろ、もっと」って。
お土産も買える
無いものは作る
~作るのが難しいのってどんな料理ですか
食材が手に入らない料理ですね。
東南アジアなんかの料理はそれなりに食材が流通してるんですけど、アフリカ・中近東の食材は手に入りにくいんです。
以前アフリカフェアをした時、トウモロコシの粉をねった「ウガリ」というのを作ろうとしたら材料が手に入らなかったんであきらめました。
その時はごはんで代用しましたね。
似たものを使ってむりやり作っちゃうこともありますよ。
たとえばウガリはマッシュポテトと片栗粉を混ぜると比較的似たものができるんです。
ふつうの定食もある
工夫と挑戦
やっぱり、違う文化の食べ物を作るのには苦労があるようだ。
けれど、佐藤さんはすごく楽しそうに話していて、よっぽど料理が好きなんだろうなと思った。
話の途中、同席していた運営会社の責任者の方に「毎日世界中の料理が食べられていいですね」と言ったら「いや、毎日のことなのでつい日本食を選んじゃいますね」といっていた。
それがまさしく、このレストランの存在意義なんだろうなと思う。
やっぱり、食べ親しんだものを食べたくなるからこそ、佐藤さんがいろいろと工夫をして、それぞれの国の料理を作っているんだ。
同じくJICA横浜にある「海外移住資料館」も見学
ここからがらっと話は変わるが、この建物には昔日本から海外へ移り住んだ人たちにまつわる資料を展示する、海外移住資料館というのがある。
JICAの方から、せっかくだからそこも見学していってくださいと誘われたので見せてもらったのだが、これがまためっぽうおもしろいのだ。
おもしろい、というと語弊があるかもしれないが、とても内容に富んでいるのだ。
行く前はそこの写真を何枚か掲載しようかな、と思っていたのだが、予想以上に興味深かったので、ちょっと詳しく紹介したい。
せっかくだから見ていってください
入ってすぐにあでやかな山車
海外移住というと、移り住んだ先での苦労など、小説や映画などからうけるイメージとして個人的にはどちらかというとネガティブな印象を持っていたのだけれど、必ずしもそればかりではないのだ、と思ったのが、入ってすぐの所にあるこの展示だ。
華やかな山車だなと思ってよく見ると
これは1920年にアメリカのオレゴン州ポートランドで開催されたお祭りに参加した日本人農家が作った、山車の複製だ。
ずいぶん華やかだなと思って近づくと、装飾が野菜でできているのだ。
展示されているのはイミテーションの野菜だが、実物は実際の野菜を使っていたらしい。
屋根の部分は片面が星条旗、もう一方が日の丸になっている。
野菜でできている!
楽しそうだ
海外移住という言葉から受ける、家族との別離とか苦労とか、ドラマになりがちな印象とはまったく異なるこの派手さ。
もちろん大変なこともたくさんあったんだろうけど、こういう楽しいこともちゃんとあったんだなということを知ることができてよかった。
大根蕪白菜芋…
そしてネギ
当時のポスターがかわいい
つづいて目を引いたのがこのポスターだ。
青年がブラジルを指さしている。
伝えようとすることが多すぎてパンパンになっている感じがかわいらしい。
ブラジルを指さす青年
文字のバランスがいいなあ
古本屋に売ってたら買いたい
昔のカバンが
当時の人が持っていった実物のカバンが展示されている。
年季の入ったという表現をこえた、時間の重さを感じるカバンで、中に入っているものも同じく当時のものだ。
当時の人が持っていったカバン
海外移住する人達は、このような荷物を手に故郷を立ち、移民船の出る横浜へやってきて、世界各地へむかっていったそうだ。
この資料館が横浜にあるのは、そういった理由もあるそうだ。
当時のパスポート(写真中央の茶色い紙)
空手着
ほかにも、海外で新しい生活をはじめた人達の暮らしぶりがわかる資料が展示されている。
特に目を惹いたのは、当時の人達の食生活だ。
当然、さきほど紹介したポートテラスカフェのようなレストランはもちろんなく、彼等は自分で食事を作らなければならなく、その結果、現地の食文化とうまく融合しながら、あたらしいメニューが生まれていっているのだ。
とくにハワイのミックスプレートは、農作業する人達が持ち寄って食べた風習が、いまでは名物になっている。
おいしいごはんが食べたいという欲求に対する努力は、いつの時代もみんな立派だな、と思う。
農耕の道具なども展示
文化が融合した食事、おいしそう
日本よりも日本的
もちろんいまでも海外移住者の子孫達が世界中に住んでいて、その方達が日本の文化を大切にしようと各地でイベントを開いている。
サンパウロで七夕祭りをやったり、ワイン樽で太鼓をつくって叩いたりしているらしい。
なかには、日本よりも日本らしいくらいのお祭りがあるようで、世界の人が日本に対して好意を持って接してくれるきっかけをたくさん作ってくれているのだ。
現在の子孫達の様子も
日本らしさが逆に濃縮されている
おいしくてためになって安い
海外移住資料館は入場料が無料だ。
タダでこんなに充実した資料を見学できるなんてすごい。
ポートテラスカフェで海外のおいしいものを食べて、海外移住資料館で夢を持って世界へ飛びだしていった人たちの勇気にふれる。
それが数百円でできるなんてうれしい。
お隣にある遊園地でお金をつかうのも楽しいけれど、こっちもかなり楽しいんじゃないかと思います。