特集 2011年6月30日

オタマジャクシは降っているのか in 加賀

そもそもまだオタマジャクシはいるのか。
そもそもまだオタマジャクシはいるのか。
2011年6月8日 加賀市の路上で20匹のオタマジャクシが死んでいるのが見つかった。
こちらの新聞記事では空から落ちてきた可能性を示唆している。
今年もオタマジャクシが降ったのだ。
水の中の生き物が突如町中に降り注ぐという非日常的フェノメノン。
当サイト、デイリーポータルZでも過去三度にわたってその謎を追ってきた。(こちらこちらこちらの記事)
今回の降玉現場(デイリーポータルZ編集部 工藤さん作の造語)は石川県加賀市だ。ちょっとばかり遠いが、カエル好き、超常現象好きとしてはなんとしても出向かなければなるまい。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)


> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

オタマジャクシが降ったのは加賀

オタマジャクシが降り注いだという報を受けた10日後、僕は加賀の地へ降り立った。実は僕にとって初となる北陸上陸だ。
事件の真相についてはオタマジャクシを食べ過ぎた鳥が飛びながら吐き出しただの、風や竜巻が巻き上げただの諸説あるらしいがどれもいまひとつ信用できない。今回の取材で自分なりの答えが導き出せればいいのだが…。
加賀温泉駅へ僕を運んでくれた特急「しらさぎ」
加賀温泉駅へ僕を運んでくれた特急「しらさぎ」
実はこの名前がこの旅の結末を暗示していたのだが…。
実はこの名前がこの旅の結末を暗示していたのだが…。
駅に降り立って最初に目に飛び込んでくるのがカニ推しの看板。さすが北陸。
駅に降り立って最初に目に飛び込んでくるのがカニ推しの看板。さすが北陸。
レッツオタマジャクシのポーズ。
レッツオタマジャクシのポーズ。
まずは情報の聞きこみに駅前の大型スーパーへ向かった。
加賀土産がたくさん置いてあって楽しい。
かわいい名前のおまんじゅう。この地方の方言がその名の由来だとか。
かわいい名前のおまんじゅう。この地方の方言がその名の由来だとか。
膨大な量がパックされたしじみのつくだ煮。これを貝殻からほじくりだす作業を想像して気が遠くなった。
膨大な量がパックされたしじみのつくだ煮。これを貝殻からほじくりだす作業を想像して気が遠くなった。
数あるお土産の中でも目をひいたのが特産品のエビ、カニを使用した食品だったが、特に大きなインパクトを受けたのがあのキャラクターを起用した商品である。
御当地キティちゃん。猫に甲殻類のコスチュームというのがちょっとシュールだがそれなりにかわいい。
御当地キティちゃん。猫に甲殻類のコスチュームというのがちょっとシュールだがそれなりにかわいい。
ところが、ばかうけのパッケージのキティちゃんはもっとすごいことになっていた。キティさん仕事選ばなさすぎだろ。ていうか胴体どうなってんだ。
ところが、ばかうけのパッケージのキティちゃんはもっとすごいことになっていた。キティさん仕事選ばなさすぎだろ。ていうか胴体どうなってんだ。
いきなりオタマジャクシから話が逸れてしまった。
一応お土産屋さんのお姉さんや事情通っぽい奥様たち数名に聞き込みを行ったが、皆様の答えは一様に「知らない。」だった。幸先が悪い。
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美しい町並み、つかめない手がかり

とりあえず新聞の記事をもとに降玉地点の最寄り駅までやってきた。ここでも聞き込みを行う。
静かな街並みにたたずむ大聖寺駅。元気な高校生たちが多く利用していた。
静かな街並みにたたずむ大聖寺駅。元気な高校生たちが多く利用していた。
駅員さんにお仕事中申し訳ないと思いながらもオタマジャクシ事件について尋ねてみたところ、「あー、知ってますよ。ここから20分くらいのところです。ずっとこの町に住んでるけどあんなことは初めてです。」とついに有力な情報を得ることができた。
おまけに現場への道案内までしていただいた。加賀の人は親切だ。

さあ、急ごう。オタマジャクシは降っているだろうか。
いてっ!何だ?
いてっ!何だ?
現場への道中、左腕を何かが引っ掻いた。
バラ!?
バラ!?
植え込みにこんな棘の生えた植物植えるか!?加賀の人はこんな危険と隣り合わせの日常を送っているのか?
それともこれはオタマジャクシの秘密を探ろうとする僕へ何者かが発した警告なのだろうか。違うか。
スッポンか…惜しいな。
スッポンか…惜しいな。
スッポン屋さんを発見。オタマジャクシと同じく水辺の生き物の名前が目に飛び込んできたのでうれしくなってシャッターをつい押してしまった。

スッポンはよく食べられるけどオタマジャクシを食べるって話は聞かないよね。美味しくないんだろうか。負けず劣らず精はつきそうだけれど。
スッポン屋さんの向かいには古美術店。
スッポン屋さんの向かいには古美術店。
お店の前には立派なカイヅカイブキが!樹齢は四百年余りだそう。うーん、こういう古木っていいわー。たまらん。
お店の前には立派なカイヅカイブキが!樹齢は四百年余りだそう。うーん、こういう古木っていいわー。たまらん。
加賀の町並みには骨董屋さんや呉服屋さんが多い気がする。さすが古都といったところか。
寺社や町中に古木が多いのも歴史を重んじる土地柄故なのだろう。
小さな通りにも趣のある建造物がひしめき合っている。
小さな通りにも趣のある建造物がひしめき合っている。
街並みの写真を撮っていると中学生三人組に声をかけられた。
「カメラマンさんですか?」
そんな大したものでは決してないのだが、なぜか見栄を張りたくなってしまい、まあそんなところかなあと返答。すると、
「すごい!かっこいいですね!」
と目をキラキラさせながら言われた。純粋だ。僕は三脚に取り付けられた安物のコンパクトデジカメを帽子でそっと隠した。

ちなみに彼らはオタマジャクシ事件についてもよく知っていた。さすが少年。オタマジャクシ事情に精通している。原因については「オタマジャクシを食べすぎた鳥が空中で吐いたんじゃないですかねー。」という現実的な回答をしてくれた。もっと夢を見てもいいのだぞ、少年。
映画にでも出てきそうな川辺の風景。何ここ、住みたい。
映画にでも出てきそうな川辺の風景。何ここ、住みたい。
それにしても景観の良い町である。つくづくオタマジャクシが降るなんて素っ頓狂な事件が起きるとは思えない。
このあたりらしいのだが…。
このあたりらしいのだが…。
現場周辺は閑静な住宅街であった。
空と地面を見上げ、見下ろししながら歩くもオタマジャクシは一向に見つからない。
!
!!
!!
オタマジャクシの存在を暗示する物件には出合うものの、やはり手掛かりは掴めない。
いったん歩を止め、降玉について報じたインターネットニュースの記事に再度目を通す。
するとそこには見落としていた重要な情報が記されていた。
なんと空から降ったオタマジャクシには足が生えていたというのだ。知っての通りオタマジャクシは後脚前脚が生えそろうとカエルになってしまう。事件発生から十日余りたった今、すでにオタマジャクシそのものが水辺から姿を消してしまっている可能性があるのだ。

これは大変だ、わざわざ加賀へ来たのがまったくの無駄足になってしまうかもしれない。
ひとまずオタマジャクシの存在を確かめなければ。
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田んぼのオタマジャクシ事情と珍生物

住宅街の裏手には広大な水田地帯が広がっていた。空から降ったオタマジャクシも元はここに住んでいたものと考えるのが自然だろう。
事件現場近くの水田へ
事件現場近くの水田へ
あああ!
あああ!
水が無い!
これじゃあオタマジャクシもいるわけがない。がっくりと膝を落とすとあぜ道にたくさんの小さな生き物が跳ねた。
恐れていた事態が現実に。
恐れていた事態が現実に。
仔ガエルだ。まだ尻尾にオタマジャクシの名残を残しているが、体色といい力強い後ろ脚といい顔立ちといいもう立派なカエルになりつつある。
水はないわ仔ガエルはいるわで踏んだり蹴ったりであるが、ここであきらめるわけにはいかない。意地になって少しでも水が残っている田んぼを探す。
わずかに水が残った田んぼもあった!
わずかに水が残った田んぼもあった!
よかった!見つかった!かろうじてオタマジャクシが暮らせるくらいの水が残っている。
喜び勇んで水の中を覗き込むと…。
おや、君は。
おや、君は。
オタマジャクシらしき影を発見。急いで農作業中のおばさんを呼び止め、捕獲の許可を取る。

僕「すいません、ちょっと田んぼの中のオタマジャクシ掬わせてもらえませんか。」
おばちゃん「は。オタマジャクシ?いいけど、なんで?」
僕「……好きなんです。オタマジャクシ…。」
おばちゃん「はあ…。好きねえ…。」

わけがわからん奴が来たな。というおばちゃんの顔が忘れられない。ともあれ水田に網を入れることが許された。
よかったああ!まだいたんだ!
よかったああ!まだいたんだ!
網に入ったのはぷりぷりしたオタマジャクシ!ついにオタマジャクシの存在を確認した。これで安心して降玉捜索に戻れる。

とその前に、上の写真でオタマジャクシの隣に写っている豆粒のような物体が何かおわかりだろうか。
これね。
これね。
写真だと植物の種のようにも見えるが、実物を見るとたぶんほとんどの人が小さな二枚貝だと答えるだろう。事実、僕も最初は貝だと思ってしまった。しかしその正体は…
実は甲殻類。水中に入れると泳ぎだします。
実は甲殻類。水中に入れると泳ぎだします。
この生き物はその名も「カイエビ」。貝っぽいエビの仲間って意味ね。そのまんまね。
二枚の貝殻に巨大なミジンコをサンドイッチしたような姿のこの生き物は農薬の使用や環境の悪化により近年は田んぼからも姿を消しつつあるようだ。僕も以前からずっと見てみたかったのだが、この日までその機会に恵まれずにきた。カイエビに出会えただけでも加賀に来た甲斐があったというものだ。
第二問。この子は何でしょう。
第二問。この子は何でしょう。
田んぼのわきの水たまりを長い後ろ脚をオールのように使ってピンピンと元気に泳ぐこの虫はマツモムシという水生昆虫の幼虫。とてもかわいい姿なので大好きなのだが実はこの虫、毒を持っている。
捕まえると必死で口を刺そうとしてくる。かわいい顔して怖い。
捕まえると必死で口を刺そうとしてくる。かわいい顔して怖い。
…刺されといたほうが記事的においしいのかな。などとよこしまなことを考えもしたが、結局やめておいた。この虫、小さいくせに刺されると本当に痛いのだ。昔のトラウマがよみがえる。

いかん。また話が脇道にそれてしまった。今回の旅の目的はあくまでオタマジャクシだ。
先ほどのおばちゃんに聞き込みを行うことにした。
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事件の真相が明らかに!?

おばちゃん曰く、「知っている。あれはサギの仕業に違いないだろう。」とのこと。
実はこの旅の道中、オタマジャクシ事件を知る人物計11名に聞き取りを行うことができたのだが、この現象の原因について尋ねると皆一様に「水鳥(特にサギ)が運んだんだろう」と答えるのである。他に突風や竜巻による巻き上げ説があるにも関わらずだ。

さすがに不思議に思い、そう考える理由を尋ねてみたところ、「そりゃあ、錦城山にサギのねぐらがあるから。見に行ったらいい。」との答え。有力な情報だ。サギのねぐらか。行ってみよう。
確かに加賀へ着いてからというもの、水田でサギの姿を見かけることが多かった。
確かに加賀へ着いてからというもの、水田でサギの姿を見かけることが多かった。
錦城山というのは降玉現場からほど近い標高70メートルほどの小さな山で、大聖寺城の城跡として地元ではよく知られている。
川の向こうに見えるのが錦城山。何の変哲もない小山に見えるが…。
川の向こうに見えるのが錦城山。何の変哲もない小山に見えるが…。
側溝に何か落ちている。
側溝に何か落ちている。
サギの羽根だ。
サギの羽根だ。
羽根を拾うために側溝にはまってしまい、スニーカーがドロドロになった。
羽根を拾うために側溝にはまってしまい、スニーカーがドロドロになった。
サギだ!
サギだ!
確かに山の周りをサギが飛んでいる。カメラを片手にその姿を追いかけて山に近づいてみると…。
うわー!! なんだこりゃ! すごい数だ。
うわー!! なんだこりゃ! すごい数だ。
すごい!すごい!!「サギのねぐらの山」と聞いてたった一羽の巨大なボスサギが山頂の大木に陣取っているような光景を想像していたので、この有り様には相当面食らった。サギってこんなに群れるものなんだなー!これは立派な営巣地だ。
一部の木の葉がサギの糞で白くなってしまっているのがわかる。

なるほど。こんな根拠を見せられては僕もサギ説を支持せざるを得ない。
結局この後も僕の頭上からオタマジャクシが降ることはなかったのだが、十分な満足感とともに加賀を後にすることができた。

やはり犯人はサギか?

今回のオタマジャクシ事件について加賀の住民が推す「サギ犯人説」。半信半疑だったが現場からすぐの場所にある営巣地を見て納得してしまった。
確かに降ってくるのがオタマジャクシや小魚などの水生動物ばかりというのは気になる。もし竜巻が巻き上げたのなら稲やらレンコンやらが一緒に降ってきてもおかしくないはずである。「犯人」は明確な意志を持って水生動物だけをチョイスして空へ運んでいると考えられるのではないか。

そういえば以前大北さんが訪ねた降玉地点にもサギのねぐらがあった。しかも史跡になっているという点まで共通している。各事件現場のこうした共通点を重ね合わせて考察を行えば何かしら真相が見えてくるのかもしれない。

今回訪れた古都加賀は実によい土地だった。
街並みの美しさは言うに及ばず、豊かな自然が残されているのも大きな魅力だ。
サギの群れやカイエビなど、心ときめく生物との出会いはとても良い思い出となった。

さあ、次はどこにオタマジャクシが降るのだろう。次回こそは日本中どこへでも飛んで行って現場を押さえてやりたい。こんな野望を抱いているのは世界中見渡しても僕だけだろうが。
現場近くで「あぶい!」と謎のメッセージを投げかける看板。言いたいことは何となくわかる。
現場近くで「あぶい!」と謎のメッセージを投げかける看板。言いたいことは何となくわかる。
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