●かめりあ丸は東京目指して八丈島を出港する
午前10時10分、かめりや丸は東京竹芝桟橋を目指し八丈島を出港した。
東京到着は20時20分の予定。それまでに、僕と林さんはジャグリングをマスターしないといけない。港を離れて行くフェリーのデッキで、僕たちは改めて決意を固めた。
「やりますか」
「やるしかないですね」
大雨で荒れる海原を見つめながら軽く唇をかみしめる。
八丈島訪問の3日前、僕と林さんは東急ハンズのジャグリングコーナーにいた。
フェリーで移動する10時間でマスター出来るジャグリングを探さないといけない。
「何だかどれも難しそうですね」
「こんなもん、10時間で出来る様になるんでしょうか……」
売り場に流れるデモビデオを見ながら、しばし呆然とする2人。
「大学のサークルか何かですか?」
1人の青年が僕たちに声をかけてきた。
「いや、そういうのではないですけど……」
青年に10時間でジャグリングをマスターしたい旨を伝えると首を大きく横に振られてしまう。
「10時間じゃあ、無理ですね」
そう言わず、中でも簡単なものを紹介して下さい、と食い下がると
「じゃあ、簡単なもの2つ、やってみますよ」
青年に導かれ、ハンズの外に。青年は僕たちの前でおもむろにジャグリングを始めた。
ジャグリングボールは3つのボールを両手で交互に回すジャグリング。フラワースティックは2本のスティックで1本のスティックを操る。
どちらもとても簡単そうに見えないが、青年曰く
「とにかくこの2つが基本になるので、まずはこの2つをクリアして次のステップに進むのがいいですよ」
いや、次のステップに進むつもりはない。とにかく10時間で何か1つをマスターしたいだけだ。
それでも素人の僕たちは青年の言う事を聞くしかない。
検討の結果、僕がジャグリングボールに、林さんがフラワースティックにそれぞれ挑戦する事にした。
そして、かめりあ丸、午前10時10分。
僕と林さんはデッキの上でウオーミングアップをする。