こんにちは、編集部 石川です。
さる10/16、デイリーポータルZは裏側のシステムが総とっかえになりまして、現在あたらしいシステムの上で動いております。単なるシステム移行ではなく、15000本ほどの記事以降、ドメイン移転に文字コードの変更、SSL化など一気に実装した大手術でした。
くわしくはこちら⇒ デイリーポータルZをはげます会スタート&サイトのURLが変わりました
それを記念しまして(?)、来週11/12にシステム移行に関するトークイベントを開催します!今日はその告知も兼ねて、関係者インタビューをお送りしたいと思います。
そして今回インタビューをお願いしたのは、システム移行のプロジェクト管理を担当していただいた、日本システム技術株式会社(以下:JAST)の小林梨恵子さん。
今回の移行プロジェクトの最重要メンバーのひとりですが、残念ながらイベントには出演できないため、告知もかねて事前にインタビューを掲載いたします。
話題の性質上、技術用語も出てきますが、できるだけ注釈入れていきます。
賑やかなサイトの案件が来た
――いま検収書類をお渡ししたのですが、心境はいかがですか?
とりあえず何事もなく……何事もなくというと語弊がありますが…
――いえいえいえいえ
とりあえず動いてよかったなと、ほっとしております。
――何ヶ月でしたっけ?要件定義始まったのが5月からで…
5ヶ月半ですね
――お見積りの段階とか含めるとそれこそ年始くらいから話としてはあったと思うのですが、小林さんはいつから参加されたんですか?
見積中の段階から「デイリーポータルZという賑やかなサイトの移行案件があるよ」というのは聞いていました。
――賑やかなサイト(笑)
実際に参画することに決まったのは3月くらいですね。
当時はconcrete5※自体も名前くらいしか知らなくて、コンクリートファイブジャパン(以下、C5J)さんのメンバーも面識がなくて。
※concrete5…新デイリーポータルZが動いているCMS。CMSというのはざっくりいうとウェブサイトのシステムのことです。
――小林さんはconcrete5のエキスパートくらいの気持ちでいたのですが。
(笑)
全然そんなことはなくて、イチからでした。実際やることに決まってからは、月例で開催されているミートアップに参加したりして、勉強しました。
――最初にプロジェクトに入る時点で、会社的な見積とは別に「これキツそうだな…」とか「これは余裕だろ」みたいな、個人的な見積があると思うんですけど、そのあたりはどうでしたか?
個人的には、実作業はC5Jさんの方で担当していただけるということで、なんとかなるかなーと。
――実際やってみて、C5Jさんを見ててどうでした?
すごい大変そうだなというのは、ひしひしと(笑)
――僕もそう思ってました(笑)
しかし、こと今回に関しては、「C5Jさんいてくれて本当にありがとう」の一言です。やっぱりconcrete5を中身まで知り尽くしてる公式サポート企業というのが大きくて。
途中で見つかったバグの中に、今回の開発部分ではなくてconcrete5自体のバグもあったんですね。そのうちいくつかはコア部分を修正していただいてるのではないかと思います。そういうところに柔軟に対応できるというのは、いままで実際に開発に関わってきた実績によるものではないかなと。
――普通の代理店とかだと、そういうのって「CMS側のバグなのであきらめてください」ってなりますよね
今回そういうことがなかったので、心強かったなと
データ移行がやばい
――システムのプロから見て今回のプロジェクトの独特なところは?
データ移行がやっぱり一番最初にぱっと目に付くところだとおもいますね。やっぱり。
記事数が多いので大変だろうなとは思っていました。
――移行データの種類としても扱いづらいですよね。HTMLのページっていうのは。在庫データみたいな数字のデータじゃないし。
そうですね。文字コードの変換とか。実際の作業はC5Jさんなので私は報告を受ける立場だったんですけど、苦労されたところだと思います。
――いやー僕もまさかデイリーがUTF-8になる日が来るとは思ってもみなかったので…。一生Shift-Jisで波ダッシュ問題※に苦しみながら生きていくしかないと思ってました
(笑)
※波ダッシュ問題…「~」が文字化けする問題。旧システムではよく「?」になってました
――最初にRFP※的なやつをお出ししたんですけど、あの中にも文字コードの話は入れていなくて。開発始まってから気づいて「あっ!」と思ったのですが、おうかがいしたら「UTF-8化する方向で進めています」と回答いただき、あ~よかった、と。
※RFP…提案依頼書。システム開発案件の提案をもらうときに発注側が渡す、開発物の概要を書いた資料
ただ反省点としては要件定義の段階でどうしても記事の移行の方に意識が集中してしまったというのもあって。それ以外の、たとえば新規記事の入力をするエディタの部分などは、作業終盤になってから要望がたくさん出てきてしまいました。事前に整理できていればよかったなーという。
――たしかに。「たしかに」って僕が言うと責めてるみたいになっちゃいますけど(笑)そういう意図ではなくて。
でもあのエディタも結果的に編集部内ですごく評判が良くて……評判が良くてというか、前のCMSは今風のリッチエディタが載っていなくて、僕がJSで作った超適当なツールで入力していたので。それが普通にちゃんとした実装の画面から入れられるようになったというだけでかなり助かっています。
そう言っていただけて何よりです。
――逆に心配してたけど意外とすんなりいったな、みたいなところはありますか?
定例会でもめることがなかったので、それはありがたかったなと。参加社数が多かったのですが、仲良く作業できたなーと。
――揉めなかったですね
会社間も担当者間も、険悪になることもなかったし。人数も多いので、一度揉めちゃうと大変だっただろうな
――人当たりがいいというか、気のいいひとが集まってましたよね。それがなによりでした。
リリースという祭
――プロジェクト全体の中で一番ヤマ場というか、盛り上がったのはいつですか?
やっぱりリリース前ですね。大量のチケットが飛び交って。開発用のBacklog※にどんどん担当者が追加されていくのですが、名前を見るとC5Jのサイトのメンバー紹介に出てくるような重鎮っぽい人が続々。
あと時間帯関係なくC5JさんからBacklogにチケットがどんどん上がるというという状況がありまして、朝の4時とかにPUSHされたログが残ってたりとか。あの時はかなりフレキシブルに対応されていたのではと思います。
※Backlog…チケット管理システム。バグとか要望とか(チケットと呼ぶ)をここに溜めていき、進捗管理したり相談したり整理したりする。
――フレキシブル(笑) 24時間営業みたいな状態ですね。でも向こう側は24時間営業ですけど、間に立ってる小林さんは一人だから大変ですよね
他の案件も抱えつつではあったんですが、この時はできるだけ頻繁にチェックして、動きは確認するようにしていました。
――僕の側から見ても、あのタイミングで急に全体の開発スピードが上がったぞ!という感じはあって。向こうではそんなことになってたんですね。おかげで無事にリリースできて、どうもありがとうございました。
テストを阻むゲームという壁
――こぼれ話とかあったりします?以前、ハイスコアの話を聞いたのですが。
おぎわら遊技場の動作確認ですね。ゲームのハイスコアがデータベースにちゃんと格納されるかというの検証をしたくて。
C5Jさんから移行完了の連絡を受けたときに、単純にゲームが動くというのはすぐ確認できたんですけど、ハイスコアだけは外部のデータベースなので※直接覗けなくて。ちゃんと反映されるかはどうしてもランクインしないとわからない。
それで私ともう一人含めて、ひたすらゲームをしてランキング入りを目指すという業務が発生しました。
※ハイスコアだけは外部のデータベースなので…ここだけ元ニフティで現富士通クラウドテクノロジーズが運営するmBaasというサービスを使っています
――あのランキング、えぐいんですよね…。常人では到底たどり着けない点数が100位までずっと続いてるという…
そうなんです!でも「1日くらいはがんばってみようか」と後輩と話して、それで私は途中で外出してしまったんですけど(笑)
戻ってきたら後輩が「やりました!!」って。
――(笑)ゲームは24秒マラソンでしたっけ?
そうです。ストップウォッチを使って。
――チートだ(笑)
――しかもこのゲーム、1プレイ絶対24秒かかりますからね。24人秒の工数が。
時間もない中で、できるだけ素早くテストするためにいろんなゲームをやって調べてみて。これならなんとか行けそうだぞ、と思ったんです。
――ハイスコア取れそうなゲームを探すところから始まるのか…。
ゲームに限らずそういうしらみつぶしというか、ひたすらポチポチ押して確認するような作業が多くて。移行したあとのバックナンバーのリンクをひたすら押していくとか。
――僕もいまだに昔のコンテンツ全部確認できてるわけではもちろんなくて、そこは一生終わらないんだろうなと思います。誰かに指摘されてから直す、みたいなのがずっと続くんだろうなと。
そういえばひとつ印象に残ってるのは、石川さんから共有していただいたページ崩れ通報フォームですね。あれを見ながら、「(読者が)優しい人たちだね…」って話してました。
――そうなんですよ!そこは僕も今回すごく思って。僕もここ10年くらいはデイリーにいるんですけど、その前は医療系のSEやってたんですね。客先って基本的に怖い人たちだから、こういう温かいエンドユーザーのいる案件ってすごくやりやすいなと思って。
本当にそう思います
――僕らも、エンドユーザーに怒られる立場だったら、もうちょっとピリピリしたりっていう場面がもしかしたらあったかもしれないと思うんですよね。でもそうじゃないから、プロジェクト全体として和やかに進められたというところもありました。
ありがたいですよね。
印象に残っている通報があって、ランダムリンクを押しても同じ記事が出てくるという内容なのですが、「同じ記事が出てきますが毎分0秒になると切り替わります」って書いてあって。テスターレベルの詳細な報告だなと。
――読者に技術系の方も多いんですよね。はげます会の問い合わせなんかでも、単に「入会できない」みたいなのではなくて「まずこのページに行くとこの画面になって、次にここでこの操作をするとこういう状態になって…」みたいなのがキャプチャ付きで来てたりとか。
(笑)ありがたいことです。
――ほんとに読者に支えられてるサイトです。ふだんから記事読んでくれている人たちのおかげで成り立ってるというのはもちろんあるんですけど、こういうシステム移行のときまで支えていただけるんだなという、今回ほんと実感しました。
私もリリース直後のTwitterのコメントとか、注視してましたね。「ここできてなかった!」とか見つけたりして。そういう意味でも、色々助けていただきました。
不具合はコンテンツ
――Twitterといえば、リリースして不具合とか出ると、僕らが面白がってすぐTwitterに書くじゃないですか。あれ開発側の立場としてはどんな心境なんですか?
ありがたかったです!
――作ってる側としては不具合は隠したいわけじゃないですか。そういうのを面白がって僕らが書いちゃうっていうのは、嫌だなって思うのか、それとも楽しんでるっていうことで安心感があるのか…
私は安心しましたね。C5Jさんがどう思ってるかわからないですけど(笑)
記事が消えちゃったりとかいうこともあって、ほかの案件なら叱責されるような状況もあったと思うんです。それを、面白おかしくっていうと語弊があるかもしれないですが…
――いや、語弊はないですね
(笑)
対応方法としても新鮮でした。本来はシステムの不具合ってエンドユーザ(読者)に対しても周知すべきことではあると思うんです。それをお詫びみたいな形ではなくて、こういう形で周知する方法があるんだなーと思って
――ECサイトではできないですね(笑) やっぱり、リリース前後って大変な状況ではありつつ、独特のお祭り感みたいなのあるじゃないですか。それは楽しんでいきたいなというのはありました。そういうの取りこぼさずに全部コンテンツにしていきたいという、がめつさが。
がめつさ(笑)
プロジェクトを通して成長したところを無理やり聞く
――僕がこんなことを聞くのはおこがましいのですが、今回のプロジェクトを通して小林さんが学んだことや成長したことがあれば教えてください。インタビューの締めにいい話を入れたいので。
個人的には初めて要件定義にガッツリ絡ませていただいたので、こういうところに気を付ければよかったなとか、こういう風にすればよかったなとか、学べたのはすごくいい財産になったなと思います。
くわえて、プロジェクトを通して「みんな協力してやっていきましょう」っていう空気感があったおかげで、大人数の定例会でもぺーぺーの私でも委縮することなくやっていけたなという。
――いやいやいや!でも最後にいい話がきけて良かったです。このエピソードでさわやかに締めようと思います。
どうもありがとうございました(笑)
改めましてイベント告知
というわけで再度イベント告知です!11/12夜、東京カルチャーカルチャーにて。当日はC5Jやクラスメソッドからも今回の移行に携わってくれた方々が来てくれます。詳細は下記の画像をクリック!
と言いつつチケットが完売状態なのですが、この記事の公開に合わせてちょっと増席してくれるそうなので、満席でも少し時間をおいて見てみてください。
ではみなさま、またイベントで!