求む、北海道のゆめみ野情報!
実はもうひとつ、北海道江別市にもゆめみ野があるんだそうで。どなたか北海道在住の方、様子を教えてくれたらとっても嬉しい。
埼玉県にゆめみ野というニュータウンがあるらしい。
夢を見る野原か、夢を見て野原へ、か。
高度経済成長期の住宅確保のため、野原がゆめみ野というまちに生まれ変わって約35年。あの頃の人々(もしくは野原)が見た夢は、今やどうなっただろうか。
街並みや人々の姿に夢心地度が現れていないかと訪れたところ、まちのはずれで夢を見続けるトタン小屋に出会った。
昭和の住宅問題を支え、バブル崩壊とともに収束していったニュータウン事業。ゆめみ野のように施行から30年以上経った地域は近年「オールド・ニュータウン」とも呼ばれ、住民の高齢化や再開発などの課題も取り沙汰されている。
ニュータウンといえば多摩や千葉のように、2000ha超の広大なまちを思い出す人も多いだろう。対して「ゆめみ野」はたった83.9ha、その面積は東京ディズニーリゾートよりも小さい。
最寄り駅はJR武蔵野線吉川駅か、東武スカイツリーライン北越谷駅だが、最寄りといっても、徒歩では1時間かかるから車は必須だ。
駅前の喧騒から離れ、利根川の支流に囲まれた小さなまち。
バスを降りた先には、絵本から飛び出してきたようなメルヘンな世界が広がっていた。
建売だったのか、通りごとに戸建ての意匠が揃っている。ゆめみ野の世界観がビシッと作り上げられ、とても見ごたえがあった。
さて、ゆめみ野の端に沿って歩き、月の森へと向かう道中である。
風が強い日だった。
グワン、バタンとなにかが波打つ音がひっきりなしに聞こえる。
音の出どころを探して目をやった先は、一軒のトタン小屋だ。
近所の人が利用する雑貨店だったのだろうか。
ガラス戸には黒いフィルムが貼られ、中の様子は見えない。
そういえばさっき、駐車場が公園ほどの、大きなローソンがあった。この雑貨店もコンビニには勝てずに廃業したものと思い込んで、通り過ぎようとしたその時、一枚の貼り紙に気がついた。
思わず駆け寄ってよく見れば、紙は小屋ほど古びていない。しかも窓に貼られたフィルムの隙間から、明かりが漏れているじゃないか。
もしかして、まだ人がいるのだろうか。
気になる、気になるけど、どう考えてもふらっと来た人間が開けていい扉ではないだろう、でも…とその場を離れあぐねていたら、ガラッと戸が開いた。
???「お姉さん、何か探してるの?」
ーじろじろ見てすみません!!ギョウザあるって書いてあるから、何のお店かなって。
???「ギョウザ、今日はやってないのよ。」
???「飲み物なら、出せるよ。飲んでく?」
ーえっ、入っていいんですか???
戸を閉めると風に打ち付けられる屋根の音はやんだ。代わりに片隅のテレビから流れる笑い声が部屋を満たす。
入ってしまった……!とドキドキしながら室内をぐるりと見回して、その瞬間頭の中でファンファーレが鳴り響いた!
木張りの壁、モダンな天井クロス、レースのカフェカーテン、日めくりカレンダー(一応確認したけど元号は令和だった)、大理石調のカウンター、その上に雑然と置かれた小物たち!!
初めて来たのにもう心を許してしまうような、なんなら昔、お母さんにくっついてって、長い世間話につきあわされたっけ…と無い記憶を作り出してしまうような、ふるさと心をくすぐる空間だ。
コーヒー、ホットでいいの?と声をかけられ我に返る。
ハスキーな声がタバコとコーヒーによく似合う店主(右)と、若いころは一緒の会社で働いてたのよ、と穏やかな声で話すご友人(左)。
少し離れたテーブル越しに、お話を聞かせてもらった。
ーそれにしても素敵ですね、ここ。何のお店なんですか。
店主「もともとはお父さんが定年してここで駄菓子屋をやっててね。わたしの子どもがもう50近いから…、30年くらいやってたかなあ。あんなの全然儲かんないんだよ。」
店主「子どもがいっぱいで、ウワーって来るじゃん。もう年寄りだからさ、一人じゃ見きれないでしょ。(隙をついて)とってっちゃう子もいて。」
店主「お父さんには、もうやめたほうがいいんじゃないのって。商品仕入れはするけど、売り上げがないよって言ったの。」
店主「でも、なんとか俺の年金で賄えねぇかって言うのよ。やっぱりずっとひとりでやってたからね。続けたかったんだよね。」
店主「学校に行きづらい子とか、いちんちじゅうここで過ごしてさ。でも、最後はちゃあんと卒業式に出るのよ。それで紅白まんじゅう、学校でもらうやつよ、あれがいくつもここに置かれてるわけ。」
店主「あれお父さん、こんなに紅白まんじゅうどうしたのって聞いたらさ、あの子たちが持ってきてくれたんだよって。」
ご友人さん「そういう子達のほうがさ、大人になってからも、ふらっと思い出したように来てくれてるよね。」
ーワーッ、めっっちゃいい話じゃないですか…。ゆめみ野の住宅街も、そんなに前からあったんですね。
店主「中学校ができたのが、うちの子が中学生くらいのときで…、そっか、30年は経つんだね。」
ご友人さん「ゆめみ野、あの辺、ぜーんぶ田んぼだったんだから!」
ご友人さん「ところであなたはこの辺に引っ越してきたの?」
ーいえ、散歩してたんです。ゆめみ野って名前のまちがあちこち日本にあって、まわってみようと思って。
店主「ゆめみ野って、ここだけじゃないんだ!」
そうなのだ。実はゆめみ野というまちは日本にいくつかある。
以前訪れたゆめみ野は茨城県取手市にあった。駅が10年くらい前にできて、それから少しづつ家が建ってまちになりつつある、発展途上のまさにニュー・ニュータウンだった。
あっち(茨城)のゆめみ野も随分不思議なまちだった。
色も形も様々、思い思いの家が点在する様子は、子どもがブロックで遊んだあとのようだ。
ふたつのゆめみ野を並べてみると違いがよく分かる。
夢見心地だったのは住宅の並びだけではない。
さすがニュー・ニュータウン、まちのあちこちに緑地があるのだが、
だだっぴろい公園の端に、乗ってきた電車の線路とは全く関係のない、両端が行き止まりの線路と奇妙な建物がデーンと鎮座している。
平日の昼間だったからか、人影もまばらで、どこも新しくてきれいでウソみたいに静まりかえっていた。沈黙がますます遺跡っぽい。
店主「へえ、こっち(埼玉)はどこの駅からも遠いから、全然ちがうだろうねえ。こっちはお店もあんまりないでしょう。家ばかりで。」
ーあっち(茨城)のゆめみ野もお店は少なかったですよ。ここみたいにまちの端にぽつんとお店があって。ケーキ屋さんだったんです。
もともと隣町でお父さんが営んでいたケーキ屋を、2年前に姉妹二人で受け継ぎ、ゆめみ野でリニューアルオープンしたんだそうだ。
ついでに道中で見た行き止まり線路と建物についても尋ねたが、まちの人達もあれが何なのかよくわかっていないらしい。調べたら教えてね!と宿題をもらってしまった。
ー先週そんなゆめみ野を見てきたばかりだから余計に、同じ土地で40年近くずっとあり続けるって、ほんとうにすごいと思うんですよ。
店主「お父さんが亡くなったあとは夫が継いで、私は会社で働いてたんだけど。夫も亡くなって私の会社勤めも終わって、じゃあわたしがやってみようかって。」
店主「そしたらじゃあ居酒屋だってみんなで盛り上がって。でも保健所の許可が降りなかったのよ!違法建築ね、赤紙はられちゃったこともあるよ。」
ご友人さん「だってここ、もともと車庫だったもんね」
ー車庫からここまで育てたんですか!
店主「そうそう、スポットライトとかも友達が付けてくれて、ちょっとずつあれこれ足してね。ようやく許可もおりて。」
店主「みんな言うのよ。見た目はトタンでひどいあれだけど、中入ったらイイジャ〜ン!って。だからいっかあこれで、って。」
ビールに八海山にコーヒーフロートにこんぶ茶、バラ肉いためにナポリタンにケーキ。喫茶店とも居酒屋ともつかぬ絶妙な品揃えがたまらない。これはメニュー表をつまみに酒が進むやつだ……!
店主「トイレだって昔は外に仮設をおいときゃよかったのよ。今はダメだって言われて、新しく柱から建てて作ったんだから。この中じゃトイレがいちばんきれいよ。」
ご友人さん「みんなトイレで飲めるって言ってたよねえ!」
アッハッハと笑うお二人、薄々感じていたがトイレのくだりでパリピ属性を確信した。毎晩相当飲んで盛り上がっていたに違いない。
店主「いやー何だってやってきたよね。駄菓子もいっこ10円とかそんなのばかりだけどさ、10円つったって普通の10円玉じゃないんだから。子どもらが家からなんとかかき集めてきた、1円玉と5円玉でってじゃらじゃら置くのよね。」
ご友人さん「始めたばかりのときは、おばあちゃん達もカート押して来てたんだよね。お茶飲みながらパンとか買ってってくれてね。」
店主「ここに来たら誰かいるからって。ハイカラだったね。今はひとも減っちゃったけどさ、まあでもしょうがないからね。」
別れ際、歩くのが好きなら行くといいよと、菜の花が咲く河原を教えてもらった。
柔らかな草に誘われてひと眠りすれば、小さな夢をいくつも渡り歩いてたどり着いた朝のような気分だ。あのまちは、あのトタン小屋は、明日はどんな夢を見るのだろうか。
実はもうひとつ、北海道江別市にもゆめみ野があるんだそうで。どなたか北海道在住の方、様子を教えてくれたらとっても嬉しい。
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