特集 2023年6月1日

自動車が一台もない「出羽島」の“手押し車文化”を見よ!

出羽島で独自に発展した「ねこぐるま」

さて、ここからが本題である。前述の通り出羽島には自動車が存在しないのだが、代わりに荷物を運ぶ手段として普及しているのが「ねこぐるま」と呼ばれる手押し車だ。

020.jpg
路地を歩いていると、至るところに手押し車を見ることができる
019.jpg
少なくとも一家に一台はあるのだろうという数の多さだ
021.jpg
他の町並みでは見られない、出羽島ならではの光景である

一般的に「猫車」というと工事現場などで使われる一輪の手押し車のことを指すが、出羽島では車輪の数は問わず手押し車全般を「ねこぐるま」と呼んでいるようだ。

木材で作った本体に長い取手を付けた二輪車という基本形はあるものの、モノによって素材や形状、サイズは様々だ。所有者のニーズに合わせて一台一台手作りしているのだろう。

022.jpg
このタイプが基本らしく、一番多く目にすることができる
024.jpg
H.30.10とは平成30年10月製造ということだろう、最近作られたものも少なくない
025.jpg
主にご年配の方が利用するのだろう、より安定する四輪の手押し車も多く見られる
026.jpg
パイプ製の本体に板とカゴを備えており、使い勝手を追求した感じが伝わってくる
027.jpg
紐を張ったものもあり、ハンモック的な椅子代わりにもなりそうだ

これらの「ねこぐるま」は昭和30年代から使われ始め、島内の輸送手段として定着したようである。

荷物を運ぶという性質上、「ねこぐるま」がもっとも活躍する場所は港である。連絡船が発着する港の周囲には、数多くの手押し車が集まっていた。

028.jpg
船で到着した物資を運ぶためだろう、港にある手押し車はいずれも大型だ
029.jpg
港に面した倉庫には、様々な大きさの手押し車が格納されている
030.jpg
人力できつい重量の荷物はこれを使うのだろうか、エンジン付きのものもあった
031.jpg
クロネコマークの台車も待機しており、これで配達するようだ
いったん広告です

手押し車の停め方あれこれ

その数の多さから、島での生活に必要不可欠だということがひしひしと感じられる手押し車であるが、手製であるが故にシンプルな構造でタイヤロックなど複雑な機構はない(と思う)。

なので手押し車が勝手に動いたりしないよう、停め方には各自の工夫があるようだ。

032.jpg
小型のものは軒下に収納し、後輪に石を置いて固定するのが基本のようだ
033.jpg
かなり大型の手押し車を持つこのお宅では――
034.jpg
スタンド部分にヘコんだ石を当てて動かないようにしている
035.jpg
複数台ある場合は邪魔にならないところに重ねて並べる感じだ
036.jpg
大きめの手押し車の下に小さめの手押し車を押し込んで収納している
037.jpg
出格子の下にちょうど良く収まっている手押し車
038.jpg
大中小の手押し車が並ぶ光景、なんかかわいい
039.jpg
壁のへこみにちょうど良く収まった手押し車、技術点高し

手押し車がはぐくむ出羽島の文化

重伝建に選定されている町並みを見に行ったら、独自の手押し車にすっかり魅了されてしまった。自転車と手押し車で事足りる範囲にまとまっている島だからこそのユニークな文化である。

最盛期には約800人が暮らしていたという出羽島であるが、現在の人口は90人ほど。その多くが高齢者であるらしい。

だが最近は若い世代の移住者もおり、「ねこぐるま」を作るワークショップなども開かれているという。この島特有の手押し車が集落にさらなる活気をもたらし、未来へ継承されていくと良いですな。

040.jpg
連絡船には鳥の巣が設えられており、ツバメが出入りしていた
<もどる ▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ