特集 2023年1月17日

ヨシ焼きが気象衛星から見える ~ 気象予報士・増田さんの詳しすぎる天気解説2023.1

気象予報士、増田雅昭さんに天気について聞く月1回連載。

今月のトピックはこちらです。
・海水温が高いほうが雪が降る
・乾燥していると寒い
・天気予報は豪華なおかずから主食の時代へ
・ヨシ焼きの煙が気象衛星から見える
(構成:デイリーポータルZ編集部・林雄司)

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

前の記事:なんと!暖かくも厳しくもなさそう、平年並みの12月 ~ 気象予報士・増田さんの詳しすぎる天気解説2022.12

> 個人サイト ウェザーマップ・増田雅昭 ツイッター @MasudaMasaaki

日本海から湯気が出る

林:
今年は陸別が寒いみたいですね。ネットのニュースで見ました。
増田:
マイナス30℃今年は行ったのかな。ちょっとお待ちを。陸別は今シーズン一番が-30.6 ℃。1月3日ですね。
林:
川から湯気が出てました。
(注:気嵐(けあらし)と呼びます)

気嵐

西村:
川から湯気が出るのは、雪が降るまでいかなくても出ますよね?
増田:
はい。要は水のほうが温かければ。
小林:
温泉みたいに見えますね。
林:
温かそう。
(注:温かくありません)
増田:
その池とか川で起こっているスケールの超でかい版が日本海の雪雲ですね。
冬の日本海に冷たい空気がシベリアのほうからやってくる。それで湯気が出るように雪雲となって雪を降らせるっていう。
西村:
めちゃくちゃスムーズに話がつながった。
増田:
12月のシーズン始まりに雪が急にどかっと降ったのは日本海の海水温が高かったから。すごい高かったんですよ、12月。

新潟在住のライター つりばんど岡村さんの自宅バルコニー

増田:
冬が半ばとかになってくると、何回も何回も寒気が来て日本海も冷えるんですけど、冬の初めは冷える前で温かい。
あつあつの露天風呂はもくもくっとたくさん湯気が出ますよね。
林:
はい
増田:
あれと一緒で、温かい日本海のときのほうがもくもくがたくさん出るので、寒気が強くなくてもたくさんの雪雲ができる。
これがダダダダーッと流れ込んで大雪になった。12月最初のいきなりのドカッていうの多いですね。最近。
林:
寒いと雪が降るというイメージがあるけど、海水温があったかいほうが降りやすいのは意外ですね。
増田:
そこまで超強烈な寒気じゃなくてもシーズン始まりは急にどドカッと降るのがやっかいなところですね。
林:
雪って寒さよりも供給する側の水分の都合のほうが大きいんですか。
増田:
両方ですよね。逆にあったかすぎても当然降らないし、あったかさの絶妙なバランスと言うか。言葉選ばないと、絶妙と言ったら怒られますが。
西村:
雪が降る要素は2つある。気温と湿度。
林:
陸別は盆地だから水分がないので、ただひたすら寒い。
増田:
北海道は日本海側と道東と全然違いますもんね。
林:
道東のほうはただ寒い。
増田:
っていうことですよね。水分を雪として日本海側の札幌とか石狩の方とかで落としてきて、山越えて結局カラカラになって極寒の空気だけが。

乾燥していると寒く感じる

増田:
雪があったほうが寒さが和らげられるって言ったりしますけどね。
林:
そうなんですか ?
増田:
東京の冬は雪も降ってないのに、雪国の人の中にはすごく寒く感じる、って言う人がいます。
西村:
ほうほう
増田:
理由のひとつは乾燥してるから。
乾燥してると肌から水分が出ていって、その蒸発するときに熱が奪われちゃう。気化熱ですよね。それで乾燥しているときのほうが寒く感じたりすることがありますね。
林:
雪があれば湿気があるので、寒く感じない!
西村:
雪を降らす雲がかかっているのもありますか。
増田:
雲もありますね。朝晩の気温は新潟ってそんなに極端に下がらないんですよね。それこそ群馬とか埼玉のほうが新潟よりも冷える。
林:

北関東!
増田:
雪国は分厚い雪雲がかかっているので、雲が掛け布団のようになって、夜に宇宙へ向かってあまり熱が逃げていかないので。
林:
道東行くとほんとに空が青くてきれいですもんね。

2003年2月 陸別で撮った写真

増田:
基本的には空気が冷たいほど気温が低いほど含むことができる水蒸気というのが少なくなる。湿気が少ないわけですよね。
林:
はいはい
増田:
だから、北極南極とか気温が低いところに行くと水蒸気が少ないから空が青く見えるわけですけど、さらに北海道の道東の場合は日本海側で、雪として水分を落とした空気が来てる。ただでさえ少ないのをギュッと日本海側で落としたから。
西村:
確かに冬は空きれいですよね。
増田:
そうですね。

12月の東京の最低気温は-0.1℃

林:
年末は気温があまり下がらなかった。
増田:
12月半ばぐらいに寒波が来て、下がりはしたけど下がりきれなかったという状態ですね。
林:
で、12月の最低気温は結局そんなに下がりきらず-0.1℃。
最低気温当てクイズで惜しかった方はこちらです。

オザワ・イチンノロブ -1.6℃ 年末年始寒波くると思います(だから寝正月の予定です)
トマト -0.3℃ 今年はそれなりに下がると思います。
メロポン 0.3℃

今日(2022/12/16)この冬一番の冷え込みだったみたいですね。今年中にあと1回か2回今日以上に冷え込む日があると思います。

増田:
トマトさんおめでとうございます!
林:
前回0℃は何も考えてないみたいだからって変えたんですが、ほんとにほぼ0℃ぐらいでしたね。
増田:
オザワ・イチンノロブさんは寝正月の予定ですを言いたいがためにこの気温にしたんじゃないかということで特別賞。
西村:
おおまかな予想はみんな割と当たってるということですね。そんなに下がらない。すごい。

東京は雨がふらなかったことと、1990年代の天気予報と今の天気予報

増田:
今日(1/11)で20日連続一滴も降ってない状態です。12月22日を最後に。これが土曜日まで降らなければ記録に並びますね。明治時代からの統計がある中で23日連続無降水。
(注:金曜日の夜に雨が降ったため新記録になりませんでした。それでも21日間の無降水でした)
林:
この降水量の記録って…話題になってます?
増田:
無降水、話題になり始めてます。これ記録に行くぞ、気づかれてない!と思ったら、バーンとヤフーに出ちゃった。なんだよ、せっかくテレビに先に出そうと思ってたのに。
いかに気づかれないうちにいいの見つけた〜バーンって打ち出す楽しさがあるんですけど、それをひゅっと。

キャプション

小林:
スクープ競争。
増田:
新聞記者ってこういう感じなんでしょうね。
小林:
抜かれた〜。
西村:
これ、無降水じゃない?って気づくタイミングはみんな同じってことなんですよね。
増田:
どうなんだろうな。聞いてみたいですね。
西村:
10日ぐらいで無降水じゃないってなかなか思わないじゃないですか。
増田:
年明けて気づきました。1月4日だから、12日ぐらい年明けて降ってないな。やっぱり来てるよ。もうちょっと記録に近づかないと話題にもできないし。
どこまでいくかな、黙ってようって思ってたから。
林:
それはどこの人が言っちゃったんですか。
増田:
結局、各社一斉に出しちゃって。
西村:
あれ?って思うのはさすが気象予報士さんですね。
増田:
記事をあげてるひとを見たらベテランの人が多かったですね。
林:
若い気象予報士は過去データをあまり見ないという傾向はあるんですか。
増田:
昔に比べれば減ってるかもしれないですね。
我々のときって、気象予報士の制度ができて、天気予報を新しくつくるなかで天気予報の周辺の話、いわゆる天気ネタをいろいろリサーチしたりしました。
記録とか、バーンと見出しを打てることをリサーチする癖が付いていたり、取材したりとか。天気コーナーよりむしろそっちのほうがメインみたいになっていた時代がありました。
林:
ほうほう
増田:
いま基本みんなストレートに天気じゃないですか。ある意味主食の時代に戻ってきたというか。90年代後半から2000年代始めぐらいはおかずのほうが豪華だった。
おかずのほうが豪華な天気予報が多かったのが、今は主食の時代が戻ってきて、いわゆる天気予報を大事にする時代に戻っている。調べたり取材するのは若い人たちに引き継ぎきれてないかもしれないですね。
林:
面白いのにな。西村さんは大好きですよね。
増田:
記録かもって気づくのも、もしかしたらベテランのほうが敏感かもしれないですね。

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短い県境・そこでの野焼きがひまわりに写っている

西村:
記録に気づくってすごく大事だなと思っていて、いま一番短い県境とかをまとめた本を作ってます。
増田:
一番短い県境ってどこだろう。
西村:
気になります?一番短い県境は愛媛と広島の県境です。
林:
愛媛と広島??

西村:
実は愛媛と広島って、ひょうたん島っていう島でつながっているところがあるんですよ。そこが一番短い。離島を含まなければ栃木と埼玉。
林:
栃木と埼玉接してるんですか。
西村:
三県境。平地の三県境があるじゃないですか。あそこが3キロぐらい。
林:
古河市のあたり。 

増田:
わ〜ほんとだ〜。
西村:
3キロぐらいで、一番短い。そういうのを洗い出したらけっこういっぱいあるなと。
増田:
これすごい面白い!
西村:
記録の話ってすごい面白いですよね。天気の記録もワクワクしますね。
増田:
記録の作り方って最近問題になっているところがあって、ネットで簡単に調べられるから、いくらでも対象期間を切れるわけですよ。
「1月上旬として」とか短く区切っていけばどんどん記録って作りやすくなるんですよ。で、極めつけは1月3日としては、とかね。
ほんとね、笑い話なんですけど、笑い話じゃなくなってきてて。
西村:
わかります。県境も結局区切ればそうなんですよ。秋田県、岩手県で最北とか、言い出したら何でもできるんです。
増田:
どっちかと言うと、ロマンを感じるのは歴史じゃないですか。明治時代から観測が続く中で、それこそ今回一番になったらすごい。そういうのを探したいですね。
西村:
あんまり区切ってるのは良くない。明治からの!っていうのはほしいですよね。
増田:
記録なんていくらでも作れるんだよ。
林:
コンビニ弁当で一日分の野菜がとれるだったのが一食分の野菜になってるのありますね。
増田:
加須から栃木市に行きたい。
西村:
三県境なので。今観光地になっていて。すごく面白いです。
小林:
観光地なんですか?
西村:
観光地です。初めて行った頃は田んぼの畦だったんですけど、今すごいですよ。整備されて。
増田:
何県の天気予報を見ますかって聞きたい。
小林:
いいですね。
林:
県境のプレートが盗まれてますよ。
西村:
一回盗まれたんですよ。
県境のプレートが盗難にあったため、新しいプレートの設置を伝える加須市のサイト
林:
みんな冷静になってほしいですよね。
西村:
ちょっと落ち着けよ。
林:
アメリカに4つの州が接しているところがあって、グーグルマップで見るとはしゃいでるアメリカ人がいっぱい出てきて面白いですよ。(フォー・コーナーズ記念碑
小林:
みんな世界共通ですね。
林:
お土産屋ですかこれは。「三県境ショップ さいぐんと
西村:
道の駅なんですけど。
小林:
「さいぐんと」は「埼玉・群馬・栃木」ってことですか。
西村:
お土産も売ってるし。食堂もありますし。
小林:
行きたいな〜。
西村:
近くに渡良瀬遊水地が。
増田:
渡良瀬遊水地ってヨシ焼きするところですよね。
西村:
ヨシ焼きのときに行ったことありますけど、空が真っ暗でした。
増田:
それを気象衛星ひまわりが捉えるんです。
西村:
お!!つながった!!!気象に!
増田:
2022年3月5日、9時半にしてみましょうか。あ!これだ!これですよね。
これじゃないですか?違う?

 

西村:
はいはいはい。それですそれです。それですよ!
増田:
ほら!時間がちょっと進んだら広がってるじゃないですか。ほら!おもしろ〜い!東に広がってるから、風が。
西村:
風向きがわかるんですね。
増田:
ホゥ〜!
西村:
野焼き、こんなに映るんだ!すごい!
林:
ほ!すごい!映っちゃっていいんですか。
西村:
野焼き3月ですかね。これ今年見に行こう。
林:
そうですね。俺はひまわり見てますよ。
西村:
上空から。
林:
上空から西村さんを見ます。

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1月のクイズ・横浜の初雪は疑惑

1月のクイズ:
1月の東京の最低気温を予想してください。(小数点以下1桁まで)
締め切り:2023年1月20日23:59
回答はこちらから

林:
1月はもうガツンと氷点下に行ってほしいですよね。-0.1℃とかじゃなくてね。
増田:
いくでしょ。2022年はすごいじゃないですか。1月6日に-3.5℃まで行ってますよ。10センチ雪が積もって、その次の日に出てますね。
雪が降るかどうかが大きいポイントに。積もるかどうかというところでしょうね。
西村:
地面に氷があると冷えますよね。外に氷を撒いたように冷えますよね。
2021年は-2.4℃、2020年 0.6℃です。
林:
氷点下じゃなく?
増田:
ただこの年は2月に-2.1℃行ってますけどね。
林:
今年雪が降るかどうかはわからないですね。
増田:
初雪まだ降ってない!
小林:
この間横浜で降りましたけど。
増田:
あれ疑惑ですよね。
西村:
疑惑!
小林:
自動観測だから。
増田:
札幌、仙台、東京、大阪、福岡、管区気象台というそれぞれの地域を統括しているところなどは今まで通り人が見て観測していますが、それ以外の各県にある気象台はもう人が見てないんです。
降水がポツってあったら自動で感雨。その時の気温と湿度から計算式で雪と判定される。
この前の土曜日(1月7日)でしたかね。横浜の初雪。 

小林:
未明でした。
増田:
現地は降ってなかったんですよ。ほんとちょびっとの降水を機械が感知したかもしれないですが、気温が6℃ぐらいあったし、「雪」と言えるものが降ったのか…。まぁ、湿度が低ければ6℃でも雪になることはあるんですけど。
林:
雪は感知できないんですね。計算で割り出すんじゃなくて。
増田:
今どき固形物かどうかの判断は、技術的にできるんでしょうけど。
気象庁の観測機器は間違いなく測れることを検定されたもので、それが何十年設置されたりするので。数少ない機会のわりに相当高くなっちゃうから、なかなか変更されないかもしれないですね。
西村:
雪が降らないってことはあるんですか。
増田:
東京で今まで雪が全く降らないのはないですけど、初雪が3月16日というのが2007年にありましたね。このままなしかっていうときに、3月16日にまさかまさかの初雪が。
西村:
卒業式の頃ですよね。
増田:
なごり雪どころか、はじめましての雪。なごり惜しくもなんともない新鮮な雪って感じでしたね。
増田:
雪が積もると一気に最低気温がボーンと下がる
林:
気温にして、鍵を握るのは初雪。
増田:
ちょっとでも積もるような、うっすらと積もるような雪があると一気にマイナスの気温にいくと思うので。そこがポイントですよ。それを読み切ってください。
林:
雪が降って-1.7℃ぐらいじゃないかな。
西村:
え〜。0℃ぐらいにしときますかね。


1月の最低気温を気にしながら過ごしてください。ではまた次回。 

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