大人になってから友人知人になった人が、自分の地元にいるそわそわ感。あまりに通い慣れ、大好きではある一方で、ごく普通でもあると思っていた店を、遠方からわざわざ来た人が褒めてくれるこそばゆさ。
そこにはなんだか、今までにあまり経験したことのない種類の、楽しさと嬉しさがあった。
「地元の店の好きな料理を、わざわざ遠方から来た友達に食べてもらってみる」という行為、新しい飲み会、食事会の形として、まだまだ可能性があるかもしれない。
続いては、スズキナオが生まれ育った、東京都中央区「人形町」駅近くにある中華料理店「生駒軒」。
泡:
すごいですね。こんな街なかなんですね。
パリ:
なんか石神井から来ると、完全なるお上りさん気分になるな。すごいとこに実家がありますね、ナオさん。
ナオ:
はは。お恥ずかしい。じゃあ私は瓶ビールをもらって。
泡:
私もそれいただきます。
パリ:
僕は「缶チューハイ」にしてみようかな。氷結の梅味って珍しくないですか、あんまりコンビニで見ない。
パリ:
卓上に梅干しがあるのもいいなぁ。梅チューハイに入れちゃおっと。
ナオ:
さて、どうしましょうね。私の好きなメニュー「タンメン」は頼むとして。
パリ:
壁メニューにある「胃袋ときゅうり合え物」良さそう。
ナオ:
いいですね! 「チャーハン」も美味しいんだよな~。
泡:
「シータケ丼」もすごく気になります。
ナオ:
うちの父は「シータケソバ」が好きで、すごくしいたけの風味の濃い餡がかかってて、たぶん同じものがのった丼だったはずです。ちなみに母は「広東麺」が好きでよく食べてます。
パリ:
はは。スズキ家のパーソナル情報嬉しい。「スタミナラーメン」「スタミナ炒め」あたりのスタミナものも気になりますね。どんなのだろう。
ナオ:
タンメン以外はみんなのチョイスに任せたい気持ちもあります。
パリ:
じゃあタンメンと、胃袋ときゅうり合え物、と、シータケ丼のごはん少な目、あたりでどうですか?
泡:
あ、それいいですね! そうしましょう。
パリ:
いやでも、こういう機会じゃないと来ないお店をハシゴするの、楽しいですね。もしかして、辰巳軒と生駒軒をハシゴした人類って、我々が初めてかもしれませんよ。
ナオ:
はは。わざわざしないことだからね。しかも泡さんは京都から。これ、めっちゃそわそわしますね。ふたりがここにいるの。落ち着かない!
泡:
同じ中華っていうくくりでも、さっきとまた全然違いますよね。この佇まいでラーメン550円、安いですねー!
ナオ:
たまに食べるただのラーメンもめっちゃ美味しいんですよ。だけど、どうしてもいつもタンメンを食べてしまうんですよね。
泡:
タンメンって京都だとほぼ見かけないから楽しみです。
ナオ:
大阪にもあんまりないんですよね。だから東京に来ると絶対に食べたくて。
泡:
今日、あえて食べないっていうのはどうですか?
ナオ:
ははは! 絶対嫌です! 絶対に食べたいので!
パリ:
ここにはカレーはないんですね。
ナオ:
そういえばないですね。
泡:
そこも辰巳軒とまた違うところですね。
パリ:
来た来た!
泡:
沖縄(泡さんの出身地)の「中身汁」と同じ形状ですね。
パリ:
もつ焼きで言う「ガツ」ですよね。量もたっぷりでいいすね。では、いただいてみますよ。おー! 意外な味つけだ!
泡:
うんうん、想像したのと違って。
パリ:
甘酸っぱいんだ。醤油をちょっとたらしてもまた美味しい。
ナオ:
あ、本当だ。初めて食べたなー! 上品なおつまみですね。酢も合いそうですよ。うん、合うな。
泡:
シータケ丼来た! すごい! 思った以上にしいたけですね!
パリ:
すごいなこれ! これはいいぞ。実は僕、しいたけ、そんなに好物じゃないんだけど、これはいいぞ!
ナオ:
はは。そうなんだ。これ、めちゃくちゃしいたけの風味が濃いけど大丈夫かな。
泡:
きくらげも入ってる。
パリ:
マッシュルームに、ふくろだけも入ってません? きのこ4種! これはいいぞー!
泡:
あ、しいたけうまっ!
ナオ:
これだこれだ。濃いしいたけの味。
パリ:
あ、これ、食えますよ僕。しいたけの食べごたえがすごい。シータケ丼、生駒軒の隠れた名品じゃないですか? このとろみといい、名人芸というか。
泡:
本当ですね。
ナオ:
さあ、来た! タンメン!
泡:
品格を感じますね。
パリ:
いただきます! あ、野菜の旨味がしっかりあって、麺と絡めるとなおさら優しくなりますね。
泡:
うんうんうん。二日酔いのときに食べたくなるような。
パリ:
これちょっと、僕の辞書にない味かもしれない。薄味なんだけど薄くないというか。物足りなさがまったくない。
ナオ:
他の店のタンメンってもうちょっとごま油が強かったりするんですよ。ここのは野菜の美味しさと最低限の塩味っていう感じで。
泡:
本当に美味しい~!
ナオ:
本当ですか! よかった。本当ですか!?
パリ:
はは。なんで信じてくれないんですか! いや、美味しいです。
ナオ:
うちの親はもう、食べる前からいきなり酢を入れてコショウどんどん入れますけどね。最後の方に梅干しをひとつもらって、入れて味わうのもいいんですよ。
パリ:
真似してみよう。あ、また別ものになりますね。うん。酸っぱラーメンになりますよ。
ナオ:
はは。バランスが崩れて。
パリ:
いやしかし、このタンメンのスープ、ずっと飲めますね。ナオさんに推されてるからとかじゃなく、クセになる。なにか秘密がありそうな。
ナオ:
でしょう。けっこういつも飲んでしまいます。そんなに味も濃くないんで。よし、紹興酒でも飲みますか! デキャンタでもらってさ。
パリ:
わはは。地元のナオさん、いつもよりキャラが豪快だ。
ナオ:
いやー! 嬉しいですよ。地元でこんな楽しい食事ができて。
パリ:
辰巳軒で「生駒軒はこんなに飲める店じゃない」って言ってたけど、全然飲めるじゃないですか!
泡:
いつもここでは飲まないんですか?
ナオ:
お昼に来ることばっかりなので、飲んで瓶ビールぐらいですかね。
泡:
いつごろから来てるんですか?
ナオ:
通うようになったのは、20代の前半ぐらいですかね。近くでバイトしてて、そこの社長とよく一緒に来ていて、最初は「みそラーメン」から入って、徐々にタンメンの美味しさに気づき……そこからタンメン一辺倒で。20年ぐらい食べてますね。
泡:
ご家族で来たりしてるっていうのもいいですね。
パリ:
ナオさん、今は大阪在住だけど、こっちに戻るたびに寄る店があるって、なんかいいですよね。
後日あらためて聞いた、泡さんの「生駒軒」の感想
「ナオさんの記事やSNSで頻繁に拝見していたので、『あの! 鈴木家の! 聖地に行ける!』と胸熱でした。ざっかけない町中華かと思いきや、想像よりもシュッとした店構えでメニューも豊富。正統派中華という言葉が浮かびました。
まるで『いやもう大したことないんです僕なんて』と謙遜しつつ実はめちゃすごい文章を書くし喋りも達者なナオさんのような爪隠しっぷり。先にシータケ丼が強烈なインパクトを残したにもかかわらず、余韻はタンメンが圧勝。
タンメンを食べるのは人生初でしたが、こんなに完成度の高い一杯を最初に食べてしまって今後どうしたらいいんやと困惑するほど美味しかったです。水のように体になじむ、極限まで澄んだスープ。あれ何事でしょうね。ナオさんが帰郷の度に食べたくなるのも納得です」
大人になってから友人知人になった人が、自分の地元にいるそわそわ感。あまりに通い慣れ、大好きではある一方で、ごく普通でもあると思っていた店を、遠方からわざわざ来た人が褒めてくれるこそばゆさ。
そこにはなんだか、今までにあまり経験したことのない種類の、楽しさと嬉しさがあった。
「地元の店の好きな料理を、わざわざ遠方から来た友達に食べてもらってみる」という行為、新しい飲み会、食事会の形として、まだまだ可能性があるかもしれない。
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